霜を履んで堅氷至る
霜が降る時期を過ぎれば、やがて氷が硬く張る季節がやってくる。 災難の小さな兆候を見逃がしていると、やがて必ず大きな災難に見舞われることのたとえ。
「易経」で語られている言葉です。紅葉もこれからなのに、「霜を履んで」とは、少々気の早い話かも知れません。しかし、私たちが向きあっている現実は、季節を一気に早めてしまう勢いです。
先日発表された、ChatGPTのAdvanced Voice Modeを使ってみましたか?AnthropicのArtifactsやOpenAIのCanvas機能はいかがでしょうか。使った方なら、私たちの仕事の進め方が、おおきく変わってしまうと実感されたはずです。
さらには、OpenAIのo1は、生成AIに論理的な思考能力を与えました。o1以前の生成AIは、流暢な言葉のつながりを実現することを目指していました。一方、o1はこれに加えて、論理的に思考して答えを導くことができます。
言葉が流暢であることは、一見論理的であり、膨大なデータから導かれた流暢な言葉の連なりは、「結果として論理的である」ことも多く、一定の実用性を持っていました。しかし、o1は、「論理的に整合的である」ことを保証しようというもので、これは極めて大きな技術革新です。研究者レベルの回答を導くことができるようになったということでもあります。
まだ、登場したばかりで、いろいろと制約はあります。しかし、これらが近い将来(たぶん3ヶ月〜6ヶ月以内)には、その多くがなくなり、様々な用途で使われるようになるでしょう。そうなったとき、自分の仕事はどうなるでしょうか。あなたはそのときのことを想像できるでしょうか。
システム開発ばかりではありません。営業の仕事のかなりは資料作成に費やされています。その多くは、最新の情報を調べて文章にまとめ、レポートやプレゼンテーション資料を作るといったことに費やされています。
最新のサービスを使えば、何時間もかかっていたこれら作業を数分で済ませることができます。
最新の情報を調べて文章にまとめる:PerplexityやGensparkで、最新の情報を検索し、過去の情報と照らし合わせても、文章を作成する。
レポートやプレゼンテーション資料を作る:Napkinで文章の内容に即した挿し絵/インフォグラフィックスを作る、Mapifyで、マインドマップやロジックツリーを描く、Gammaで、文章内容に合わせたパワポのプレゼン資料を作る。
使った人なら分かると思いますが、あっという間に作れてしまうだけではなく、そのクオリティの高さにも愕然します。
これらツールの普及はこれからです。もちろん「まだまだ」と言うところもあります。しかし、1〜2割の「まだまだ」があっても、8〜9割は、十分に使えるのならば、使わない手はありません。
ChatGPTが登場した2022年11月に登場してわずか2ヶ月でユーザーは1億人に達しました。これをきっかけに生成AIノ進化が加速しました。その加速度をますます増していくことは間違えありません。まもなく、ビジネスは、「このようなツールを使うこと」が前提となるでしょう。だとすれば、このようなツールを使わない人や企業は、仕事をなくしてしまいます。
「AIが仕事を奪う」という言葉は、以前より現実味を帯びてきました。もうすこし、この言葉を丁寧に表現すれば、「AIを使わずに仕事をする人や企業は、AIを使って仕事をする人や企業に置き換えられてしまう」ということです。
AIを軽く扱ってはいけません。ましてや、先送りするなど「非常識」です。加速度を上げて技術が発展し、適用範囲が急拡大するいま、AIを武器にするかしないかで、個人や企業の格差は急速に広がります。
このような変化を見越した事業計画を検討されているでしょうか。一人当りの稼働時間×単金×社員数というような労働力をウリにする予算計画は、その根拠を失います。人間以上に効率よく、完成度の高い仕事をしてくれるAIがいるわけです。これらを使いこなせる少数の人材がいればいいわけですから、「労働力を売る」ビジネスは成り立ちません。加えて、昔ながらの発想を引きずる生産性の低い企業は、顧客から見放されますから、確実に淘汰されていくでしょう。
これは、専門家とアマチュアの境目が曖昧になると言うことでもあります。こうなると、システムアーキテクチャやテクノロジーを前提に最適化されたビジネス・プロセスの設計などの高次なシステム技術は専門家に任せるしかないにしても、既存の業務の「デジタル化」は、アマチュアである業務現場や社内のITチームに任せるといったやり方で、内製化の範囲も広がり、外注への依存度が大きく下がっていくはずです。
では、どうすれば、いいのでしょうか。答えは簡単です。とにかく使ってみることです。自分たちの仕事にどのように活かすかを、使ってみて体験的に探ることです。使いこなすスキルは、このプロセスで自然と身につきます。
一方で、絶対にやってはいけないことがあります。それは、「本当に使えるのか?」と経営者や管理者が疑問を呈して、現場にブレーキをかけることです。使えるかどうかなんて、誰にも分かりません。このような技術やサービスは、これまでになかったわけですから、これらを前提とした業務プロセスもありません。正しい評価や判断などできるわけがありません。
それよりもなによりも、不十分な知識とこれまでの常識で、答えを出さないことです。リスクや課題があったとしても、「時期尚早」と断じるのではなく、まずは使ってみて、使いながら使い方を工夫することです。走りながら考えて、使い方を自ら創っていくしかありません。
霜を履んで堅氷至る
もし、いまこの実感を持てないとすれば、まずは霜を踏むことです。AIのスキルがないから、使い方がよく分からないからと躊躇してはいけません。「とにかく使ってみる」というマインドセットこそが、スキルや知識に優先するということを肝に銘じておくべきです。
事業戦略を考えるにしても、自分のキャリアを考えるにしても、もはやAI前提は避けられません。
この現実にピントきてないとすれば、これはかなり「ヤバイ」と自覚すべきです。以前にも書きましたが、「体感する」ことが知っていると、自信を持って言える最低ラインです。特に生成AI界隈は、アップデートが高頻度で行われていて、「言語化された」情報を手に入れることは困難です。使いながら学び、自分のスキルをアップデートし続けなくてはなりません。このようなことを苦にせず、先送りしないマインドセットなくして、いまの時代を生き抜くことはできません。
事業戦略もキャリアプランもAI前提でアップデートすべきです。そのためには、「とにかく使ってみる」行動習慣へとアップデートすることが欠かせません。
積極的に霜を見つけては踏みしめて下さい。そして、堅氷の先にある春靄や萌える若葉に至る物語を描いてはどうでしょう。
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生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、”生成AI”で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。