営業は終わった。いつまでこんな仕事にしがみついているのか。
営業という言葉にまとわりつく匂いは前時代的で腐臭さえ漂っている。強引なアポ取りと売り込み、天高く積まれる予算の重圧、駆け引きと価格交渉そして結果としての値引き、気むずかしいお客様への根回しと説得、他社製品の批判と自社製品の美化、予算達成ができないことを仕方がないと思わせる言い訳づくりなどに気力や体力を消耗している。これが営業の仕事だというのなら、とっととやめてしまった方が人生は楽になる。
このような輩と関わることは、お客様にとっても時間の無駄以外の何ものでもない。いやむしろ、買わなくてもいい時代遅れで陳腐なものを買わされる被害者にしているかもしれない。
残念なことに、営業である当事者本人が、この現実への自覚がない。営業とはかくあるべしとの刷り込みから抜け出すことができず、それがお客様のため、あるいは会社のためと思い込んでいる。自分の考えを変えるよりも、世の中の常識を自分に都合がいいように調整してしまった方が楽だからだ。
営業当事者だけではなく組織ぐるみでこの現実と向きあうことを避けている。旧態依然とした営業のあるべき姿を築き上げ、自分たちにとって都合のいい現実を作り上げて、自分たちの居場所を作っているだけのことだ。
これではダメだ、お客様のためにはならないと思っても、それを口に出すことがタブーとされる空気。そんなことはないと、オープンな意見を求める幹部や経営者も、聞くだけで行動に移すことはない。そして、だからウチはダメなんだと、現場は愚痴るだけだ。
営業という仕事は、こんな仕事だったのか。私は、どこかで営業という仕事の価値や目的が置き去りにされ、形式や手段、あるいは行為だけが、とり残されてしまったように感じている。
その理由は、テクノロジーの急速な進化やビジネス環境の劇的な変化だ。お客さまの求める価値やこれを実現する最適な手段が変わっているというのに、その実態とスピードに追いつくことができず、いや追いつく努力を放棄して、与えられたものを当たり前と思い込でいる。お客様の価値の実現ではなく、与えられた仕事をこなすことを営業の仕事と信じ、日々をこなしている。それとて楽ではない。いや、むしろ現実との不整合を無理矢理につじつま合わせをしなければならせないので、むしろ大変だ。そんなことが、冒頭の「前時代的腐臭」を醸し出しているのかもしれない。
仕事に誇りを持ち、お客様にも感謝され、会社の業績にも貢献している「営業」と称する人たちはいる。かれらには「前時代的腐臭」はない。むしろお客様に求められ、彼らの訪問を、首を長くして待ち焦がれさせるフェロモンを放っている。それは、腐臭にまみれた営業とは、まったく別の存在だ。
彼らは、お客様に悩み事を蕩々と語らせる。お客様の混乱した頭の中を整理し、なるほどそういうことだったかという気付きを与える。そして、お客様はこんなことをしたい、こうなりたいと語り出す。ならば、こんなあるべき姿を目指してはどうかと、お客様の未来を語る。それは方法や手段ではない。ましてや製品のことではない。社会のこと、テクノロジーのこと、ビジネスのことだ。どのようなあるべき姿がお客様にとっての理想なのかを、豊富な知識と確固たる信念で語る。お客様はその話しに引き込まれ、彼らの描く未来に引き込まれ、それを自分の未来として描くようになる。
「是非、そんなあるべき姿を実現したい!」
お客様は、心の底から声を上げるだろう。そこで、彼らはひとつの役割を終える。
お客様はそんな彼らとの対話の時間に感謝する。彼らとの対話を通じて、自分たちのなすべきことを整理でき、決心を固めることができるからだ。お客様は、そんな彼らを手放すことはない。その実現についても相談したいと思う。結果として、案件が成立する。
そんな絵に描いた餅のような展開などあり得ないと思うかもしれないが、できる人たちはいるし、そうならんと学び続けている人たちもいる。理想なくして、何を目指せばいいのか。彼らは、そんな理想があるからこそ、そこに近づくことができる。決して、成り行きで、気がついたらそうなっていたわけではない。
これを前時代的な腐臭漂う「営業」と同一視するべきではない。もはやそんなかつての営業は終わったと切り捨てて、新たな役割や能力を模索し、磨くべきだ。それもまた「営業」と言うべきかは分からないが、それで、お客様の満足と数字の達成がついてくるのだから、そのままでもいいのかもしれない。
テクノロジーの進化やビジネス環境の変化は、物販や工数での収益拡大を難しくしている。この変化はこれから急速に進んでゆくだろう。そんな時代になり、売るものがなくなり、数字を達成できない営業に存在意義はない。
それを見越してか、昨今「共創」を看板に掲げる企業が増えてきた。一緒になって新しい時代のお客様の価値を作ってゆきましょうというかけ声は素晴らしいが、何をしようというのだろう。
この言葉は、2004年、米ミシガン大学ビジネススクール教授、C.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミが、共著『The Future of Competition: Co-Creating Unique Value With Customers(邦訳:価値共創の未来へ-顧客と企業のCo-Creation)』で提起した概念と言われている。企業が、様々なステークホルダーと協働して共に新たな価値を創造するという概念「Co-Creation」の日本語訳だ。
それぞれに持てる価値を出し合い、対等にお互いの役割を果たしてこそ、この関係は成立する。だから、お客様に提供できる価値がなければ共創は成り立たない。
ITベンダーの価値とは、技術力であり、営業には、それをお客様の価値に置き換えることができるストーリーを描く力が必要だ。自分たちの理想と信念を示し、お客様と対話し、なにが最適な答えなのかをまとめ上げるデザイン力も必要となる。お客様から求められて製品や労働力を調達する力ではない。そのような力はもはやクラウドやAIに置き換えられる運命だ。
お客様のあるべき姿を実現するために全力を尽くすといいながら、リスクはお客様であり、自分たちにはリスクがないように徹底して配慮するといったメンタリティでは「共創」は成り立たないことも肝に銘じておくべきだろう。手にするメリットも失うリスクも共に共有してこそ成り立つのであって、その覚悟もまた大切な要件となる。
お客様を魅了する「営業」は、「共創」などという言葉が登場する以前から、これを実践している。いまさらと言う気もするが、いよいよ、そうでもしなければ自分たちのビジネスに未来はないと気付き、世間が「共創」という悲鳴をあげているのかもしれない。
なにも「共創」という言葉を貶めるつもりはない。むしろ、お客様との関係を本来の姿に修復してゆこうという行動宣言であるとすれば、歓迎すべきことだ。しかし、これで何を売ればいいのかとかと考えている、あるいは新しい営業のテクニック程度にしか捉えていないとすれば、所詮はかけ声だけの目新しい看板を掲げただけのことだ。それでは、「共創」は生まれない。
腐臭を放つ営業は終わりにしよう。お客様の未来を実現するという本来の目的に立ち返ろうではないか。自分たちの古びた形式や手段を棚上げし、進化する現実と来たるべき未来をお客様と共に実現する役割を果たしてはどうだろう。
- 必要な常識を持ち、未来に至る地図を持ちそこに至る物語を描くこと
- お客様と対等に渡り合い、対話して、相手の考えや想いを「あるべき姿」に昇華させること
- 自社だけではない様々なプレイヤーやステークホルダーを束ね1つの方向に向かわせるプロデュースとリーダー・シップの能力を持つこと
そんな力を持つ人たちを古くさい「営業」という言葉でくくってしまいたくはない。「営業」の再定義が必要だ。
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