「うちの会社、ほんと遅れてるんですよ。こういうことやろう、なんて、いろいろと提案するんですがね、頭が固いというか、世の中のことが分かっていないというか、結局は何も出来ないし、このままじゃ、ヤバいんじゃないかと思っています。」
中堅の方からこんなご相談というか愚痴を伺うことがあります。
「そんなにまで、おっしゃるのなら、会社を辞めたらどうですか?」
そう申し上げることもあるのですが、それで本当に会社をやめられた方に、これまでお目にかかったことはありません。
「この会社、私には向いていないのかも知れません。」
若い人からそんな相談を請けることがあります。
「それなら会社を辞めればいいじゃないですか。」
そして、こんなことを申し上げます。
「ところで、他でも売り物になるあなたの価値ってなんですか?これなら自信があると言える何かです。会社ではこんな経験をしてきましたというのではなく、他にいっても通用すると言い切れる何かをあなた自身が持っているかどうかです。例えそれが未熟であっても、そう言い切れる信念や、こうしたいんだという情熱があるのなら、いいかもしれませんが、ただ漠然といまの現状に不満だから、あるいは、うまく行かないからと言うだけでは、転職しても結局は同じことになってしまうかも知れませんよ。」
転職するなと言いたいわけではありません。内省もせず、いまの自分の置かれている状況が全て会社のせいだと考えてしまう。それでは、現実からの逃避以外の何者でもありません。それでいて、いま以上の待遇を期待しても、そう簡単に事が運ぶとは思えません。
いまやっている仕事がつまらないから、あるいは、性に合っていないからと会社を辞めるという考えを否定するつもりもありません。ただ、それなりのチャレンジであるとのことを自覚しておくべきでしょう。
そういう、自分への客観性と覚悟を持たずして、ただ成り行きで会社を辞めても、同じことになってしまう可能性が高いと言うことです。ただ、若ければ、それもまた人生の教訓として、成長の糧となるでしょうが、それなりの年齢になって同じようなことをやっているとすれば、かなり大きなリスクであると覚悟すべきでしょう。
私は、もっと人材の流動性が高まるべきだと思っています。そうなれば、産業構造の転換が進み、適正化が加速すると考えるからです。特にIT業界にあっては、旧態依然とした産業構造が、日本社会の発展を妨げている現実を考えれば、むしろ人材の流動性を積極的に高めてゆくべきだと思います。
そのためには、政策もあるでしょうが、もっと企業が自らの魅力を磨いてゆくべきだと思っています。人手不足で困っている企業もあれば、採用には困らない、むしろお断りしているくらいだという会社もあります。その違いを真摯に考察し、経営者は自らの「あるべき姿」を描き直す必要があるように思います。
特に、IT業界の変化は、他の業界に比べてスピードがかなり早いといえるでしょう。そのため、少し前に描いた「あるべき姿」は瞬く間に陳腐化します。だからこそ、「あるべき姿」をダイナミックに作り替えながら、その至る筋道を描き続けるしかないのだと思います。
「いま」という視点でこの業界を捉えれば、求められるテクノロジーと顧客が急速に入れ替わっていることに気付くべきでしょう。
テクノロジーについて言えば、アジャイル開発、DevOps、クラウドネイティブ、マイクロサービス、コンテナなどであり、それを支える働き方、つまり、心理的安全性、リモートワーク、権限の委譲、自律したチームといった考え方がなくてはなりません。
一方、顧客については、情報システム部門から事業部門へと意志決定の重心がシフトしていることです。つまり、ビジネスの言葉とITの言葉を同時通訳でき、どうすればお客様の事業の成果に貢献できるかという意識を持ってお客様と対話し、テクノロジーの可能性を最大限に引き出すためには、こうすべきだと自信を持って提言できる力が必要になっています。
そんな「いま」に気付いて行動を起こすべきです。その行動が社員や社外、すなわち顧客や転職希望者たちへのメッセージとなり、それが「いま」のモードと一致すれば、お客様も優秀な人材も集まってくるはずです。
一方で、そこに働く社員は、そのことを自ら学び、スキルを磨き、会社に提言し、会社を変える努力をすべきです。それかかなわないのであれば、そんな会社は辞めてしまえばいいのです。
「いま」や「これから」に向かって加速度を維持している人は、どこへ行っても通用します。そういう自覚や努力がないままに、会社の看板や会社での実績だけで、いま以上の待遇を期待しても、それはなかなか容易なことではないように思います。
また、何を学びスキルを身につけるべきかを考える時、これはいまが旬であるとか、このスキルがあればいい待遇が得られるだろうという考えは辞めた方がいいでしょう。IT業界にあって、求められるテクノロジーやスキルは直ぐに入れ替わります。そんなことに悩むよりも、面白そう、凄そう、やってみたいに関わってゆくことです。失敗もあるかも知れませんが、そういう経験が自分の感性を磨き、変化を読みとる思考回路を育て、社会的価値を積み上げる原動力になるからです。
また、会社と自宅しか往復しない生活を見直すことです。興味あることに手を出してみる、面白そうなことに取り組んでいる集まりに関わってみることです。人のつながりを増やすことで、新しい価値観やロールモデルを知る機会を増やし、自分を新しいステージに引き上げるきっかけを手に入れることが出来ます。なによりも、自分の価値を社会的基準で客観的に評価できるようになります。それが謙虚さとなって学びへの意欲を生みだし、社会の常識を知って他人についての想像力と人への優しさや寛容さを育てます。そんな行動が、自らの社会的価値を磨き、選択肢を増やしてくれます。
経営者は、そんな「いま」や「これから」を積極的に受け入れる努力をすることです。優秀な人材は留まり、集まってきます。
「簡単なことではない」という言い訳をする暇があれば、何でもいいからはじめてみてはどうでしょう。一歩を踏み出さなければ、何も変わりません。しかし、その一歩に時間をかけていては命取りです。求められるテクノロジーやスキルが、あっという間に変わってしまうからです。たくさんの一歩を高速で繰り返すことなのだと思います。
そんな個人と会社の緊張感こそ、この業界の価値を高めてゆく原動力になるのではないかと考えています。
「会社を辞めたらどうですか?」
と問われたとき、次のように答えることができれば、素晴らしいことではないかと思います。
「そうですね。では、次に何をしましょう、どこへ行きましょう。迷ってしまいますね。」
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【7月度のコンテンツを更新しました】
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- RPAのプレゼンテーションに新しい資料を加えました。
- 講演資料:「デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略」を追加しました。
- 動画セミナーを3編追加いたしました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年7月版・最新の資料を反映しました。
動画セミナー/ITソリューション塾・第31期
【改訂】IoT
【改訂】AI
【改訂】コレからの開発と運用
ITソリューション塾・最新教材ライブラリー/ITソリューション塾・第31期
【改訂】IoT
【改訂】AI
【改訂】コレからの開発と運用
ビジネス戦略編
【新規】OMO(Online Merges with Offline) p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとOMO p.16
【新規】デジタイゼーションとデジタライゼーション p.22
【新規】DX事業とは p.43
【改訂】DXを支えるテクノロジー p.55
【新規】Legacy ITとModern IT p.54
【新規】事業戦略を考える p.79
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTセキュリティ p.82
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】特化型と汎用型の違い p.13
【新規】ルールベースと機械学習 p.73
【改訂】知能・身体・外的環境とAI p.80
【改訂】機械と意識とAI p.81
【新規】学習と推論の関係 p.79
【新規】創造力とは何か P.114
ITインフラとプラットフォーム編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
【改訂】クラウド・サービスの区分 p.43
【新規】なぜクラウド・ネイティブにシフトするのか p.105
サービス&アプリケーション・基本編
Frontier One Inc. (鍋野敬一郎氏)より提供の資料
【新規】ERPの進化 :業務システムの寄せ集めから次世代ERPへ p.18
【新規】SAPの提唱するインテリジェンス・エンタープライズp.19
【新規】SAPにおけるAIの定義(2018)p.20
【新規】SAP Leonardo :ERP+機械学習p.21
【新規】SAP Leonardo : ERP + AI = Intelligent Apps ! p.22
開発と運用編
【改訂】ビジネス・スピードを加速する方法 p.41
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
Facebook LIBRA
【新規】LIBRA協会の参加企業 p.52
【新規】LIBRAとは p.53
【新規】LIBRAとBit Coin との違い p.54
【新規】LIBRAへの懸念 p.55
RPA
【新規】AI-OCRの事例 p.25
【新規】導入上の留意点 p.26
【新規】成果をあげるための取り組み p.27
【新規】プロセス・マイニングとRPA 32
講演資料:デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略