AIの進化によって、人間の仕事が奪われることへの懸念が高まっています。しかし、これは仕方のないことで、テクノロジーの進化は、これまでも、人間の仕事を奪い続けてきました。むしろ、どんな仕事をAIに任せられるかというポジティブな視点で捉え直す必要があるでしょう。
「そんなことあり得ませんよ」という非常識が、常識を上書きしているのが、いま時代なのです。ところが、未だ過去の常識を前提に、仕事を進めようとしている人たちも沢山います。
かつての日本は、本土決戦に備えて竹槍を磨いていたら、雲の上から爆弾を落とされたみたいな話しで、常識が、どれほど刹那であるかに、私たちは目を向けなくてはなりません。
AIの進化は、そんな刹那の歯車を高速回転させています。この現実に向きあい、これに合わせて、先取りして、会社を作り変えていくことが、企業が生き残ること、いや、あなた自身がこの社会で生きていくための前提となるのでしょう。
DXの実践と生成AI
ChatGPTが登場し、生成AIへの感心が一気に高まりました。そんな、生成AIの詳細は、ここでは割愛しますが、次のような成果が期待できます。
- 業務の生産性が大幅に向上する
- 高度専門スキルを容易に使える
- イノベーションを加速する
具体的には次のようなことができるようになります。
業務の生産性が大幅に向上する
- 伝えたい要点を入力し、伝える相手の属性を指定すれば、それにふさわしい表現や内容でレポートや提案書を書いてくれる。
- 実現したい機能を伝えれば、プログラム・コードを生成してくれる。
- 広告動画のシナリオを入力し、絵コンテを出力させて、必要な訂正を加えれば、内容にふさわしいキャラクターを生みだし、動画を生成してくれる。
これまでは、このような作業は、人間にしかできないとされてきたわけですが、生成AIが、これを代替してくれます。もちろん、完全とは言えません。人間の確認や訂正を必要としますが、その精度は急速に向上しており、同様のことを人手だけでやることに比べれば、生産性が大幅に向上します。
これは、同じ業務時間で、これまで以上の仕事をこなせることでもあり、変化に俊敏に対処する能力を高めることになります。人間の労働生産性の向上にも寄与し、労働時間の短縮によるストレスの軽減や待遇の改善にも寄与します。
さらに、これまでであれば、時間的制約から、多様なやり方を試すことができなかった仕事も、同じ時間内で何度も試行錯誤ができるようになり、業務品質の向上や新しいことに取り組む上で成功確率を高めることにも貢献します。
高度専門スキルを容易に使える
Excelのマクロや関数を熟知して、使いこなしている人は、ほとんどいないでしょう。しかし、Excelに組み込まれた生成AIは、これらを熟知しています。そんなExcelに「こんな表を作って欲しい」と指示すれば、効率よく、洗練された表を作ってくれます。
プログラム開発に使われるツールであるGithubというサービスには、世界中のエンジニア達の作った膨大なプログラム・コードの実例があり、それらを解析することで導かれた「優れたプログラム・コードの特徴やパターン」が、生成AIによって見つけられています。これを使って、プログラムを書き出すと、ここはこうした方がいい、このように書いてはどうかとその場でアドバイスやよりよいコードのお手本を示してくれます。また、こんな機能を実現したいと伝えれば、仕様書の作成、テストコードの生成、テストと修正、本番システムへのリリースまでを一貫して実行してくれます。
もちろんこれらは、生産性の向上に寄与することは当然ですが、大変優れた専門家をいつも自分専任でそばにいてもらい、アドバイスを得ながら仕事をするようなもので、仕事の質の向上に役立ちます。
イノベーションを加速する
イノベーションの本質は、「これまでにない新しい組合せを見つけ、新たな価値を創出すること」です。生成AIは、その新しい組合せの選択肢をどんどんと生みだし、提示してくれます。
例えば、マーケティングの専門家A、機械工学の専門家B、業界に詳しい成績優秀な営業CをChatGPTに設定し、彼らと徹底してブレーンストーミングすることで、新たな組合せの選択肢を出し合い議論することができます。
