最近、地方のITベンダーの経営者の方と話す機会が増えています。そのきっかけは、ITの最新動向を社員に学ばせたいので、研修をお願いしたいというご相談です。
「はい、分かりました。スケジュールはいつがよろしいですか?」
このようにお答えすれば、仕事にもなりますし、話は早いのですが、どうしてもそれができません。余計なお世話を承知で、私は、いつも次のような返答をしてしまいます。
「なぜ、このような研修をされたいのでしょうか?」
研修は手段であり、目的ではありません。何らかの変化を期待して、このような研修を希望されているはずです。
「実は、いまのやり方のままでは、仕事は先細りになるのではと不安に感じでいます。」
都市部の大手SI事業者から下りてくる工数需要の先行きが見通せないそうです。また、地方自治体に依存した企業も多く、ガバメントクラウドへの対応が急がれてはいるもののこれに対処できる能力がなく、ビジネス機会を逸する状況もあるようです。
大手SI事業者の選別も始まっているとの話しも聞きました。専門性を持たず、一般的なSESに頼っている企業の需要が減っているという話しです。これについては、裏を取っていないので、確かなことは言えません。ただ、その可能性は大いにありそうです。
加えて、生成AIの登場、クラウドやローコード開発ツールの充実、ユーザー企業の内製化の拡大が、工数需要を減少させてしまうのではないかとの漠然とした不安もあるようです。
また、若者人口の減少も地方のITベンダーの悩みです。工数に頼っている企業にとって、人材を確保できなければ、売上は増えません。また、若手が採用できなければ、社員の平均年齢が上がります。そうなれば、昇給が必要となりますが、それに見合う単金の上昇は見込めません。特に、旧来のやり方にこだわり、新しいことを学ぼうとしないベテランが、一定するいると、これは深刻です。
このような状況に対処するために、「ITの最新動向を社員に学ばせ、新しい事業の機会を生みだしてほしい」という期待があるようです。
しかし、このような性善説、あるいは他力本願で、いま起きている変化を乗り切ることは難しいでしょう。むしろ、若い人たちが、”真実”を知ってしまい、自分たちの現実とのギャップを知ることになれば、会社へのエンゲージメントを下げてしまい、転職を促すきっかけにもなりかねません。
「まずは、自分たちの会社をどのような方向に向けるかを考えてはどうでしょう。例えば、経営者や次代の経営を担う人材を対象に、いまの自分たちの於かれている状況を冷静に受け止め、次に向けたビジョンを持つための研修やワークショップをやりませんか。同様の課題を抱える地域の同業の皆さんにも声を掛けて、一緒にやるのもいいかもしれません。」
余計なお世話です。特に、このようなことを考えるのが経営者の仕事ですから、他人にとやかく言われる筋合いではなく、僭越なこと甚だしいわけです。ただ、このような議論を抜きにして、最新ITトレンドを一般論として社員に話をしたところで、実効性がないこともまた明白です。それを分かっていて、お引き受けするのは、良心のとがめを感じてしまいます。
ITのトレンドやこれからのビジネス戦略についての「いまの常識」を知ることに意味がないとは思いません。ただ、全社員一律である必要はないと思います。向上心を持つ人が、自ら求めてこそ、仕事やキャリアに活かすことができます。ですから、そういう人には、私が主宰するITソリューション塾や拙著・「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド」などをおすすめしています。その方が、間違えなくコスパがいいからです。ただ、ここで知識を得ても、これを活かせる場を会社が提供できなければ、社員のモチベーションは上がりませんし、変革が進むこともありません。
変革の先陣は、経営者が担うべきです。しかし、漠然と「変革が必要だ」とか「DXに取り組もう」といった精神訓話を語っても、業績の改善にはつながりません。危機感を煽ったところで、「この会社はヤバそうだから転職しよう」となりかねません。特に行き場のある若い人たちは、そうなる可能性は高いでしょう。
具体的な事業施策を示すことです。例えば、時代の変化に即した事業戦略を示し、組織の変更や売上目標、業績評価制度や雇用制度などを変えることです。わくわく感というか、チャレンジしている実感を与えることです。
次のようなことを未だ続けているとすれば、そろそろ辞めたほうがいいかもしれません。
- 社員の人数を前提にした工数積算で売上目標を設定する
- もはや価値のなくなった公的資格で会社を箔付けする
- デジタル化とDXの区別が曖昧なままに世間に迎合してDXを叫ぶ
- 業績拡大の見通しもないのに将来都市部に新たな拠点を設けることや新社屋建設を社員のモチベーションにする など
2016年、経済産業書は、「2030年までにITエンジニアが最大で79万人不足する」との予測を示しました。確かに、2021年ごろまでは、そのような状況だったように思います。しかし、ここ数年は景気後退やスタートアップ投資市場の冷え込みなどの影響で、エンジニア人材の不足は、それほど深刻ではありません。
また、各社の採用条件についても「何としてでも採用目標人数を必達したい」という2021年ごろまでの状況から「会社のために貢献できる人ならすぐにでも採りたいが、少しでも迷うなら採らない」という企業が増えてきているそうです(エンジニアTypeの記事より)。
私は、いまもエンジニア人材が不足していることは確かだと思います。ただ、それは、絶対数ではなく、「いま必要とされているスキルを持つ人材」ということです。だから、そういう人材を育て、あるいは、そういう人材を活かした事業を進めてゆけば、ビジネスのチャンスはあるわけです。
それは何かを一般論で語ることはできません。なぜなら、各社各様の歴史を背負い、お客様を持っているからです。また、地域の特性も無視できません。ですから、「自分たちのこれから」は、経営者が決めなくてはならないのです。
DX、生成AI、クラウドなどの普及と拡充により、これまでのビジネスを支えてきた前提が変わってしまうことは、もはや避けられません。だからと言って、社員にそれらを学ばせ、自発的な変革を促すなどと悠長なことを言っているときではありません。時代の変化は加速しています。経営者がこの現実を理解し、変革の陣頭指揮に立つことです。そのためには、経営者がまずは、この現実を真摯に受け止め、何がどうなろうとしているのかを正しく理解し、自社の道筋を考え、社員にこれを示すことではないでしょうか。
余計なお世話のオンパレードになってしまいましたが、何かに気付いて頂くきっかけになればと願っています。
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生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、”生成AI”で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。
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社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える
ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。
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これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える
ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。
AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。