私が主宰するITソリューション塾への参加者一覧を、メールに平打ちしてお送り下さった方がいらっしゃいました。参加者は30名ほど、氏名の他に所属や役職、メールアドレなどが箇条書きに書かれていました。これをデータベースに登録しなくてはなりません。そのためには、まず表形式のデータに変換しなくてはなりません。項目毎にひとつひとつコピペで転写しなければならず、かなり手間のかかる作業になりそうでした。
さて、どうしたものかかと思ったのですが、いつも頼りにしているChatGPT(GPT-4)に頼んでみることにしました。
「項目毎に抜き出して一覧表にまとめてほしい」
そして、メールのテキストをコピペして実行させました。
Analyzing・・・
ChatGPTのCode Interpreterが動き出してPythonでプログラム・コードを書き出しました。
・・・Error
あえなく失敗です。送られてきた参加者一覧は、項目の順番こそ揃っていましたが桁数はバラバラで、これは簡単じゃないぞと思っていました。「コピペ」でやるしかないと諦めようとしたところ、再び勝手に「Analyzing」を再開。
「おおっと、これは」との期待とは裏腹に再び「Error」です。「やっぱりダメかぁ」、まあ仕方がないとExcelを開こうとしたら再び「Analyzing」です。すると今度は、表を書き出しました。なんと、3度目にして「やってほしいこと」のコードを生成してくれたのです。これには正直驚きました。
私は、プログラマーではありません。そんな私が、日本語でやって欲しいことを記述するだけで、Pythonのコードを生成し、期待通りの一覧表を作ってくれたのです。
私は、仕事柄、情報を検索して整理することや文章の下書きにChatGPTを使っています。これらは、「自分でできること」です。しかし、手間を時間が大幅に短縮できるので使っています。しかし、上記のようなPythonコードの生成やプレゼン資料に使うイラストを描かせることなど、「自分にはできないこと」もやってもらいます。これは、自分の能力を拡張、強化といえるでしょう。
「新しい視点を手に入れること」にも使っています。例えば、事業計画のゴールと課題を設定して、課題を解決する10のアイデアを出して欲しいと指示します。そのほとんどは、誰もが思いつきそうなものです。しかし、中には、「これは面白い切り口だなぁ」と思えるアイデアを出してくれることもあります。これをたたき台にアイディを洗練させたり、考察を深めたりもしています。また、目的と盛り込んで欲しい内容を指示して文章を書かせ、これを土台に自分のアイデアを膨らませる使い方もよくやります。
ChatGPTを使えば、「自分にできること」の生産性を向上させ、「自分にはできないこと」を補い拡張し、「新しい視点を手に入れること」でアウトプットの質の向上が図れます。
はじめはただの好奇心でした。しかし、使えば使うほど使い道が拡がり、使い方が洗練されていきました。もはや仕事の相棒として、手放せない存在です。
プロンプト:膨大な書類の作成が求められていました。そうだ!ChatGPTにやってもらおうと実行したところ、アッといまに膨大な書類を作成してくれて大喜びしている人物を描け。
先日、ある製造業の企業研修で、AIについて話をしたら、実際に見せて欲しいと言われたので、「お題を頂ければやりますよ」と申し上げたところ、次のようなご要望を頂きました。
「PLM(Product Lifecycle Management)ツールの導入をしたいという稟議書は書けますか?」
この類のパターン化できる作業は、ChatGPTの得意中の得意です。そこで、この会社の名前を入力し、部門、目的、担当者名、導入目的、導入したい製品名などを聞きながらプロンプトを作成し、稟議書の書式で出力するようにとプロンプトを書き上げました。簡単な箇条書きですから、2〜3分くらいの作業でした。そして、実行させると数十秒で立派な稟議書を書き出してくれました。
質問者は、「えっ」という顔をされ、直ぐ使いますと宣言、講義が終わる頃にはアカウントも取って使い始めていました。
私たちは、こんなにも優秀な相棒を月額3千円ほどのコストで雇うことができるようになったのです。
ChatGPTには申し訳ないのですが、他にも頼れる相棒が登場しました。GoogleのGeminiやAnthropicのClaude3もまたなかなかの働きぶりです。そんな競争が凄い勢いで繰り広げられています。
生成AIに限った話しではありません。ITは様々な分野に浸透し、できることも急速に増え続けています。そんな新しい手段に直ぐに興味を持ち使いこなせるようになる人とそうでない人との間では、仕事のパフォーマンス格差はどんどん拡がってしまうでしょう。これは個人だけではなく、企業もまた同じです。積極的に使いこなす企業とそうでない企業では、競争力の格差は致命的です。技術の発展が加速度を増し続けているいま、短期間のうちに、この格差は拡ってしまいます。
