DXとは、何をすることなのか
いまだ、そんな議論をしている企業も多いのではないでしょうか。たぶん、その背景にあるのは、既存の事業や組織のしがらみであろうと思います。
DXの本質は、「変化に俊敏に対応できる企業に変わること」だと、私は考えています。VUCAの時代になり、将来が予測できない状況に置かれ、正確に未来を予測することなどできません。だから、「変化を直ちに捉え、現時点での最適を選択し、改善を高速に回し続ける」ことができる圧倒的なスピードを手に入れ、変わり続けることができる企業へと変革しなければなりません。
これが当たり前にできている企業があります。それは、GAFAMなどのデジタル・ネイティブな企業たちです。彼らはビジネスの最前線から、リアルタイムに膨大なデータを収集し、ユーザーのニーズの変化に合わせて、あるいは、ユーザーひとり一人の嗜好に合わせ、提供する商品やビジネス・プロセスをダイナミックに変化させています。また、データから市場の変化を読み取り、これに合わせて、あるいは時代の変化を先取りして、戦略を変え続けています。彼らにとって新規事業やビジネス・プロセスの改善は、日常の業務であって、何も特別なことではありません。
そんな彼らの圧倒的スピードと互角に競争できなければ、顧客から見放され、市場から退場させられます。
Amazon Effectという言葉ご存知の方も多いと思いますが、Amazonは、圧倒的なスピードで戦略をアップデートし続け、小売業のみならず、金融や保険、物流やエンターテイメントなどの様々な業界に大きな影響力を行使して、市場における競争のルールを書き換えてしまいました。IT業界にクラウドを持ち込んだのもAmazonであることは、周知のことですが、IT業界もまた、Amazonによって競争のルールを書き換えられてしまった業界のひとつです。
Amazonだけではなく、デジタル・ネイティブ企業は、その圧倒的なスピードで、様々な業界で競争のルールを書き換え続けているわけです。そんな彼らに対抗できる圧倒的なスピードを持つ企業に変わることが、DXの目的です。そうしなければ、生き残れないからです。
デジタルは、そのための前提であり、手段です。このような基本的、本質的なことが、理解されないままに、「何をすればいいのか」と議論しているのが、日本企業の現実なのかも知れません。
「我が社もDXに取り組む!」
そんなトップダウンの号令に、さて何をすればいいのだろうかと現場は頭を抱えてしまうのは、上記のようなDXの本質を経営者と現場が、共有できていないことが、根本的な問題ではないかと思います。
しかし、サラリーマンである以上、トップの命令には従わなくてはなりません。そこで、「IoTを活かした新規事業」や「AIを使った業務の効率化」など、「デジタルを使っていますよ」とカタチばかりのパフォーマンスで、「DXやってます!」とアピールするわけです。
もっと残念なのは、「こんなクラウドサービスを使い始めました」や「リモートワークのためにこんなツールを導入しました」といったサービスや製品を使うことで「DXの実践」を喧伝する人たちもいます。
経営者も現場もDXについてのコンセンサスはありませんから、それは違うとは言えません。だから、なし崩し的にDXに取り組んでいることになってしまうのです。もし、そんなことになっているとしたら、ますます時代の趨勢から取り残されて、事業の継続も企業の存続も難しくなってしまうでしょう。
また、仮にDXの本質を正しく理解していたとしても、圧倒的なスピードを手に入れるには、事業部門単独ではできません。意志決定のプロセスや業績評価基準、予算や計画の立て方など、会社全体のビジネス・プロセス、あるいは企業の文化や風土を見直さなくてはなりません。部門最適ではなく全体最適を目指さなくてはなりません。そのためには、デジタル前提の社会に適応すべく、既存事業のあり方を問い、再定義しなければなりません。これは、容易なことではできません。
しかし、「DXの実践」が、トップダウンで下りてきた以上、短期間に何らかのカタチを示さなくてはなりません。しかし、組織横断的であり、企業の文化や風土を見直し、既存事業の再定義となると、容易なことではありませんから、結局のところ、”DXぽい”サービスやツールを導入することで、「DXやってます」をアピールするといった、「DXごっこ」で終わっているのではないでしょうか。
デジタル・ネイティブ企業の強みは、既存事業という概念がそもそもないことかもしれません。デジタルを前提に、あるいはデジタルを駆使して、変わり続けることが当たり前であり、「既存事業を変革する」必要などありません。つまり、彼らには、DXつまり「ビジネスを変革する」必要がないわけですから、こんな大騒ぎは必要ないのです。
一方、多くの企業は、既存事業がありますから、これを変革することは、大変なことです。だからこそ、DXは、経営戦略、事業戦略として、覚悟を決めて取り組まなければならない一大事業となるのです。
そんな自覚がないままに、あるいは、会社全体としてのコンセンサスがないままに、カタチばかりのDXの実践に取り組んでいては、ますます彼らに水をあけられ、彼らにとって都合のいい競争ルールに巻き込まれてしまいます。
この現実に対して、ITベンダーはとても無力だと思います。それは、お客様が、このようなことを理解していないわけですから、当然、仕事も従来の延長に留まってしまいます。いくら、本来の意味でのDXを声高に叫んでも、それがビジネスになることはありません。むしろ、お客様の「DXごっこ」に載ってしまえば、新しい製品やサービスを買ってもらうチャンスになり、業績の向上に貢献します。あまり、ビジネスの変革など、手離れの悪い話しに関わらない方がいいように思います。
たぶん、真っ当な、つまり、DXごっこではなく、「変化に俊敏に対応できる企業に変わること」を見据えてDXに取り組んでいる企業は、システム内製を進めることになるでしょう。「既存の事業をデジタル前提に再定義して圧倒的なスピードを手に入れる」ことは、事業戦略そのものですから、外注などできるはずはありません。これは、受託請負ビジネスにとっては勝ち目のない相手です。もし、そういう企業を顧客にしたいのであれば、次の2つのシナリオがありそうです。
1つは、既存システムのアウトソーシング、あるいは、自動化やクラウド化の支援です。既存の業務はなくなることはありませんが、この領域でのコスト削減や業務負担の軽減は、これまでにも増して求められるようになりますから、その受け皿として、十分な能力を持つことでしょう。長期的な伸び代は少ないとは思いますが、既存のスキルやノウハウを活かして、確実に収益を確保できる事業にすることができるはずです。
もうひとつは、内製化支援です。お客様がシステムを内製するにしても、技術力を持った人材は不足しています。特に、ITアーキテクチャーやコンピューター・サイエンスなどに関わる新しい常識は、圧倒的に足りないはずです。例えば、次のようなことです。
- データベースやトランザクション、ネットワークなどを設計する知識やスキル
- アジャイル開発やDevOpsなどの開発や運用に関わる知識やスキル
- ITサービスやツールなどを目利きし実践の現場で使えるようにするスキル など
そこで、お客様主導の内製チームの一員となって、エンジニアリングの指導的立場あるいは教師として、お客様にスキルをトランスファーすることができれば、これは確実にビジネスの機会になるでしょう。
この2つは、システムの開発や運用を必要としているお客様を相手にしたビジネスですが、もうひとつ別のシナリオが考えられます。それは、自らがデジタル・ネイティブ企業に変わり、市場が求めるサービスを提供することです。
これまでのお客様とベンダーの関係というドグマに縛られたビジネスから解放され、自分たちの持てるITスキルを存分に活かすことができるはずです。もちろん、そのスキルがあればと言うことですが。
いずれにしても、「お客様のDXに貢献します」や「DXのパートナーになります」といった化粧まわしを一度外してみてはどうでしょう。改めてDXの本質を問い直すことです。大切なことは、「デジタル・ネイティブな企業と対等に競争できる圧倒的なスピードを持った企業に変わること」です。それは、デジタルを使うことではありません。そんな本質を棚上げして、「DXとは、何をすることなのか」を議論しても、真っ当な戦略や施策は描けないでしょう。
ITベンダー/SI事業者のDXとは、このような現実を受け止めて、自分たちの既存事業を再定義することではないでしょうか。
【募集開始】新入社員のための「1日研修/一万円」
社会人として必要なデジタル・リテラシーを学ぶ
ビジネスの現場では、当たり前に、デジタルやDXといった言葉が、飛び交っています。クラウドやAIなどは、ビジネスの前提として、使われるようになりました。アジャイル開発やDevOps、ゼロトラストや5Gといった言葉も、語られる機会が増えました。
そんな、当たり前を知らないままに、現場に放り出され、会話についていけず、自信を無くして、不安をいだいている新入社員も少なくないと聞いています。
そんな彼らに、いまのITやデジタルの常識を、体系的にわかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうというものです。
【前提知識は不要】
ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。
デジタルが前提の社会に対応できる営業の役割や仕事の進め方を学ぶ
コロナ禍で、ビジネス環境が大きく変わってしまい、営業のやり方は、これまでのままでは、うまくいきません。案件のきっかけをつかむには、そして、クローズに持ち込むには、お客様の課題に的確に切り込み、いまの時代にふさわしい解決策を提示し、最適解を教えることができる営業になることが、これまでにも増して求められています。
お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけではなく、お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業に求められる能力です。そんな営業の基本を学びます。
未来を担う若い人たちに道を示す
新入社員以外の若手にも参加してもらいたいと思い、3年目以降の人たちの参加費も低額に抑えました。改めて、いまの自分とこれからを考える機会にして下さい。また、人材育成のご担当者様にとっては、研修のノウハウを学ぶ機会となるはずです。教材は全て差し上げますので、自社のプログラムを開発するための参考にしてください。