「DevOpsの研修をしたいのですが、お願いできますか?」
「それでは、受講者がGitHubを使える環境をご用意ください。」
「すいません、うちでは”そういうクラウド”が使えないんです。」
Gmailもダメ、DropBoxもダメ、Slackもダメ、とにかくいろいろと”そういうクラウド”がダメなのだそうです。それでいて、クラウド・ビジネスを拡大したいというのですから、さて、どうしたものかと頭を抱えてしまいます。
「社内にサーバーがなく全てSaaSのツールを利用しており、インターネットさえ繋がればどこでも仕事ができる」
サーバーワークスのエンジニア氏が、自分のパソコンが壊れてしまい、代替機を使って何も困ることなく仕事を続けられた経験をブログに投稿しています。
そして定刻から普段通り、珈琲でも飲みながら
おもむろにGoogleカレンダーで1週間のスケジュールを確認し
おもむろに社内のSlackを確認して必要な対応やらリプライを実施し
おもむろにAWS検証環境を触りながらBacklogで必要な課題対応等を実施し
おもむろにGoogle Hangouts Meetで同じ課の方とリモートMTG(東京-大阪)を実施し
仕事がひと段落したところで、「あれ?そういえばこれ代替機だよな?」ということに気がつきました。
普段からサーバーワークスにいるせいでのかもしれないですが、あまりにもスムーズでストレスなく週明けから普段通り業務が出来ているというこの凄さへの気づきが後からジワジワと追いついてきた感じです。
むかしむかしあるところにって程ではないですが業務で利用しているファットクライアントのH/W故障というのはイレギュラーでインパクトも絶望感も大きいアクシデントだった筈です。そういえば過去の職場ではこんなことをして丸一日潰れていた気がします…気のせいでしょうか?
- 故障したことを上長に報告
- 周りの席の人に緊急度の高い仕事が来たらよろしくとネゴっておく
- 新しい端末の手配(ワークフロー)
- 情報システム部まで OSのインストール光学メディアを借りに行く
- OSのインストール
- 起動後、静的にIPアドレスを振ってProxyを設定してインターネットへの接続
- OS Updateを実施
- セキュリティ対策ソフトの導入
- MUAのインストールおよび設定
- 社内業務システムとかの URIをメールで送って!と隣の席の人に頼んだり
- IMAP4ではなくPOP3使っていて業務メールが全部消えているので直近の重要なメール転送して!と隣の席の人に頼んだり
- とりあえず飲みいこうぜってなったり
- etc…
働く人のパフォーマンスを最大限に引き出すことが、働き方改革の「あるべき姿」だとすれば、彼らはクラウドを使うことでそれを成し遂げているわけです。こういう体験やノウハウを自らの模範を示しながら、お客様の働き方も変えてゆく。そんなことができなければ、クラウド・ビジネスなるものはうまくいかないでしょう。
しかし、「クラウドで工数を稼ぐ」、つまり「クラウドという手段で新たな工数ビジネスを作って稼ぐ」というように、手段を事業の目的にしてしまい、お客様に新しい価値を提供すること、つまり、「お客様の幸せな働き方を実現する」という目的がどこかに置き去りにされている、そんな本末転倒の「クラウド・ビジネス」が、少なからずのSI事業者に見受けられます。
なぜ、そんなことになるのかと言えば、自分たちがクラウドの価値を実感していないからに他なりません。それができない環境に置かれているわけですから、実感 しようがありません。それでいて、「クラウド・ビジネスが〜」などというのは、あまりにも現実が見えていないような気がします。
「クラウド・ビジネス」の目的は、何も「働き方改革」のためばかりではありません。ビジネス環境の変化に高速に対応するため、最新のテクノロジーをいち早くビジネスに取り込むため、試行錯誤を高速で繰り返し新たなビジネス・チャンスを見つけるため、などなど、ビジネスの価値に結びつく目的はいろいろとあるでしょう。もちろん、構築や運用管理の負担を軽減しアプリケーションにリソースをシフトするため、災害時にも事業の継続性を担保するため、セキュリティを強化するためなどのシステム環境に関わる価値を高めることを目的にすることもできるでしょう。
そんな目的の実現をビジネス価値と考えるのではなく、AWSができます、Azureができますという手段の提供を価値に、これを売り物にしようとする。そんなことを続けていては、いつまで経っても工数ビジネスを脱することができず、稼働率が上がっても利益率は上がらない状態が続くことになります。
そもそも、「稼働率」という言葉は、なんとも時代遅れな気がします。人を工場の設備と同じように考える発想です。その人が持っている能力や才能、新たに生みだした付加価値は評価されることなく、どれだけの時間働いていたのかだけが評価される指標ですから、ろくな成果をあげられなくても時間が長ければそれだけで評価される。これでは、働く人の成長や幸せの向上を目指す働き方改革は、到底実現できません。やがてはお客様にも愛想を尽かされてしまいます。ますますの人手不足が避けられない現実を考えれば、働く人の価値を最大限に引き出すことが「働き方改革」の目的でなくてはならないはずです。
もちろんクラウドだけで実現できるわけではありませんが、そういうことも含めて、社会やビジネスの様々な問題を解決することが目的であるとすれば、そのために何をすべきかを突き詰め、様々な手段の1つとしてクラウドを捉え、使えるところはどんどんと使ってゆこうという態度が、「クラウド・ビジネス」を成功させる筋道であるように思います。
そんな目的を達成するためには、自らもクラウドを駆使して、その価値を享受し、件のエンジニア氏のように「感覚が麻痺していた」と改めてハッと気付くほどにならなければ、説得力を持ってお客様にクラウドを提案することは難しいでしょう。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)も大流行ですが、これも同じ話だと思います。デジタルの話し、つまりAIやIoTなどの手段の話しばかりが表に立って、何をトランスフォーメーションするのかが置き去りにされている現場をいくつも見てきています。
変化に俊敏に対応できる企業の文化や体質への変革
私は、DXの目的はここにあると考えています。詳しくは、こちらのブログをご覧下さい。
【参考】デジタル・トランスフォーメーションの本質:ITビジネスに変革を迫る大潮流
