DXの胡散臭さの背景
DXの胡散臭さが鼻につくようになりました。それは、多くの人がこの二文字を安易に使いすぎているからです。
DXがだめだとか、意味がないとか言っているのではなく、デジタル化と区別することなく、最新のデジタル・ツールを使うことをDXと同義で使っていることも多く、「DXなんて、単なるバズワードじゃないの」といった認識が広まったことが背景にあるのでしょう。
デジタル化も最新のデジタル・ツールを使うこともDXに取り組むための手段ではありますが、それがDXの目的でありません。
手段の目的化、いや、目的なき手段の導入がDXであるとすれば、それは胡散臭くなるのは当然です。そんな取り組みを「DXの実践」として正当化するために、後付けで、「DXとは何か」、「自分たちの取り組みはDXに該当するのか」といったことに思い悩み、言葉面をだけを知って都合良く解釈し、自己満足して、心の平安を得ている人たちも多いように思います。
最悪なのは、世間の流行りに乗じて、経営者や世間にいい顔をするために、デジタル化やデジタル・ツールの利用を恥じらうことなく、DXと豪語する人たちがいることです。ここまでくると、もはや胡散臭さは腐臭へと変わってしまいます。
このような状況を感じ取って、「DX」という言葉をあえて使わない人たちも増えているようです。しかし、それは、DXの本質を正しく咀嚼した上での行為なのか、それともDXの胡散臭さに嫌気が差しただけなのかによって、その後の結果は、大きく変わるでしょう。
「DX」という言葉を使っても使わなくても、デジタル・テクノロジーの進化は、留まることはありません。人々の行動様式や企業への期待は、変わります。企業が、この状況に適応できなれば、事業の成長も企業の存続もありません。そのために、ビジネス・モデルやビジネス・プロセス、働き方や雇用のあり方、組織や体制、意思決定の仕組みの変更を強いられています。言い換えれば、「デジタル前提の社会に適応するために会社を作り変えること」が、求められているのです。そのための変革が、「DX」です。
「DX」という言葉を使うにしろ、使わないにしろ、こういうビジネス環境の変化の本質を見据えて、変革に取り組むことは、避けることはできません。そのことが分かった上で、DXという言葉に囚われすぎないように、この言葉を避けるのなら、それは意味のあることです。しかし、「しょせんバズワードだから」と解釈して、この言葉を避けているとすれば、変革が進むことはありません。
目的なき手段の導入・変革なきDX
デジタルは、「手段」と「前提」という2つの顔を持っています。手段とは、変革を実現するための道具であり、生産性や利便性の向上、コストの削減や時間の短縮などの恩恵をもたらします。さらには、これまではできなかったビジネス・モデルを作ることができます。そんなデジタルが普及すると、ビジネスの仕組みや働き方、人々の期待は、これが前提になります。この「手段」と「前提」が、スパイラルに絡まりながら、社会やビジネス環境の様相が、変わり続けるわけです。
このような変化は、デジタルに限らず、様々なテクノロジーの発展においても同様です。しかし、デジタルは、他のテクノロジーに比べて影響範囲が広く、かつ急速な発展を遂げています。だからこそ、私たちは、この変化に特別な関心を持ち、迅速に対処することが求められているわけです。
このような変化の中で、「DX/デジタル変革」という言葉が登場し、多くの人たちが、これを「まさに!」と共感したからこそ、この言葉が、広く使われるようになったのでしょう。
折しも、コロナ禍によって、リモートワークが強いられるようになり、ワークフローのデジタル化やセキュリティ対策の見直しが必要になりました。また、お客様との関係構築の方法もいままで通りにはいかず、マーケティング方法や営業方法、ビジネス・モデルの再構築が求められるようになりました。DXという言葉は、この状況の中で、さらにもてはやされたわけです。
しかし、DXの本来の目的は、「変革」であったのに、一部では、「デジタルを使うこと」が、目的となってしまっています。それは、抽象的な「変革」よりも、具体的な「ツールの導入」のほうが、分かりやすいからでしよう。いつしか手段の目的化が常態化し、DXの目的が置き去りにそれてしまっているようにも見えます。
DXの本質を置き去りにしている経営者とDX推進組織の現実
