お客様へ提案するにせよ、新たな事業を始めるにしても、「課題から考える」は、鉄則だ。では、「課題」とは何か。
「調査して、課題を見つけます。」
このような話しを聞くことは多いが、調査して見つかるのは、「問題」だ。問題とは、「経営や事業にネガティブな影響を与える事象」だ。しかし、問題はあっても、それを解決したいかどうかは、別の話だろう。「問題」ではあるが、解決にかかる手間やコストに見合わないこともある。そもそも、「問題」の存在そのものに気付いていない、あるいは、目を背けていることもある。
「課題」とは解決すべきテーマだ。「課題=問題×意欲」と置き換えれば、わかりやすい。つまり、「意欲=絶対に解決するという意志」が伴う問題である。例えば、お客様の業務プロセスをいろいろと調べた結果、問題を見つけたとしても、お客様に、それを解決したいという意志があるとは限らない。それが無ければ、その「問題」についての解決策を提案しても、相手が受け入れてくれることはない。
では「意欲」とは何か。それは、是非とも実現したい「あるべき姿」と「現実」とのギャップである。現実のままでは大変なことになる、だから、このような「あるべき姿」にしなくてはならない。その意志こそ、「意欲」であろう。
社会の課題は何か、お客様の課題は何か、それを調査やインタビュー、あるいは、それを分析することで見つけようとしても、無理な話だ。なにも調査やインタビュー、分析に意味がないと言いたいわけではない。そこから見出された問題を徹底して分析や考察をしても、是非とも実現したい「あるべき姿」を見いだすことができなくてはならない。
現実を確認し、それとのギャップを何としてでも埋めたいという意欲を持たなければ、課題にはならない。そんな意欲を引き出すためには、「問題」を放置しておいたら大変なことになることを具体的に示すことだ。事業が継続できない、仕事がなくなると言うことを具体的な数字や事実をもって示し、「ヤバイ」という意識、すなわち危機感を抱かせることなくして、意欲を引き出す事は難しい。
では、どうなることが理想なのだろう。それが、「あるべき姿」である。「あるべき姿」は、あなたの思いこみであり、情熱であり、決意である。分析や調査では、「あるべき姿」を描くことはできない。まずは、直感だ。直感とは、広範な知識や常識が土台となる。それを持たずして、「直感」は働かない。そして、その直感を頼りに、具体的な「あるべき姿」、すなわち、理想とすべきビジネス・プロセスやビジネス・モデルを示し、そこに至る過程や手段を提示する。それを示さずして、「課題」を提示することはできない。
そんな課題をお客様と合意し、その解決策を示すことが提案だ。きっと、お客様は、その提案を受け入れ、真剣に検討してくれるだろう。あるいは、一定の顧客層が抱える課題を解決できる事業を立ち上げれば、成功に導くことができるだろう。
課題=解決すべきテーマ=問題×意欲
意欲=是非とも実現したい「あるべき姿」と現実とのギャップ
このように考えてみてはどうだろうか。
いまのSI事業者について、この原理原則を当てはめて見ると、自分たちの「課題」を明確にすることをためらっているように見える。「課題」以前の問題で躓いているように見える。
先週のブログで述べたことがだが、企業の需要は、「作る技術」から「作らない技術」へと、大きくシフトしはじめている。コロナ禍は、この変化を加速している。
その背景にあるのは、「顧客接点のデジタル化」や「業務プロセスのデジタル化」への需要が高まり、取り組むべきテーマが、短期間に集中したことだ。もはやこれまでの「丁寧なやり方」では、この事態に対処できない。既存のクラウド・サービスをうまく組み合わせたり、ローコード開発ツールを使ったりして、できるだけ作らずにサービスを実現しなければならない状況に追い込まれてしまった。
そこで、致し方なく「作らない技術」を使ったところ、「十分にできる」と気付いたり、まだ使ってはいないけれども、その必要性に気がついたりした企業が増えているのではないか。それが、この変化を加速しているように思う。
