ChatGPTに質問すると、流暢な表現で回答してくれる。「なるほどなぁ〜」と感心する。特に、自分にとって不得意な分野だったりすると、「なるほどなぁ〜」感は、相当なものだ。
しかし、「あれ、これ違うよね?」という回答も珍しくない。丁寧でわかりやすい説明ではあるが、堂々とウソをつく。しかし、理路整然としているので、真実であると思いこませる説得力がある。
それが分かってきたので、「あれ?」と思ったことは、直ぐにGoogleで調べている。そうすると、やはり間違っていることもあるし、私が間違っていることもある。この結果を踏まえて、「あなたの答えは間違っている」や「こういうことではないのかと」とChatGPTに質問すると、またそれらしい答えを返す。そんなことを繰り返しながら、自分の頭の中は、次第に納得できるカタチに整理されていく。
鵜呑みにせずに、疑問に思い、質疑を繰り返せば、確かな知識が手に入る。
これって、講義や講演でも同じことだ。講師の話をただ聞いているだけで質問をしないというのは、知識を確かなものにするせっかくの機会を失っている。
まともな講師なら講義や講演は仕事だから、理路整然と筋の通った話をする。もちろん、間違ったことを話せば、評判に関わる。だから、それなりに準備してくるだろうが、それでも疑問を持つことはできる。他にも解釈があるのではないか?こういう場合は、あてはまらないのではないか?そんな疑問を持ちながら話しを聞けば、自ずと質問のひとつやふたつは思いつく。そんな講師との対話を通じて、確かな知識を手に入れるやり方は、ChatGPTの使い方に通じるところがある。
ChatGPTのような、対話型のAIツールは、今後ますます充実してくるだろう。様々なソフトウエアやサービスにも組み込まれてもいくはずだ。つまり、AIと対話し、相談をしながら、仕事をすることが、これからの当たり前になる。専属の専門家や同僚に、アドバイスをもらい、あるいは相談しながら仕事をするのと同じだ。さらに、文書の下書きや情報の収集や整理のような知的力仕事は、AIに肩代わりしてもらうことができる。人間は、それらの事実を検証し、考察を深めることや、クリエイティブな業務に意識や時間を割くことができるだろう。
このような仕事のスタイルが当たり前になれば、これまでも増して、疑問を持って質問する能力は、欠かすことのできないものになる。言葉を換えれば、人間は、「問いを立てる能力」を、AIは、「問いに答える能力」をそれぞれに磨くという役割分担が、明確になるはずだ。
「問いを立てる能力」の大切さについては、AIが取り沙汰される以前から語られていたことだ。しかし、ChatGTPが登場し、AIの「問いに答える能力」が、相当なものになりつつあることを多くの人が知るようになった。いまはまだ、答えにウソも多く、課題も多い。しかし、これも時間の問題で、解消されていくはずだ。むしろ、人間側の「問いを立てる能力」方が課題であり、解決が難しいかも知れない。
例えば、講義や講演で質問を求めても、反応は“実”に乏しい。変な質問をして、まわりから顰蹙(ひんしゅく)を買うことを恐れているのかも知れない。あるいは、自分のレベルが低いことを人前にさらして恥をかきたくないのかもしれない。
まあ、そんな美意識もあるだろう。ならば、ChatGPTに質問すればいい。自分のことを公衆に晒すことなく、まわりの評価など気にならないから、気楽に質問できる。しかし、疑問や質問が思い浮かばないとすれば、それはかなり「ヤバい」と思うべきだ。AIに置き換えられる、いや、AIにこき使われることになるかもしれない。
対話型AIの限界は、データの範囲でしか答えを出せないことだ。しかも、サイバー空間のデータに多くを依存する。サイバー空間のデータには、フェイクや間違いが多い。バイアスのかかったデータもある。そんな品質保証のない玉石混交のデータを使って、対話型AIは、流暢な文章になるように言葉をつなげているに過ぎない。
もちろん、ChatGPTは、この課題への対処がなされている。それは、「人間との自然な対話を通じて学習を修正する」仕組みを組み込んでいることだ。
ChatGPTは、膨大な学習データをサイバー・データに依存している。これをつかって、いちおうの対話を成立させている。さらに、直前の対話内容を分析し、それに続く質問への回答が新たに作っている。さらに間違いを指摘されると、これを素直に認め謝罪し、ユーザーに情報を求める。さらに会話の文脈が想定外となると、話の前提が正しくないのではないかと異議を唱え、ユーザーの回答を促している。その意味では、サイバー空間のデータだけを頼りにしているわけではない。
しかし、基本となるデータは、サイバー空間に依存していることは事実で、この仕組みがあるからといって完全ではない。さらに、人間側の回答も正確とは言えないから、当然に限界がある。「流暢な対話でシラッとウソをつく」のは、このような理由からだ。もちろん、本人(ChatGPT)が、ウソをついている自覚はないだろう。
この仕組みを理解しておけば、分野が狭く、見解が統一されていている場合は、かなりいい仕事をしてくれる。さらに、データが充実していれば、回答の品質は高まる。その反対に、分野が曖昧で、いろいろな意見や解釈がある場合、あるいは、あやしい意見がまかり通っているテーマについては、流暢に変な回答をする。例えば、DXなどは、その典型だろう。
だからと言って、役に立たないわけではない。
質問の仕方次第だが、膨大な情報を分かりやすく整理してくれる。資料をまとめる上での下書きとしては、かなり役に立つ。特に、自分の詳しくない分野であれば、新しい気付きを与えてくれることも多い。
だからと言って、前述の通り品質の保証はない。では、どうすれば、品質を担保し使いこなすことができるのだろうか。例えば、次の3つを実践してはどうだろう。
原典あるいは一次情報に当たり確かめる
もちろん、二次情報やまわりの解釈や注釈も参考になる。ただ、原典あるいは一次情報がまずあって、二次情報は、それを補完し、理解を深めるための手段だ。当然、そこには間違った解釈やバイアスのかかった注釈もある。だからこそ、まずは原典に当たり、できるだけ沢山の関連情報と読み比べることで、何が正しいのかを、しっかりと浮かび上がらせる必要がある。
書籍を読む
私も何冊か書籍を出版しているが、公衆に晒す以上、徹底的に裏をとる。さらに編集者の厳しい指摘もある。そういう品質管理の洗礼を経て、書籍は作られている。それでも、間違える。そう考えれば、品質管理のメカニズムがないサイバー・データに品質を求めることには、自ずと限界がある。
もちろん書籍が「完全品質」などと言うつもりはない。それでも、サイバー・データだけにたよることに比べれば、品質を高めることには、役立につ。
実践して身体で考える
体験や経験だ。表現を変えれば、人間にしかない「身体性」である。人は、自分が感じたこと、他人と共感したこと、喜んだことや悲しんだこと、好きや嫌いを体験し、それが経験に昇華して、正しいことを直感で見抜く力が磨かれる。
AIの決定的な限界は、この身体性がないことだ。身体性があるからこそ、理屈を越えた「こういうことではないか?」という直感が働く。暗黙知とか、経験値とか、形式知化されない部分が、人間が持つ知識の多くを占めているからこそ、答えのない、あるいは、分からないことに対して、それなりの精度で、答えを導ける。データつまり形式知だけに頼るAIは、この点に於いて決定的な限界を持っている。
特に身体は、サイバー空間には存在しない。つまり、品質を担保する強力なツールがサイバー空間には存在しないことを意味する。ここにこそ、人間にしかできないことがある。
知識をネットにだけ頼らずに、沢山の本を読むこと。考えて妄想して答えを出すのではなく、思いついたら実践して、その結果から考えること。身体を通じた体験の密度を高めることだ。AIには、決してできないことにこそ、人間の存在意義がある。
ついでながら、対話型AIを含む生成AIのもうひとつの役割として、「創造性の発揮」を上げておこう。先に述べた「下書きや整理」と「新しい気付きの提供」に加え、「創造性の発揮」が、生成AIのお役立ちだ。
「創造性の発揮」とは、いままでにないことを生みだす能力だ。考えれば当然のことで、AIは、世間体を気にしない。常識やタブーもない。だから、そんなことに束縛されることのない”思い切った(?)”アウトプットを生みだすことができる。それは、いままでに見たこともない画像や動画、音楽や文章になり、驚きや感動を与えることもある。
但し、既存のデータの範囲内での創造的アウトプットだ。そもそも、創造性とは、過去の模倣を素材に新しい組合せを生みだすことでもある。それを越えてこそ、真の創造性が生みだされる。そのためにも、人間は、そこから刺激を受けて、あるいは着想を得て、これまでにはない、まったく新たらしいことを生みだすことができるのだろう。
企業や学校のなかには、AIを使うことに制限をかけようとの動きもあるようだが、馬鹿げたことだと思う。AIの進化は止まらない。制限すれば、それを使いこなす術を磨く機会を排除する。言葉を変えれば、「人間にしかできないことを」磨く機会を排除する。それよりも、失敗も覚悟で、どんどん使って、体験して、ノウハウを身体に染み込ませることだ。AIと共存する時代のリテラシーとは、そうやって身につけるべきではないか。
「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
“これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』”の中で、ケビン・ケリーが述べた言葉だ。彼の2016年の言葉は、いま現実になりつつある。私たちは、改めてこの問いの意味するところを受け止める必要があるだろう。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第43期(5/17開講)
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、ここ数ヶ月で、IT界隈の常識が一気に塗り替えられた気がします。スマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せているようです。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きく動こうとしています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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【募集開始】新入社員のための「1日研修/1万円」・最新ITトレンドとソリューション営業
最新ITトレンド研修
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ChatGPTなどの生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えようとしています。クラウドはもはや前提となり、ゼロトラスト・セキュリティやサーバーレスを避けることはできません。アジャイル開発やDevOps、マイクロ・サービスやコンテナは、DXとともに当たり前に語られるようになりました。
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コロナ禍をきっかけに、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えられる営業になる必要があります。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業になるための基本を学びます。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。