DXとは、「デジタル前提の社会に対処するために会社を新しく作り変えること」です。「デジタル前提の社会」とは、変化が速く未来を予測できない社会でもあります。DXとは、そんな社会に対処するためには、変化に俊敏に対応できる圧倒的なスピードが必要です。
これは、自分たちのビジネス・プロセスやビジネス・モデルをデジタル化すればいいという話しではありません。デジタル化以外にもやらなければならないことが沢山あります。
デジタル化と並行して、組織や体制、雇用や人事の制度、働き方、意志決定の仕組みなども含めて「会社を新しく作り変える」覚悟なくして、「DXの実践」はできません。
もちろん、ITも変化に俊敏に対応できる圧倒的なスピードが必要です。そのためには、従来のやり方から決別し、いまの常識に変わる必要があります。
技術的負債はこれからますます積み上がる
「技術的負債」という言葉があります。ソフトウェア開発における概念で、システム開発においても技術的な借金があり、借金をすると利子を払い続けなければならないのと同じように、システムを構築すると利子としてシステムを改修し続けなければならず、それが負債のように積み上がることの比喩として、使われています。
最初は丁寧に、整然と設計され、その通り実装されたシステムでも、ビジネス環境やユーザーのニーズが変われば、それに対応して改修しなければなりません。それは、事業を維持するためには必要なことです。しかし、改修が積み上がる過程で、システムは複雑性を高め、カオスに向かってゆきます。その結果、改修は難しさを増し、改修のスピードは落ちてゆきます。そのうちにニーズの積み上がるスピードに、改修が追いつかなくなってしまいます。つまり、借金をして利子が積み上がり、利子さえも返せなくなって債務超過に陥ってしまうというわけです。
その理由のひとつが、ソフトウエアの「不可視性」です。ソフトウェアは、エンジニアには読めても、ビジネス・パーソンには読めないということです。ですから、事業に責任を持つビジネス・パーソンが、自分たちのニーズをエンジニアに伝え、彼らは、それを理解してソフトウェアに仕上げなくてはなりません。そのためのコミュニケーションに相当の手間と時間かがかかります。
そもそも文章として仕様書にする過程で、情報は欠落し、できあがったシステムは、ビジネス・ニーズを完全には満たすことはできません。そこで、できあがった現物を見てフィードバックし、また、作り直すことを繰り返します。リリース前の段階で、もはや「技術的負債」を膨らんでいるわけです。
不確実性が高まり、正解が分からない時代になって、事業を継続し、成長させるには、圧倒的なビジネス・スピードで、変化への対応が求められます。ソフトウェアもまた、このスピードに対応できなければ、あっという間に「技術的負債」が膨れあがってしまいます。
例えば、Amazonは、この「技術的負債」を回避するために、1時間に1000回以上も様々なシステム改善を行っているそうです。Amazonと同じとはいきませんが、そんなスピード感覚が、いまのIT×ビジネスに求められています。
ところが、日本企業では、月に一回でも改善できればいい方で、半年に1回、1年がかりというのも珍しくありません。それは、関連部署との調整や稟議決済、IT部門への説明やITベンダーへの発注と購買手続き、開発チームと運用チームとの連携などのコミュニケーションに膨大に時間や手間をかけているからです。このような暗黙の前提があるのですから、システムのアーキテクチャーや開発手法は、モノリシックやウォーターフォールにならざるを得ません。
結果として、「技術的負債」がどんどんと積み上がります。IT×ビジネスに必要なスピードを獲得することなど、できるわけがありません。
「技術的負債」をなくすための「内製化」
中長期にわたって未来を予測できない以上、目前の変化に即座に対応できる圧倒的なスピードが、事業を継続させ、成長させるための必須の条件です。だから、事業部門の配下にITを使いこなせるチームを配置し、ビジネス・チームとシステム・チームのコミュニケーション・コストをなくし、両者を同期させて、システムを作る「内製化」が拡大しています。
彼らは、「技術的負債」を減らすために、次のようなことを実践しています。
- 既存のサービスやOSSを目利きし、できるだけコードを書かずに機能の実装を目指す。
- どうしても独自に作らなければならない機能は、ビジネスの成果に貢献するコードに絞り込み、できるだけ作らずに最小限にすることを目指す。
- システムは、業務プロセスを最小単位に分解して、その単位でテストし、実装する。
- それぞれの業務プロセスのプログラム・ステップ数は少ないので、バグは排除され高品質になり、しかも独立した業務プロセス単位にメンテナンスができ、変更への即応力も担保される。
- 可読性の高いコードを目指すことで、マニュアルなどのドキュメントがなくても機能が理解できるので、システムの属人化を排除できる。
XP(eXtream Programing)やスクラムなどによるアジャイル開発、マイクロ・サービス・アーキテクチャは、有効な方法論です。インフラやプラットフォームもまた、このスピードに同期させなくてはなりません。だから、サーバーレスやコンテナを駆使し、ソフトウェアの本番環境へのデプロイに際して、安定稼働を保証しながら、高頻度で行えるようにしなくてはなりません。クラウドの活用やDevOpsは、そのために必要となります。
