お客様のニーズや課題を明らかにし、様々な手段を組み合わせて、その解決策を提供する「ソリューション営業」は、もはや限界を迎えつつあります。
ソリューション営業は、お客様にとって未知の解決策、あるいは、想定外の解決策を提示することができて、はじめてその本領を発揮します。しかし、「ソリューション」がパターン化し、だれもが同じ「ソリューション」を提案できる時代になり、ソリューションで差別化することが容易なことではなくなりました。
また、お客様が、ソリューション営業の競合相手になることも増えつつあります。お客様がITを武器に新たなビジネス・モデルを組み立て、競争優位を創りあげようとしています。お客様は自分の業務の専門家です。その知見を土台に、内製化に取り組み、ITとビジネスの一体化を図ろうとしているのです。言うなれば、お客様自身がソリューションの専門家になろうとしているのです。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、経営戦略や事業戦略とITの一体化を志向します。ITに関わる支出を事業予算に組み入れ、内製化の範囲を拡大しつつあります。これまで情報システム部門が担っていた仕事も、クラウド化や自動化の発展を支えに事業部門が引き受け、これまでにも増して経営者や事業部門がITに関わる予算の決定に影響力を持ちつつあります。
かつてはユニークな「ソリューション」であっても、クラウドやOSSの普及で、他社が同様の「ソリューション」を提供するスピードは加速しています。「ソリューション」のコモディティ化が加速する時代を迎えたと言えるでしょう。だれもが同じようなソリューションしか提案できないとすれば、お客様は、使えそうなソフトウエアやサービス、作業者の価格や技術力を値踏みし、自分たちにとって最適なベンダーを選択すればいいだけの話です。プロダクト営業が抱える課題と何も変わりません。
もはや、「お客様の課題やニーズ」を起点にした「ソリューション営業」では、ビジネスの差別化は難しく、営業としての存在価値は稀薄なものになります。ソリューション営業で競争力を生みだすことは、限界を迎えています。次のステージに移らなければ、営業はその役割を果たせなくなります。そんな次のステージが「提言営業」です。
お客様にとって「デジタル」は、自分たちの既存の事業を破壊する脅威であり、この脅威に立ち向かう期待でもあります。しかし、この変化にどう向き合い対処すればいいのか分からないで困っています。つまり、漠然とした脅威と不安はあっても、何が課題かを明確にできず、テーマも見いだせないで困っています。
そんな、お客様に「課題やテーマを教えていただければ、最適なソリューションを提供します」と訴えても、お客様は困ってしまうでしょう。いや、「何言っているのですか?なんて非常識な!!」と、一気に信頼を失ってしまうでしょう。
ならば、お客様の「あるべき姿」を起点にしてみてはどうでしょうか。つまり、お客様の「求める要求」に応えることではなく、お客様の「求める要求」そのものを生みだすことにかかわってゆくことです。つまり、「何をすればいいのかをお客様に提言する」ことからはじめるのです。
お客様の事業や経営について、デジタルを前提に再定義し、お客様の「あるべき姿」を提言することからはじめるのです。そして、「なるほど!」と感じてもらえる提言ができれば、お客様の心を掴むことができます。お客様の脅威と期待を包み込む靄(もや)を全て吹き払うことができなくても、一陣の風を送り込むみ、その隙間からすこしでも未来を見通すことができれば、議論や対話のきっかけが生まれます。その議論や対話を深めれば、自ずと課題は明らかとなり、取り組むべきテーマも見えてきます。それが、案件獲得につながるのです。
もちろん簡単なことではありません。デクノロジーのトレンドを見極める目利き力、わかりやすく伝える説明力、議論を深めテーマに導く対話力など、提言営業に求められる能力は、ソリューション営業と同じではありません。しかし、ソリューション営業では役割を果たせないのであれば、営業としての役割を再定義しなくてはなりません。
AIによって置き換えられる仕事の上位に「営業」は位置付けられています。しかし、それは、お客様の「求める要求」に応えることを生業としてきた従来型の「営業」です。何を知りたいかをインプットすれば、その答えを即座に教えてくれるGoogleの検索に、人間はかなわないと同じです。しかし、自分が何を知りたいのかをGoogleで検索しても、見つけることはできません。
「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
“これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』”の中で、ケビン・ケリーが述べた言葉です。
「提言営業」に求められる能力は、まさに「よりよい質問」を生みだす能力です。これからのテクノロジーの進化を俯瞰し、お客様の事業や経営に思いを馳せ、お客様の向きあうべき課題や、取り組むべきテーマを教えてあげる教師としての役割を果たすことが、求められるのです。
「提言営業」の営業活動は、お客様について、お客様以上にビジネスや業界、テクノロジーについて考察し、お客様と一緒になって変革のビジョンを創り、そのための課題を整理し、解決策を創り出さなくてはなりません。そしてお客様から、新しい気付きを引き出し、お客様自身が自らのビジョンに確信が持てるように支援できなくてはなりません。言葉を換えれば、「お客様との共創をプロデュースする」営業です。そこに役割を果たすことができて、営業は、お客様にとって存在価値を持つのです。
デジタル・トランスフォーメーションは、ビジネスとITの一体化を推し進めようとしています。そんなお客様の取り組みに関わり案件をつかみたければ、「提言営業」が、最も理にかなったスタイルと言えるでしょう。
このような「提言営業」としての活動を行うためには、お客様の中の変革の推進者をカウンターパートとしなければなりません。彼等は、必ずしも役職は高くはないかもしれませんが、変革に人一倍情熱を持ち、リスクを負ってでも推進しようとする存在です。そんな変革の推進者を見分ける方法は、さほど難しくはありません。まず、彼の言動に注意深く耳を傾けることです。
こちらが変革のプロセスやビジョンに関わる提言の機会を求めたとき、社内のキーパーソンを自ら集め、その場を作ってくれる人ならば、紛れもなく変革の推進者です。彼は、自分の能力や役割を理解し、人や組織をつなげ、巻き込むことが変革に重要であることを理解しています。彼が声をかけると、しかるべき立場の人が集まるとすれば、彼には人望があり信頼され期待されていることが分かります。このような変革の推進者をパートナートとして、彼の志や取り組みに貢献することが、「提言営業」としての営業活動です。
次のような発言が相次ぐようでは、たぶん彼は変革の推進者ではありません。
「私は何度も言ったのですが、会社は変わろうとしてくれません。」
「変わらなくちゃいけないことは分かってはいますけど、まずは自分の足下を何とかしなければなりませんからね。」
「変わらなきゃいけないと思っていることも、このままじゃいずれ厳しくなることも分かっています。ただ、私の役割を超える話だし、自分だけでは何ともなりません。上の人が動かなきゃ、やっぱりだめでしょ。」
間違ってはいないし、彼は役割を果たしている人に違いありません。しかし、抵抗に遭っても変革を推進する意志を持っている人ではありません。
プロダクトのコモディティ化が加速し「プロダクト営業」だけでは限界になりました。そこで、お客様個別の課題を起点に解決策の組合せを提供する「ソリューション営業」が注目されるようになりました。そのソリューションのコモディティ化が急速に進みつつあるいま、新たな価値に営業力の源泉を求めなくてはならなくなりました。それが、「提言営業」です。
「DX」や「共創」という看板を掲げるのであれば、まずは、その入口である「提言営業」ができなくてはならないでしょう。