事業開発の原点は実感にある
「サンフランシスコであまりにもタクシーがつかまらない。この場で乗りたいのに、手をあげてもタクシーは止まってくれない。」
ライドシェア・サービスの代名詞ともなった「Uber」は、そんな創業者の実体験がきっかけだったそうです。
「タクシーが利用者のニーズに応えてくれないのなら、自分たちでつくってしまおう。」
そうやって2009年3月にこの会社は設立されました。
いつでも、どこからでも、誰もが、すぐにスマートフォンでタクシーを呼び出すことができ、しかも既存のタクシーに比べて安い料金で利用できる。そんなUberは瞬く間に世界に拡がってゆきました。そして11年後の2020年10月現在、世界19カ国、1万都市にサービスを展開し、売上高も1.5兆円を超えようとしています。
Uberの創業者は自分が感じたことを「それが普通だから仕方がない」とは考えず、「もっといいやり方があるはずだ」と考えたのでしよう。そして、それを実現するために「いまできるベストなやり方は何か」を考え抜いたのです。そのとき「ベストなやり方」の選択肢として、その当時としてはまだ目新しいクラウドやスマートフォンに目を付け、その可能性を信じ試行錯誤を繰り返しながら作り上げたのがUberだったのではないでしょうか。事業開発の原点は、ここにあると言ってもいいでしょう。
- 「困った」を解決したい。
- もっと便利に使いたい。
- もっといいやり方があるはずだ。
そんな想いが新しいビジネスを生みだすきっかけとなりました。決して、新しいデジタル技術でビジネスをやることが目的だったわけではありません。目の前にある課題を解決するには、最新のデジタル技術を駆使することが一番いいやり方だったのです。そんな原点を突き詰めていった人たちが、結果として既存の業界秩序を破壊するまでの力を持つ、誰もが注目するような新しいビジネスを生みだしてきたのです。
しかし、身近な現実に目を向けると、かならずしもそうではないようです。
「人工知能を使って、うちでも何かできないのか?!」
こんな話しが経営者かふってきて、さてどうしたものかと現場が頭を抱えています。「世間で人工知能が話題になっているので、うちも乗り遅れてはいけない」ということなのでしょう。「人工知能を使うこと」が目的ではないはずです。目の前の課題を解決したい、もっといいやり方で効率を上げたい。それが目的のはずです。その目的に向き合うことなく、手段を使うことを目的にビジネスを考えるという本末転倒な話しは後を絶ちません。
人々に受け入れられるビジネスは、直面する課題やニーズに気付き、真摯に向き合うことからはじまります。その解決策として「デジタル技術がもたらす新しい常識=思想としてのデジタル技術」にも目を向け、その可能性を最大限に活かそうという考え方が、これまでにない革新的なビジネスを生みだしているのです。
事業を開発するための3つの原則
第1原則:課題の実感
- 誰かがそんなことを言っていた。
- 世間で話題になっている。
- 偉い先生がそんな話をしていた。
こんな話しは、既に誰かが手を付けています。そんな「誰か」のことではなく、仕事や生活の中に課題を実感することが最初です。自分が実感していることもあるでしょう。あるいは、「工場の現場が困っているらしい」や「お客様が何とかしたいと言っていた」のであれば、それを現場で確かめて、自分の実感として受けとめることです。
「三現主義」ということばがあります。
「現場に出向いて現物に触れ現実を見なければ、ものごとの本質を見極めることができない」
そのことを仕事の現場に息づかせる言葉で「ものづくり」の現場で大切にされてきました。例えば、工場の生産現場で不良品が見つかったとき、現場の状況だけを聞いて机上で判断しても的確な判断はできません。不良品が作られる工程(現場)に出向き、不良品(現物)に触れ、不良が起きている状況(現実)を見るという三現主義を実践すれば、より正しい判断に近づくことできるというわけです。
