いま、お客様の内製化が拡大しているのは、時代遅れのSI事業者への憤りであり、自分たちで何とかしなければ、大変なことになるとの危機感があるからだ。
とのようなビジネスでも、それを立ち上げた当初は、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」を生みだそうと知恵を絞り、工夫をする。やがて、それが、メソドロジーとして標準化され、安定的なビジネスの基盤が、できあがってゆく。あとは、改善を繰り返し、コスパを高め、ビジネスをスケールさせてゆく。
そのビジネスが魅力的であればあるほど、他社もこれを真似て、同様のビジネスを始めるわけだが、彼らもまた工夫して自分たちならではの特徴を見出し、差別化することで、やがては競合となってゆく。そんな競合との切磋琢磨が、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」の魅力を向上させ、大きな市場へと育っていく。
それも一定の段階を超えれば、絶対的な差別化を生みだすことは難しくなる。基本的なこと、必要とすることは、どこでもできるようになるから、その部分での差別化は難しくなっていく。それ以外のところ、つまり、「めったに使わないようなところ」での競争となる。そうなってしまっては、絶対的な差別化は難しく、結果として価格競争に陥ってしまう。
例えば、複合機を考えてみればいい。リコーも、キャノンも、富士フイルム(旧富士ゼロックス)も、基本的な一通りの機能は、全て提供されている。もちろん各社、使い勝手や附帯するサービスなどで、違いを打ち出そうとしているが、使う立場になれば、そこまで使うユーザーは限られ、多くにとっては、その差がよく分からない。
だからと言って、複合機がいらなくなるわけではない。「なくては困るが、どれを使ってもあまり変わらない」という状況、すなわちコモディティになってしまう。そうなれば、どちらが安いかという競争になってしまう。
いまのITビジネスの多く、特にSI事業は、このような、「行き着くべきところに行き着いた」状況、すなわちコモディティな事業になってしまった。
かつて、インフラを構築し、ミドルウェアなどのプラットフォームを整備し、アプリケーション・プログラムを開発することが、SI事業の生業だった。それがなければ、業務の効率化や生産性の向上は図れないのだから、顧客はそれを求め、市場は拡大した。しかし、その結果として、コモディティになってしまった。売上は伸びても、利益が増えないとすれば、まさにその現実に直面している証拠だ。
そんなコモディティ事業も、不要になろうとしている。ひとつひとつ作らなくても、クラウド・サービスには、それらが、既に用意されているからだ。もはや、自前でシステムを構築して、アプリケーションを開発する必要がない。既にあるモノを組み合わせて、自分たちに必要な「ITサービス」に仕立て上げることができる。
あらためて、ITに求められる価値の原点、すなわち「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」に立ち返れば、自分たちの業務課題を、いち早く解決することである。それは、いまも昔も変わらない。そのために「ITサービス」を必要としたわけだ。ここで注意すべきは、「ITサービス」であって「ITシステム」ではないということだ。
「ITサービス」が課題を解決するわけだが、そのために、かつては、インフラ、プラットフォーム、アプリケーションといった「ITシステム」を「自前で開発し所有する」しかなかった。しかし、クラウド・サービスの充実と普及によって、「自前で開発し所有する」必要がなくなった。しかも、機能や性能の向上、トラブルへの対応、運用管理といった、どちらかというと「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」には直接関係のない作業の手間は、全て任せることができる。クラウドの方が、圧倒的にコスパが高いわけだ。
どれほどコスパが高いかの1つの事例として、こちらを紹介しておこう。これは、アンケートをオンラインで公開し、入力してもらって集計し、レポートを作るWebシステムを作った場合の比較だ。
自前で所有した場合、それをクラウドに移行した場合の比較である。おわかりの通り、IaaSに移行するだけでは、コスパの改善は限定的だが、サーバーレス(この場合はAWS Lambdaで試算)を使うと、3桁もコスパが改善する。
先ほども書いたように、お客様が手に入れたいのは、「ITサービス」であって「ITシステム」ではない。やりたいことができればいいわけだ。ユーザーにとっては同じことができれば、安い方が良いに決まっている。しかも、安いだけではない。ああしたい、こうしたいに、直ちに対応できるのもサーバーレスの魅力でもある。仕様変更のための「仕様書」を作り、見積書をもらって、決済し発注する必要がないわけだから、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」は、当然こちらに移ってしまうだろう。
それにもかかわらず、これまでのやり方をそのままに、クラウドへの対応を考え、それで何とかこれからをしのごうとしているSI事業者がまだまだ多いのが現実ではないだろうか。
システム資源を調達する手段としてクラウドを捉えていると言うことだろう。たから、その上で動くアプリケーションを作ろうと発想する。その設計や運用も自分たちで作ることを前提にする。しかし、サーバーレスは作ることを最小限にすることを目指す。できるだけ作らないで、ITサービスを実現するためにはどうすればいいのかを突き詰めていった結果として、生みだされたサービスである。発想のベクトルがまるでちがうわけだ。
この現実に対処しようとしないSI事業者に対する顧客の苛立ちが、顧客企業における内製化の拡大を促している。つまり、内製化とは、いまの当たり前に対応できないSI事業者に見切りを付けて、自分たちで何とかしようとする施策である。いや、そうしなければヤバイと感じているからだ。だから、内製化は、当然ながら、SI事業者の競合になる。
「ITシステム」を作ることに拘る限り、SI事業に未来はない。当然のことだ。「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」、すなわち、「”ITサービス”をいち早く手に入れる」ことだ。そのための手段は、このようなクラウド・サービスの使い方をすることであって、既存のやり方とはまるで違ってしまうことを前提にしなくてはならない。
