「成功の呪縛」、すなわち、あるやり方で成功すると、そのやり方にしがみついて結局は失敗してしまうということですが、そんな呪いにかかってはいないでしょうか。
SI事業者の工数や物販に頼る収益構造が、どれほど脆弱かはいまさら申し上げるまでもありません。しかし、この仕組みを変えるとなると売上や利益が減り、いまの雇用も維持できなくなるとの不安から、具体的な施策を打ち出せない企業もあるはずです。
しかし、若者人口は減少に転じています。かつての成功の前提は崩れてしまったのです。若者の採用で「コストの安い工数」を増やさなければ、売上も利益も拡大できない収益構造は、成り立たなくなるのは時間の問題です。しかも、そういう仕事は3Kという評判が拡がり、ますます若者の採用を難しくします。
一方で、既存社員の高齢化が進めば給料を上げなければならず、黙っていてもコストは増えてゆきます。だからといって、いままでと同じ仕事のままで単金を伸ばす余地はありません。今後、クラウドや自動化が普及すれば、それらとの競合になるので、益々単金を上げることは難しくなってゆくでしょう。
売るべき商品である工数は増やせない、原価は増えてゆく、売値は低く抑えられる。
これは「自然の法則」であり、抗いようがありませんし、「成功の呪縛」にこだわる限りは、この三重苦から逃れることはできません。ならば、何かを犠牲にすることを覚悟して、舵を切り直すしかありません。
株主や金融機関から企業経営者へは、売上も利益も毎年伸ばせというプレッシャーがかかるでしょう。そのプレッシャーをはねのけ、「成長すること」を一旦棚上げし、「生き残ること」すなわち「サスティナビリティ」を優先することを考えてみてはどうでしょう。まずそちらに舵を切り、根本的に戦略や組織、そして人材の再構成を図ってはどうでしょう。
折しも今回のコロナ・ショックは、この現実を否が応でも見せつけられることになるでしょう。常駐・派遣は一時的に減少し、「お客様のところに居ること」が支払いの根拠であるとすれば、売上の減少は避けられません。また、お客様側の仕事も滞りますから新たな業務もなくなります。また、景気低迷に陥ることを見越し、来年度予算の再検討を始めている企業も少なくないようで、新たな投資を手控える企業も増えてくるでしょう。
先週のブログでも指摘しましたが、(実際の順序は逆でしたが)東日本大震災の時のような自粛ムードがただよい、そこにリーマンショックが追い打ちをかけたような様相です。この状態がいつまで続くか分かりませんが、これによって、ビジネスの基軸が大きく変わるのではないかと思っています。
まず、これまでにも増して、クラウドや自動化にIT投資がシフトします。付加価値を産み出さないインフラやプラットフォームは、できるだけ手放し、アプリケーションにリソースをシフトしようという動きです。定常的なランニングコストを抑えながら、変化に俊敏に対応できる企業へと変わるためです。そのための手段やサービス環境はかつてなく充実しており、今回のコロナ・ショックでスイッチを入れる企業が増えるのではないでしょうか。このような視点で投資の選別が行われれば、旧態依然としたやり方しかできない企業は、淘汰されることになります。
また、人材の流動性が一気に高まるだろうと思っています。IT業界の流動性は、いまでも高い状況ですが、これがさらに加速するでしょう。なぜなら、このコロナ・ショックによって、業績が落ちこむ企業も増えることから、退職奨励を含む雇用の調整が図れるのが、その理由のひとつです。
また、社員への対応というか、社員の幸せをどこまで考えているかが、かなり顕著に見えてくるだろうからです。例えば、政府の自粛勧告が出る前から、いちはやく早くリモートワークに切り替えた企業、小学校の休校で出社できなくなる親のために、子ども同伴での出社をいち早く認め、会社の会議室をプレイルームとして開放する会社など、社員の健康や幸せに配慮した施策をいち早く打ち出した企業があります。もともと、出社することを前提にしていない企業や、普段から当たり前に子どもを連れてきている会社もあります。その一方で、「出社しなければならない」や「客先常駐を辞められない」、あるいは「リモートワークができる仕組みや制度がない」企業もあるわけで、この格差を感じた人たち、特に優秀な若者たちが、後者のような企業から流出してゆくことは、想像に難くありません。
政府は、コロナ・ショック対策で、様々な助成策や制度の新設に取り組むようですが、これによって一時的にいまの状況を乗り越えられたとしても、「自然の法則」は変えることはできず、一旦入ったスイッチは、変化を促すことになるはずです。
これを機に、腹をくくって「成功の呪縛」から自らを解き放ち、新たな成功の筋道を描くべきでしょう。
ただ、こういうことを申し上げると必ず次のような「できない理由」が返ってきます。
- いまでも利益率が低いのに、新しい取り組みに人材を割けば人件費がまかなえなくなる。
- 新しいコトに取り組むべきは分かるが、いつ収益に結びつくか分からないのでリスクが高い。
- 能力のある人材はうちにはいない。
本当にそうでしょうか。
いまでも利益率が低いのに、新しい取り組みに人材を割けば人件費もまかなえなくなる。
少子高齢化により、何もしなくても工数では成長は期待できません。原価率も上がり益々利益率は低下します。それに対処しようと給与や賞与の抑制や、見せかけの経費削減に手を付ければ、現場のモチベーションは下がり、稼げる優秀な人材は去って行きます。それを食い止めるためにも、優秀な人材に新しい取り組みをさせてみることです。本業の片手間のボラティア活動ではなく、予算を付け、体制を整え、これからの事業の成果で業績評価される本業として責任を与えることです。そのために、業績の評価基準を多様化させることです。