「三現主義」で生々しい現場の課題やニーズを実感として捉えることができてこそ、それを何とかしたいという本物の意欲や動機が与えられるのだと思います。
また、「実感」する課題が解決できれば、そこには必ず需要が生まれます。それは、そこに必要としている具体的な「誰か」が見えているからです。「誰かが言っていた」類のことは、この「誰か」がはっきりしません。それではビジネスの見通しは得られず、机上の空論になってしまいます。そうならないためにも課題を実感しなければならないのです。
第2原則:トレンドの風を読む
デジタル技術は世の中の常識を大きく、そして急速に変えてゆきます。その変化にアンテナを張り、向かう方向を読み解く努力を怠らないようにしたいものです。
それには2つの意味があります。ひとつは、「ニーズの変化」を知るためであり、もうひとつは「いまできる最適な手立て」を見過ごさないためです。
「ニーズの変化」とは、これから社会が何を求めて動くのかを知ることです。
「人間が経験で現場を理解し、人間が行うことを前提に最適化された仕組み」を、「データで現場を捉えデジタル技術が最も活躍できるように最適化された仕組み」に変えてゆこうという大変革にこそ、新たな変化を読み解く鍵が隠されています。デジタル・トランスフォーメーションとは、これを実現するための前提です。
もうひとつの「いまできる最適な手立て」とは、
- かつてできなかったことが、容易にできるようになった。
- かつて高額でとても手を出せなかったものが、とても安価に手に入るようになった。
- デジタル技術を身近なものとして受け入れ使いこなすことに抵抗のない世代が増えた。
かつての常識はすぐに置き換えられてしまいます。その事実に目を背けないことです。「かつてはこのやり方が最善の手段だった」は、いまも通用するとは限りません。「最善の手段」はいつの時代も新しいのです。過去の経験や成功体験を「いま」に押しつけるのではなく、時代に応じた「最善の手段」を見逃さないことです。
第3原則:試行錯誤
デジタル技術がもたらす変化のスピードは数年先を予測することさえ難しい状況です。それに加えてビジネス環境も世界がネットで緊密につながったことで、遠い国や地域の出来事が瞬く間に世界を大きく動かします。絶対の正解はなく、何が最適かを判断することは容易なことではありません。ですから最後まで見通した完璧な計画など作れません。だから第1の原則で現場を感じたなら、第2の原則でその時の最適な手立てを駆使してさっと成果をあげ、変化に応じて試行錯誤を積み重ねてゆくことが大切です。
そのときに大切にすべきは、「当事者」としての責任です。例えば、新しく家を建てるとき、「なんでもいいから、格安で住み心地のいい家を作ってくれ」と建築会社に頼み、出来上がった家を見て「こんな家を頼んだつもりはない」と文句を言っても後の祭りです。どんな家を建てたいかは施主が考えるべきことです。自分のライフスタイルや家族構成、予算などを考え、建築会社に相談するはずです。
建築関係の書籍や雑誌などを読んで、最新のデザインや工法、設備についての知識を得て、こんな家にしたい、こんな家具を置きたいとこちらの想いを伝えるでしょう。建築会社は、そんなあなたの意向を請けて、専門家として提案してくれるはずです。そして、ああしよう、こうしようとやり取りを繰り返しながら、待望の家が完成します。
出来あがった家は、施主に引き渡されます。施主は、必要に応じて設備の追加や改修を専門家に頼みながら、自分たちの生活になじませ、より快適な生活ができるようにしてゆくものです。
どうしたいのかは施主の責任です。デジタル技術をビジネスに活かそうとする場合も同じ話です。ビジネスの「当事者」としての責任を自覚し、I専門家に相談する必要があります。そのとき、デジタル技術についてはなにも知らないでは、「なんでもいいから、儲かるシステムを作ってくれ」というしかありません。
