提案力を磨く研修
営業の提案力に磨きを掛ける研修を行っています。自分が仕掛けている、あるいはこれから仕掛けようとしているリアルな提案を素材に、講義とグループ・ディスカッションで、完成度を高めて、受注につなげようという実践的研修です。
教養として提案の仕方を学ぶのではなく、実案件の受注を目指す研修ですから、受講者は真剣です。
これがなかなか手間のかかる研修で、初日に提案の実践プロセスについての講義を実施します。後日、受講者15名を3グループに分けて、2時間ずつのグループ・セッションを3か月間で3回(計9回)実施し、最後にその成果を上長たちに発表するものです。
グループ・セッションでは、それぞれの案件の内容や進捗状況について説明を受け、私がアドバイスしたり、グループで改善点を話し合ったりします。担当営業がそれを現場で実践し、次のセッションでその結果やその後の進捗を報告するというやり方です。
グループでディスカッションすることには意味があります。それは次のようなことです。
- 人の提案にアドバイスすることで、客観的に提案活動を捉えることができること。感想を聞くと、「人にアドバイスするのは本当に難しい」ということで、結果として、自分の提案を客観的に捉える能力が磨かれます。
- 誰かの提案についての指摘やアドバイスは、自分の提案についても共通していることが多く、自分事として捉え直すことで、気付きを効率よく増やすことができます。
- 定期的に発表しなければなりませんから、毎セッションで進捗や改善を見せなければとの想いが高まります。当然、いろいろと考えて行動しなくてはならず、案件の進行も自ずと捗ります。
提案で見過ごしがちな3つの視点
この研修の最初のグループ・セッションで、それぞれに自分の提案を発表するのですが、この段階では、まだまだ完成度が低く、次のような指摘をさせて頂くことがよくあります。
誰に対する提案なのか?
提案の説明は、直接的には、お客様の窓口となる担当者に行います。しかし、その方が、課題を抱える当事者であるとは限りません。また、一般論として、「会社の課題」を掲げ、その解決策を示すような提案もあります。ひと言で言えば、「課題を解決して欲しいと願っている人の顔が見えていない」のです。
提案の成否は、必要としている人に必要なもの/ことを届けることです。その人が誰か、その人はどうなれば幸せになれるのかを見極めない限り、受け入れられる提案にはなりません。代理人/窓口となっている人の言葉や一般論では、刺さる提案にはなりません。
何としてでも課題を解決したいという当事者は誰か
- その当事者がどうなることを望んでいるのか
- その当事者が何としてでも手に入れたいという提案内容になっているのか
- この点を明確にするようアドバイスします。
そのお客様の価値は何か?
初期段階の提案の多くは、自社の製品やサービス、それを実現する手順やシステムの構成図に埋め尽くされています。お客様の担当者から聞いた課題、あるいは一般論の課題を根拠に、それを解決する(と思われる)自社の「商材」を並べ、それを説明する文書として「提案書」なるものが作られているわけです。
前節で示したとおり、「誰」が曖昧ですから、ほんとうに彼らが求めている「価値」をこれによって実現できるという根拠もまた曖昧です。そもそも、「価値」というのは、提案側が決めることはできません。「誰」が、「価値」があるかどうかを決めるのです。自分の幸せのために手に入れたい、解決したいことであり、それが満たされるから「価値」があるわけで、提案する側が「価値」を示すことはできません。
「商材」は、その価値を実現する手段のひとつです。「誰」は、「商材」を手に入れたいのではありません。「価値」を手に入れたいのです。しかし、初期の提案には、この「誰」の「価値」が明確に示されていいないことがほとんどです。
自分たちが売りたい「商材」ありきで、これに派手な化粧まわしを着けて説明しているに過ぎません。これでは、お客様に刺さりません。
- まずは前節の「誰」とその人が求める「価値」をあきらかにすること。
- これを言葉として明示すること。
- その「価値」をお客様に確認し、「合意」すること。
「商材」については一旦忘れ、まずはこの3つを考えるようにアドバイスしています。当然、それが自社の「商材」を使うことで解決できない場合もあるでしょう。しかし、お客様は、自分の求める「価値」を手に入れたいわけですから、ここが明確にならなければ、どんなに素晴らしい「商材」を提案しても、採用していただくことはできません。
ウォンツではなくニーズに応えているか?
お客様の多くは、「XXXシステムを導入したい」というように具体的な製品やサービス、つまり「ウォンツ(ほしい)」を指定して、ご相談頂くことが少なくありません。これに飛びついて「ならば、我が社のこの製品がうってつけです」と対応する。そんな提案書になっていることもよくあります。
「XXXシステムを導入したい」は手段であり目的ではありません。なぜ、これを導入したいのかを問わないままに、条件反射的に手持ちの「商材」を提案するだけなら、これは他者との競合に陥るのは必然です。
お客様が求めているのは、「ウォンツ」ではなく、目的を達成することです。これを「ニース(必要)」と呼びます。お客様の「ニーズ」とは、「お客様の求める価値を実現すること」と言い換えても良いでしょう。
この手段を必要とする背景にどのような目的があるのでしょうか。つまり、「なぜ」、「どうして」、「XXXシステムを導入したい」のですか?と尋ねるのです。そうすると、「XXXを実現したいから」や「XXXで困っているのでこれを解決したいから」という答えが返ってきます。
ならば、「XXXシステムを導入する」ことよりも、もっと魅力的な手段があるのなら、それを提示すべきです。まさにこの点に於いて、営業の見識が試されます。
営業は、自社/他社を問わずに多くの選択肢についての知識を持っていることが必要です。そして、お客様の求める「価値」を最大にできる選択肢を示すことです。当然自社よりも優れた選択肢があるとすれば、それを示すべきです。
これでは売上につながらないというばあいもあるでしょう。しかし、お客様も同様の選択をするでしょう。また、言葉巧みに自社の「商材」を飾り立てても、劣っている、あるいは、不適切なものを売りつけるというのは、詐欺に等しい行為です。そんな提案をする営業をお客様が信頼することはありません。例えその時はだませても、次の話はありません。
もちろん営業ですから、数字を作らなければなりません。しかし、人をだましてまでそうすべきではないのです。むしろ正直にこれを受け入れ、他社をすすめすることも1つの選択です。ただ、他社だけではできないとすれば、その他の商材やサービスとの組合せや全体のとりまとめなどのビジネスの可能性を見出すのも1つのやり方です。それで売上が落ちたとしても、信頼という対価を得ることを優先すべきです。
そんな信頼関係を沢山のお客様と持つことができれば、案件に困ることはありません。仮にこの案件を失注しても、次の機会には必ず最初に相談して頂ける存在になれば、結果として数字はついてきます。だから、一旦、自社の商材は棚上げし、お客様にとっての「最適」は何かをはっきりさせて、「ニーズ」を満たすことができる提案するようにアドバイスします。
いかがでしょうか?皆さんの提案は、「誰」、「価値」、「ニーズ」を考えたものになっているでしょうか。
営業の役割はお客様の教師/医師である
子どもの頃は、分からないことがあれば先生に聞くのは当たり前のことでした。そして、先生の教えてくれたことに従うように努力したものです。
病気になれば、医師に相談します。医師が、「こんな状態を放置しておくと大変なことになる。きょうは仕事を休みなさい。」と言われれば、例え忙しくても、休みを取ろうとするはずです。
「教師や医師は、自分の知らないことを沢山知っている。そんな彼らには、私はとても及ばない。しかも、自分のために考えて、教え、アドバイスしてくれる。ならば彼らを信頼して従うことが賢明だ。」
私たちはそのように判断しています。
「この営業は、ITのことなら自分の知らないことを沢山知っている。そんな彼らには、私はとても及ばない。しかも、自分のために考えて、教え、アドバイスしてくれる。ならば彼らを信頼して従うことが賢明だ。」
お客様からこのように受け止められるようになれば、売り込む必要はありません。お客様から相談してくれるようになるでしょう。そういう関係お沢山のお客様持つことができれば、案件に困ることはなくなります。
利他のために、知識やスキルを磨き、お客様の教師や医師として、良き相談相手になる
営業の目指すべき「あるべき姿」はここにあるのだと思います。
営業に責任を押しつける経営者では業績を伸ばせない
「そんな営業がいないから売上があがらない。だから、営業力を磨く研修が必要だ。」
業績の責任を営業に押しつけるようでは、事業の業績は上がりません。個としての営業は、「教師や医師」になるべく、研鑽すべきですが、いくら営業が頑張っても、売るモノがない、顧客を見つけられない、既存の顧客を維持できない、では業績を上げることはできません。
先ず考えるべきは、「営業は人間であり、1日24時間という時間的な制約に閉じ込められている」ということです。何でもかんでも、営業に担わせないことです。
AIの急速な発展やクラウド・サービスの充実で、お客様の求める商材やサービスは大きく変わっています。ビジネスの前提が変わってしまったのです。こんな現実があるのに、いままでと同じやり方で何とかしようというのは、無理な話です。
「新規事業開発」に取り組むケースも多いのですが、その多くに覚悟がありません。現場の第一線級を投入する、十分に予算を付けるといったことをせずに、放課後のクラブ活動的な新規事業プロジェクトもみかけます。
また、案件の発掘を営業に任せきっている企業も少なくありません。新規顧客を発掘するのは、マーケティング/デマンドセンターの役割のです。
既存顧客との関係を維持し、そこから次につながる案件を見付けるのは「カスタマー・サクセス」の役割です。
こういう仕事の一切合切を営業に押しつけていては、業績は伸びません。「営業は、受注できそうな案件を確実に受注するための専門家」として、自分の時間を最大限に使うことであり、それ以外は他の機能に役割を託すことが大切です。つまり、「仕組みで売る」ことで、効率を上げなければなりません。こういう仕組み作りは経営者の役割です。それを行わずに、業績を営業にのみ委ねるのは、実効性がありません。
営業力に磨きを掛けることともに、仕組みで売る体制を整備してこそ、業績は向上します。他社のDXもいいのですが、まずは、そんな自分たちの変革に向きあってはどうでしょうか?
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