「新規事業開発のために組織を立ち上げて2年、未だ成果をあげられていません。」
こんな話しを聞く度に、「またか」とため息がもれる。もちろん、心の中の「ため息」なので、相手に分かるはずはないと思うが、苦笑いの片鱗ぐらいは、見せてしまっているかもしれない。
なんとも偉そうなことを言っているが、私に明確な解決策があるわけではない。それにもかかわらず、何とかしなければとの焦りからか、こんな私に解決策を求められることも多い。そして、そんなことが、最近はとても増えている。
たぶん、既存の事業が順調なのであろう。苦労しなくても、それなりに売上も利益も何とかなってしまうご時世だ。少し先のことを考えられる心の余裕が生まれているのかも知れない。本当に切羽詰まっていれば、私のような人間にこんな相談をすることはしないだろう。それよりも、著名なコンサルティング会社にしっかりとお金を払って、プロジェクトを起ち上げ、何としてでも新機事業を成功させようとするに違いない。しかし、まだそこまでするほど追い詰められてはいないので、愚痴をこぼす程度に、こんな話をしていだけるのかも知れない。
ただ、こういうご相談をいろいろと頂くようになって、うまくいっていない企業に共通する1つの特徴があることに気がついた。それは、「新規事業を事業目標にしている」ことだ。
冒頭の話しもそうだが、新規事業のための新しい組織を作ったということは、新規事業を成功させることがこの組織の事業目標である。新規事業開発室、デジタル・ビジネス推進室、デジダル戦略室などなど、新規事業を作ることを事業目標にしているところは、ほぼ間違えなく、新規事業がうまくいっていない。また、きちっとした組織を立ち上げるまでに至っていなくても、新規事業開発プロジェクトと称する経営者肝入りの社内有識者チームも、その多くが、十分な成果をあげられないままに、実質的には空中分解しているところも多い。こういう取り組みもまた、新規事業を作ることが目標として与えられている。
きちっとした調査をしたわけではないので、これは私の直感でしかないが、共感してくれる人たちも多いのではないだろうか。
一方で、新規事業をどしどし立ち上げて、成果をあげている企業を見ると、まったく違うやり方をしているように見える。
彼らに共通しているのは、「手が早い」ことだ。面白そうだと思うと直ぐにコード書いて動かしてみるし、新しいクラウド・サービスが登場したら直ぐに試してみる。経営者もまた、それを面白がって、「これ面白そうだから、ビジネスにしてみるか」と動き出すのだ。まるで、遊んでいるようだ。
彼らに共通するのは、新規事業を目標にはしていないことだ。パワーポイントで計画書をつくり、レビューを受けて、それから動き出すことはしない。まずは、作ってみて、動かしてみて、それ面白そうだからやってみようと盛り上がり、気がつけば、結果として、それが新規事業になっている。そんな感じではなかろうか。
そもそも、新しいことをはじめようというのに、レビューは馴染まない。何をもって正解とするかの判断基準がないからだ。しかもレビューする連中の多くは、新しいことを知らないので、過去の判断基準に合わせて未来のことを判断しようとする。特に、エライ人たちには、転職という汚点なくきちんと出世してきた人たちも多く、ダイバーシティに欠けている場合もあり、多様な視点で評価する術を知らないようだ。自ずと、面白そうなだけのネタは排除されるし、そもそも、そうなることが分かっているので、手堅く彼らの判断基準で認めてもらえそうな、代わり映えしないネタだけが、レビューの対象になってしまう。
そんなレビューで、「これならイケそうだ」とエライ人が判断する場合は、特に要注意だ。過去に似たような成功事例があったか、いま現在成功している事例との類似性がある場合に、そう判断することが多く、これはすなわち新規性がないと評価されたようなものだ。テクノロジーの進化やビジネス環境の変化が、メチャメチャ早い時代にあっては、これは大きなリスクである。
うまくいかないケースに共通するのは、「遅い」と「古い」ということだ。手続きやレビューもそうだが、自分たちでやらずにどこかにやってもらおうとすると、臨機応変に試行錯誤することはできない。そもそも、何が正解なのかが分からないのに、試行錯誤に時間や手間がかかっていては、新しいことなど生まれてくるはずがない。
また、自分たちでやるにしても、オーソドックスな開発手法やテクノロジーに、ちょっとだけAIだとかIoTだとかをトッピングしたようなネタも多く、本質的に新しくない。これまでにないビジネス・モデルをクリエイションするわけだから、テクノロジーだけではなく、それにふさわしいいまの時代のビジネス・トレンドをしっかりと味方につけなければならないのは、当然のことだ。それにもかかわらず、旧態依然としたビジネス・プロセスやビジネス・モデルをそのままに、お色直しをしたところで、本質は「古い」ままなのだ。
圧倒的なビジネス・スピードと新しいことが成功の要件となるイマドキの新規事業にはまったくそぐわない。だから、うまくいかないのだろう。
じゃあどうすればいいのかとなるが、私は次の3つを提言したい。
まずは、新規事業を事業目標にすることをやめることだろう。成り行きに任せればいい。
ふたつ目は、圧倒的なスピードを実践できる特殊部隊を作ることだ。アジャイル、DevOps、クラウド、コンテナ、マイクロサービス、サーバーレスを駆使して、通常部隊が対応できない案件に取り組ませてみてはどうだろう。アドバイザーや技術開発といったサポート部門ではなく、ビジネスの第一線に特殊部隊を投入し、実践を通じて彼らのスキルに磨きをかける。そうすれば、メチャクチャ「手が早い」チームが育ってゆくだろう。そして、案件規模は大きくはできないが、しっかり利益を稼いでくれるので、経営にも貢献するだろう。
最後は、その特殊部隊を志願兵のみとすることだ。「来期から特殊部隊に行ってもらうことになった」と上からの指示で異動させるのではなく。自らの意志で参加したい人たちを募るのだ。そんな志願兵に部門のエースが名乗りを上げても、快く送り出すことだ。部門長が、渋る場合は、本人はトップにエスカレーションできるようにして、トップの意志で異動させるか、その上司の査定を下げると宣言する。もちろん、一定の能力があるかどうかを見極める必要ある。ただ、なによりも自ら新しいことに取り組みたい、成長したいという強い意志を持っているかどうかを、重要な採用基準にするべきだろう。
特殊部隊が成果をあげれば、それは社内のベンチマークになり、憧れになる。スピードとテクノロジーが、理屈ではなく実感としてどれほど重要であるかが知れわたる。そして、そういう取り組みが、会社の行動習慣を変えてゆけば、それはやがて企業文化となり、新規事業を事業目標に掲げなくても、新規事業がどんどんと生まれる会社になってゆくだろう。
特殊部隊に新規事業を担わせてもいいだろう。しかし、そのためにも、まずは特殊部隊にふさわしい実践力を持たせることに取り組むことが、優先されなくてはいけない。
気の長い話しだが、新規事業は、エライ人からやれと言われ、やらされてできることない。そんなことを言われなくても、新規事業が自然と生みだされてくる企業文化を作ることが、一番の早道ではないかと思う。
ここに紹介した提言は、所詮、絵に描いた餅に過ぎないし、これがうまくいく保証もない。でも、もし、ほかにいい方法が思い浮かばないのなら、こういう都合のいいシナリオに賭けてみるのも、悪くないような気もするのだが、いかがだろうか。
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