くどいようだが、お客様が手に入れたい価値は、「ITサービスをいち早く手に入れる」である。その最善の策は、自分たちで作ることではなく、既にあるものをうまく組み合わせることだ。つまり、「作らないないこと」が最善の策になる。SI事業者のビジネスの前提をここに移さなければ、有効な施策など、生まれてくるはずはない。
かつてSI事業者に求められていた「技術力」は、作るためであった。しかし、いまは「いかにつくらないか」のための「技術力」が求められている。サービスを目利きし、一番良い組合せや、その運用を実現する能力が、「技術力」して、評価されるようになった。また、この前提を活かし、ビジネス環境の変化に対応して高速に改善できる能力が、「技術力」として、求められている。
「共創」とは、このような「技術力」をお客様に提供し、「ITサービスをいち早く手に入れる」ことに貢献してゆくことに他ならない。このパラダイム・シフトを受け入れることが、これからのシナリオを考える土台となる。一方で、既に正しい「共創」をしているSI事業者は、仕事が絶えないという。もう時代は、あきらかに方向転換している。
東京から大阪に行くのに、歩いて行く人はいない。ならば、汽車に乗ろうとなるが、それを作ることから始める人はいないだろう。テクノロジーは進化し、新幹線が登場した。ならば、それを使いたいと思うのは当然なことだ。なぜ、いまさら新幹線を自分たちで作らなければならないのか。そんなことをシラッと提案してくるSI事業者に、お客様はもう我慢できないのだ。
DXもまた、SI事業者へのお客様からの最後通牒であると覚悟した方が良い。「貴方たちには、それができますか」と、お客様が問いかけているも同じだ。DXの本質は、圧倒的なビジネス・スピードの獲得にある。それがあれば、市場の変化への即応や新規事業の実現も、当たり前にできるようになる。そんな圧倒的なビジネス・スピードを獲得するには、ここに紹介したようなやり方を駆使するしかない。それを高度経済成長時代の土木工事宜しく、丁寧に仕様を固め、QCDを徹底して追求し、時間をかけてシステムを構築するやり方で対応できるわけがない。
残念ながら、情報システム部門の多くも、この古き良き時代の価値観から抜け出せずにいる。だから、情報システム部門に相談することなく、事業部門が主導で、内製化チームを作る動きが拡大しているのだ。
情報システム部門にしか顧客チャネルを持たないSI事業者もまた一蓮托生であり、ともに事業部門から見れば、「使えない」といった、厳しい見方をされてしまう。
あらためて、いまの時代の前提、いや常識を謙虚に受け止めるべきだ。ITすなわちデジタル技術は、これまでにも増して、その必要性を高めてゆく。しかし、それを「作る」ことと捉えるのか、「使う」こととして捉えるのかで、仕事の仕方は大きく変わるし、求められる技術力も違ってくる。
いまの時代にふさわしい「正しいこと」をやるべきだ。正しいこととは、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」を実現することだ。そのために一番良いやり方は何かを、改めて問い直してみてはどうだろう。
詳しくは、上記バナーをクリックしてください。
今年は、例年開催していました「最新ITトレンド・1日研修」に加え、「ソリューション営業の基本と実践・1日研修」を追加しました。
また、新入社員以外の方についても、参加費用を大幅に引き下げ(41,800円->20,000円・共に税込み)、参加しやすくしました。
どうぞ、ご検討ください。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
【4月度のコンテンツを更新しました】
======
- 「AIとロボット」を「AIとデータ」に変更し、データについてのプレゼンテーションを充実させました。
- 戦略編をDXとそれ以外の内容に分割しました。
- 開発と運用に、新しいコンテンツを追加しました
- テクノロジー・トピックスのRPA/ローコード開発、量子コンピュータ、ブロックチェーンを刷新しました。
======
研修パッケージ
- 総集編 2021年4月版・最新の資料を反映
- DX基礎編 改訂
======
ビジネス戦略編・DX
- 【新規】データとUXとサービス p.17
- 【新規】デジタル×データ×AI が支える存続と成長のプロセス p.68
- 【新規】DXとは圧倒的なスピードを手に入れること p.72
- 【新規】IT企業とデジタル企業 p.155
サービス&アプリケーション・先進技術編/AIとデータ
- 【新規】データの価値 p.129
- 【新規】情報とビジネスインテリジェンス・プロセス p.130
- 【新規】アナリティクス・プロセス p.131
- 【新規】データ尺度の統計学的分類 p.135
- 【新規】機械学習とデータサイエンス p.136
- 【新規】アナリティクスとビジネス・インテリジェンス p.137
- 【新規】ビジネス・インテリジェンスの適用とツール p.138
- 【新規】アナリティクスのプロセス p.139
- 【新規】ETL p.140
- 【新規】データウェアハウス DWH Data Warehouse p.141
- 【新規】データウェアハウス(DWH)とデータマート(DM) p.142
- *「AIとロボット」から「AIとデータ」に変更しました。
開発と運用編
- 【新規】クラウドの普及による責任区分の変化 p.25
- 【新規】開発と運用 現状 p.26
- 【新規】開発と運用 これから p.27
- 【新規】DevOpsの全体像 p.28
- 【新規】気付きからプロダクトに至る全体プロセス p.29
- 【新規】アジャイル開発のプロセス p.37
- 【新規】アジャイル開発の進め方 p.39
- *ローコード開発については、RPAの資料と合わせてひとつにまとめました。
テクノロジー・トピックス編
- 【改訂】ブロックチェーン、量子コンピュータの資料を刷新しました。
- 【改訂】RPAとローコード開発を組合せた新たな資料を作りました。
下記につきましては、変更はありません。
- ITインフラとプラットフォーム編
- クラウド・コンピューティング編
- ITの歴史と最新のトレンド編
- サービス&アプリケーション・基本編
- サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT