Web3本が炎上した。読んでみると、大筋間違ってはいないように思う。ただ、これまでの常識を否定する新しい概念を、前提知識のない人たちにどう伝えるかの難しさから、結果として、無理な表現を使ってしまったようにも見える。それが、「トンデモ」とか「間違っている」となり、こんなことになってしまったのかも知れない。
そもそも、Web3についての明確な社会的コンセンサスがまだ定まっていない。当然、万人が納得できる説明はできない。そんな状況なのだから、「トンデモ」とか「間違っている」と指摘する人も、では、何が正解なのかと問われると、説明に窮する人もいるのではないだろうか。
預金や送金、契約など、私たちが当たり前に考えている取引は、信頼できる特定の第三者(銀行や証券会社、政府機関など)が台帳に記録することで、その正当性を保証している。企業や組合などの組織は、偉い人が頂点にいて階層構造で運営するのが当たり前だと信じている。
信頼できる特定の第三者や階層型組織を必要としないWeb3の概念は、そんな私たちの常識と真っ向から対立する。容易に受け入れがたいし、既知に照らし合わせて理解することが難しい。そんな混乱が、Web3本の炎上の背景にあるのかも知れない。
DXも同様だ。「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」という言葉が、さかんに聞かれるようになったが、そんな時代になった背景には、情報通信技術の発達がある。あらゆる情報が、瞬時にやり取りされ、私たちの捉える社会の複雑性が増したためだ。
1990年代の初頭に登場したインターネットは、伝達される情報のスピードを加速し、そのボリュームを爆発的に増やした。さらに、それら情報を処理するためのコンピューター・システムと融合して、新しい社会や経済の基盤であるサイバー・スペースを生みだした。サイバー・スペースは、現実世界と一体になって、社会や経済の変化を加速し、社会の複雑性を高めている。
そんな時代には、何が起こるか分からないし、起こってからの変化も早く、どう対処すればいいかを判断するにも、判断基準や関連する情報が膨大にあり、しかもそれらが高速に入れ替わり錯綜し、容易なことではない。コロナ禍やウクライナ戦争によって、私たちは、この現実を身をもって体験している。
そんな時代に、3年後の未来を正確に予測することなどできるはずがない。企業は、3年後の達成目標を定め中期事業計画を立て、PDCAを確実に回していくことを当然のこととしている。しかし、このようなやり方が通用する時代ではない。時々刻々の変化を直ちに捉え、現時点での最適を選択し、変化に合わせて改善を高速に繰り返すしかない。このようなスピードを手に入れることなくして、いまの時代を生き抜くことは、難しい。DXとは、そのための能力を手に入れるためのビジネス変革だ。
金科玉条の達成目標にこだわり、それに拘束されることはむしろリスクだ。PDCAを四半期や半期ごとにアップデートするなんて、あまりにも悠長だ。中長期の達成目標は、絶対ではなく、仮説と捉えるべきだろう。常にこれを見直し、社会や顧客の変化に応じてダイナミックに変えてゆくべきものとなった。PDCAを回すなら、最長でも週次だろう。それを毎日の振り返りでアップデートする。そんなスピード感でビジネスを回せるように仕事の仕方や経営のあり方を作り変えることが、DXという企業の文化や風土の変革だ。これは、既存の常識を否定する。だから、DXは難しい。
ITもまたこれを支えるものでなくてはならない。ERPは、そのためのデータドリブン&リアルタイム経営を実現する基盤となる。現場の業務を効率化するための手段に留まるものではない。
私たちは、子どもの頃から、国語、算数、理科、社会というフレームワークで、世界を整理することを求められてきた。それが正しい世界の見方だと信じてきた。このフレームワークの中で成績を上げることが、将来の幸せを保証すると言い聞かされてきた。これを疑うことは、非常識であり、変わり者として弾かれる。結果として、子どもたちは、画一化されたフレームワークで考えることを学び、常識を疑うことができない均質な労働力として、社会に送り出されてきた。高度経済成長の時代であれば、均一な労働力を効率よく束ねることが、求められた。しかし、多様な価値観や個性が、価値の源泉となったいま、過去の常識で育てられてきた人たちに、常識を逸脱して変革せよ、イノベーションを生みだせと求めても、無理な話であろう。
「リスキリング(reskilling)」という言葉を耳にする機会が増えた。「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されている(第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会)。