そんな時代に、「セキュリティ上の懸念があるから」、「会社のシステムからは使えないから」「仕事にはあまり必要がないから」と躊躇していては、あっという間に周回遅れです。これを「難しいから」、「面倒だから」とITを自分から遠ざけるための言い訳にしてはいないでしょうか。会社に頼らなくても自分のパソコンやスマホで簡単にできるはずです。そんなことを続けていると、「使えない人」になってしまいます。
プロンプト:ChatGPTを楽しそうに使いながら、自分の未来を夢見ている人物を描きなさい。
いつまでも会社が面倒見てくれるなんて、そんなのんきな時代ではありません。いつでも、どこに行っても通用する自分力を持たなければ、これからは生き残れません。そんな現実を真摯に受け止め、行動を起こすしかありません。ITリテラシーはそのための前提です。
そんなITリテラシーが世間では大騒ぎですが、「リテラシー」とは、本来「読み書きの能力」を意味する言葉です。しかし、それが転じて、「ある分野に関する知識や能力を活用する力」として広く使われるようになりました。
つまり、ITリテラシーとは、ITやデジタルを頭の中にある知識ではなく、実際の仕事の現場で「活用する能力」なのです。知識を使って行動し、結果から判断して改善し、また行動するということを当たり前にできる習慣を身につけることとも言えるでしょう。
かつては、ExcelやWord、電子メールを使えることが最低限のITリテラシーだったわけですが、生成AIもいまやITリテラシーとして取り込むべきだと思います。技術の進歩が早いので新しい機能やサービスもどんどんと登場しますから、ITリテラシーの範囲も流動的であり、その範囲も広がり続けています。それを当たり前だと受け止めて、ごく自然に使いこなしていける企業の文化や風土を作ることが、ITリテラシーを定着させると言うことなのだと思います。
私は、DXを「デジタル前提の社会に適応するために会社を新しく作り変えること」だと定義しています。ITリテラシーとはそんな変革を成し遂げるための前提となる従業員の思考や行動の様式です。
変わっていくこと、それが学ぶということ、知るということです。自分が変わっていなかったら、何も学んでいないと思えばいい。 〜 解剖学者・養老孟司 〜
知識を得るだけでは何も変わりません。そこに留まっている限りに於いては、リテラシーはないに等しいわけで、ましてや変革なんてできる話ではありません。
ITリテラシー研修が世間では盛んですが、単に知識を付与するだけではなく、ここで紹介した「稟議書作成」のような日常、直ぐに役に立つ実践も取り入れてはいかがでしょうか。知識の習得と身近な実践の往復を繰り返してこそ、真の意味でのリテラシー/活用能力が身につくように思います。
ITにできることが急速に増え続けているいまだからこそ、ITリテラシーはその重要性を増しています。DXという大上段を構えることが間違っているわけではありませんが、そのための土台となるITリテラシーにもっと目を向けるべきです。
DX=企業の風土や文化の変革であるとも言われますが、変革を実践するのは人間です。その人間にリテラシーがなければ、変革は進みません。リテラシーが育てば、放っておいても変革は進んでいきます。だから、DXは、「企業の風土や文化の変革」つまりリテラシーの育成の成果だと言えるでしょう。
注意すべきは、「リテラシー=知識」ではないと言うことです。上述のように「リテラシー=活用力」であると言うことです。私もこの点は意識して講義をしていますが、座学の講義に終わらせるのではなく、実践に紐付けたワークショップもあわせて行うよに心がけています。この点を間違えると、「ITリテラシー研修」はただのテクニカル・エンターテイメントに終わってしまいいます。
このようなことを続けていると、デジタル・ツールを導入することやデジタルで新規事業を立ち上げると言った見かけ倒しの「DXごっこ」に陥るリスクは高まるでしょう。この現実から脱却するためにも、本来の意味でのリテラシーを育てていくことを心がけるべきだと思います。
新入社員のための「1日研修/1万円」
今年で8年目を迎える恒例の”新入社員のための「1日研修/1万円」”の募集を始めました。
社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える
ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。
そんな彼らに、いまのITの常識をわかりやすく、体系的に解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える
ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。
AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。
新入社員以外のみなさんへ
内容は、新入社員向けですが、若手の皆さんにもお役に立つはずです。また、ベテランの方や他業界から転職された皆さんにとっては、ITトレンドのいまの常識を確認することやIT営業の基本を知る機会としても、お役に立てると思います。
人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。