いつの時代にも変化はありましたが、変化のスピードがこれほど速い時代は、希なことのように思います。将来にわたって安心確実なビジネス・モデルや手段を見出すことは大変難しい時代となったのです。
クラウドやインターネット、さらにはテクノロジーの進化のおかげで失敗のコストは大きく下がりました。そんな時代の後押しをフルに活かし、当事者としての責任を自覚し、「試行錯誤」を繰り返すことが、ビジネスを成功させる要件として大切になるのです。
実践のための3つのステップ
実践は、戦略、作戦、戦術の3つのステップですすめてゆくといいでしょう。
- ステップ1:戦略(Strategy):目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を明らかにし、それを実現するためのシナリオである「ビジネス・モデル」を描く取り組み。
- ステップ2:作戦(Operation):この戦略を実現するためのひとつひとつのプロジェクトである「ビジネス・プロセス」を組み立てる取り組み。
- ステップ3:戦術(Tactics):そのプロジェクトを遂行するための手段や道具である「使い勝手や見栄え」を作り込む取り組み。
それでは、ひとつひとつ見てゆくことにしましょう。
ステップ1:戦略(Strategy)
- あるべき姿を明確にする
手段を使うことが目的ではありません。現場の課題を解決しビジネスを成功させることが目的です。そのためには、「成功したときの状態」=「あるべき姿」を具体的に描き、それを実現することに取り組まなければなりません。
「あるべき姿」とは、
- 結果としてどうなっていたいのか
- これができたら「成功」と言い切れる姿
- 理想のゴール
を表現したものです。これを明確にすることが最初の一歩です。例えば、
- この分野では業界トップの地位を確保したい
- 顧客満足度ナンバーワンの評価で顧客を虜にしたい
- 「一時的な売上の積み上げ」から「長期継続的な収益の積み上げ」に事業転換を図りたい
どうやって実現するかではなく、結果として「どうなっていたい」の具体化が最初です。
このとき、「とてもいまの自分たちにはできそうにない」などといった「現実」は一旦棚上げしてください。「現実」を考えはじめると、それらが足かせとなり、大胆な発想はできなくなってしまいます。「どうなっていたいのか=結果」を純粋に追求することです。「現実」にはやがて向き合うことになりますが、まずはこの段階では理想を求めることが大切です。
- ビジネス・モデルと実現のシナリオを描く
次に、この「あるべき姿」を実現するためのビジネス・モデルやそこに至るシナリオを「思想としてのデジタル技術」を前提に大胆な発想で考えてゆくといいでしょう。例えば、
- これまではコストがかかりすぎてとても考えられなかった
- 高度な熟練が必要で人間にしかできなかった
- 業務の連携や人のつながりが簡単には作れなかった など
かつての非常識はいまでは常識になっていることも少なくありません。「そんなことはできるはずはない」といった思い込みをしないで、テクノロジーのトレンドやデジタル・ビジネスの事例を丁寧に調べ、新しい常識で可能性を探ることです。
例えば、商品を買ってくれたお客様がどのような使い方をしているのかを知るためには、登録されている顧客情報を頼りにアンケートをお願いするか、調査会社に調査を依頼するしか方法がありませんでした。そのため、そういう調査に協力的な一部のサンプルしかデータを集めることができず、不完全なデータから推測するしかなかったのです。
しかし、センサーや通信装置が小型・高性能化して単価も劇的に安くなったこと、さらには誰もがスマートフォンを持ち歩くようになったことで、状況は一変しました。
商品に予めセンサーや通信機能を組み込んでおき、スマートフォンと連携して商品の付加価値を高めるサービスを提供します。そのサービスは使いたい、あるいは使わないと損だと思わせるような魅力的なものでなくてはなりません。そうしておけば、お客様の利用状況がリアルタイムで、しかも完全に把握することができます。