何がお客様の抱える問題なのか、それをどのように変革すべきなのか、その議論を棚上げし、手段を提供することをDX事業である、DX案件であると捉えている人たちがまだまだ多いように思います。そして、それを新規事業にしようなどと、これまた本末転倒な議論に無駄な時間を費やしている人たちがいかに多いことか。
「新規事業」とは手段であって、目的ではありません。お客様や社会が抱える問題を解決するためにどうすればいいのかを徹底して突き詰めた結果、「これまでに誰も気がつかなかったやり方」や「気がついてはいたけれどもテクノロジーが追いつかずに手をつけなかったこと」を実践し、それが問題を解決し、お客様に受け入れられるとき、それが「新規事業」になるのです。
手段は目的のために作り出すものです。手段のために自分たちにとって都合のいい目的を創り出してしまうような、本末転倒がうまくゆくはずはないのです。
ついでながら、クラウドをビジネスにしようとしている企業が、まともにクラウドを使えない根本の理由は、社内のネットワークが、全て1つのファイヤー・ウォールをゲートウェイにしてインターネットにつながっていることです。
「Office365を導入したが、遅くて使いものにならない。」
あるSI事業者の方が、こんなことを平然と話しているのを聞き、なんとも残念な気持ちになりました。この方は自分の言っていることがどれほど時代遅れであり、自分たちの会社が到底クラウドなどを任せられない会社であるということを公言しているのだということに気がついていないのです。
この図は、Microsoftの方から了解を頂き、私が少し手を加えたものです。クラウドをまともに使おうというのであれば、左側の「境界防衛型セキュリティ」では、全てのネットワーク・トラフィックがゲートウェイに集中し、スループットが落ちてしまうことは避けられません。設定や管理の手間も増えてしまいます。それでもこのやり方を続けてゆこうとすれば、ファイヤー・ウォールに、あるいはそれを管理するための人件費に相当のお金をかけ続けなければなりません。
クラウド利用の拡大に加えIoTやリモートワークなどに対応しようとすると、デバイスとネットワークの関係はもっとオープンで自律的でなくてはなりません。ネットワークの内と外を分ける考え方が、現実的な解決策として機能しなくなっているにもかかわらず、宗教のごとく「ファイヤー・ウォールが唯一絶対の神」であるとあがめ続けることは、あきらかに時代にそぐわないのです。
これもまた、「いかなる目的を実現するためにファイヤー・ウォールという手段を使うのか」を考えることなく、手段としてのファイヤー・ウォールにこだわり続ける愚でしかないのです。
ファイヤー・ウォールは時代遅れなのです。そんな現実を考えることなく「Office365を導入したが、遅くて使いものにならない」などと平然と語る人に、クラウドの仕事を任せられるはずはありません。
セキュリティ対策とは、利用者に意識させることなく、負担をかけさせないようにしてテクノロジーの価値を最大限享受できるようにするための対策です。これがセキュリティ対策の目的であるとすれば、クラウドやリモートワーク、IoTが当たり前の時代を迎えたいま、それにふさわしい手段に変えることを躊躇する理由はありません。大切なことは目的を達成することであり、手段を使うことではないはずです。
クラウドとデジタル・トランスフォーメーションと新規事業とネットワークと、それらは全てひとつの目的に収斂します。
「ITを使って人々の生活をより良い方向に変化させること」
2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「デジタル・トランスフォーメーション」についての定義です。まさに彼の予言通り、デジタルによるトランスフォーメーションがいま現実のものになろうとしているのです。
デジタル・トランスフォーメーションはなにも特別なことではありません。こテクノロジーの当たり前を素直に受けとめ、愚直に取り組めばいいのです。それだけのことなのです。
後ろを見ながら前に進もうとするのはなかなか大変なことです。素直に前を向いて、そのまま進めばいいじゃないですか。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【9月度のコンテンツを更新しました】
・デジタル・トランスフォーメーションについての記述を増やしました。
・新入社員研修の研修教材を改訂しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年9月版・最新の資料を反映しました。
パッケージ編
【改訂】新入社員のための最新ITトレンド研修・2019年9月版
ビジネス戦略編
【新規】IT投資並びに情報サービス産業の市場推移(1)p.3
【新規】IT投資並びに情報サービス産業の市場推移(1)p.4
【新規】コレ1枚でわかる最新のITトレンド p10
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(1) p.12
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(3) p.10
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(4) p.11
【新規】新規事業やイノベーションは「手段」に過ぎない p.89
【新規】成長を左右する2つのメンタリティ p.210
【新規】抵抗勢力に打ち勝つ方法 p.211
【改訂】「社会的価値」とは何か p.213
【新規】計画された偶発性理論 p.221
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】Microsoft Hololense2 p.55
【新規】IoTとAR/MR p.56
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
*変更はありません
ITインフラとプラットフォーム編
【改訂】システム利用形態の歴史的変遷 p.68
クラウド・コンピューティング編
【改訂】異なる文化の2つのクラウド戦略 p.108
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
開発と運用編
*変更はありません
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】前提となるITビジネスの環境変化(〜5年) p.12
【新規】スマートフォンとは何か? P.13
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません