デジタル・トランスフォーメーションの本質と共創戦略
こんなテーマでの講演を、大手SI事業者からご依頼を頂きました。受講者は、マネージメントや経営層で、「働き方改革」とも絡めて話をして欲しいとのことでした。
講演当日、お客様のオフィスが入るビルに伺ったところ、受付で荷物検査があり、持ち込みPCがある場合は、申請書にシリアル番号を記載し、受付の方がこれを確認するという段取りになっていました。私はその指示に従って手続きを済ませて何の問題もなく会場にご案内頂いたのですが、同時に持ち込んだiPadについては何の確認もされず、当然ながらポケットに入っていたiPhoneも確認をされることはありませんでした。
以前、このお客様で早朝の打ち合わせで伺ったときは、まだ受付が開いていなかったので、守衛室に回されたのですが、そこではPCの確認さえもありませんでした。
そんなお客様での講演の中で、こんな話をさせて頂きました。
「デジタル・トランスフォーメーションとはデジタル・テクノロジーを駆使し、変化に俊敏に対応できる企業文化へと変革することです。」
そして、この会社で経験したことをご紹介した後、このような話をさせて頂きました。
「AIやIoTに取り組むのは、大変けっこうなことですが、まずはこのような形骸化した習慣を洗い出し、辞めてしまうことから始められては如何でしょう。そうすれば、余計な仕事はなくなり、時短もコスト削減もできるはずです。」
その後、この会社でどのような取り組みが始まったかは知りませんが、表向きは半年たっても何も変わっていないようです。「変化に俊敏に対応できる企業文化」への道のりは、遠いようです。そんな会社のホームページには、「お客様のDXに貢献する」と意気込みが語られているわけで、内実を少しばかり垣間見てしまったものとしては、なんとも複雑な想いです。
いろいろと講演のご依頼を頂くのですが、案内のチラシを作ったので、確認して欲しいと、メールを頂きます。その時、暗号化されたZipファイルが添付されてきて、その後は別メールの平文でパスワードが送られてくることがあります。そもそも、講演の案内チラシがセキュアな情報であるはずがありません。しかも、平文で同じメールアドレスに送られてくるパスワードでセキュリティが担保されるのでしょうか。しかも、受け取る側も余計な手間がかかってしまいます。
ある方が誤送信したときに、それに気がついてパスワードを送らなければ、誤送信対策としては一定の効果があるとおっしゃっていました。しかし、メールに圧縮・暗号化前のオリジナルのファイルを添付して送信すると自動的にZipファイル化され、自動的にパスワードを同じメールアドレス送る仕組みを導入している場合は、そんな効果も期待できません。単にシステム資源やネットワークの帯域を無駄遣いしているだけではないのでしょうか。しかも、暗号化されたZipファイルはウイルス・スキャンできませんから、「いつもの方からいつものように」を「なりすまし」たマルウェア感染のZipファイルが送られてしまうと、これは迷惑この上ない話しです。そんな、当たり前のことは考えれば直ぐ分かることなのに、そんな基本的なことさえできていない企業に、「デジタル変革」の相談など、心許なくてできるはずはありません。
あるSI事業者のイベントでデジタル・トランスフォーメーションに絡めてRPAについて話をして欲しいとご相談を頂きました。本当に私でいいのかと念を押したところ是非にとのことで話をさせて頂きました。そこで私は次のような話をさせていだきました。
「RPAの導入は確かに人手によるコピペやキー入力の仕事を劇的に効率化し、ひと月かかっていた仕事を半日にしてくれるかも知れません。しかし、その業務が属人化していて、そこで働いていた人がいなくなってしまうことで、もはや何のために、何をしているのかさえわからないままにブラックボックス化してしまうことはないでしょうか。また、1つの業務プロセスを半日にしても他の業務が今まで通り1ヶ月サイクルで回っているとすれば、会社全体のビジネス・スピードの改善にはつながりません。一時的には人件費の削減にはつながりますが、むしろ業務改善や改革の足かせになってしまうかも知れません。」
RPAを「DXを加速するツール」だと喧伝するのはけっこうなのですが、それをどう使うかを合わせて伝え、RPAを導入する前に業務の改善や改革をすすめ、効果的な対象範囲を絞りこまなければ、むしろRPAはDXの足かせになってしまいます。「変化に俊敏な企業文化への変革」であるはずのDXが、RPAによってブラックボックス化された業務プロセスのおかげで、変革が停滞してしまうことさえあるのです。
何もRPAを悪者にするつもりはありませんが、短期的な目に見える効果だけしか考えず、もっと本質的で根本的な「あるべき姿」を見据えた適切な使い方を考えないでいると、後で苦労することになるので、十分に検討した上で導入した方がいいと申し上げました。
お客様の反応はすこぶる良かったのですが、私に仕事を依頼したSI事業者にしてみれば、期待外れだったかも知れません。後で話を伺うと、そもそもそんなことまで考えてRPAを売ってはいなかったとのことで、これからの売り方を考えるとのことでしたが、さて、どんな施策を打ち出されるのかが楽しみではあります。
クラウドの活用をお客様に積極的にすすめたいというSI事業者の方から、その売り方についてご相談を頂いたことがあります。そこでこちらも資料を作り、Google Driveで共有しようとしたところ、ファイヤーウォールに引っかかって使えないというのです。ならば、Boxはどうか、DropBoxはどうかというと、それも使えないと言うことでした。仕方なく、大きなファイルをメールの添付ファイルで送ったのですが、自社で構築・運用しているメール・サーバーの容量制限に引っかかってしまい送れません。しかたなく、ファイルを容量制限の範囲内に分割して送ることにしました。