また、なんらかのオンライン・サービスを提供するに当たり、利用者ひとり一人の使い方や趣味嗜好を捉え、それに合わせてメニューを変えてサービスの魅力を高めたい、あるいは、適切なオプション・サービスを提案して収益を増やしたいとしましょう。そのためには、高度な分析機能やその結果の解釈、それに基づく推奨機能などを組み込む必要があります。それには高額なパッケージ・ソフトウエアを購入し、専門のエンジニアを雇わなくてはなりませんし、そんな仕組みを自ら開発しなければなりませんでした。これにはなかなかの覚悟が必要です。
しかし、いまではこのようなことをやってくれる人工知能サービスがクラウドから提供されています。しかも使った分だけ支払う従量課金型のサービスですから、先行投資リスクもありません。これを自社のサービスに組み込むこともできる時代になりました。
もちろんそれを使いこなすスキルは必要ですが、技術的難しさは軽減され業務のプロフェッショナルであっても、ちょっと勉強すれば使えるようなサービスも登場しています。
こんなことは、数年前までは非常識なことだったかもしれませんが、いまでは十分に実現可能となっています。
このような情報をネットや書籍で調べることもできますが、ベンチャー企業や大学などとの共同研究、優れた技術やアイデアを集めるイベントの開催やコミュニティーへの参加など、感度を高く最新の事情に触れ、知恵や知識を持つ人たちとつながっておく取り組みも効果的です。事実、IoTやFinTech、人工知能などの分野では、大企業とベンチャー企業、大学などが一緒になってコンソーシアムを立ち上げる例が増えています。
ステップ2:作戦(Operation)
次の段階として「仕組みとしてのデジタル技術」を練り上げることです。どのような手順で、どのような手続きを行い、どのようなやり方で結果を出すか。そんなビジネス・プロセスや業務手順を明確にして、それを実現するために最良の手立てを考えてゆきます。
ここでもデジタル技術の可能性を追求することです。例えば、
- スマートフォンで写真を撮れば自動的に報告書のひな形が作成され、進捗の予実についても自動的にアップデートされる
- 機械の操作を音声の指示だけで行い、関係者への連絡や通知も音声だけで行い、必要とあればそれを文章にもしてくれる
- データを入力すれば、そのデータの内容を分析し、自動的に最適な図表を作成してくれる
これらのことは既に実現可能です。このようなデジタル技術のできることを前提に仕組みを作れば、仕事の効率や精度を飛躍的に高めることができるはずです。
ステップ3:戦術(Tactics)
次は「道具としてのデジタル技術」の使い方です。例えば、
- どのタブレット端末はコストパフォーマンスが高いか
- どのパッケージ・ソフトウエアが最適か
- どの開発ツールを使えば開発の生産性を高かめられるか など
これから行おうとしている「作戦」にふさわしい手段として最適なものはどれか、また、それを使えるようにするための手順や使いこなすためのスキルをどのように身につければいいのかをデジタル技術の専門家である情報システム部門やデジタル技術ベンダーに提案を求めるとよいでしょう。
注意すべきは、実績や経験にこだわり新しいことを躊躇する保守的な人たちの存在です。「失敗を許さない減点文化」の企業には、このような人たちも少なくありません。しかし、これまでも度々申し上げてきたとおり、デジタル技術の進化は日々常識を塗り替えています。その前提に立ち、その時々の新しい常識で「道具としてのデジタル技術」の選択肢を模索しなければ、成果も制約されてしまいます。だからこそ、事業に責任を持つ経営者や事業部門の人たちが、デジタル技術の可能性と限界を正しく理解し、試行錯誤での取り組みを許容する態度を持たなくてはなりません。そんな文化を築いてゆくことも、これからのビジネスを創りあげるためには必要な態度と言えるでしょう。
具体的にどこを狙えばいいのか?
心構えや進め方は分かりました。では、どのような点に着目し、ビジネスのアイデアを組み立ててゆけばいいのでしょうか。
市場拡大の加速度に着目する
2009年、インターネットにつながっていたモノは25億個あったとされていますが、2015年には180億個に、そして2020年には500億個に達するとされています。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつつあります。
急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く、その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易なことではありません。また、そこで使われている様々な技術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度がありますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな差を生みだす市場でもあるのです。
新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめいています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく、先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられるかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか得られません。
いまは規模が小さくても加速度のある市場にいち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客様も競合他社も未熟です。だからこそ、デジタル技術の動向を見据えて、自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たちを巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場でのイニシアティブを確保することができるのです。
「きっと誰かがやる」ことに着目する
建設工事自動化サービス「スマートコンストラクション」を提供しているコマツは、ブルドーザーやパワーショベルなどの建設機械を作り販売している会社でもあります。そのコマツが自社の製品を販売せずサービスとしてお客様に提供することは自分たちの本業の足を引っ張ることになるのではないかと、コマツの事業責任者に尋ねたことがあります。すると彼は次のように話してくださいました。
「いずれ同じようなことを他の会社もやり始めるでしょう。ならば、他社がはじめる前に自分たちがはじめて、いち早くノウハウを蓄積し他社に先行することが得策だと考えたのです。」
コマツはいま現在この分野では他社の追従を許さない圧倒的な競争優位を築いています。また、少子高齢化が進み建設労働者が確保できない時代を迎えつつある一方で、建設需要は拡大しており、そんな需要に対応するためにもこのような取り組みが必要だともおっしゃっていました。まさにそんな市場の課題を先取りすることで需要は拡大し、先行して実績とノウハウを積み重ねられているようです。
誰かがやるならまずは自分たちが一歩先んじてイニシアティブを確保することはビジネスを成功に導く基本と言えるでしょう。
汎用目的技術に着目する
歴史を振り返れば、経済発展の原動力となり社会構造の変化に、新しい技術の登場は大きな役割を果たしてきました。しかし、全ての技術が等しく同様の役割を果たしたわけではありません。「様々な分野で広く適用可能な技術」が、その役割を果たしてきました。このような技術は「汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)」と呼ばれています。
例えば、18世紀後半~19世紀中期の第1次産業革命を支えた蒸気機関は、ものづくりばかりでなく鉄道や船舶にも用途が拡がり、経済や社会の仕組みを大きく変えてゆきました。また19世紀後半~20世紀初頭における第2次産業革命を支えた内燃機関(エンジン)や電力もまた社会の隅々に行き渡り、いまでも私たちの社会や生活を支える主要な技術として広く使われています。このような技術がGPTです。
これら以外にも、1940年代に登場するコンピューター、1990年代に普及が始まるインターネットなども私たちの生活や社会に浸透し、その活動に様々な影響や変化を与えてきたGPTと考えることができます。
次に来るGPTは「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」かもしれません。AIは既に特別な存在ではなく、様々なところに使われはじめています。例えば、機械翻訳や音声による検索、ショッピング・サイトでの商品の紹介やコールセンターでのお問い合わせに最適な回答を推奨する機能など、私たちの日常には既に多くのAIが使われています。また、医療現場での診断支援や自動運転自動車の登場は、AIのさらなる可能性を実感させてくれます。
このようにAIは私たちの日常の様々な分野へ広く適用可能な技術として普及しつつあり、GPTとしての要件を満たしているものと考えることができます。
両者は共にGPTのような汎用技術やそれを改良した応用技術を組み合わせた仕組みです。IoTを例にとれば、データを収拾するセンサー技術、コンピューターや電子機器を小型化する半導体技術、集めたデータをインターネットに送り出す通信技術、そのデータを解析し規則性やルールを見つけ出す人工知能技術などの組合せであり、それらを駆使して様々な価値を生みだそうという取り組みです。その実用性は高く、市場の成長性も大いに期待されている分野であることは間違えありません。しかし、それをひとつの技術領域としてGPTに括ってしまうのは少し乱暴なような気がしています。
いずれにせよ社会や経済の変革をGPTとその応用技術が生みだすとすれば、その動向に着目することで、この先にどのような未来が拡がっているかを予測することができます。そして、そんなGPTにビジネスの軸足をのせておけば、様々なビジネス分野への応用が利くこともまた事実です。そんな視点から「商品としてのデジタル技術」の事業領域を考えてみるといいかもしれません。
デジタル技術を味方につけたものが生き残る時代へ
デジタル技術はこれまでの日常や社会の常識を変えつつあります。そんなデジタル技術を「敵だと退ける」のか「味方にする」のか、あなたはどちらを選ばれるでしょうか。
歴史を振り返れば、変化のなかった時代などありませんでした。その変化を見極め、その波をうまく乗り継いできた人たちが生き残ってきたのです。
デジタル技術がかわる大きな変化とは、次のようなことです。
- 1960年代:コンピューターの商用利用により大規模な計算業務やルーチンワークが大幅に効率化・自動化される。
- 1980年代:メインフレームやホスト・コンピューターと言われる大型コンピューターの時代からミニコン、オフコン、パソコンといった小型コンピューターへと移行し、利用者の裾野が拡大する。
- 1990年代:インターネットの登場により地域や企業を超えたビジネスや人のつながり、協調・連携ができるようになる。
デジタル技術はそれぞれの時代の常識を変えてきました。2000年代に入ると、デジタル技術が常識を変える出来事が幾重にも折り重なり、爆発的な変化を生みだしています。例えば、次のようなことだ。
- デジタル技術の「使い方」が変わる:クラウドの登場によりコンピューターの購入やシステムの開発といった手段に大金を払うことなく、様々なビジネス価値をサービスとして直接を手に入れることができるようになった。
- デジタル技術の「所在」が変わる:スマートフォンや家電製品、自動車や住宅などにセンサーやコンピューターが組み込まれ、それらがインターネットとつながり、現実世界のあらゆる出来事がデジタル・データとして捉えられるようになろうとしている。また、インターネットの先には数百万台とも言われコンピューターが「クラウド」として存在し、私たちの日常やビジネスと深く関わっている。
- デジタル技術により「人間の役割」が変わる:人工知能やロボットの進化は、「人間にしかできなかったこと」を機械に置き換え、「人間にはできなかったこと」を実現してくれる。人間は、これまでの役割を失い、新たな役割を果たしてゆかなければならない。
このような出来事が同時進行で起こり、しかも爆発的なスピードで変化しているのです。その理由は、クラウドやインターネットの登場による「失敗コストの激減」と「オープン化」です。
安いコストでコンピューターやネットワークを使えることで「失敗コスト」が激減し、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返すことができるようになりました。失敗の数が増えれば、成功の実数は増えてゆきます。また、オープンにデータやソフトウェアが共有される時代となり、他人の経験や知恵を利用してさらにそれを積み上げてゆくことで、イノベーションが起こりやすくなりました。それが、いまの爆発的な変化を生みだし、常識を変える原動力となっています。
いつの時代もテクノロジーはニーズがあるから世の中に受け入れられ、定着してきました。これまでに無かったまったく新しいテクノロジーが登場しても、時代のニーズに受け入れられなければ、やがては忘れ去られてゆきます。ですから、いま話題のデジタル技術の言葉やその周辺で起こっている出来事を理解しようと思うなら、それがどういうニーズと結びついているのかを考え、見極めるように努めることです。そうすれば、その意味や価値を理解できるはずです。さらに、自分たちの直面する現実の課題やニーズと結びつけ、さて、これを解決できる最適なテクノロジーはどれだろうかと研究してみてはどうでしょう。デジタル技術はもっと身近になるはずです。
変化はこれからも続きます。これに向き合い続けるためには、立ち止まることなく、時代のニーズとデジタル技術との係わり方を模索し、試行錯誤を繰り返すことです。そんな努力を続ければ、きっとあなたはデジタル技術を味方にすることができるようになります。