稼働率が上がっても、利益率が上がらない。
SI事業の難しさは、この言葉に集約されるのかも知れません。加えて、少子高齢化による労働力の減少は、事業規模の拡大を難しくし、売上の拡大が難しくなることは、もはや時間の問題と言えるでしょう。このような状況にあって、どのようにすれば、既存の事業資産を活かしつつ、売上や利益の拡大を図れるのか、1つのシナリオを示したいと思います。
SI事業に限ったことではありませんが、事業を営む上で売上を追求すればするほど、利益率が下がりはじめます。これは、事業環境が成熟し競争が激化することで、提供するサービスやプロダクトがコモディティ化するためです。いまの受託請負型のSI事業や古くから使われているパッケージ・ソフトウェアなどは、その典型と言えるでしょう。
この状況で、事業の拡大路線を突き進むと、利益率はますます下がり、最終的には利益はゼロになります。そんな状況に大きな不景気が訪れると直ちに赤字となり、投資余力もないままに業績回復のための糸口をつかめなくなります。このような状況で、不採算部門をカットすると売上が減少しキャッシュフローがなくなり、人材の維持や立て直しのための融資も受けられず、企業としては存亡の危機となります。経営としては何としても避けたいところです。
このような状況になる前に、事業規模の追求は一旦諦めて、勝てる事業、高利益率事業やサービス、プロダクトなどに絞りこむことが大切です。そしてその高利益体質を強化、拡大し、企業全体の体質を改善することが、理にかなった施策と言えるでしょう。
ここで重要なことは、特定の事業に絞った後に、その事業拡大をすぐに狙わないことです。売上を追求する業績評価基準を変更し、利益を追求するものに変更したとしても、直ぐに利益志向の体質に転換できるはずはなく、相応の時間を要します。
会社全体のマインドを利益体質に変えるまで、事業規模を狙うのではなく利益主義に変更させることが重要であり、まずは業績評価基準を利益追求型へと思い切って切り替え、それに応じた施策を徹底することが求められます。
時間は要するものの、そうやって、ある程度高利益を確保し、利益体質が定着した後に、規模を追求する戦略に転換すべきです。この際、規模を追求すると、コミュニケーション・コストや販管費などの負担が増えるので若干利益率は下がりますが、一旦利益体質になればしばらくは高利益で且つ売上規模も狙うことが可能です。一方、利益体質になる前に事業拡大を狙うとすぐにリバウンドしてしまい、また低利益体質に逆戻りになってしまいます。ここを我慢しなければなりません。
このようなサイクルを、「事業再構築の逆Cカーブ」といい、事業再構築戦略の基本構造といっていいでしょう。SI事業者の戦略もこの基本構造に習い、極力利益率の低いビジネスを切り離し、高い利益率を確保できる事業へと切り替えるべきです。幸いに、現在は比較的好景気でキャッシュフローが回っています。だからこそいまのうちに、事業構造を切り替えておかなければ、次の不景気を乗り切ることは難しいかも知れません。
では、具体的にこの事業再構築の逆CカーブをSI事業者のビジネスに当てはめて考えてみましょう。
現在のSI事業者は、優良顧客や大手SI事業者から大口の仕事を一括して受託する努力をしています。加えて、継続性のない単体の案件やSES、個別サービスも受託し稼働率を維持する努力をしています。しかし、人月単価の低下により、利益は徐々に出なくなりつつあります。そこで、「事業再生の逆Cカーブ」が示すように、全案件を高付加価値のものに寄せて行く必要があります。
ただ、一気に高付加価値領域にリソースを集中するのは現実的ではありません。そこで、まずは顧客を大口顧客に絞りつつ、案件ごとではなく顧客とともにIT戦略を考える長期的なパートナー関係にシフトします。契約形態としては包括的なコンサルティングやITアウトソーシングなどが考えられます。そうすることにより、個別案件ごとの人月単価の低減要求を回避することができます。また人月単価ではなく包括的な契約を結ぶことで持ち帰り作業を増やし、その効率化に注力して別のことに対応できるリソースを生み出します。
次に、効率化や顧客を絞ることにより、生み出したリソースで、特定顧客向けの専門のサービスを展開するためのソースを生みだします。そこでの対象顧客は限られてはいても十分に使って頂けるサービスを開発し、その顧客の協力を得ながらサービス内容を拡充してゆきます。そして、徐々に対象顧客の裾野を拡大しサービスの規模を拡大し汎用化を目指します。
特定の分野で高利益を得るためには、徹底した顧客セグメントの絞り込みを行い特定分野でのシェアNo.1戦略を目指すのも有効なシナリオです。このようにしてサービスの実績を築く一方で、パートナーとしての大口顧客との仕事は徐々にリソースを絞り、汎用化サービス側に大きくシフトしていくというシナリオを描いてはどうでしょうか。
少々大胆なシナリオかもしれませんが、いままでのSI事業者は、個々の顧客の御用を聞きながら、人売りで生計を立ててきました。もちろんこの部分がなくなることはありませんが、いずれはそこからほとんど利益をだすことはできなくなるでしょう。そうなる前にリソースを付加価値の高いものに集中するためには、このようなシナリオも考えてみるべきかもしれません。
米中貿易戦争の先行きが見えないいま、リーマンショック級の景気の谷が来るかも知れないとの懸念は払拭できません。もちろん、そうならないことを願うばかりですが、こればかりはどうにもなりません。だからこそ、次の景気の谷までにどれだけ思い切って舵を切れるか、経営者の手腕が問われるところでしょう。
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