八ヶ岳南麓、山梨県北杜市大泉町に「神社の杜のワーキング・ブレイス 8MATO(やまと)」をオープンしました。標高1,000mの2,700坪(9000㎡)の森の中に、日本古来の建築工法を駆使したワーキングスペースを建て、広葉樹の森に佇むクランピング・サイトを整備しました。
長年、人の手が入らなかった傾斜地の森を手に入れ、落葉広葉樹である小楢や山桜をできるだけ残して、常緑針葉樹の赤松や唐松を伐採しました。森は、明るくサヤサヤになり、夏は緑陰を楽しみ、冬は降り注ぐ陽射しに暖をとり、自然のあるがままを楽しめる施設です。
かつてこの辺りも林業が盛んだったようです。戦後の復興と相まって全国的な造林活動が、政策的にすすめられました。この流れを受けて、この辺りでもお金になりやすい赤松や唐松、杉などの植林が行われていたようです。
しかし、外国産の安い材木が輸入されるようになり、林業産出額は、1980年の1兆2,000億円をピークに長期的に減少傾向で推移し、近年では2,000億円程度まで減少しているそうです。これに伴い、林業従事者も大幅に減りました。また、高齢化で働き手もいません。そのため、手入れされないままの鬱蒼の森が、至る所にあります。
一旦人間が手を入れた森は、本来の自然の植生を失ってしまいます。例えば、成長が早く一年中、青々とした葉を付けている赤松は、森の地面への陽射しを遮り、落葉広葉樹の生長を妨げます。そのため、植生のバランスが崩れてしまいます。
赤松は根が浅く斜面の土地を固める力は弱く、保水力も低いため、水害等での斜面崩壊の危険も高まります。また、常緑樹なので、一年中、陽射しを遮り、地面に陽が入りません。そんな赤松が、間引きもされずに密に育ってしまうと、みんなが一斉に陽射しを求めてどんどんと上に伸びようとして、ひょろひょろのマッチ棒のような森になってしまいます。当然、木材としての価値も下がってしまいます。
一方、落葉広葉樹の楢は地面に広く根を張り地面をしっかりと固め保水力も高めます。ただ、赤松や樅などの常緑樹によって陽射しが遮られると、発芽できず、仮に発芽しても日の光を求めて、ひょろひょろと上に伸びようとして、根も十分に張らずに、どっしりとした樹には育たちません。
自然に任せていれば、バランスもうまく保たれていたはずですが、一旦、人間の手が入ると、このバランスが崩れ、森が荒れ果てていきます。8MATOの森も、そんなこのあたりのどこにでもある森と同じでした。
そこで、地元の林業家にお願いして、できるだけ広葉樹を残し、針葉樹だけを伐採してもらうことにしました。あとで話しを聞けば大変な作業だったようです。木を選ぶ面倒もさることながら、広葉樹を傷つけないように、針葉樹を倒さなければなりません。普段の倍の手間がかかったと、苦笑いされていました。
そんなご苦労の甲斐あって、明るい広葉樹の森に生まれ変わりました。この森を子どもの頃から知っているという地元のご年配の方がここをご覧になり、こんなに明るい森だったのかと感激されていました。
ここの森は、敷地に隣接する神社の鎮守の杜(もり)でもあります。小さなお社の「八雲神社」があり、昔は夏にはお祭りが開かれ、市も立っていたのだそうです。しかし、過疎化と高齢化が進み、人口も減り子どもいなくなりました。そのためお社は手入れする人もいなくなりました。数年前の大風で倒れた赤松にお社が潰されてしまいましたが、建て替えても面倒を見る人がいないので、思案のあげくこじんまりとした小さな石のお社がおかれることになりました。それでも、神社を残したいとの地元の皆さんの強い想いがあったのだとおもいます。
そんな地元の人たちにとって大切にされてきた森にコンクリートを流したくはありませんでした。そこで、「石場建て」という工法で建てることにしました。「石場建て」とは、日本古来の伝統的な工法です。いまの建物には、コンクリートの基礎があり、建物の束や柱とコンクリートの土台を金具で固定するのが一般的です。しかし、「石場建て」は、石の上に建物が載っているだけで、建物と礎石とは固定されていません。コンクリートがない時代には、あたりまえの工法でした。
8MATOでは、そんな土台となる大きな自然石(束石あるいは礎石)を88個地面に並べています。自然石ですから、88個の全て形が違います。その形に合わせて束や柱の底をひとつひとつ削りぴったりと合わせて載せています。それで建物の水平垂直が出るわけですから、凄い職人技です。
昔ながらの社寺や古民家では、この「石場建て」があたりまえでした。そういう建物が、地震や風水害に耐え、何百年と残っています。なぜそうなるかは、未だ十分な科学的な解明はできていないようですが、日本の風土に合った工法であることだけは、確かなようです。
そんな土台の上に、この森で伐採した針葉樹である赤松や唐松を製材した材木を使い、建物を建てました。もちろん、伐採して直ぐの製材ですから十分には乾燥していません。そこで、材木の収縮を考えて、部位を選び、刻み、配置して、金具をほとんど使わずに組み木だけで建てています。
また、海藻から作った糊と石灰、麻の繊維を混ぜ合わせた漆喰(しっくい)が塗られた壁は、しっとりと心地よく、夏は断熱、冬は蓄熱して、建物の快適さを演出してくれています。
また、建物と一体化した広々としたオープンデッキは、傾斜地に建てられたこともあって、森の中空に浮かんでいるような感覚を味わうことができます。
そんな神社の杜との一体感を味わえる空間で、仕事や学び、対話を楽しめる施設が、8MATOです。
「ワーキングスペース」と銘打っていますから、仕事のための設備も充実させています。まず、一番に考えたのはネット環境です。建物だけではなく、2,700坪の敷地のどこでも高速インターネット(WiFI6、100〜300Mbpsのアップダウン・スピード)が利用できるようにしています。屋内外5ヶ所にアンテナを設置し、移動してもシームレスにつながるようにしています。森の中でここまでできている施設は、先ずないのではと自負しています。
また、どこでも使える大容量のバッテリー&電源ユニット(Omni Charge)、プリンターやサブディスプレイ、ホワイトボードや文房具類も用意しています。
2時間1,500円・終日3,000円(+税)の施設使用料をご負担頂ければ、コーヒーやお茶、お茶菓子を自由に楽しみながら、これらを追加負担無しに使って頂くことができます。
いまテレワークブースも制作中です。まわりに気兼ねせずにオンライン・ミーティングしたいとのご要望もあり、いまこの建物を建てた職人さんに作ってもらっています。冬は暖かく夏は涼しく、過ごせるようにと、いろいろと知恵を絞ってもらいました。照明やマイク、カメラ、大型サブディスプレイを設置しています。まもなく利用可能になります。
この辺りは、コロナ禍以降、移住・定住者が増えています。都心からも2時間程度の場所で、古くから別荘地として人気の場所で、日照時間・晴天率も全国屈指です。また、環境省が選定した日本百名水「八ヶ岳南麓湧水群」の中にあり、美味しい水も頂くことができます。
リモートが特別のことでなくなったいま、都会を離れてこちらに住み、月に何度か都心に出社するといった人たちも増えてきました。8MATOを利用される人の中には、そんな人たちも少なくありません。都会から出てきて、ワーケーションを楽しまれる方もいますが、地元の方の利用も少なからずあるのは、嬉しい誤算でした。
リモートが当たり前になることで、人と会って話すことや、あえて集まることがプレミアムな時代になりました。だからこそ、そのための場や機会を提供し、ここでの体験を最高なものにしてもらいたいと、こだわっています。また、私の本業でもある人材育成のプログラムもここで開催し、地元ならでわの自然体験を通じたチームビルディングを交えて、IT人材育成のプログラムも実施してゆくつもりです。
また、2,700坪の森と施設を貸し切りにして、アジャイル開発チームのキックオフや開発合宿、デザイン思考のワークショップなどにも使ってもらうつもりです。既に、そんなお問い合わせも増えています。
先日からランチを始めました。スタッフには、元居酒屋の女将さんや料理研究家がいて、リーズナブルで、美味しい料理を用意しています。
八ヶ岳南麓で採れる野菜やお米、添加物のない調味料や食材を使って、身体にも優しいランチを開発しました。こちらも、今後メニューを増やしてゆこうと思います。
地元の商工会や青年会の皆さんとも交流も始めています。地元で採れた農産物を販売するマルシェ、子ども達にプログラミングを教える教室、その他、地元の人たちとの交流イベントを開催してゆくつもりです。映画の上映会をやりたい、お茶会を開きたい、なかには、結婚式を挙げたいという人たちもいらっしゃいました。どうぞ、自由に使って、この場所を活かして欲しいですね。
さらに、自己研鑽と学びの機会を提供する「8MATOコミュニティ」も立ち上げてゆくつもりです。仕事柄、様々な分野で活躍される皆さんとのつながりも多く、自らも発信し、自らも学ぶ、そんな相互研鑽の仕組みも立ち上げてゆくつもりです。メンバーの皆さんには、8MATOの施設を自分の施設として自由に使い、社会貢献の機会を作ってもらいたいとも思っています。
やりたいことが一杯ですが、本業である人材育成や事業開発の仕事に平日は、忙殺されています。去年だけでも、研修や講演で140回ほどこなしています。そんな中で、8MATOの仕事ができるのは、土日しかありません。幸いにも、施設の運営は、地元のスタッフに任せることができるようになり、少し肩の荷が下りましたが、それでもやることは山積みです。ただ、どちらの仕事も楽しい時間ですから、苦にはなりません。
このようなささやかな取り組みで、世の中が大きく変わるわけではありませんが、少しでも世の中をよくできることができるのではないかと信じています。明るい広葉樹の森の中で、自然を楽しみながら仕事や学びができれば、元気になれるし、新たの発想も生まれます。私が世の中を変えるのではなく、そういう志の高い人たちに、機会や場所を提供でき、そんな人たちが世の中を良くしてくれれば、それもまた、社会貢献になるのではないかと思っています。
私は、8MATOから徒歩で行けるところに居を構えて7年になります。来るたびに「血液が入れ替わる」ような体験をしています。森の力だと思っています。空気もドライで、梅雨のジメジメした季節でも爽やかさを感じるくらいで、東京に戻ってもまたすぐこちらに戻りたくなります。そんな場所で働き学べる場所ができればどんなに素敵なことだろう。そんな、思いつきが8MATOを作るきっかけでした。
ところで、森の中は静かだと誤解されている方は、いらっしゃいませんか。葉っぱや木々がこすれる音、鳥の声は賑やかで、決して静かではありません。しかし、都会とは違い、決まった機械的パターンを繰り返すことではなく、季節によっても音が変わり、予測不可能です。そんな森の騒々しさについ聞き入ってしまい、時間を忘れてボーッとしていることがあります。
集中して仕事をするのであれば、機械的音に包まれた都会の雑踏の中でもできますが、ここではむしろ、心地よい自然の騒音に包まれて、その騒がしさの中でボーッとしてしまいます。だから、集中するには向かないかも知れません。しかし、ボーッとの後には、思わぬアイデアが生まれることも多く、クリエィティブな仕事には、向いているかもしれません。
そのための場所や時間、機会を提供することで、世のため人のために、お役に立てればと思っています。
もう、還暦を過ぎ、そろそろこれまでのお返しをしなければならない歳になりました。そんな想いも相まって作った施設です。どうぞ、皆さんの自由な発想で、8MATOをいろいろと使い倒して下さい。気楽にお問い合わせ下さい。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。