「うちの会社で使えるのは、オンプレミスのSkypeだけです。これでオンライン研修をお願いできませんか。」
ある中堅企業からのご依頼で、受講者は100名を超えるという。しかも、VPN経由で、シンクライアント接続しか許可されていない。だから、講義に際しては、自分たちのオフィスに来て、社内のネットワークから自社端末で接続して講義をして欲しいとのことだった。受講者は、自宅からVPNで受講する。
オンライン環境で、講義や講演を行う上で大切なのは、何よりも音声が途切れずクリアに聞こえることだ。動画や画面共有もスムーズでなくては、受講者のストレスは溜まる。内容よりも、そちらが気になってしまい、集中できない。
コロナ禍で在宅勤務が一気に増えて、VPNへの接続もなかなかできず、数人のSkypeでの打ち合わせでさえ画面はカクカク、音は途切れるという状況で、100名を超える接続は、現実的ではない。その旨お伝えをし、ZoomやTeamsでできるようにして欲しいとお願いをしたところ、次のような言葉が返ってきた。
「うちの情報システム部門は、ダメなんですよ。言っても無理です。本社も多分かっているはずなのですが、対応が遅くてどうしようもありません。だから、このやり方で何とかお願いできないでしょうか。」
自分たちの担当外、どうせ頼んでもムダ、だから「決まり」のやり方でやって欲しい。そういう話しである。講義の主催者には、コロナ禍を機に社内の意識を変革して、ビジネスのデジタル化やDXの機運を高めるようにとの経営側からの要請があったそうだ。だから、そのきっかけ作りために何としてでも、この講義は実施したいという。ただ、流石にこれでは、納得頂ける講義は難しいと、いまは一旦お断りしている。
ある大手企業で、400名の新入社員を対象にオンライン研修を行うことになった。しかし、社内で普段使っているシステムでは、品質を確保できないし、運営も難しい。そこで、研修の責任者が、自ら様々なツールを試し、Zoomで講義を行い、Teamsで質疑応答ができるやり方が一番良いという結論に達した。そして、それぞれのサービス事業者にも自ら直接交渉し協力を求め、情報システム部門や社内の関連部署にも協力を依頼、粘り強く説得して、思い描いた研修環境を準備することができた。もちろん、研修は何の支障もなく、受講者も十分に満足をしてくれたようだ。
昨今、DXや事業改革、働き方改革をテーマに講義や講演のご依頼を頂く機会が増えている。DXとは何か、ビジネスにどう結びつけるのか、そのために何をしなくてはならないのか。
確かに、受講者は、私の話に納得し、危機感を抱き、何とかしなければと心を新たにしてくれる人たちいる。しかし、それがなかなか実践につながらないという。
「うちの情報システム部門が、本社が、やってくれないからダメなんだ。」
その通りであろう。だからこそ、それを自らの行動で変えてゆくしかない。声を上げても、行動を起こしても変わらないなら、そんな会社は辞めてしまったほうがいい。しかし、それもしないままに、仕方がない、だからうちの会社はダメなんだと言う。実践につながらないのは、このような事情があるのかも知れない。
「どうすれば、経営者の意識を変えられるでしょうか?」
改革に熱心な若手や中堅の社員から、こんな相談を請けることがある。
「どうすれば、現場に危機感を持たせることができるでしょうか?」
改革を実現したい経営者から、こんな相談を請けることがある。
自ら行動を起こすことなく、お互いに相手に期待している企業の残念な姿だ。このような状況に陥る本質的な原因は、ハイコンテクストな日本の文化にあるのかもしれない。
アメリカの文化人類学者であるエドワード.T.ホールは「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」の存在を指摘した。
ハイコンテクスト文化とは「空気を読む文化」と言い換えることができる。前提となるお互いの文脈(言語や価値観、考え方など)が非常に近い状態のこと。コミュニケーションの際に互いに相手の意図を察し合うことで、「以心伝心」でなんとなく通じてしまう環境や状況のことだ。このような文化では、伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう。
一方、ローコンテクスト文化とは、「言葉で伝え合う文化」と言い換えることができるだろう。前提となる文脈や共通の価値観が少ない状態のこと。コミュニケーションの際に、言語で表現された内容が高い価値を持ち、思考力や表現力、論理的な説明能力やディベート力といった能力が重視される。
日本は、典型的な「ハイコンテクスト文化」であり、欧米は「ローコンテクスト文化」であると、彼は指摘している。冒頭の講義の事例でも、前者企業の場合は、長年同じ会社で事務方を務めてきた方が担当であったが、後者は、外資系の経験も長く海外駐在の経験もある方だった。そんなことも、この違いに表れているのかも知れない。
