新著・【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版が本日より発売になります。
執筆開始からおよそ半年、もっと早く書けるかとも思っていたのですが、書きながらあっち行ったりこっち行ったりを繰り返し、480ページに落ち着きました。実際に執筆した文章をページ換算すれば600ページくらいはあったと思います。
本シリーズ「【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド」の初版は2015年、テクノロジーの進化に合わせて、2年ほどのサイクルで改訂を続けてきました。その第5回目の改訂版が本書となります。
当初、本改訂版の出版は、半年ほど先のつもりでした。そんな思惑とは裏腹に、生成AIが、短期間のうちに劇的に機能や性能を高め、私たちの日常やビジネスの現場に大きな影響力を持つようになり、もはや1年半前の「最新ITトレンド」が最新ではなくなってしまいました。このままでは、「最新ITトレンド」の看板を掲げる本シリーズが、時代遅れと見做されてしまいます。そんなわけで、急遽前倒しに出版することと致しました。
また、「DXの胡散臭さ」が目に余る状況であると感じていたことも、本書を前倒しした理由の1つです。いまだ、デジタル化をDXという言葉に置き換えて、喧伝するITベンダーやメディア、それに踊らされてしまっているユーザー企業の「変革なきDX」の現実を目の当たりにし、余計なお世話かも知れませんが、これはなんとかしなければと言う想いを募らせていました。
デジタル・トランスフォーメーション/DXの起源をたどれば、2004年にスウェーデン・ウメオ大学教授のエリック・ストルターマンがこの言葉を提唱したことに始まります。彼は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」だと定義し、デジタル・テクノロジーの発達により人類の生活を豊かにするためにアプローチの方法を編み出す必要があると主張したのです。
この時期は、Facebookやmixiなどのソーシャル・メディアが登場した時期とも重なり、インターネットが、身近な存在として、多くの人に受け入れられ始めた時期でもあります。
2010年代にもなると、ビジネスに、さまざまなデジタル機器やソーシャルメディアなどが入り込むようになりました。スイスのビジネススクールIMDの教授であるマイケル・ウェイドらは、この変化を次のように説明しています。
「デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化している。これに適応できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。このような状況に対処するために、ビジネス・モデルや業務の手順、顧客との関係や働き方、企業の文化や風土を変革する必要がある。」
ITコンサルタント会社のガートナーは、これを「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」と呼ぶことを提唱しました。これは、ストルターマンらの解釈とは違い、経営や事業の視点でデジタルを捉えたものであり、デジタル・テクノロジーに主体的かつ積極的に取り組むことの必要性を訴えるもので、これに対処できない事業の継続は難しいとの警鈴を含んでいます。つまり、デジタル技術の進展を前提に、競争環境、ビジネス・モデル、組織や体制を再定義し、企業の文化や体質をも変革する必要があると促しているわけです。
この「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」について、マイケル・ウェイドらは、その著書『DX実行戦略(日本経済新聞出版、2019年8月』で、次のような解釈を述べています。
「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」
この著書の中で、彼らはさらに次のようにも述べています。
「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションにはテクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。」
つまり、デジタル・テクノロジーを使っても、それを活かせる組織の仕組みや行動様式に変えなければ、その価値を引き出すことは、難しいということでもあります。
いま、私たちが使っている「デジタル・トランスフォーメーション」あるいは「DX」という言葉は、この「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」のことだと言えるでしょう。
このような歴史的系譜を踏まえて、私はDXを使っての次のように解釈しています。
「デジタル前提の社会に適応するために会社や社会を作り変えること」
デジタルツールを導入することやシステムを刷新することだけではなく、会社の仕組みやビジネス・モデルをデジタル前提に最適化されたものに「新しく作り変える(Transformationの本意/変革)」だとうことです。例えば、SlackやTeamsを導入して、コミュニケーションの”瞬時化”を実現しても、意志決定には、手間のかかる稟議手続きと経営会議を経て1ヶ月かかるとすれば、導入したこれらデジタル・ツールの価値は活かせません。
DXにとって、デジタル・ツールは欠かせない手段です。しかし、その価値を十分に活かすには、デジタル以外にやることが沢山あります。そこまで含めて変革を進めることで、デジタル前提の社会に適応できるようになります。
そんな、DXは、AIと不可分です。生成AIの登場が、両者の関係をより緊密な関係に変えました。「デジタル前提の社会」とは、もはや「AI前提の社会」と読み替えることができます。AIと融合する日常や社会が、新しい人々の行動様式を創りつつあります。もはやDXは、そこまでも織り込んで取り組む必要があるということです。
当初はそんなDXとAIをテーマに執筆するつもりでしたが、出版社から本書の改訂版をまずは出してはどうかとのおすすめもあり、当初考えていた「DXとAI」本の内容の一部をここに組み入れるカタチで執筆することにしました。
もちろん、ITトレンドの急速な変容は、AIだけではありません。クラウドの役割も日増しに高まり、量子コンピューターも劇的なイノベーションを遂げ、その実現が前倒しされようとしています。また、生成AIも既に次のステージである「AIエージェント」への進化を見せ始めています。
そんなわけで、本書は、前・第4版から100ページ近く増えてしまいました。特に「DXの本質とその実践」や「AIの基本と生成AI」には多くのページを割きました。結果として、「DXの本質と実践、これを支えるITの最新動向」といったものに仕上がっています。
最新のITを知るための辞書的使い方もできますが、ひとつの大きな物語として、読んでいただくこともできるかと思います。ぜひ、後者の視点で本書を読んで頂ければと願っています。
1冊の本に仕上げるには、私だけではなく、多くの皆さんのご協力の賜であることは言うまでもありません。編集者のアドバイスや指摘、記載事項の裏取り、デザイナーにはレイアウトや表紙等のデザインなどご苦労をかけました。特にAIについては、あまりにも直ぐに新しいニュースが飛び込んでくるので、最後の最後まで加筆修正を加え、皆さんにはご迷惑を掛けました。そんな皆さんのご尽力のおかげで、1冊の本が世に出てきたわけです。
それなりに、”いま”を体系的に整理したつもりですから、ITに関わる人たちにとって、ITの全体像を網羅的、俯瞰的に捉えて頂くには、お役に立つはずです。また、ユーザーの立場で、ITリテラシーを向上させたいという皆さんにも都合のいい1冊だと思います。特に事業戦略や経営企画、DXの推進に関わる皆さんには、お役に立つはずです。
わたしや関係各位の費やしたエネルギーを是非皆さんの仕事のパフォーマンスを向上させるための燃料として使っていただければと願っています。
新入社員のための「1日研修/1万円」
今年で8年目を迎える恒例の”新入社員のための「1日研修/1万円」”の募集を始めました。
社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える
ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。
そんな彼らに、いまのITの常識をわかりやすく、体系的に解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える
ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。
AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。