デジタル技術の発展や働き方の多様化により、これまで人手に頼っていた仕事がなくなり、新しく生まれた仕事が増えている。これに対処し、雇用を維持するために、新たなスキル習得のための再教育を受ける必要があるからだ。また、デジタル・リテラシーは、「読み書き」のリテラシーと同様のレベルで求められるようになった。
しかし、その前提として、「アンラーニング」も忘れてはいけない。「アンラーニング(unlearning)」とは、いままでの価値観や知識を見直しながら取捨選択し、新しいものを取り込むことだ。既存の知識の中で、不要なもの、アップデートすべき箇所を意識的に捨て去ることだ。「ラーニング」とは従来の知識に、さらに新たな知識を追加することであり、この対比で考えれば分かりやすいだろう。
「VUCAの時代」になって、社会や経済が急激なスピードで変化し続けている。将来を予測することは難しい。そんな時代に、いつまでも既存の知識に頼っていては、変化に太刀打ちできない。価値観や行動様式もそれに合わせて変えていかなくてはならい。
そのためにも「リスキリング」は欠かせないが、既存の常識が足かせになって、それを受け入れることができない。そのためにも「アンラーニング」とセットで取り組む必要があるだろう。
私たちの常識が根底が揺らいでいる。まずは、この現実を受け入れるべきだろう。先週のブログで紹介した「アジャイル開発」も、前提となる常識、すなわち、開発者の価値観や行動様式、開発の目的も従来のシステム開発の常識や価値観とは、まるで違う。
その善し悪しを云々しても意味がない。仏教や禅の思想のごとく、あるいは、デザイン思考やエスノグラフィーの方法論のように、まずは、「あるがままを受け入れる」ことから始める必要があるだろう。
Web3もDXも、その根底にある常識は、既存の常識と大きく逸脱している。そのことをまずは素直に受け入れることだ。実装や実践のための技術や方法論をいくら学んでも、この前提を持たなければ、それを活かすことはできない。私たちは、いま、そんな時代に生きている。
次期・ITソリューション塾・第41期(2022年10月5日 開講)の募集を始めました。
DX疲れにうんざりしている。Web3の胡散臭さが鼻につく。
このような方も多いかも知れません。では、DXとはこれまでのデジタル化と何が違うのかと問われて、それを説明できるでしょうか。なぜいまDXが叫ばれているのでしょうか。
Web3の金融サービス(DeFi)で取引される金額はおよそ10兆円、国家が通貨として発行していないデジタル通貨は500兆円にも達し、日本のGDPと同じくらいの規模にまで膨らんでいることをご存知でしょうか。
言葉の背景や本質、ビジネスとの関係を理解しないままに、言葉だけで議論しようとするから、うんざりしたり、胡散臭く感じたりするのではないでしょうか。
これに対処するには、単に知識をアップデートするだけでは困難です。ITにかかわる社会の動き、あるいは考え方、それらとテクノロジーの関係を繋げて理解しなくてはなりません。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITとビジネスの関係やテクノロジーの本質をわかりやすく解説し、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけを提供します。
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【今年度最終回】9月7日・新入社員のための「1日研修/一万円」
今年度最終回・9月7日(水)募集中
社会人として必要なデジタル・リテラシーを学ぶ
ビジネスの現場では、当たり前に、デジタルやDXといった言葉が、飛び交っています。クラウドやAIなどは、ビジネスの前提として、使われるようになりました。アジャイル開発やDevOps、ゼロトラストや5Gといった言葉も、語られる機会が増えました。
そんな、当たり前を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くして、不安をいだいている新入社員も少なくないと聞いています。
そんな彼らに、いまのITやデジタルの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうというものです。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。