前回の記事で、次のように述べました。
「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車という役割から脱しなくてはなりません。」
この意味するところは、「ITシステムを作る」ことに関わるマーケットから、新しいマーケットへと、自分たちのビジネスの居場所を移し替える必要があるということです。
「オペーレーションの効率化や継続的な改善の積み重ねは、戦略ではない。」
日本が、「ものづくり大国」であった1979年に米国の社会学者、エズラ・ボーゲルが著した「Japan as Number One」が日本でもベストセラーになりました。まさにその時期に、ハーバード大学の教授で戦略論の大家であるマイケル・ポーターが、このような言葉を残しています。
つまり日本は、品質やコスト、納期を徹底的に突き詰め世界最高の水準であり、その価値が世界を席巻するほどの力を持っていたわけです。しかし、マーケット、つまり世の中が求める市場が変わってしまったいま、同じ市場でオペレーション突き詰めてもそこには顧客がいなくなってしまったのです。日本のいまの衰退を見事に予測したと言えるでしょう。
SI/ITビジネスも、いまだ「DXブーム」という空気の中で、本来の意味での「DX=変革」ではなく、「デジタル化=デジタル技術によるオペレーションの改善」の需要で潤っていますが、前回も述べたように、ユーザー企業が真に「DX=変革」に舵を切ったとき、同じ市場でのオペレーションの改善では生き残れることはないでしょう。まさに、市場/マーケットを変えて、そのマーケットで勝てる「戦略」へと転換しなければならないのです。
これからの戦略を考える
これからの戦略の要点を整理すれば、次の3点です。
- ユーザー企業のデジタル戦略の策定や業務変革を支援する
- 自分たちがデジタル・サービスの事業者となり新たな収益源を生みだす
- 圧倒的な技術力でユーザー企業の内製化を支援する
これは、工数提供で収益を上げていたITベンダーやSI事業者にとっては、会社を作り直すほどの大変革です。しかし、この現実に向きあうしか生き残る術はありません。
確かに、古き良き時代の常識から抜け出せないユーザー企業も多いと思いますし、彼らがそう簡単に、いままでのITとの係わり方を放棄して、新しいやり方に移行できるとも思えません。それであるならば、これまでのやり方をそのままにITベンダーやSI事業者は、事業を続けていくこともできます。そして、緩やかに、静かに終焉を迎えることができるでしょう。それもまた、ひとつの選択肢です。
しかし、生き残り、これからも成長したいという選択をしたいのなら、お客様のDXや事業変革を叫ぶ前に、自分たちの足下に火がついていることに気づき、これを解決するために必死に取り組むべきです。その経験と実績に裏打ちされたノウハウこそが、これからの自分たちの売り物になるのだと思います。
AIの進化はまだ過渡期であり、このシナリオが直ちに実現されることはありません。ただ、急激な技術発展やサービスの充実を考えれば、遠い将来の話しでないことは、言うまでもありません。過去の常識にとらわれ、直ぐには変わらない、変わって欲しくないと内心思っている人たちにとっては、その期待を裏切ることになるでしょう。
「ビジネスの前提が変わることに適応するために、会社を作り変えること」が、SI事業者やITベンダーのDXの実践です。お客様のDXを叫ぶ前に、そんな自分たちのDXに向き合い、その体験から学んだ知恵やノウハウ、すなわち、これから求められる圧倒的技術力を、商品に育ててゆくことが大切です。
作る技術と作らない技術
ITビジネスに求められる技術が、「作る技術」から「作らない技術」へとシフトし始めています。
「作る技術」とは、「仕様書に定められた機能を実装することを目的に、プログラムを作る技術」です。「作らない技術」とは、「ビジネスの成果を達成することを目的に、既存のITサービスを駆使し、できるだけ作らずに短期間でITサービスを実現する技術」です。その目的は、次のようになります。
作る技術を前提としたビジネス:工数を売る
組織力を駆使して、作る技術を持つエンジニアをできるだけ多く動員し、工数を最大化して、売上規模を拡大すること
作らない技術を前提としたビジネス:技術力を売る
個人とチームの自律と自発を促し、作らない技術力を磨くための環境を整え、作らない技術力を持つエンジニアをお客様の事業の成果に見合う金額で提供して、高い利益率を継続的に確保すること
また、求められるエンジニアのスキル要件も違います。
作る技術を前提としたエンジニア:
お客様からインタビューして、要件を定義し、WBSに従って進捗を管理するPMや仕様書に従ってコードを書くエンジニア
作らない技術を前提としたエンジニア:
お客様と事業の目的とビジョンを共有し、ITサービスを提供するための障害を排除しお膳立てを整えるスクラムマスターと、既存のサービスや技術を自分たちで目利きし、最速最短でビジネスの成果に供するITサービスを実現するエンジニア
「まだ何とかなる」ことはない
システム開発で工数需要の源泉となっていたコード生成からビルドまでの一連のプロセスを自動化できるGitHub Copilot Workspaceのようなサービスの急速な性能向上と普及は、ソフトウェア開発の常識を根本的に変えてしまいました。
テクノロジーの進化は留まることはなく、スピードを加速しながら、その適用範囲は拡大し続けています。そして、それ以前の状態に戻ることはありません。そんな時代の変化を傍観していたら、あっという間に浦島太郎になってしまいます。これは、エンジニアだけの話しではありません。圧倒的なスピードで、自分のスキル・セットをアップデートし続けなければ、だれもが仕事を失ってしまいます。
「作らないための技術」を駆使して、できるだけ少ないコードでビジネス目的を達成する
内製チームは、そうやって、「技術的負債」を膨らませることなく、変化に即応できる圧倒的なスピードを手に入れようとしています。
ユーザー企業は、このような取り組みに、ITベンダーの支援を期待していますが、この期待になかなか応えてくれません。だから、ユーザー企業は、自分たちでやるしかなく、上記のような「作らないための技術」を持つ人材を自分たちで採用しなくてはならないのです。
それでも足りないというユーザー企業は、既存社員を自分たちで教育し、リスキリングに務めています。
ついでながら、SI/ITベンダーからの優秀な人材の流失は、このようなユーザー・ニーズの反映です。これからのユーザー・ニーズを使っての先取りし、自助努力でそのためのスキルを身につけた人たちが、会社から去って行くわけです。そんな彼らに機会を与えられないわけですから、これは仕方のないことです。ただ、これは確実にボディーブローとして、SI/ITベンダーの変革を難しくするでしょう。
作らない技術が前提の「内製化支援」ビジネス
圧倒的なビジネス・スピードが必至のシステムに取り組む内製は、「作らないための技術」が前提にあってこそ、成り立ちます。そんなお客様の内製を圧倒的な技術力で支えることが、「内製化支援」です。
IT×ビジネスの勢いを考えると、ユーザー企業の内製化は、ますます拡大します。しかし、そのためのスキルを持った人材は、不足しています。だから、「内製化支援」すなわち「共創」ビジネスの需要は、拡大するはずです。
これをビジネス・チャンスととらえ、成長の原動力に変えるためには、「SIビジネスを再発明する」くらいの覚悟が必要です。「工数×人数」を売る過去の常識に囚われていては、お客様に、愛想を尽かされます。「技術力×人数」へと売り物を変えなくてはなりません。そのためには、自らもまた、時代の最先端を駆使して「共創」できる「スキルを磨き」自らの事業の再構築をすべきです。
「共創」への挑戦が切り拓く、新たな成長の機会
ITベンダーが「お客様のDXの実践に貢献します」と看板を掲げても、ここに紹介したような、技術やスキルを提供できなければ、誇大広告になってしまいます。ならば、世間の大騒ぎから一歩身を引き、ITベンダーの本来の役割である「技術力でお客様の事業を支える」ことに、真摯に目を向けるべきです。
そのためには、いま必要とされている「作らない技術」を磨き、「共創」できるようになることです。ただ、その機会を、既存の延長線上に見出すことはできません。積極的に新たな需要を生みだす挑戦が必要です。
新入社員のための「1日研修/1万円」
今年で8年目を迎える恒例の”新入社員のための「1日研修/1万円」”の募集を始めました。
社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える
ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。
そんな彼らに、いまのITの常識をわかりやすく、体系的に解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える
ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。
AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。