ある経営者からリストラをしたときの話を伺ったことがあります。彼は、我慢に我慢をしてきたのだそうですが、もはや限界となり、まだ余裕があるうちにということで、苦渋の決断をされたそうです。
そのとき、だれを退職させるかを決めるにあたり、次のような3つのランクを設けて、評価をしたのだそうです。
- 3年後にこの会社にいてもらわないと困る人。
- いまはいてもらわないと困る人。
- いまも代替がきき、3年後に期待できない人。
対象にしたのは(3)の方で、その数は2割ほどとなりました。そして、結局は1割ほどの方に退職していただくことになったそうです。
めまぐるしく変化する世の中にあって、ビジネス常識は変わり続けています。もはやこれまでの常識は通用しなくなりました。この流れはこれからも変わることはありません。
リストラをせざるを得なかったこの会社の経営者も、この変化に向き合わざるを得なかったのでしょう。確実に訪れる変化に対処してゆかなければ、3年後の自分たちは生き残れないというのは、経営者ならずとももはや自明の理です。
「自分は、3年後に必要な存在だろうか?」
めまぐるしく世の中が変化する時代、常に自らに問い続けなければならない言葉ではないかと思います。
では、「3年後に必要な存在」とはどういう人材なのでしょうか。
ITが事業の合理化や生産性を支える基盤であるという考え方は、もはや一面でしかありません。ITは事業を差別化し競争力の源泉たる事業価値を生みだす存在として、これまでにも増して重要な経営資源になろうとしています。また、不確実性の高まる社会にあって、先を見通すことができない以上、圧倒的なビジネス・スピードを持たなければ、企業が生き残るのは難しい時代になりました。そのためにはビジネス・プロセスのデジタル化を進め、高速で現場を見える化し、高速で判断し、高速で行動に移すことができるビジネス基盤を手に入れなくてはなりません。
変化に俊敏に対応できる企業文化や体質への変革
デジタル・トランスフォーメーションの本質はここにあります。
もはや「合理化や生産性を支える」ITだけではなく、企業の存続と競争力を維持するためにITを前提として事業活動や経営のあり方を転換しなければ、生き残ることさえ難しい時代になったのです。
こんな時代だからこそ事業会社はITに精通した優秀な人材を求めており、IT業界からの転職需要を拡大させています。しかし、必ずしもそのマッチングはうまくいっていないようです。
その方は、SI事業者でマネージメントを勤める50代の方でした。長年働き、修羅場をくぐり抜け、たき上げのエンジニアとして職歴を積み重ねられてきました。その方の勤めている企業の看板、ビッグ・プロジェクトの経験、資格や肩書きなど申し分もなく、自信を持って面接を請けたそうですが、最後の経営者との面接で落とされたそうです。
「我が社はITを活かして事業の変革を進めたい。そのために、何をすればいいとお考えですか?」
そんな問いかけに、答えられなかったそうです。
「お客様が何をしたいかを聞き、要件をまとめ、それをシステムにすることはやってきました。しかし、何をすべきかと問われると、答えようがありませんでした。もっと、若いときから経営や事業について関心を持ち、勉強すべきだったと思っています。」
いまユーザー企業は、不確実性がますます高まる世の中にあって、このままではまずい、何とかしなければならないと危機感を抱いています。そんな企業が求めている人材は、「何をすればいいのか、何に困っているのかを教えていただければ解決します」という人材ではありません。その企業の未来のあるべき姿を描き、自らがテーマを設定し、問いを立てられる人材です。
このような人材は、ユーザー企業ばかりが求めているのではありません。IT企業もまた、こういう人材がいなければ、お客様に価値を提供できない時代になろうとしています。
そんな人材の価値は社会が評価するものです。どこの大学を出たのか、会社で何をしてきたか、どのような役職にあるかといった肩書きは、外に出てしまえば、何の役にも立ちません。仕事に対するこだわりや姿勢であり、経営や事業、社会についての見識であり、いわばその人の生き様です。それを外に晒しているでしょうか。そして、それは社会から評価されているでしょうか。会社の基準ではなく、社会の基準で、自分は評価されているでしょうか。世の中は、そんな人材を必要としているのです。
IBMに技術理事(Distinguished Engineer/DE)というエグゼクティブ資格があります。IBM DEになるためには、高い技術力があることは当然ですが、外部にどれだけ発信しているかも評価されるそうです。書籍を出しているか、ブログを書いているか、論文を書いているかなどだそうで、社会的評価がなければ、例え技術力があってもその資格には値しないということなのでしょう。こういう制度は、見習うべきかも知れません。
社内の肩書きなど、外に出てしまえば何の価値もありません。外に出て、会社の名前ではなくあなた個人の名前で呼ばれる存在でなければ、社会的な価値があるとは言えません。
もはや、終身雇用にもたれて生きてゆくことはできなくなりました。チャンスを求めて、行き(生き)場所を自分で見つけてこなくてはならない時代になったのです。
「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
“これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』”の中で、ケビン・ケリーはこのように述べています。
IT企業、特にSI事業者について言えば、収益を支えている工数や物販は、AIや自動化に置き換えられてゆきます。与えられたテーマは、やがて機械が解決し実現してくれる時代が来るでしょう。一方で、「何に答えを出すべきか」を決めることは機械にはできません。それができる人材が、求められているのです。
デジタルはイノベーションを加速し、人類の進化もまた加速する。だから私たちは、本質を捉えること、人格を高めること、創造力を磨くことが、ますます大切になってゆくのではないか?
ユヴァル・ノア・ハラリの著「ホモデウス」の一節です。テクノロジーの進化は人間にしかできないことを人間に求め、人間と機械の役割分担をはっきりとさせてゆくでしょう。だからこそ、そのテクノロジーを使いこなすための問いやテーマを作る力が求められています。
そういう人材こそが、社会的に評価される存在であり、企業が求めている「3年後に必要とされる存在」ということになるのでしょう。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【10月度のコンテンツを更新しました】
・”デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略”を改訂しました。
・RPAプレゼンテーションを改訂しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年10月版・最新の資料を反映しました。
パッケージ編
【新規】デジタル・トランスフォーメーション ビジネスガイド(PDF版)
【新規】デジタル・トランスフォーメーション プレゼンテーション
ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.12
【新規】DXによってもたらせる2つの力 p.22
【新規】競争環境の変化とDX p.34
【新規】前提となるITビジネスの環境変化(〜5年)p.36
【新規】デジタル・トランスフォーメーションのBefore/After p.54
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの実践 p.56
【新規】共創ビジネスの実践 p.58
【新規】DX事業の類型 p.77
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】「自動化」と「自律化」の違い p.32
【新規】機械翻訳の現状とそのプロセス p.85
【新規】機械翻訳の限界 p.86
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】ゼロ・トラスト・セキュリティ p.110
【新規】Microsoft 365 Security Center での対応 p.111
【新規】ユーザーに意識させない・負担をかけないセキュリティ p.112
【新規】ローカル5G p.254
テクノロジー・トピックス編
【改訂】RPAプレゼンテーション
下記につきましては、変更はありません。
・サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
・クラウド・コンピューティング編
・サービス&アプリケーション・基本編
・開発と運用編
・ITの歴史と最新のトレンド編