デジタル・リテラシー/DX研修について語られることが増えています。では、どんなことを研修で教えればいいのか?という議論になりがちだですが、少し待って頂きたい。
そもそも、研修とは、受講者が行動変容のきっかけを提供することにあります。つまり、どのような「あるべき姿」を目指すのかを明確にすることから始めなくてはなりません。何を教えるかは、手段であって目的ではありません。目的は、「あるべき姿」の実現です。
デジタル・リテラシー/DX研修は、そんな自分たちの「あるべき姿」についての理解を深め、そこに至るスキルや方法、つまり手段を習得させることにあります。
ところが現実には、「あるべき姿」を目指すのかを定めないままに、AIやローコード・ツールなどのスキルや方法、つまり手段に終始していることが多いように見えます。
手段のための研修も実務に於いては役に立ちますし、こういうツールに慣れ親しむことで、デジタルについての感性が磨かれてゆくことには意味があります。ただ、それだけでは、DXという企業変革の取り組みにつながることはありません。
DXとは何かについては、諸説語られていまするが、DXについての歴史的系譜をたどれば、次のようになるでしょう。
「デジタル前提の社会に適応し、存続するために会社を作り変えること」
1990年代、インターネットが登場したことで、情報収集や情報発信、コミュニケーションや人々のつながりなどのカタチが大きく変わりました。企業は、この変化に適応し、広告宣伝や顧客との関係、販売やサービスの提供の仕方を大きく変えてきました。そうしなければ、事業の継続や生き残ることが難しくなったからです。多くの企業は、この変化に適応し、事業の仕組みを再定義し、作り変えてきたのです。
ただ、この社会の構造変化をうまく捉えたビッグテックやデジタル・ネイティブは、単に変化に適応するだけではなく、自らも変化を生みだすことに積極的に関わり、新たな競争のルールを生みだし、既存の産業を駆逐する勢いを強めています。
いまやデジタルの適用範囲は、かつてなく拡がっています。日常はスマートフォンに支配され、情報はAIが選別し、仕事もまたITを介して行われるのが常識となりました。そんなデジタル前提の世の中になったにもかかわらず、昭和でアナログな仕事のやり方をそのままに、手段だけをデジタルに置き換えたところで、得られる成果は限定的です。また、競争のルールが変わってしまい、競争に参加することさえできません。
そこで、デジタル前提の世の中に合わせて、事業や会社の仕組みを再定義し、作り変えることで、ビッグテックやデジタル・ネイティブと互角に戦い、自分たちの事業の継続や企業の存続を目指そうというのが、DXです。それは、デジタルを使エバで着るという話しではありません。それ以外やることの方が遥かに多いのです。
そんなDXに取り組むには、2つの人的要件を整えるべきでしょう。ひとつは、全社員がDXの本質や、それを支えるデジタルの常識について理解し、同じ方向を向くことです。何か始めようとしたとき、その必要性や意義をその都度、説得しなくても、直ぐに理解でき、一緒に取り組んでくれる環境を整えることです。そうなれば、変革は加速できます。
もうひとつは、そんなDXを推進するリーダーを育てることです。現実問題として、誰もがリーダーになれるわけではありません。だからこそ、リーダーを選抜し、彼らに実践スキルを習得させることが必要となるのです。
そんな彼らに求められるのは、クラウドが使えるとか、プログラムが書けるとか、システムが開発できるということではありません。ビジネスの課題を見出し、それを解決する手段をデザインし、その実践をリードし、現場の実践を伴走できる人材です。
全社員と変革リーダーを対象に、どのような研修を実施すべきかを以下にまとめてみました。
全社員を対象とした研修:
DXの本質やデジタル・テクノロジー全般に関わる知識とビジネスとの関係を学ぶ機会を提供することです。それは、個々のスキルとDXの実践を結びつけてゆく思考回路を作るためです。そんな研修の企画案が以下の通りです。
目的:
変革に前向きな社内世論を形成し実践のスピードを加速すること
- 変革への疑念や抵抗を払拭する
- 変革のベクトルを共有する
- 変革リーダーを見出す
狙い:
- DXの本質と事業環境の変化の背景について理解を深めること
- DXを支えるデジタルの基本とその最新動向を知ること
- デジタル・テクノロジーの発展が、自分たちの事業にどのような変化を強いるのかを考え、新たな気付きを得ること
内容:
〇月〇日(〇)9:00-12:00
第1回:デジタル・トランスフォーメーションの本質とこれからのビジネス戦略
