「将来を見通すことが難しい。計画的にものごとをすすめることは容易なことではない。ならば、変化に俊敏に対処できる能力、すなわち圧倒的なスピードを持つことが必要だ。そのためには、失敗を許容し、新しいことに果敢に取り組むことができる企業文化に変えていく必要がある。DXとは、そのために自分たちで会社を作り変える取り組み。デジタルはそのための手段であり、使うことが目的ではない。」

ある講演で、こんな話をしたところ、次のようなご質問を頂きました。

「我が社には、失敗を許容する文化がありません。組織も末端までしっかり管理され、細かいことまでチェックされます。デジタル化にも及び腰で、根性論的なところがあります。そんな会社が、DXに取り組むには、どうすればいいのでしょうか？」

このような質問を頂くのは、はじめてではありません。しかし、この質問は、あきらかに矛盾しています。DXとは、文化を作り変えることだと申し上げているのに、文化がないのでDXにとりくめないので、どうしましょうというわけです。

「何もしたくはありません。でも、いまのままではまずいので、何とかしたいのですが、どうすればいいのでしょうか？」

DXの議論が、こんな堂々巡りに陥っているとすれば、何も先へは進めません。

このような状況を正し、DXを本来の軌道を向けさせる役割を担っているのがDX推進組織のはずです。しかし、そんな現場の状況にはお構いなしに、各部門に、「DXの取り組み」を報告するように求め、これをとりまとめて、経営者に報告する役割に留まっているところもあるようです。

しかし、「DXとは何か」がはっきりしないままですから、「DXの取り組み」と言われても、報告しようがありません。事業部門としては、仕方なく、DXを「デジタルを使って何かすること」程度に解釈して、報告の義務を果たしているところもあるようです。

流石に、これではまずいだろうと、事業部門から「DXとは何か、何をすることなのか」についての見解を求められても、自分たちの解釈を示すことなく、他社の「DX事例」を調査して、これをまとめてレポートすることで、「DXとはこのようなことです」で、お茶を濁しているところもあります。後は、各部門の判断で、しかるべく解釈し、しかるべく実践してくださいということなのでしょう。

事業の変革、あるいは、経営の変革こそが、DXの神髄であるとすれば、変革にはほど遠い事態です。しかし、経営者もDXを「デジタルを使って何かすること」程度にしかとらえていないので、「我が社も頑張っているなぁ」と、納得なのかも知れません。

現場は、「何もしたくなく、でも何とかしなければならず、何をすればいいのか」と考え、DX推進組織は、「DXはみんなの合意ですすめましょう」と調整役に徹し、経営者は、リーダーシップを発揮しようとはせず、現場に丸投げする。このようなことにはなっているとすれば、かなり深刻な事態です。

時流に乗っていますと世間にアピールするために、「DX」という言葉を使っているのでしょうか。だから、DXに取り組んでいることを示すために、DXの目指す本質を置き去りに、「何をすれば」DXになるのかといったカタチを求めているのかもしれません。

もし、こんな閉塞感を感じているのなら、DXという言葉を一度忘れてみてはどうでしょう。「DXとは何か、何をすることか」といった枠を設けて、そこに当てはめようとすることを辞めてみてはどうでしょう。それよりも、もっと大切なことを考えるべきです。

デジタルが当たり前の社会になって、人々の思考や行動の様式は大きく変わりました。新しいテクノロジーの登場は、これまでの最善や最適の常識を覆し、よりよい、新しい選択肢を提供し、アップデートとし続けています。それにもかかわらず、アナログで昭和な業務の手順やお客様との関係、ビジネス・モデルや情報システムをそのままに、変革を怠っているとすれば、事業の継続や企業の存続が危うくなってしまいます。まずはこの現実を、客観的な事実として真摯に受け入れることです。時代遅れの自分たちの常識やタブーにも踏み込んで、何を辞めるべきかを明確にすることです。

時代に即した新しいことを始めたければ、辞めるべきことをまずは明確にすることです。その上で、この状況に対処するために「何をすべきか」を考え、実践することです。変革とは、このようなステップ、つまり、まずは「古き良き時代から引きずってきた”いま”を終わらせる」、その上で「いまの時代にふさわしいやり方に作り変える」という手順を踏むことが必要です。

「デジタルが当たり前の社会」ですから、「ふさわしいやり方」は、自ずとデジタル前提です。「デジタル前提」とは、デジタルを使うことだけではありません。デジタルが当たり前の世の中に最適化された仕事の手順や働き方、意思決定の仕方や業績評価基準など、デジタル以外のことについても、作り変えなくてはなりません。

このような取り組みを通じて、それが業績の改善や向上の貢献できれば、それを「DX」と呼べばいいだけのことです。

自分達のやっていることを、「DXかどうか」と思い悩むのではなく、事業を存続させ、成長させるために取り組んだことが成果をあげたとき、それは結果として、「DX」と呼べる取り組みとして、世間が評価するのだと思います。

自分たちの於かれている状況を冷静に捉え、デジタルが当たり前の社会に、いかなる「あるべき姿」を目指すのかを考える時、世間が語るDXの解釈や定義、あるいは、他社のDX事例は、参考に　はなると思います。しかし、そこに示された定義や解釈に翻弄され、自分たちの抱える本質的課題や変革が置き去りにされてしまっては、本末転倒です。

「DX」という立派な「仏」を作っても、「危機感を共有し、生き残るために会社を作り変える」という「魂」をいれなければ、「DX」という言葉は、社員を惑わすだけのプロパガンダです。

私は、「DX」という言葉を否定しているのではありません。ただ、それよりも何よりも、いまの自分たちの現実を冷静に受け入れは、辞めるべきことをはっきりさせて、自分たちのあるべき姿と、そこへの筋道を描くことが、まずは大切なのだと思います。

世の中の言うDXではなく、自分たちのDXをはっきりさせて、それに向かうことこそ、真の意味でのDXの実践であるということです。

【募集開始】新入社員のための「１日研修／1万円」・最新ITトレンドとソリューション営業

最新ITトレンド研修

社会人として必要なデジタル・リテラシーを手に入れる

ChatGPTなどの生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えようとしています。クラウドはもはや前提となり、ゼロトラスト・セキュリティやサーバーレスを避けることはできません。アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、DXとともに当たり前に語られるようになりました。

そんな、いまの常識を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くし、不安をいだいている新入社員も少なくないようです。

そんな彼らに、いまの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと、この研修を企画しました。

【前提知識は不要】

ITについての前提知識は不要です。ITベンダー／SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。

ソリューション営業研修

デジタルが前提の社会に対応できる営業の役割や仕事の進め方を学ぶ

コロナ禍をきっかけに、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えられる営業になる必要があります。

お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業になるための基本を学びます。

新入社員以外のみなさんへ

新入社員以外の若手にも参加してもらいたいと思い、3年目以降の人たちの参加費も低額に抑えました。改めて、いまの自分とこれからを考える機会にして下さい。また、IT業界以外からIT業界へのキャリア転職された方にとってもいいと思います。

人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。

目次

• 第1章　コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
• 第2章　最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
• 第3章　ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
• 第4章　DXを支えるITインフラストラクチャー
• 第5章　コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
• 第6章　デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
• 第7章　あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
• 第8章　複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
• 第9章　圧倒的なスピードが求められる開発と運用
• 第10章　いま注目しておきたいテクノロジー

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

【ご登録ください】8MATOのLINE公式アカウント作りました