先週のブログで、「作る技術」から「作らない技術」への転換が、進みつつあることを述べた。SI事業者/ソリューション・ベンダーは、この変化に対処する戦略を組み立てる必要がある。
このチャートにもあるように、「作る技術」の時代と「作らない技術」の時代には、求められるビジネスの要件が大きく異なってしまう。前者は、組織的な人材の動員力こそが、顧客の求めるビジネス価値である。だから、大手SI事業者を頂点とした階層的なビジネス・スキームには合理性があった。
しかし、後者は、それではうまくいかない。例えば、「配車サービス」を新たに立ち上げようとすれば、その機能の大半を既存のクラウド・サービスで賄うことができる。地図情報、代金決済、ID認証、損害保険、セキュリティは、自分たちで作る必要ない。また、サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラの構築や運用は、クラウド・サービスに任せることができる。むしろ、それぞれに特化した優れたノウハウつぎ込んだサービスとして積極的に使うほうが、「配車サービス」の魅力を高めることができるだろう。
どうしても自社で作らなければならないのは、クルマと人のマッチング機能だ。独自の需要予測アルゴリズムで迅速に配車できることは、サービスの魅力の根幹であり、差別化と競争力の源泉となるからであり、それは自分たちで作るしかない。
サービスとして提供される機能や独自の機能は、マイクロサービスで実装し、REST/APIでつなぐことで、新しいサービスを短期間に立ち上げることができる。また、より魅力的な代金決済のサービスが登場すれば、容易に乗り換えることができる。機能の向上やUXの改善も、継続的かつ頻繁に繰り返すことができる。
サービスとして使えるものは徹底的に使い、自分たちで作らなければならないことにリソースを集中させることが、合理的な戦略だ。
このような時代になれば、小規模なIT事業者や内製チームなどの少ない人数でも、「作らない技術」で対処できる。そうなれば、作る技術を前提とした「組織的な人材の動員力」はビジネス価値としての合理性失う。一方で、時代に即した「作らない技術力」を提供できることが、お客様の求める価値となる。
このようなシステムの善し悪しは、お客様の事業の売上や利益に直結する。そうなれば、事業部門が主導し内製することになる。SI事業者は、そのチームに、エンジニアを参加させることがビジネスとなるだろう。そうなれば、「組織的動員力」ではなく、「個人的技術力」が、お客様の評価軸になる。つまり、お客様は、「会社」で選ぶのではなく、「人」で選ぶ。つまり、SI事業者やITベンダーは、「作らない技術力」を持つ優秀な人材をどれだけ提供できるかが、業績を左右することになるだろう。
そうなれば、雇用制度や人材育成のあり方を大きく変えなくてはならない企業も出てくるだろう。具体的には、自社で働く社員が、自分の成長が実感できる機会を継続的に得られるようにすることだ。
例えば、新しい技術やサービスにいち早く取り組み、高い社会的な評価を得られるようにすることや、そういう取り組みを積極的に発信し続けることだ。そうすれば、IT感度の高い顧客を惹き付けることになり、時代のニーズに即した仕事の機会は増えてゆく。また、そんな取り組みに共感する人材の雇用もやりやすくなり、その相乗効果によって、「作らない技術」をウリにできる企業へと変えてゆく。
また、営業は、お客様の事業や経営に、ITをどのように活かせばいいのかを伝え、相談に乗れる能力を磨かなければならない。つまり、事業部門や経営者にとっての「ITの先生」になることこそが、案件の獲得につながる。
「作る技術」の時代にあっては、営業は、ヒトやモノの調達力や調整力が求められていたが、「作らない技術」の時代となったいまは、ビジネスや技術についての知識力とリーダーシップが求められる。エンジニアばかりでなく、営業もまた、求められるスキルが大きく変わってしまう。
注意すべきは、「作らない技術」に取り組むだけでは、不十分だと言うことだ。「作る技術」の前提である「工数増大」を事業目的とし、その魅力を高めるためのツールとして、「作らない技術」、例えば、アジャイル開発やクラウド、ローコード開発ツールを使おうという考え方では、うまくいかないということだ。
例えば、手紙を携えて東京から大阪へ向かう飛脚にスマートフォンを持たせて、彼らの位置情報をWebで確認できるようにするようなものだ。迅速に情報を伝達することが目的であれば、メールやチャットを使うほうがいい。さらにSNSを使えば、これまでとは異なるコミュニケーションが実現する。新しいテクノロジーを使っても、事業目的を転換しなければ、その価値を活かすことはできない。
「作らない技術」で、これからの事業を展開したければ、事業目的は、対内的には「従業員に成長の喜びを与えること」であり、対外的には「作らない技術でお客様のデジタル戦略を牽引すること」であろう。このような考え方を突飛だと思われる方も多いかも知れないが、時代はあきらかに、この方向に突き進んでいる。
このようなパーパス(存在意義)を掲げ、実践すれば、時代にふさわしい人材は集まり育っていくだろうし、顧客からの需要も増えていくだろう。結果として、売上と利益に貢献する。それくらい、大胆な転換をしなければならない時期に来ていると思う。
これは単なる私の妄想ではない。IT人材の育成や事業会社のデジタル戦略に関わる仕事を通じて、「作る技術」から「作らない技術」への転換が、確実に、そして急速に進んでいることを肌で感じている。
SI事業者は、自らが積極的に「作らない技術」への転換を図らなければ、優秀な人材は去り、事業の成長どころか、継続さえ難しくなるだろう。「作る技術」で稼げるうちに、大胆な戦略転換を図るべきだ。「時代の変化は加速する」ことを念頭に、取り組みを急ぐべきだろう。
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