新薬を創るために、膨大な化学物質の組合せの中から、目標とする薬効が期待できる選択肢を絞りこむために、AIはこれまでも貢献してきました。これに生成AIを組み合わせることで、対話的に選択肢を絞りこみ、シミュレーションを行うことで、この作業の効率を高めることも可能になるでしょう。
DXの実践は、変化に俊敏に対処する能力を獲得することであり、イノベーションを加速して競争力を高めることです。もちろん、生成AIだけでこれらができるわけではありません。生成AIのような新しい技術を当たり前に使いこなし、現場へ権限を大幅に委譲し、短期での試行錯誤許容できる企業の文化や風土が、前提になるとこは言うまでもありません
DXの実践とは、このようなデジタルと人間の新しい役割のあり方を創り出す取り組みでもあるのです。
SI事業者やITベンダーの役割
顧客にニーズがあるから、事業が成り立つわけですが、これまでは、システムを作ってもらうことにニーズがありました。しかし、クラウドの登場により、システムは、「作る」ことから「使う」ことへと前提を変えてしまいしました。AIについても同様のことが起きています。
これまで、AIを使うには、何をさせたいか(タスク)に合わせて、大量のデータを集め、莫大な計算量をこなし、モデル(答えを導くための雛形)を作っていました。これには、膨大なデータや計算量、時間(お金も)がかかり、高度な専門知識が必要で、AIを使える=作れる企業は、限られていました。生成AIは、この常識を変えようとしています。
資金力と技術力のある企業が「作る」を担い、多様なタスクにも対応できる汎用性の高いモデルを作っています。これは、様々なタスクをこなすための基盤となることから「基盤モデル」と呼ばれています。これに、適切な指示や命令を与えるだけで、様々なタスクをこなせるようになりました。この基盤モデルをコンテンツ生成に適用したのが、生成AIです。この生成AIをチャット・サービスとして仕立てたのが、ChatGPTやBardなどのチャットAIです。
タスクごとにAIを作らなくても良くなり、「作る」から「使う」へとAIの常識が変わりつつあります。いまは、指示や命令を出すための技術の巧拙が、結果を大きく左右しますが、アプリケーションに組み込まれ、さらには、曖昧な指示や命令でも、利用履歴や対話で最適な答えに導いてくれるAIエージェントも登場し、個人スキルに依存しない使い方が普及し始めています。
ユーザーが求めているのは、「所有する」ことや「作る」ことではなく、「使う」ことです。しかし、「使う」には、所有し、作る必要がありました。「コンピューティング」も「AI」も、所有することや作ることの需要が減るわけですから、ここでのニーズを前提としたこれまでのビジネスは、伸び代がありません。
顧客のニーズの伸び代は、ITやAIを使いこなすこなす知恵やノウハウです。ただ、使いこなすには、その前提として、「何のために」が必要で、それは、「課題解決のために」と言うことになります。
「課題解決」とは、基本的には、以下の5つの手順で行います。
- 課題の仮説を立てる
- 課題を検証し、真の課題をあぶり出す
- 課題の原因を特定する
- 解決策を洗い出し、解決策を決定する
- 解決策を実践する
- 課題解決の定着を図る
このステップの詳細については、ここでは割愛させていただきますが、少しだけ補足します。
「課題があるから解決したい」わけですから、何らかの課題があるという前提です。ただ、それが漠然としていたり、曖昧であったりすることも少なくありません。まずは、その課題を明確化することです。
「Issueから始めよ」という書籍を読まれた方も多いかも知れませんが、何を解決したいのかを明確にしなければ、それを解決する価値や意義が明確にできません。これが、課題解決の起点です。
例えば、「DXを実践しなければならない」は、課題にはなりません。「何のために」がないからです。例えば、「競合他社の追い上げに対抗できないから」や「社員の労働生産性が低く、利益が上がらないから」DXを実践しなければならないわけで、この「何のために」が曖昧なままでは、重要度が分かりません。従って、必要な人的、資金的投資の妥当性も判断できません。
もうひとつ重要なのが、「課題の原因」をあきらかにすることです。これはかなり難しい作業です。例えば、「デジタル化がすすまない」という課題があり、社長から、これを解決せよとの命が下されたとしましょう。原因を探ってゆくと、社長が、ITについての最新の常識を学ぶことに消極的で、部下の説明に「もっと分かりやすく説明しろ」と求め、この「ものすごく面倒なこと」が、「デジタル化がすすまない」真の原因であったとしても、社長に上申できるでしょうか。
