DXについては、これまで様々な解説がなされてきましたが、改めて整理すれば、それは「デジタル前提の世の中に適応するために社会や会社を新しく作り変えること」を意味します。アナログな時代に作られたビジネス・モデルや業務プロセスを大きく変えることなく、手段だけをデジタルに置き換えることではありません。デジタルが前提の世の中になったわけですから、アナログ時代のしがらみを捨てて、いまの時代にふさわしいやり方に再設計して、新しく作り直すことです。合わせて、このような考えを許容し、日常的に取り組む企業の文化や風土に変えることも伴います。
このようなDXをITの観点から捉えると、次の2つの「あるべき姿」の実現を目指すことになります。それは、「リアルタイム・フィードバック・ループの完成」と、「ビジネスをITの制約から解放すること」です。
リアルタイム・フィードバック・ループの完成
世界は急速に不確実性を高めています。直近の大きな出来事を見ても、コロナ禍による世界経済の混乱、ウクライナやパレスチナでの戦争などは、そんな「不確実性」の象徴的な出来事です。身近なことに目を向ければ、生成AIの急速な機能や性能の向上は、私たちの日常やビジネスに大きな影響を与え始めています。もはや、「労働力」や「生産性」は、AI前提となり、人間とAIの役割分担も変わりつつあります。量子コンピューターのイノベーションにも目を見張るものがあり、コンピューティングの常識は短期間で置き換わるかもしれません。
かつて世界は予測可能な成長を前提として動き、日本は、この潮流にうまく乗ることで安定的な拡大を続けることで競争力を発揮してきました。ところが、21世紀に入る前後から、インターネット、スマートフォンの普及、グローバル化、新技術の急速な進歩などが複雑に絡み合い、未来予測は困難になりました。そんな、計画通りに物事を進めることが難しい不確実性の時代においては、企業は変化に即応できる「俊敏性」を獲得する必要に迫られています。残念なことではありますが、日本は、安定の時代の成功体験に引きずられ、この潮流の転換に乗り遅れてしまったことは否めません。日本経済のいまの低迷は、このような背景があると考えています。
この状況に対処するには、リアルタイムに事実を捉え、高速に判断して、対処することが、事業を存続させ、成長させるための基本動作となります。ITには、この基本動作、すなわち「リアルタイム・フィードバック・ループ」を実現することが求められています。この中核をなすのが、ERPシステムです。ERPシステムは、一連の業務プロセスを自動化し、ビジネス環境の変化に高速かつリアルタイムに対処できる基盤を提供します。
そんなERPシステムの入力となるビジネス環境の変化をリアルタイムに捉えるためには、IoTや業務プロセスの徹底したデジタル化が必要です。また、迅速かつ的確な判断を支援するために、AIの活用やデータ・サイエンスが、有効な手段となります。変化に俊敏に対処するには、システムの機能や性能もまた、必要に応じて調達や削減ができなくてはなりません。予測できない未来を無理矢理予測して、システム資産を所有することは、経営的なリスクを高めるだけではなく、変化への俊敏性を損ねることになります。クラウド、コンピューティングは、そのための前提となります。
ビジネスをITの制約から解放すること
前節のような対処が求められている一方で、20年以上前のアナログ時代の業務手順を前提にしたレガシーシステムが未だ現役で稼働し、新たなことをやろうとする上で大きな障壁となっています。そんな旧態依然のIT基盤は、最新テクノロジー活用や素早い環境適応を阻み、変化への俊敏性や競争力を削ぐ根本原因となっています。2018年に経済産業省が示したDXレポートでは、この状況を「2025年の崖」と表現し、老朽化したシステムが2025年以降の日本経済に深刻な影響を及ぼす可能性を指摘しています。
こうして常に変化に対応可能なITアーキテクチャーが実現し、ウオーターフォール開発時代の固定的なシステム資産から脱却し、モダンなITアーキテクチャーへの転換でビジネスはITの制約から解放されることになります。
ITの観点からDXを見れば、このような2つの「あるべき姿」が、描けるのではないでしょう。
私はいま何をしているのか 私はどこへ行くのか
DXという言葉は登場してから20年が経ち、ビジネス界隈で盛んに使われるようになって10年ほど経ちました。それにもかかわらず、「IT化」や「デジタル化」と明確に区別されず混同されることなく使われています。
ITに関わる仕事をしている者が、この現実に疑問を持たないとすれば、なんとも残念なことです。DXを説明できる言葉を持つことは、DXを語る最低限の条件であり、プロとしての矜持でもあります。
DXに限った話しではありませんが、ITに関わる言葉やその役割を正しく理解し、説明できるようになることは、その仕事に関わるものの基本動作でです。自分のかかわるITが、事業や経営に与える影響はどれほどのものなのかを考え、その答えを追い求めることは、仕事を任されている者の責務です。それは必然的に、自分は何を学び、どのようなスキルを磨けばいいのかに気付かせてくれるはずです。
「私はいま何をしているのか 私はどこへ行くのか」
この問いを問い続け、これを自分の言葉で語れることこそ、プロとしてのプライドです。言われたことをその通り行うだけなら、いまやAIの方が優秀です。そんなAIに置き換えられないためには、自分がやっていることの意義や「あるべき姿」を問い、最適や最善を常に模索しつつ工夫し続けるマインドセットを持つことです。ここで述べた、”ITの観点から見たDXの「あるべき姿」”は、そんな問いかけのひとつにすぎません。
ITやデジタルの機能や性能が向上し、できることが急速に広がるいま、ITに関わる仕事をしている人たちの役割は、これまでにも増して重要となりつつあります。そんな自覚を持ち続けるためにも、自己の研鑽を怠ってはならいのは、言うまでもないことです。
実践で使えるITの常識力を身につけるために!
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次期・ITソリューション塾・第48期(2025年2月12日[水]開講)の募集を始めました。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
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ITに関わる仕事をしている人たちは、いま起こりつつある変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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