DXとは「デジタルが前提の社会に適応するために会社を作り変えること」を意味する言葉です。しかし、これまで取り組んで来た「IT化」や「デジタル化」との違いや何をすべきか明確にイメージできない人たちも少なくありません。本講義では、そんなDXの本質を、ビジネスや社会との関係とともに学びます。また、これを支えるデジタルの意味やDXに取り組むとは何をすることなのかについても考えます。
〇月〇日(〇)09:00-11:00
第2回:クラウド・コンピューティングとサイバーセキュリティ
DXを支えるテクノロジーの1つが、クラウド・コンピューティング(クラウドとも呼ばれています)です。そんなクラウドは、未だセキュリティが心配だとか、できることは限られているなどと、誤った理解をしている人たちも少なくありません。本講義では、そんなクラウドの仕組みやビジネスにもたらす役割について、解説します。また、DXによりデジタル化の範囲が拡がれば、セキュリティはこれまでにも増して、事業課題/経営課題として、その重要性が高まります。そんなこれからのセキュリティについても理解を深めます。
〇月〇日(〇)09:00-11:00
第3回:IoTと5G
IoTもまた、DXを支えるテクノロジーの1つです。モノがネットにつながる、あるいはモノ同士が互いにつながることで、これまで解決できなかった社会やビジネスの課題が、解決されます。本講義では、IoTとは何かを解説し、ビジネスがどのように変わるかについて学びます。また、IoTを支える次世代の通信基盤である5Gについても解説します。
〇月〇日(〇)09:00-11:00
第4回:AIとデータサイエンス
「AIが人間を支配する世界」などというSFを楽しむのもいいのですが、AIは、もっと現実的に、そして日常的に私たちの社会や日常に浸透し、私たちのビジネスを大きく変えようとしています。また、昨今にわかに注目を集めている大規模言語モデル(LLM)や生成AIは、人間と機械の役割分担を変えてしまうでしょう。当然、ビジネスのあり方も大きく影響を受けます。本講義では、そんなAIの現実と可能性、その活用について学びます。また、AIを使ってデータを解釈し、ビジネスの価値に変えるためのデータサイエンスについても解説します。
〇月〇日(〇)09:00-11:00
第5回:システムの開発と注目すべきテクノロジー
社会の不確実性が常態化したいま、事業を継続し企業が存続するには、変化に俊敏に対処できる圧倒的なビジネス・スピードの獲得が不可避です。そんな時代のビジネスを支える情報システムにも圧倒的なスピードが必要です。本講義では、ビジネスに求められるスピードに対処する情報システムの開発や運用について概観します。また、ブロックチェーンとWeb3といった新しい潮流は、社会やビジネスの常識を大きく変えてしまうかもしれません。本講義では、開発や運用の常識がどう変わるのか、また、ブロックチェーンやWeb3がこれからのビジネスに与える影響についても解説します。
変革リーダーを対象とした研修:
変革を自ら実践する、あるいは、事業の現場の伴走者として、変革を支援できる人材です。ITについて詳しいから、プログラムが書けるから、事業や企業文化の変革を自ら実践、主導できるかといえば、それは難しいでしょう。彼らには、期待するのは、次のような人物像です。
デジタルを前提にビジネスを発想、企画でき、実現に向けてみずから実践するとともに、それに取り組もうという人たちに助言でき、伴走できる人。
そんな人材を育成するための研修の企画案が以下の通りです。
目的:
変革をリードできる人材を育て変革の実効性を高めること
- 全社的な変革を先導する
- 各事業部門の取り組みを伴走する
- 次の経営幹部を見出す
狙い:
- デジタル技術の全体像について、体系的かつ網羅的に把握し、デジタル技術に関わるキーワードが、抵抗感なく正しく使えるようになること。
- デジタル技術と自分たちの仕事の関係、あるいは、自分たちの仕事にデジタル技術をどのように活かせばいいのかを、自分たちで考え、議論できるようになること。
- 人にも指導できるレベルで、改革実践のノウハウを持つこと。
- 研修の過程で学んだ知識や実践スキルを使って、自分の事業プランを策定できるようになること。
内容:
デジタル技術の最新動向を俯瞰的・体系的に理解する。
本セクションは、デジタル技術の本質と、それが社会やビジネスに及ぼす変化について、理解することを目的とする。また、様々なITに関わるキーワードを体系的に把握することで、情報収集のためのインデックスを築くことも重要で、そのことにより、 ITやデジタル技術、あるいは、それらを前提とした様々な取り組みについての情報収集能力を高めることができる。
データから意味を見出し、洞察に結びつける実践手法を習得する。
本セクションは、データを、意図を持って取得/計測し、活用しやすい形で格納し、それを目利きができる能力を育成することを目的とする。そのために、データ収集から、データ活用までのプロセスを、具体例を挙げながら紹介し、活用の現場ではどのような業務や役割が必要となるのかを理解する。
複雑な課題や挑戦しがいのある問題を解決する実践手法を習得する。
本セクションは、自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とする。具体的には、Project Based Learning (PBL, 課題解決型学習)を用いる。学んだ知識や手法をもとに受講者自身の自発性、関心、能動性を引き出し、メンター(助言者)が受講者をサポートしつつアウトプットを出すことを本セクションのゴールとする。
研修で学んだことを実践に活かす。
上記セクション1〜3で学んだことを、実際の事業案件に適用し、実践的なノウハウやスキルを育成することを目的とする。ワークショップを3回実施し、アドバイスを受け、ディスカッションを重ねて、完成度を上げてゆく。
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上記以外に、AIやデータサイエンス、ローコード開発ツール、クラウドサービスなどの実務や役立つスキルを身につける研修も必要となるでしょう。最新の技術を使いこなせば、仕事の効率や質の向上を果たせるからです。
デジタル・リテラシー/DX研修をこのように捉えてみるのはいかがでしょうか。変革を起こし、これを実践するには、相応の時間がかかります。これを走り続けるためには、人材の「あるべき姿」をこのように捉え、研修をデザインし、継続的に取り組んでいくべきではないかと考えています。
【募集開始】新入社員のための「1日研修/1万円」・最新ITトレンドとソリューション営業
最新ITトレンド研修
社会人として必要なデジタル・リテラシーを手に入れる
ChatGPTなどの生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えようとしています。クラウドはもはや前提となり、ゼロトラスト・セキュリティやサーバーレスを避けることはできません。アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、DXとともに当たり前に語られるようになりました。
そんな、いまの常識を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くし、不安をいだいている新入社員も少なくないようです。
そんな彼らに、いまの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと、この研修を企画しました。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
新入社員以外のみなさんへ
新入社員以外の若手にも参加してもらいたいと思い、3年目以降の人たちの参加費も低額に抑えました。改めて、いまの自分とこれからを考える機会にして下さい。また、IT業界以外からIT業界へのキャリア転職された方にとってもいいと思います。
人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
「クラウドとかAIとかだって説明できないのに,メタバースだとかWeb3.0だとか,もう意味がわからない」
「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
そんなあなたの不安を解消するために,ITの「時流」と「本質」を1冊にまとめました! 「そもそもデジタル化,DXってどういう意味?」といった基礎の基礎からはじめ,「クラウド」「5G」などもはや知らないでは済まされないトピック,さらには「NFT」「Web3.0」といった最先端の話題までをしっかり解説。また改訂4版では,サイバー攻撃の猛威やリモートワークの拡大に伴い関心が高まる「セキュリティ」について,新たな章を設けわかりやすく解説しています。技術の背景や価値,そのつながりまで,コレ1冊で総づかみ!
【特典1】掲載の図版はすべてPowerPointデータでダウンロード,ロイヤリティフリーで利用できます。社内の企画書やお客様への提案書,研修教材などにご活用ください!
【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。