新しいコトに取り組むべきは分かるが、いつ収益に結びつくか分からないのでリスクが高い。
だからこそ、いち早く取り組み、どこが成果をあげやすいか、どこに制約があるかのノウハウをいち早くものにすべきです。それが差別化の武器となります。また先進的なテクノロジーに取り組むことも避けられません。ただ、テクノロジーの発展は加速しており、わずかな遅れが圧倒的な差となってしまうでしょう。もし経営者や幹部として、テクノロジーの進化についてゆけないのであれば、分かる人に権限を委譲すべきです。もはやテクノロジーが企業存続の鍵を握るといっても過言ではありません。いまであれば、コンテナやマイクロサービス、アジャイル開発やDevOpsといった当たり前について、その価値を語れないのなら、それができる人に仕事を任せるべきです。
能力のある人材はうちにはいない。
経営者や管理者が足を引っ張ってはいないでしょうか。やらせてもみないで、いないと断言できるのでしょうか。SNS禁止、外部のコミュニティや勉強会に参加することにも制約を課し、若い人材が新しいことに関わろうとするきっかけを摘んではいないでしょうか。もはやそんなことをやっている時代ではないのです。もっと社員にチャンスを与えることです。
テクノロジーの進化は速く、多岐にわたっています。それらを全て社員だけでまかなうことなどできません。だから社外に出して、人のつながりを拡げさせることです。「人材がいない」と嘆く前に、オープンな取り組みを推し進め、人材の可能性を高めてゆくことです。そんな覚悟と行動が、現場のモチベーションを高め、生き残りを主導できる人材を育てます。
また、年配の人たちは、「まだ若いから」と彼らの未熟を指摘し、大切なことなど任せられないと断じます。しかし、世の中の常識に鑑みれば、そういう年配者こそ時代遅れで、常識を知らず、大切なことを任すべきではないのです。それが証拠に、成長を加速させている企業の多くは、20代や30代の若者たちが起業しています。そういう感性を企業に取り込むためには、年齢に関わりなく感性や能力で責任を与え、経営を預ける覚悟が必要ではないかと思います。
経営資源を思い切ってシフトしてはどうでしょう。一時的な売上や利益の減少にはなるかもしれませんが、いち早く取り組めば、成長の軌道もまた、いち早く取り戻すことができるはずです。
躊躇している余裕はありません。「自然の法則」が変わらない以上、それに従い、生存を模索する以外、選択肢はないようにおもいます。
「コレ1枚」シリーズの最新版 第2版を全面改訂
新しく、分かりやすく、かっこよく作り直しました
デジタル・トランスフォーメーション、ディープラーニング、モノのサービス化、MaaS、ブロックチェーン、量子コンピュータ、サーバーレス/FaaS、アジャイル開発とDevOps、マイクロサービス、コンテナなどなど 最新のキーワードをコレ1枚で解説
144ページのパワーポイントをロイヤリティフリーで差し上げます
デジタルってなぁに、何が変わるの、どうすればいいの?そんな問いにも簡潔な説明でお答えしています。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
【3月度のコンテンツを更新しました】
======
・DX関連のプレゼンテーションを大幅に拡充
・ITソリューション塾・第33期(現在開催中)のプレゼンテーションと講義動画を更新
======
【改訂】総集編 2019年3月版・最新の資料を反映しました。
【改訂】ITソリューション塾・プレゼンテーションと講義動画
>デジタル・トランスフォーメーション
>ソフトウエア化するインフラとクラウド
>IoT
>AI
======
ビジネス戦略編
【新規】デジタルとフィジカル p.5
【新規】Purpose:不確実な社会でもぶれることのない価値の根源 p.22
【新規】DXの実装 p.37
【新規】DXの鍵を握る テクノロジー・トライアングル p.38
【新規】DXの実践 p.41
【新規】ビジネス構造の転換 p.42
【新規】エコシステム/プラットフォームを支える社会環境 p.74
【新規】「活動生活」の3分類 p.278
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】つながることが前提の社会やビジネス p.269
【新規】回線とサービスの関係 p.268
クラウド・コンピューティング編
【改訂】銀行の勘定系 クラウド化が拡大 p.31
【新規】政府の基盤システム Amazonへ発注 p.33
【新規】AWS Outposts の仕組み p.108
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】モノのサービス化に至る歴史的変遷 p.44
【新規】ソフトウェアが主役の時代 p.45
【新規】ビジネス・モデルの変革 p.46
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【改訂】人工知能の2つの方向性 p.12
【改訂】AIと人間の役割分担 p.22
【改訂】知能・身体・外的環境とAI p.83
【新規】管理職の仕事の7割をAIが代替・Gartnerが2024年を予測 p.87
下記につきましては、変更はありません。
開発と運用編
サービス&アプリケーション・基本編
ITの歴史と最新のトレンド編
テクノロジー・トピックス編