この状況を正し、本来のDXの目的に軌道を向けさせるのが、経営者の役割であり、その責務を託されDX推進組織の仕事のはずです。しかし、DX推進組織は、そんな現場の取り組みを追認し、とりまとめて報告する役割に留まり、経営者も「頑張って取り組んでいるなぁ」と具体的な行為そのものを評価して、本来の目的の達成の度合いを評価しないという、なんともゆがんだDXの実践に陥っているところもあるようです。
「変革」とは、まずは時代遅れになったことを洗い出して、これらを辞めることから始めなくてはなりません。その上で、新しいことを始めることが、正しい順序です。しかし、「いまを辞めること」には、現場の抵抗が伴います。だからこそ、DX推進組織は、「リーダー・シップ」を発揮し、タブーや暗黙の了解にも踏み込んで、古き良き時代の栄光や常識を捨てさせる役割を担う必要があります。単なる「調整役」では、役割を果たせません。
経営者は、そんな取り組みを自ら支えなくてはならないはずですが、「DX推進組織」に「変革」の推進を丸投げして、彼らのやっていることを追認する、あるいは、自分たちのDXとは何かを現場に決めさせようとする。任せられた方も、そんな経営者の態度を見て、自分たちに都合のいいように解釈し、変革のリスクを負おうとはしない。こんな構図が、できあがっているように見えるのは、私がへそ曲がりだからでしょうか。
DX研修の2つの柱:「土台づくり」と「建物づくり」
「デジタルリテラシー教育」あるいは「DX人材の育成」もまた、こんな構図の上で取り組まれますから、「手段の実践力」に重点が置かれています。例えば、RPAやローコード開発ツール、AIツール、クラウド・サービスなど、道具の使い方を学ばせ、スキルを身につけさせる研修ばかりが、並びます。そういうツールを使って、何を目指すのか、何を変革するのか、なぜ、こういうスキルが必要なのかといった、目的を理解する研修は、ありません。当然、目的がはっきりしないわけですから、それを自分事として捉え、「変革」のために取り組みへと具体的に落とし込むこともありません。結果として、デジタル・ツールの適用範囲を拡がるかも知れませんが、変革は一向に進みません。
デジタル・ツールの適用範囲が拡がったことで、「DXが実践されている」とか、「DXが浸透している」と経営者やDX推進組織は、満足するかも知れませんが、変革は、いつまでたっても実現しないわけです。
もちろん、デジタル・ツールを使うことに意味がないとか、価値がないということではありません。しかし、これだけでは「変革」はできません。結局のところ、現状をそのままに効率や利便性を高めることには貢献できても、「デジタル前提の社会に適応するために会社を作り変える」といった「変革」には結びつきません。
デジタルリテラシー教育あるいはDX人材の育成は、目的と手段を明確に分けて、実施すべきです。具体的には、次の2つの軸で取り組むべきです。
目的の理解を浸透させるための研修:
- デジタル化の急速な発展や、これに伴う社会環境の変化を客観的、体系的に整理して、自分たちの於かれている状況を理解する。
- この状況に対処するために取り組むべき「変革」の本質を理解し、自分たちの現実と照らし合わせて、いまやっていることを問い直し、「辞めること」をはっきりさせる。
- ビジネス環境の変化に対処するために「新しく始めること」を考え、実践の筋道を考える。
何のために、何をしなければならないかを、自分事として捉えることが、この研修の目的です。危機感を醸成し、この状況を脱するための変革の戦略を描き、自分たちの「あるべき姿」を明確にする取り組みです。言わば、「変革」の土台を作ることです。具体的に、次のようなことをすればいいでしょう。
- 本質を理解する研修:デジタルとは何か、DXとは何か、自分たちは何をすべきかを理解する。
- テクノロジーとビジネスの関係を理解する研修:テクノロジーのトレンドを理解し、ビジネスへの影響や変革の進め方を理解する。
- 自分事としての具体的なイメージを描く研修:上記の2つを自分たちの現実と照らし合わせ、変革をすすめるための課題の明確化、戦略の立案、手段の具体化を考える。
手段を使いこなすスキルを身につける研修:
- 自分たちの状況を客観的に認識し、課題を捉えるためのスキルを習得する。
- 既存の常識に束縛されず、変革テーマを明確にするためのスキルを習得する。
- 有効なデジタル・ツールの使い方を習得する。
目的つまり、変革の土台を作れば、これを実践しなくてはなりません。つまり、土台の上に建物を建てるための知識やスキルを習得するのが、好む研修の目的です。具体的に、次のようなことをすればいいでしょう。