打ち合わせをしたいと言うことで、ならば伺う時間が合わないので、zoomでお願いしたいと伝えたところ、「zoomってなんですか?」と言うご連絡と、うちでは社内であればskypeが使えるのですが、外の方とは電話以外はダメなんですということでした。じゃあ進捗の管理はSlackでと申し上げると、それも規制がかかっていてつかえないということでした。
「クラウドの活用をお客様に積極的にすすめたい」とのご相談でしたが、まずは自分たちがクラウド活用を積極的に進めるべきではないかと、苦笑いしてしまいました。
ECRSという言葉があります。これは、業務改善を行う上での順序を示したものです。Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の英語の頭文字からとられたもので、ECRSを適用すれば、改善の効果が大きく、過剰や過小な改善も避けられ、さらに不要なトラブルも最小になることが知られています。
かつて、このやり方がベストだということで、作られた業務プロセスも時代の流れとともに意味を失い、あるいは、テクノロジーの進化とともにもっといい方法があるにもかかわらず、だらだら習慣化したプロセスをそのままに、あるいは習慣化した思考回路をそのままに、DXだ、AIだと大騒ぎするのはいかがなものかと思うのです。
ましてや、上記に紹介したような基本的なことができない企業に、お客様のDXの実現に貢献するなど、恥ずかしいことなのだということに気がついて欲しいと思うのです。
昔の常識を前提にするのではなく、新しい常識を前提にECRSを継続的に実践する。DXの実現に取り組むというのは、このような基本的な取り組みを土台にしなければ、成果をあげることは難しいでしょう。もちろん、ECRS=DXではありませんが、まずは土台がガタガタでは、変革などできるはずはないわけで、まずはしっかりと足下を見ることから始めるべきではと思います。
「WHY」から始めるべきは、いまも昔も変わりません。ところが、そのWHYを突き詰めることなく、DXだ、AIだ、IoTだ、RPAだと「WHAT」や「HOW」に心が奪われ、それが目的となってしまってはいないでしょうか。
「DX大騒ぎ」時代だからこそ、改めて基本に立ち返ってみてはどうでしょう。そうすれば、心からお客様に喜んで頂けるDX戦略やDX事業なるものが、描けるのではないでしょうか。
【募集開始】第33期 ITソリューション塾
遠隔地からもオンラインでご参加いただけます。
- 日程 初回2020年2月4日(火)〜最終回4月18日(水)
- 毎週18:30〜20:30
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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー
【12月度のコンテンツを更新しました】
・総集編の構成を1日研修教材としてそのまま使えるように再構成しました。
・最新・ITソリューション塾・第32期の講義資料と講義の動画(共に一部)を公開しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年12月版・最新の資料を反映しました。
*1日研修で使える程度に、内容を絞り込みました。
パッケージ編
ITソリューション塾(第32期)
【改訂】ビジネス・スピードを加速する開発と運用
動画セミナー・ITソリューション塾(第32期)
【改訂】ビジネス・スピードを加速する開発と運用
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ビジネス戦略編
【新規】変革とは何をすることか p.4
【新規】イノベーションとインベンションの違い p.8
【改訂】デジタル化:デジタイゼーションとデジタライゼーション p.37
【新規】経済政策不確実性指数(EPU)p.38
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.41
【新規】ハイパーコンペティションに対処する適応力 p.42
【新規】価値の重心がシフトする情報システム p.54
【新規】複雑性を排除してイノベーションを加速する p.55
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoT実践の3つの課題 p.74
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】ゼロ・トラスト・ネットワーク 境界型セキュリティの限界 p.110
【新規】ゼロ・トラスト・ネットワーク セキュリティと生産性の両立 p.111
開発と運用編
【改訂】改善の4原則:ECRS p.5
【新規】ITの役割の歴史的変遷 p.8
【新規】アジャイル開発:システム構築からサービスの提供(体制変化) p.11
【新規】仮想マシンとコンテナの稼働率 1/2 p.60
【新規】仮想マシンとコンテナの稼働率 2/2 p.61
【改訂】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.63
【新規】モビリティの高いコンテナ p.65
【新規】モノリシックとマイクロ・サービス p.71
テクノロジー・トピックス編
【新規】急増するAI専用プロセッサ p.62
下記につきましては、変更はありません。
・クラウド・コンピューティング編
・サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
・サービス&アプリケーション・基本編
・ITの歴史と最新のトレンド編