一方で、SI事業者は、「組織力を動員し、作る技術を持った人たちを大量動員する」ことを事業価値としてきたわけだが、いまの変化は、この価値を否定するものだ。「作らない技術を駆使できる優秀な個人を提供できる」ことが、お客様の期待であり、事業価値になる。この需要は今後も伸びて行くだろう。
この事業価値の転換が迫られている現実こそが、SI事業者の抱える「問題」であろう。
まず、この「問題」を受け入れることからはじめなくてはならない。しかし、これは自己否定であり、容易に受け入れることができないのかも知れない。あるいは、「問題」であることは認識していていても、「まだしばらくは、何とかなる」と考え、解決を先延ばししているのかもしれない。
課題=解決すべきテーマ=問題×意欲
この定式に当てはめて考えれば、問題を解決しようとの「意欲」がないのだから、解決の努力も、実効性のある戦略も描けないのは当然のことだ。
それでも、お客様から「旧態依然とした会社」とは見られたくない。そこで、世間体を気にして、既存の事業価値をそのままに、トッピングとして、「作らない技術」であるアジャイル開発やクラウドなどで装飾し、何とか見た目を時代に合わせようとしているところもあるようだ。しかし、お客様の求める価値が変わろうとしているのに、本質に手を付けることなく、装飾だけを今風に整えたところ、長続きしないだろう。
もうひとつの大きな変化が、SI事業者にとって、無視できない「問題」になろうとしている。それは、昨今のDXブームである。このブームに煽られた事業会社が、「このままでは大変なことになる。何とかしなければ!」と、自分たちのビジョン、あるいは、是非とも実現したい「あるべき姿」を見直そうとしていることだ。
しかし、SI事業者に相談すると、「何をしたのかを教えて頂ければ、その解決策を提供します」というスタンスを崩さない。お客様に言わせれば、「何をしたいかが分からないから、それを相談しているのだ」ということであり、これでは、話にならない。
彼らが期待しているのは、自分たちの現実に共感を示し、一緒になって考え、ITの先生として、自分たちの「あるべき姿」を示してくれることなのだ。
100点満点の正解でなくてもいい。ITの未来や可能性を示し、「こうすべき」、「こうあるべき」を提言してくれることを期待している。それをたたき台に、対話を重ね、解決策を見出したと願っている。ところが、自分たちにできることを前提に、「実績がないので辞めた方がいい」とか「時期尚早であるから慎重に」となれば、誰に相談すればいいというのか。
SI事業者の方に話しを聞くと、事業部門になかなかアプローチできないという嘆きを聞くことがある。IT投資に関わる意志決定の重心が、情報システム部門から事業部門にシフトしつつある中、この現実は、ビジネスのチャンスを減らしてしまう重大な「問題」であろう。しかし、旧来の価値観、すなわち、「十分に時間と手間をかけて、安定と品質を実現する」では、情報システム部門の期待には応えられても、事業部門の期待には応えられない。「事業の成果に貢献するために、短期間でサービスを実現し、改善を繰り返しながら完成度を高める」と言う価値観を持たなければ、事業部門に受け入れられることはない。これもまた、「作らない技術」が前提になる。
DXブームに乗じて、「組織力を動員し、作る技術を持った人たちを大量動員する」ビジネスを拡大しようとの目論見は、まったくもって筋が悪い。この機会を転機と捉え、「作らない技術を駆使できる優秀な個人を提供できる」企業の文化や風土への転換を図るべく、ビジネス・モデルを再定義することが、SI事業者の「DX戦略」ではないのか。
コロナ禍は、感染「第5波」の只中にある。ワクチン接種も、なかなか進まないいま、コロナ禍は当面収まらず、「顧客接点のデジタル化」や「業務プロセスのデジタル化」への需要が、一層高まるであろうことは、想像に難くない。
だからこそ、これを機会に「問題」を真摯に受け入れることだ。そして、「課題」を明確に定義し、ビジネス・モデルの転換を、図るべきではないのか。お客様のDXに貢献する前に、まずは自分たちの「DX戦略」を実践すべきであろう。
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