少子高齢化で工数積算ビジネスの将来が見通せないからではない。「多重下請け」という中間搾取の仕組みが働く人たちの尊厳を歪めているからではない。実態が派遣であるにもかかわらず、契約形態を請負契約や準委任契約とし、派遣ではないかのように偽装した「偽装請負」が当たり前のようにおこなっていることが違法だからではない。
時代遅れの常識を変えようとせず、お客様や社会の発展を妨げているから
それが「SIerはいらない」理由だ。
SIerとて企業である以上、稼がなければならないのは当然のことだ。そのためには、社会に価値を提供し、その対価を得るというのが、まっとうな稼ぎ方である。しかし、いまだ「伝統的」な思想や手法にこだわり、テクノロジーの進化を無視し続けている。その結果、時代の変化に置き去りにされている。
不確実性がかつてなく高まり、数年、いや数ヶ月先も見通せない時代であるにもかかわらず、「確定した仕様は不変である」ということを前提としたウオーターフォールに固執し、仕様書通りシステムを仕上げる「工事」と、その現場監督たるPMによって進捗を徹底管理することが正しいという古びた価値観から抜け出そうとしていない。
その結果、やっていることと言えば、お客様のビジネスの成果を最大化することではなく工数を最大化することであり、自分たちのリスクを徹底しいて排除するために新しいことへの取り組みを避けたり、事業を革新するような画期的なシステムを作ることではなく迷宮と化したシステムの修繕や保全であったりと、最小の価値を提供することで、できるだけ大きな対価を得ようとしている。これはどう考えても、「お客様や社会の発展を妨げている」ということになる。
お客様が要求することに応えているだけだとの言い訳もあるだろう。ならば、そんな頭の古いお客様にITの専門家として古びたシステムは捨ててしまえと諭すべきだろう。あるいは、古いやり方をやめてビジネスの価値に直接貢献できるアジャイルやクラウドの活用を指導し、お客様を次のステージに導くべきだろう。
そんな当たり前の道理をお客様に教えることもできず、お客様の「あるべき姿」を提言することもせずに、ただ仰せの通りと従うことしかできないとすれば、ITを生業にしていると公言するにはおこがましい。
本来、ITとは企業や社会の発展を加速させるための手段である。ならば、その役割を最大限に行使してこそ、SIerは自らの存在に社会的意義を見出すことができる。そのためには、ITの進化に目を背けることなく、新しいテクノロジーとそこから生みだされるノウハウをお客様のビジネスの価値にどのように結びつければいいのかを考え、知恵を絞り、適用する方法を工夫し続けるべきだろう。
新しいテクノロジー、例えば、クラウドや自動化ツール、開発手法は、どれも品質を維持しながら工数を削減することを目指している。その狙いは、加速するビジネスのスピードに対応することだ。だから、新しいテクノロジーを使って工数で稼ごうという古い時代の考え方とは相容れない。この現実を真摯に受けとめ、テクノロジーの進化に即したビジネスの有り様を模索すべきだろう。
しかし、現実には「新しいテクノロジー」という化粧まわしで着飾ったろくでもないものを売りつけて、自分たちは稼ぎ、お客様のビジネスの価値を毀損している。例えば、RPAなどはその典型だろう。人手不足というお客様の弱みにつけ込み短期的な工数削減というニンジンをぶら下げて稼ごうとしているではないか。その結果、属人化した業務プロセスをブラックボックスにしてしまい、将来のカイゼンのきっかけを先送りさせているという不都合な真実を隠している。
また、「クラウドへの移行」という錦の御旗を掲げながら既存の物理システムを仮想化しIaaSへ移行することを促すなどもまた、お客様の価値を毀損する典型だ。SIerにとっては移行のための工数を稼ぐことができる。アーキテクチャーをクラウドの特性に合わせて変えないので、開発や運用管理もいままでのまま継続してもらえる。SIerにとって、こんなうまい話はない。しかし、クラウドならではの制約によりスループットやコンプライアンスを守れなくなること、サーバーレスやコンテナ、PaaSなど、高い開発生産性や運用管理の自動化といったクラウドの本来の価値に至る筋道を示すことなく、既存システムの引っ越しの受け皿としてのみクラウドを位置付けているとすれば、お客様の未来を奪う所業だ。
RPAやIaaSがダメだと言っているのではない。本来の正しい使い方を追求することや新たな制約を棚上げしたまま、自分たちにとって都合がいいやり方でしか提供できないのであれば、お客様の価値を毀損することになると申し上げているのだ。
テクノロジーは加速度を上げて進化しているが、SIerの仕事のやり方はそのスピードに歩調を合わせようとしていない。むしろ積極的に過去のやり方にしがみつき、新しいやり方を求めるお客様に「時期尚早」や「実績がない」と言って脅しているではないか。それは、お客様のためだからではない。自分たちの時代遅れをごまかすためでしかない。
ITの需要がこれからも衰えることはなく、むしろ「新しいITの常識」は多くの企業で必要とされている。SIerがいらないのは、そういう新しい常識を棚上げし、いや、むしろその普及を拒み、その足を引っ張っているからだ。
ITの新しい常識をお客様のビジネスの価値にトランスフォームすることが、SIerの役割であるとすれば、それを提供できない「SIerはいらい」ということになる。