- 分析や評価手法を習得する研修:事実を客観的に捉えるための経営分析やデータサイエンスなどの基礎と手法を学び、ビジネス・モデル作成の実践スキルを習得する。
- テーマを創出する手法を習得する研修:デザイン思考などの課題の抽出、テーマ設定のための知識や手法について、実践スキルを習得する。
- 各種ツールの使用方法を学ぶ研修:クラウド・サービスやデジタル・ツールについての使い方について実践スキルを習得する。
「土台づくり」と「建物づくり」は一体です。しかし、現実には、手段のための「建物づくり」に重きが置かれた研修に偏りすぎているところもあります。建物は、目的である土台がなくては、直ぐに壊れてしまいます。そもそも建物が建ちません。それにもかかわらず、建物を建てるための手段にばかり時間やお金を掛けている企業があるようです。
そんな現実に冷静に目を向けてみてはどうでしょう。自分たちは、ちゃんと「土台づくり」にとりくんでいるだろうか、「建物づくり」のためのスキルの習得に偏ってはいないだろうかと。DX研修は、この2つの柱なくしてうまく機能しないでしょう。
【募集開始】新入社員のための「1日研修/1万円」・最新ITトレンドとソリューション営業
最新ITトレンド研修
社会人として必要なデジタル・リテラシーを手に入れる
ChatGPTなどの生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えようとしています。クラウドはもはや前提となり、ゼロトラスト・セキュリティやサーバーレスを避けることはできません。アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、DXとともに当たり前に語られるようになりました。
そんな、いまの常識を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くし、不安をいだいている新入社員も少なくないようです。
そんな彼らに、いまの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと、この研修を企画しました。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
ソリューション営業研修
デジタルが前提の社会に対応できる営業の役割や仕事の進め方を学ぶ
コロナ禍をきっかけに、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えられる営業になる必要があります。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業になるための基本を学びます。
新入社員以外のみなさんへ
新入社員以外の若手にも参加してもらいたいと思い、3年目以降の人たちの参加費も低額に抑えました。改めて、いまの自分とこれからを考える機会にして下さい。また、IT業界以外からIT業界へのキャリア転職された方にとってもいいと思います。
人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
「クラウドとかAIとかだって説明できないのに,メタバースだとかWeb3.0だとか,もう意味がわからない」
「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
そんなあなたの不安を解消するために,ITの「時流」と「本質」を1冊にまとめました! 「そもそもデジタル化,DXってどういう意味?」といった基礎の基礎からはじめ,「クラウド」「5G」などもはや知らないでは済まされないトピック,さらには「NFT」「Web3.0」といった最先端の話題までをしっかり解説。また改訂4版では,サイバー攻撃の猛威やリモートワークの拡大に伴い関心が高まる「セキュリティ」について,新たな章を設けわかりやすく解説しています。技術の背景や価値,そのつながりまで,コレ1冊で総づかみ!
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【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
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