「最小単位」に分解することで俊敏性と圧倒的なスピードを手に入れる
これら方法論に共通するのは「最小単位」に分解することです。例えば、アジャイル開発では業務プロセスを最小単位に分解し、コンテナに収め、マイクロサービスにします。これを開発と運用が一体化して、高速、高頻度で回し続ける仕組みがDevOpsです。このようにしておけば、直ちに変更や追加ができます。
様々な機能がひとつのプログラムに組み込まれている大きなシステム(モノリシック/巨大な一枚岩のシステム)では、ひとつの機能を改修するにも他の機能への影響を考慮しなればなりません。そのため、特定の機能のの改修でもモノリシックなプログラム全てをテストしなければならず、とうしても手間がかかります。
一方、機能をマイクロサービス単位で実装しておけば、変更に伴う影響はそのマイクロサービスに限定されますから、対応は迅速です。何よりも、モノリシックな作り方だとプログラム大規模であり「改修」して延命させなければなりませんが、マイクロサービスならプログラムは小さく、他のマイクロサービスとは独立しているので、廃棄して新しく作れば良く、管理も著しく簡素化できます。変化に俊敏に対処するには、極めて合理的な方法論です。技術的負債を使っての解消する手段としても有効です。
セキュリティについても同様で、ファイヤーウォールに連なる社内のLAN全体をセキュリティ対策の単位とするのではなく、エンドポイン単位で個別独立した対策を行うのが、ゼロトラスト・セキュリティです。このような仕組みを持つことで、特定のエンドポイントがセキュリティ上の問題を起こしても被害をそこに限定でき、会社全体として事業を継続できます。
これを実現するには、エンドポイント単位で、その挙動をリアルタイムで監視し、トランザクション単位で信頼性を確認できる仕組みが必要となります。これにより、エンドポイントやトランザクションで問題を検知すれば、これらをネットワークから切り離すことで、全体への影響を回避でき、事業の継続を担保できます。
セキュリティ上の脅威が高度・複雑化し、予測できない状況では、フィヤーウォールやVPNなどに頼るやり方は、被害を拡大させる懸念があります。従って、セキュリティ対策を「最小単位に分解する」ことで、仮に問題が生じても被害を極小化して、事業を継続させる必要があるわけです。ゼロトラストはその意味からも、いまや前提と言えるでしょう。
小さくせよ!高速に回せ!
それができるITへと作り変えていくことが、DXの前提です。当然のことですが、このような変化に対処できないSI事業者は、お客様から見放されることを覚悟しなければならないでしょう。
昨今のユーザー企業の「内製化」の拡がりは、この変化に対処できないSI事業者に支援を求めることができないので、「自分たちでやるしかない」との覚悟の表れなのかもしれません。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第46期(2024年5月15日[水]開講)
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場から、わずか1年半で、IT界隈の常識が一気に変わってしまいました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化です。いま社会は大きな転換点を迎えています。
システムの開発や運用、さらには様々なシスカテム案件が、「AI前提」となりつつあります。これに対処できるかどうかが、企業や個人を問わず、格差につながっていくことは、紛れもない現実です。ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われ、既存の延長線上で事業を継続することは、難しくなるでしょう。また、ユーザー企業の皆さんにとっては、内製化を加速させるチャンスが到来したとも言えるでしょう。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーの進化を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2024年5月15日(水)〜最終回7月24日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 詳細のご案内とお申し込みはこちら
新入社員のための「1日研修/1万円」
今年で8年目を迎える恒例の”新入社員のための「1日研修/1万円」”の募集を始めました。
社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える
ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。
そんな彼らに、いまのITの常識をわかりやすく、体系的に解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える
ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。
AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。