あるいは、「デジタル化がすすまない」のは、社長が長年築いてきた業務ノウハウやプロセスが、時代遅れになっていることが原因で、社長自らが抵抗勢力になっている場合もあるでしょう。さらに突き詰めれば、デジタル化しなくても、これを改革するだけで、原価率もプロセスタイムも大幅に下がり、実は、デジタル化以前の話しだったとしたとき、それを面と向かって指摘できるでしょうか。
他にも、説明したいことは、いろいろとありますが、キリがありませんので、これくらいにしますが、このプロセスを完遂するのは、容易なことではありません。
SI事業者やITベンダーは、このプロセスに関与できなくてはなりません。もっと踏み込んで申し上げれば、このプロセスを主導あるいは伴走することです。そして、ここで、SI事業者やITベンダーであることの価値を活かせなくてはなりません。
解決策はひとつではありません。むしろ複数の解決策の選択肢が出てくるはずです。この解決策の選択肢の中で、どれを選ぶべきかをITの知見を活かして、提案できることです。
「このように仕事のやり方を作り変え、このIT技術やサービスを使えば、こうなるので、一番良い選択肢はこちらです!」
このように言い切れることです。
上記のステップに「4.5 IT前提の最適解を提案し、採用してもらう」を追加しなくてはなりません。ITの最新の常識とビジネスとの関係や役割を熟知していなければ、説得力はありません。そして、ここにこそ、ビジネスのチャンスがあるのです。
変わる営業の役割
先日、あるSI事業者の営業責任者から、「うちの営業がコンサルしてお客様からお金を頂くケースが生まれている」という話しを聞きました。詳しく聞けば、その営業はかなり優秀で、特殊なケースのようでした。しかし、彼のやっていることのノウハウをメソドロジーにして、営業のスキルとして、育成していくとの話しでした。
もはや、こうなると、彼らは営業なのか、コンサルなのかと言うことになります。しかし、そんな話は、過去の枠組みにすぎません。デジタル前提の社会になり、時代に即した人材や組織の再定義が、必要であると言えるでしょう。
これまで、DXとは、「デジタル前提の社会に適応するために、会社を作り変えること」と申し上げてきました。上記のような取り組みは、その一環でしょう。
「デジタル前提の社会に適応するために、営業や営業施策を作り変えること」
ITやデジタルを前提に、お客様の課題解決を主導し、伴走できてこそ、売上になるわけで、営業にこのような役割を求めるのは、自然な成り行きです。
デジタル前提が、AI前提となり、「作る」がなくなる時代となりつつあるいま、SI事業者やITベンダーのビジネスもまた、前提を置き換えて会社を作り直す必要があります。それこそが、自分たちのDXであり、その実践を通じて得たノウハウを顧客に提供する「DXビジネス」や「DX事業」を展開するという発想を持って欲しいと思います。
募集開始 次期・ITソリューション塾・第45期 を2024年2月14日[水]よりの開講いたします。ご参加をご検討頂ければ幸いです。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場から、わずか1年で、IT界隈の常識が一気に変わってしまいました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化です。いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われ、既存の延長線上で事業を継続することは、難しくなるでしょう。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーの進化を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。前期・第44期の講義のダイジェスト動画も掲載していますので、よろしければご覧下さい。
- 期間:2024年2月14日(水)〜最終回4月24日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質