あなたがいうほど簡単なことではない。直ぐにできるわけがない。そんな人材はいない。
何年、同じことを言い続けてきたのだろう。その結果が、名だたる大手SIerの大リストラであり、優秀な人材の大量流失だ。その意味するところは、これまでのやり方にしがみつく「SIerはいらない」ということであり、一方で、時代の進化に即したいまのITの価値を必要としているお客様が沢山いると言う現実でもある。
時代の変化について行けない自分たちの現実をごまかすために、「デジタル・トランスフォーメーション」や「共創/協創」といった目新しい言葉で、お客様を翻弄するのは、如何なものか。もし、その実態が、これまでのやり方の見栄えを良くする化粧まわしだとすれば、そんなものはとっとと引き下げることが、まっとうな企業としての矜持ではないのか。
本来、「デジタル・トランスフォーメーション」とは、不確実性が高まるビジネス環境にあって、デジタル・テクノロジーを駆使してビジネスのスピードを加速し、変化に即応できる企業文化や体質へと変革することを意味する言葉だ。AIやIoTを使って新しいビジネスを立ち上げることではない。また、「共創/協創」とは、テクノロジーの新しい常識を、自らの模範を通して提供し、お客様の事業を革新する取り組みである。当然、自分たちもまたITのいまの常識に精通し、お客様の事業を理解し、お客様を指導できなくてはならない。
工数を売ることを事業目的としている限り、「デジタル・トランスフォーメーション」も「共創/協創」も、その事業目的に貢献することはできないだろう。
工数ではなく、技術力を売ることだ。上から管理をするのではなく、現場の自律したチームに任せることだ。リスクを避けるのではなく、試行錯誤を促すことだ。
そのためには、技術力を徹底して追求すべきだ。売上と利益だけの業績評価基準を改め、お客様の求める価値に即した多様な評価基準を設けるべきだ。現場への権限委譲を積極的に進め、意志決定のスピードを加速すべきだ。形式的な進捗管理をやめて、チームを自律させ信頼して任せることだ。稟議といったロジカルなリスク回避の制度を改めるべきだ。
そういった取り組みが、現場の技術力を磨きビジネス・スピードを加速する。そのノウハウをお客様に自らの模範を通じて移転することが「共創/協創」であろう。そういう関係を築けてこそ、お客様の「デジタル・トランスフォーメーション」の実現に貢献できる。
お客様のITへの期待が、生産性の向上やコストの削減から、事業の差別化の武器であり、競争力の源泉へと重心を移しつつある。そうなれば、ITは企業にとってコアコンピタンスになる。当然、そのノウハウやスキルを自分たちに取り込もうとするだろう。また、「デジタル・トランスフォーメーション」が、企業文化の変革であるとすれば、その取り組みを外注することなどあり得ない。これに関わる手段が「共創/協創」であるとすれば、「共創/協創」は自ずと内製化支援となる。つまり、時代のニーズに即した高い技術力とスピードでお客様の内製化を支援することこそが、これからのITへの需要だ。それに応えられない「SIerはいらない」。
そんな世間のささやきが聞こえているだろうか。「SIerはいらない!」と大きな声で言われる前に動き出さなければ、もはや手遅れになってしまう。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【5月度・コンテンツを更新しました】=============
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総集編
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【改訂】これからのビジネス戦略
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【改訂】これからのビジネス戦略
ビジネス戦略編
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【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは何か(2)p.7
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとの関係 p.15
【新規】破壊者は何を破壊するか p.22
【新規】経営者が新規事業を失敗させてしまう7つの罠 p31
【新規】デジタル・トランスフォーメーションのBefore / After p.43
【新規】デジタル・トランスフォーメーションを取り巻く2つの環境 p.55
【新規】DXシステムの実装 p.56
【新規】「学び」の歴史から考える、これからの「学び」 p.193
【新規】これからの時代を生き抜くための3ヶ条 p.194
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ITインフラとプラットフォーム編
【改訂】「境界防衛」から「ゼロトラスト」へ p.108
テクノロジー・トピックス編
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