不確実性の時代へ/過去の「当たり前」を疑う必要性
かつて世界は予測可能な成長を前提として動き、日本は安定的な拡大を続けることで競争力を発揮してきました。ところが、21世紀に入る前後から、2001年の同時多発テロ事件やインターネット、スマートフォンの普及、グローバル化、新技術の急速な進歩などが複雑に絡み合い、未来予測は困難になりました。いまや、計画通りに物事を進めることが難しい不確実性の時代において、企業は変化に即応できる「俊敏性」を獲得する必要に迫られています。
レガシーシステムという足かせ/「2025年の崖」の警鐘
しかし、日本企業には、「一度決めた方針を容易に変えない」という暗黙の規範や「失敗を許さず減点と捉える」ことで、チャレンジを躊躇させる空気があります。加えて、20年以上前の業務手順を前提にしたレガシーシステムが未だ現役で稼働し、新たなことをやろうとする上で大きな障壁となっています。
特に旧態依然のIT基盤は、最新テクノロジー活用や素早い環境適応を阻み、競争力を削ぐ根本原因のひとつとなっています。2018年に経済産業省が示したDXレポートでは、この状況を「2025年の崖」と表現し、老朽化したシステムやIT人材不足、技術的負債が2025年以降の日本経済に深刻な影響を及ぼす可能性を指摘しています。
生成AIがもたらす新時代/ビジネスモデル再定義の必然
さらに、生成AI(Generative AI)の登場は、アイデア創出や顧客対応など人間が担ってきた付加価値領域にまで影響を及ぼします。基幹系システム刷新だけでなく、組織文化や意思決定プロセス、ビジネスモデルそのものの設計思想を問われる段階に入っているのです。DXは、単なる最新デジタルツールの導入ではなく、ビジネス・モデルや業務プロセス、組織のあり方や意志決定の方法、雇用制度や働き方、さらには、事業目的やパーパスにまで踏み込んだ、経営基盤を根底から再構築する試みといえます。
2025年を目前に/具体的な行動が求められる
「2025年の崖」という危機認識を踏まえ、レガシーシステムからの決別と俊敏性の獲得は避けて通れない課題です。人とAIが共創する新時代を切り拓くためには、以下のような施策が必要です。
レガシーシステム刷新とアーキテクチャ改革:
クラウドファースト戦略やマイクロサービス化によって柔軟性を確保し、迅速なサービス改善を可能にする。
アジャイル開発・DevOpsの促進:
継続的デリバリーで変化対応力を強化し、自律的チームで素早い意思決定を実現する。
人材戦略の再定義とリスキリング:
IT人材・データサイエンティスト・AI専門家を育成・確保し、自律学習カルチャーを醸成する。
組織文化・意思決定プロセスの再構築:
経営層の強いコミットとビジョン提示、合意形成プロセスの簡略化でスピーディな対応を可能にする。
生成AI活用による新たな価値創出:
顧客接点の革新、アイデア創出の加速、倫理・ガバナンス強化により新時代のビジネスモデルを確立する。
これらは部分的改善にとどまらず、社会・顧客価値・ビジネスモデル・組織文化までを包括的に再設計する「作り直し」そのものです。こうした抜本的なDX、すなわち「デジタル前提の社会に適応するために会社や社会を新しく作り直すこと」を通じて、変化に俊敏に対処できる体質を作り上げることで、日本が国際競争力を取り戻し、人とAIが共創する新時代の競争ルールに適応することができます。
残念なことですが、いまだ多くの企業が、デジタルツールでの業務の効率化やデジタル・ビジネスへ新規参入や事業の拡大をDXと捉えています。このような取り組みに意味がないと言いたいのではありません。これらのデジタル化もまた事業を維持するには欠くことのできない取り組みです。ただ、これらをDXと同一視して、そこで留まっていることが問題なのです。
DXという言葉が、広く浸透したいま、改めてこの言葉の意味を問い直し、改善ではなく変革、すなわち「新しく作り直すこと」へと視座を高めるべきではないでしょうか。
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