変革とは、相手に期待し、調整を積み上げても、前には進まない。本人の強い思いこみとリーダーシップが不可欠だ。「あるべき姿」を描き、なんとしてもそれを実現するという強い思いで、まわりを巻き込むことが、変革につながる。
会社全体をどうにかしようというのは、なかなか荷が重いかも知れないが、まずは目の前にある自分の職責を果たすために、何をすべきかを追求し、リーダーシップを発揮すべきだろう。改革が進まないのは、だれかの責任ではない。自分がリーダシップを発揮できないからだということに気付くべきだ。それは、担当者であろうが、経営者であろうが、同じことだ。
いまのような変化の早い時代にあっては、既存の常識はあっという間に陳腐化する。当然、認識のギャップは、まだら模様になって、社内に拡がっている。まさに、お互いにわかり合えないローコンテクストな社内文化となっている。それを従来と同じやり方、つまり、ハイコンテクスト文化のやり方で対処しようとすることは難しい。だから、調整ではなくリーダーシップ、つまり、積極的な言語と行動により、物事をすすめてゆくことが必要になるのだと思う。
コロナ禍により、DXをすすめなくてはとの機運は高まっている。しかし、DXとは「デジタルを使うこと」ではない。「企業の文化を変えること」だ。デジタルはそのための手段である。では、だれが文化を変えるのだろうか。もちろん、経営者がその先陣を切るべきは言うまでもない。しかし、それを自分事と捉え、自分の職責において、リーダーシップを発揮できなければ、あるいは、そういう人たちが増え、そうすることが当たり前の企業風土にならなければ、DXはただのデジタル化の取り組みになってしまう。
「週に2~3日、(勤務日の)50%程度を在宅勤務にする」、「雇用形態をジョブ型に移行する」、「在宅勤務に必要な費用は会社が負担する」
日立製作所は、5月26日にこのような発表をした。
「2022年度末までにオフィスの規模を半減する」、「通勤という概念をなくす」、「社員が生活と仕事の時間配分を自ら考えられるようにする」
富士通は、7月6日にこのような発表をした。
世間は興味津々である。ほんとうにそんなことができるのか、どうせ中途半端におわるのではない、本当にできたら凄い、などと、世間は無責任に批評する。このような発表は、経営者にしかできないことだ。現場の当事者は、これを仕事として取り組まなければならないし、世間の目も気になるだろう。そういうプレッシャーを社内に与えることも、このプレスリリースの意図だろう。まさに、ローコンテクストであることを前提としたやり方である。
経営者は言葉でビジョンを示し、方向を指し示す。その取り組みにスポンサーシップを発揮することを約束する。しかし、実践のリーダーシップは、現場の役割だ。この両者の思いが一致して、始めて成果が生まれるのだろ。しかし、それを受身で捉え、会社や経営者の意図を忖度し、自分なりに解釈し、都合の良いように再定義し直すといったハイコンテクストなやり方では、きっとうまくいかないだろう。
社会が大きく変わろうとしているいま、変革の「のろし」を上げる経営者とリーダーシップを発揮する現場がなければ、あっという間に取り残されてしまうことは、疑う余地がない。しかし、何が正解かが分からない。お互いの理解は異なっているかも知れない。そんなローコンテクストな状況を、まずは私たちは受け入れ、それにふさわしい行動をすることが大切なのではないだろうか。
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新入社員研修
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講義・研修パッケージ
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの本質〜Withコロナ時代のデジタル戦略(63ページ)*講義時間:2時間程度
>DXの本質や「共創」戦略について解説します。
【新規】デジタル・トランスフォーメーション時代の最新ITトレンドと「共創」戦略(241ページ)*講義時間:6時間程度
>DXの本質と「共創」戦略を解説するとともに、それを支えるテクノロジーであるクラウド、AI、IoT、アジャイル開発、人材の育成などについて、広範に解説します。
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【改訂】総集編 2020年7月版・最新の資料を反映(2部構成)。
【改訂】ITソリューション塾・プレゼンテーションと講義動画 第34期版に差し替え
>AI / 人工知能
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ビジネス戦略編
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【新規】職場 リモートワークの5段階 p.8
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