「将来を見通すことが難しい時代です。計画的にものごとをすすめることは容易なことではありません。そんな時代に事業を継続するには、圧倒的なビジネス・スピードで、変化に俊敏に対応できる能力を持つことです。そのためには、次のことができなくてはなりません。
- まず自分たちの存在意義、すなわちパーパスをあきらかにすることです。社会環境がどれだけ変化しても、揺るぐことのない自分たちの社会における価値は何か、お客様にとって必要とされる理由は何かを常に自問し、それを市場と共有することです。
- 次に、そのパーバスを貫くために、仕事のやり方や提供するサービスを社会の変化に応じてダイナミックに変化させることです。自分たちが提供する製品やサービスについてのお客様からのフィードバックを受け取り、高速に改善を繰り返すことです。
- そのためには、会社や組織が失敗を許容できなくてはなりません。試行錯誤を現場の判断で高速に繰り返すことができる自由を現場に与えることです。そして、変化をいちばん身近に感じられる現場の”自律したチーム”に権限を大幅に委譲し、即決、即断、即行を委ねることです。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、そんな文化や風土への変革です。デジタル技術は、そのための前提です。ビジネス・プロセスを徹底してデジタル化し、ビジネスの動きをリアルタイムに見える化し、対話や情報の共有が直ぐにできるようにすることです。さらに、オペレーションの自動化の範囲を拡げ、人間にしかできないコトに意識や時間を十分に傾けることができるようにしなくてはなりません。」
ある講演で、こんな話をしたところ、次のようなご質問を頂きました。
「我が社には、失敗を許容する文化がありません。組織も末端までしっかり管理され、細かいことまでチェックされます。権限を委譲するなど、とても考えられません。デジタル化にも及び腰で、根性論的なところがあります。そんな会社が、DXに取り組むには、どうすればいいのでしょうか?」
こんなやり取りを、あなたはどう思われるでしょうか。なんと馬鹿げた質問をしているのだと思われるでしょうか。あるいは、我が社もまったくまったくその通りだと思われるでしょうか。
このような質問を頂くのは、はじめてではありません。質問とまではいかなくても、講演後の雑談の中で、同様のことを話される受講者もいらっしゃいます。アンケートには。少なからず同様の意見が書かれています。
結論から申し上げれば、この質問は、あきらかにおかしな質問です。なぜから、そんな文化を変えることがDXだと申し上げているわけです。ところが、文化がないのでDXにとりくめないので、どうしましょうというわけです。
「何もしたくはありません。いまのままでいたいのです。でも、いまのままではまずいので、何とかしたいのですが、どうすればいいのでしょうか?」
DXの議論が、こんな堂々巡りに陥ってはいないでしょうか。
「お客様のDXの実現に貢献する」や「DXパートナーとなります」といった看板を掲げるSI事業者は少なくありません。でも、本当にその覚悟あるのでしょうか。
DXとは企業文化の変革です。つまり、お客様の企業文化の変革に関わりますと宣言しているわけです。ということは、先ほどの堂々巡りのようなお客様の意識を、まずは変えなくてはなりません。
経営者にDXは企業文化を変革することだと教え、そのためには経営者がリスクをとって仕事のやり方やビジネス・モデルを変革せよと迫り、決心を固めてもらわなくてはなりません。そのためには、自分たちもリスクを背負って、死なばもろともの覚悟で、一緒に取り組みますと、熱く語らなくてはなりません。
当然のこととして、まずは、自分たちがDXに取り組み、そのノウハウと自信を持たなくてはなりません。お客様のDXに貢献することは素晴らしいことですが、ならばまずは自分たちが実践するのが、筋というものです。
そんな覚悟もないままに、お客様のDXに関わろうというのは、本来は無理な話のように思います。
ただ、そんな覚悟などなくても、うまくいく可能性はあります。堂々巡りのお客様が、自分たちの覚悟を決めないままに、SI事業者の看板を鵜呑みにして、DXを丸投げするわけです。SI事業者は、分かりましたとばかりに、フレームワークやメソドロジーを提案し、それを高額で引き受けて、計画書や報告書を作ります。そして、お客様に、その実践を求めるわけですが、既存を前提にした整理整頓であり、業務プロセスの改善の域を超えることはありません。もちろん、AIやIoTといったデジタルなスパイスは利かせます。
事業目的やビジネス・モデルの変革などの経営のあり方、意志決定プロセスや業績の評価基準、雇用形態などの企業文化の変革は、お客様の問題であり、提言はすれども深入りはしません。できないのは、お客様の責任ですと突っぱねてしまわなければ、余計な面倒を背負ってしまいます。もし、そんなアプローチをしているのであれば、お客様のDXに貢献できるわけがありません。
セキュリティに真剣に取り組んでいる企業は、自分たちの対策はまだまだと言います。働き方改革に痛みも覚悟で取り組んでいる企業は、道半ばですといいます。外から見れば、あきらかに文化や風土の変革に取り組んでいる企業は、DXなどという言葉を使うことはなく、粛々となすべきことをやっているようにも見えます。
かなり昔の話しですが、中国の深圳にある半導体製造装置メーカーの工場を訪問したとき、工場内に「製造ラインでの飲食は禁止」という看板がありました。なぜこんな看板を掲げるのかと工場長に聞くと、「それができるなら看板なんかいりませんよ」と言っていたことが思いだされます。
つまり、できるならそんな看板は必要ないのです。できないからこそ、看板を掲げて、大声で叫ばなければならないのです。そして、そういう会社には、堂々巡りで覚悟ができない企業が、いつものITのいつもの丸投げで、任せれば、自分たちは何もやらなくてもDXが実現すると信じて依頼するのでしょう。いや、信じてなんかいません。彼らに任せてできなければ仕方がないと、言い逃れできます。そのためには、大手のコンサル会社やSI事業者に任せる必要があります。彼らでもできないのだから、これは仕方のないことですと、誰もが認めざるを得ないからです。
これは極めて手堅い営業戦略です。なんと素晴らしいことでしょうか。DXを看板に掲げるのは、きっと、そういう戦略があるに違いありません。
そう考えるのは、私のへそが曲がっているからなのかも知れませんね。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
そんな憤りを感じる方もいらっしゃるでしょう。でも、それを考えることから始めるべきなのです。
自分たちにできるはずのない「お客様のDXの実現」なんて、まずは看板から下ろすべきです。DXに取り組むのか取り組まないのかは、お客様の覚悟であり、実践の主体はお客様自身です。そんなお客様の現実に寄り添い、お客様といっしょになって、課題や知識をオープンに共有し、DXかどうかはともかく、お客様の未来のために、あるいはパーパスのために何をすべきかを考えることから始めるべきです。
もちろんデジタルの最先端、デジタルと事業、経営との関係について、広い知識と高い見識を持ち、お客様の良き教師でなくてはなりません。でも、それがDXかどうかや、完全である必要はありません。何とかしたい、あるいはしなければと、最大限のお節介を焼くことです。そして、一緒に答えを創ることです。
一般論としてのDXは、とても抽象的であり、その企業にとっては直ぐにできる話しではないでしょう。実践に結びつけるには、さらに、お客様個別に課題やテーマの粒度を小さくしなければなりません。
- お客様の事業や経営のあるべき姿を問い、その達成を阻む現実的な課題をあきらかにして、克服する道を探る。
- お客様の触れて欲しくないタブーに切り込み提言し、自覚を引き出す。
- 腹をくくってもらう。覚悟を決めてもらう。自分たちもリスクを取ってその覚悟を引き受ける。
DXなどという看板など掲げなくても、お客様は、そんなSI事業者を惚れてくれます。相手に惚れさせるには、自分たちも惚れなければなりません。徹底してお節介を焼いて、気持ちを伝えることです。そして、相思相愛の関係を築くことこそが、共創の土台です。
DXとは何か、その本質や具体的な取り組みを問うことは、とても大切なことだと思います。しかし、そのことと、お客様ごとに、もっと寄り添うには、何をすればいいのかを、真摯に問い、実践することとは、分けた方がいいでしょう。DXの実践に貢献するとか、DXパートナーになるなんて、言う必要はありません。
自らのDXについて体験的ノウハウを持つ人たちが、お客様の個別の課題やテーマにより沿えば、結果として、お客様のDXに貢献することになるのではないかと思うのです。
看板の前に自分たちの実践です。DXを押しつける前に、お客様の個別の課題やテーマにより沿うことです。そして、何よりも、自分たちが、あるいは経営者が、腹をくくり覚悟を決めることではないでしょうか。
【募集開始】第36期 ITソリューション塾 2月10日・開講
2月から始まる第36期では、DXの実践にフォーカスし、さらに内容をブラッシュアップします。実践の当事者たちを講師に招き、そのノウハウを教えて頂こうと思います。
そんな特別講師は、次の皆さんです。
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戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援す
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリ
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また、特別補講の講師には、事業現場の最前線でDXの実践を主導
DXの実践に取り組む事業会社の皆さん、ITベンダーやSI事業者で、お客様のDXの実践に貢献しようとしている皆さんに、教養を越えた実践を学ぶ機会にして頂ければと準備しています。
コロナ禍の終息が見込めない状況の中、オンラインのみでの開催となりますが、オンラインならではの工夫もこらしながら、全国からご参加頂けるように、準備しています。
デジタルを使う時代から、デジタルを前提とする時代へと大きく変わりつつあるいま、デジタルの常識をアップデートする機会として、是非ともご参加下さい。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 日程 :初回2021年2月10日(水)~最終回4月28日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000)
*オンラインによるライブ配信、および録画で受講頂けます。
詳細 ITソリューション塾 第36期 スケジュールは、こちらよりご確認いただけます。