先日実施した「AIの基本と生成AI」という講義の中で、次のような質問をいだきました。
「AIに仕事を奪われる人とそうでない人の違いはどこにあるのでしょうか。AIに仕事を奪われないためにはどのようなスキルを身につければいいのでしょうか。」
昨今のAIツールの充実ぶりと、性能や機能が向上するスピードは、驚くばかりです。「こんなことができたら便利だろうなぁ」と思ったことは、もう既に誰かがやっていることも多く、ほとんどの場合、直ぐにできるようになります。
こんな現実を目の当たりにすると、この質問にあるような不安を持つのは自然なことです。そしていま、「そんなことになったら、どうしよう」という漠然とした不安から、「これはヤバイ!どうすればいいんだろう」といった現実的な危機感へと変わりつつあるようです。
では、どんなことができるようになっているのか、「AI関連企業の株価低迷」についてのビジネス・レポートの作成を例にご紹介します。
まず生成AI技術を使った検索エンジンであるGensparkで、レポートを作成します。
私が入力したのは、「AI関連企業の株価が低迷している」というものです。これは、質問でも何でもありません。私のつぶやきです。Gensparkは、そんな私のつぶやきから、私の意図をくみ取って、いくつかの質問例を提示してくれました。私はそこから、「AI関連企業の株価が下がり続けている原因は具体的に何ですか?」という質問を選択しました。
この質問から作られたレポートが、上記の画面です。ここでも、さらにここから派生する質問の候補を提示してくれます。
Gensparkには、複数の専門的知識を得意とした検索の代行者(AIエージェント)が、組み込まれていて、それそれが検索した結果を持ち寄り、文書作成を得意とするAIエージェントが、品質の高いレポートに仕上げてくれます。ChatGPTと異なるのは、最新情報を検索してそれを使ったレポートをまとめてくれることです。ChatGPTは過去のある時点以前の情報のみで文書を生成するため、最新の情報が反映されません。回避策はあるのですが、この点がGensparkや同様の検索サービスであるPerplexityとの違いです。
生成された文章だけでは分かりにくいので、Mapifyを使って、この文章をフィッシュボーン形式の図にしてみました。論理的な構造を視覚化し、理解しやすくしてくれます。
さらに、これを項目ごとに整理したのがこちらです。全文はこちらでご覧頂けます。
今度は、NAPKIN AIを使い、Gensparkの作ってくれたレポートの内容から、内容に即した図表(インフォグラフィックス)を生成し、提出用の資料を完成させました。こちらが完成版の全文です。
いかがでしょうか。このような一連の作業が、10分ほどで完了しました。これまでなら、このようなレポートをまとめるのにどれだけの時間を費やしていたでしょうか。いまやこのような作業が、短時間、しかも無料でできるのですから、「仕事が奪われる」と危惧するのは、当然と言えば当然です。
しかし、よく考えてみると、この作業を行ったのは、“わたし”という人間です。”わたし”には「何かを知りたい」、「何かを解決したい」、「何かを実現したい」との動機があり、”わたし”が「これこれをして欲しい」という「問いを発し」たことが全ての起点です。
そして、どのように資料をまとめようかと考えたのも”わたし”であり、それにふさわしいサービスを選択したのも”わたし”、こうやってみなさんに資料を公開しているのも”わたし”です。
もし、ここに紹介したようなサービスを使わずに、同じことをやろうとすると、私なら丸1日はかかったでしょう。また、これほどのクオリティの図表を”わたし”は作れません。
しかし、”わたし”は、ここに紹介したようなツールを知っていて、使いこなせたことで、高品質のアウトプットを「丸1日」ではなく「10分」で作れてしまったわけです。これにより、”わたし”の仕事の生産性と品質が、「爆上がり」したわけです。
さて、冒頭の質問に戻りますが、私は質問者に次のように回答しました。
「新しいAIサービスを臆することなく使ってみて、それをどんどん仕事に活かそうとする人は、AIを武器に仕事のパフォーマンスを高めてゆくことができます。そういう人は、これからの時代にますます必要とされる存在になるでしょう。一方、このような技術の発展を難しいとか心配だからと遠ざけ、いままでのやり方に固執しようとする人は、AIに仕事を奪われます。」
「AIに仕事を奪われる人とそうでない人の違いは、スキルの問題ではありません。マインドセットの問題です。」
荷車を引くことしかできず、トラックを運転できなければ、運送業務は務まりません。算盤や電卓しか使えず、Excelが使えなければ、事務の仕事には就けません。古い旋盤しか使えず、CNC旋盤(コンピューター制御で高精度・高速の加工ができる旋盤)を操作できなければ、工場の現場で働くことはできません。昔のやり方から新しいやり方に移行できない人たちは、これまでも仕事を奪われてきました。
Google検索やWord、パワポしか使えず、AIツールを使いこなせなければ、オフィスワーカーは務まらない。いまやそんな時代となりました。
システムの開発でも、「何をしたいか」を伝えれば、自動的に要件定義を行い、さらに自律的にシステムを構築してくれる「生成AI-Babel」や「こんな作業をこなしたい」と伝えれば、要件を定義し、計画を立て、コードを書いてテストし、修正も行って実行してくれる「自律型ソフトウエアエンジニアDevin」など、システム開発の広範な作業を代替できるサービスも登場しています。
一年ほど前は、そこそこのプログラム・コードを生成してくれる程度でしたが、その性能も大幅に向上し、いまやシステム開発全般にわたる作業もこなしてくれるようになりました。「まだまだですね」との声はあります。しかし、ChatGPTが登場して1年半ほどですが、できることが大幅に増え、様々なサービスが登場し、瞬く間に性能を向上させています。システム開発に関わる作業の相当範囲は、AIツールに置き換えられることは、もはや時間の問題でしょう。
個人としてもそうですが、会社としても、AI前提でビジネス・スキームを新しく作り変える必要があります。「Excelも使えない人に事務の仕事は、お願いできない」というのと同じ理屈で、「AIツールも使えない会社にシステム開発の仕事は、お願いできない」という事態になるでしょう。
AIに仕事を奪われないためには、「新しいAIサービスを臆することなく使ってみて、それをどんどん仕事に活かそう」と試みることです。そういうマインドセットを持ち、試してみることです。頑張らずに、意識せずに、そうするのが当たり前の日常となれば、AIに仕事を奪われることはないでしょう。むしろ、そういうことができる人や企業の仕事が、絶えることはありません。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITソリューション塾について:
いま、「生成AI」と「クラウド」が、ITとの係わり方を大きく変えつつあります。
「生成AI」について言えば、プログラム・コードの生成や仕様の作成、ドキュメンテーションといった領域で著しい生産性の向上が実現しています。昨今は、Devinなどのような「システム開発を専門とするAIエージェント」が、人間のエンジニアに代わって仕事をするようになりました。もはや「プログラマー支援ツール」の域を超えています。
「クラウド」については、そのサービスの範囲の拡大と機能の充実、APIの実装が進んでいます。要件に合わせプログラム・コードを書くことから、クラウド・サービスを目利きして、これらをうまく組み合わせてサービスを実現することへと需要の重心は移りつつあります。
このように「生成AI」や「クラウド」の普及と充実は、ユーザーの外注依存を減らし、内製化の範囲を拡大するでしょう。つまり、「生成AI」や「クラウド」が工数需要を呑み込むという構図が、確実に、そして急速に進むことになります。
ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われてしまい、既存の延長線上で事業を継続することを難しくします。また、ユーザー企業の皆さんにとっては、ITを武器にして事業変革を加速させるチャンスが到来したとも言えます。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
- 期間:2024年10月9日(水)〜最終回12月18日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
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- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
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6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、”生成AI”で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。