DX事業を拡大しなければならない。
共創で顧客価値を創出しよう。
お客様のクラウド需要を取り込もう。
では、何をすればいいのだろう。
“時代を先取りした風”の言葉が、経営者の口からは飛び出すが、具体的に何をすることがDXであり、共創なのかは何も示されない。クラウド需要とは、どのような需要なのか。それは、現場で考えろという。しかも、売上や利益は前年増しで設定され、これを達成することを同時に求められる。
「ユーザー企業の経営者はITについて知識も理解もない。だからITの活用がすすまない。」
こんな声もきかれるが、IT企業やSI事業者の経営者もまた同じだ。DXだ、共創だ、クラウドだ、と流行の言葉を並び立てるが、それが何か、何をすることが自分たちの事業に貢献するかを追求することなく、言葉だけが現場に降りてくるだけで、それにふさわしい戦略が示されるわけではない。
現場もまた言葉に反応するだけで、学ばず、深めず、カタチだけを作ろうとする。そして、既存の仕事についての解釈を「DX事業」や「共創案件」に仕立て上げ、オンプレミスのシステムをIaaSへ移行することを「クラウド・ビジネス」だと説明し、つじつまを合わせようとする。だからITの活用がすすまない。
DXとは、デジタル・テクノロジーを駆使して、ビジネス環境の変化に即応できる企業文化や体質へ変革することを意味する言葉だ。AIやIoTを使って新しいビジネスを立ち上げることではない。
【参考】デジタル・トランスフォーメーション時代のSIビジネスの新しいカタチ
共創とは、お客様に圧倒的な技術力、例えば、アジャイルやDevOps、クラウド・ネイティブなどの実践ノウハウを、模範を通して提供し、その体験を共有しながらスキルを移転し、お客様の内製化を支援することだ。もちろん、彼らにないテクノロジーを提供し、共に新しい事業を作り出して行くこともその範疇ではある。しかし、その事業は、お客様の戦略的価値を産み出すわけだから、お客様のコンピタンスであり、外注すべきことではない。だから、共創は必然的に内製化支援となる。あるいは、お客様と一緒になって合弁事業を立ち上げるという選択もあるだろう。いずれにしろ、お客様のコアコンピタンスに強化に貢献することであり、自分たちの得意とするテクノロジーや工数を提供するだけでは成り立たない取り組みだ。
【参考】「共創」とは文化を感染させること
クラウドとは、お客様のクラウド・ネイティブへの移行を支援することだ。コンテナやサーバーレス、マイクロ・サービスを前提とした、情報システムの開発、実行の環境を実現することを支援する。それによって、開発や保守の手間や負担を減らし、変化に即応できる情報システムへと変革することだ。その前提として、アジャイル開発やDevOpsといった実践ノウハウをお客様に提供できなくてはならないだろう。PaaSやSaaSを提案することも、変化への即応には有効な手立てとなる。その選択肢を持っていなければならない。
このような取り組みに共通する3つの要件がある。それは、新しい常識を理解していること、事業目的やそれに連動する業績評価を変えなくてはならないこと、意志決定のスピードを圧倒的に速くすることだ。
新しい常識とは、変化への即応力と新しいテクノロジーが融合し、かつてないスピードで進化・変化し続けているという常識である。3年前の常識はもはや時代遅れであり、それを前提とした事業戦略や施策は、竹槍でB29に立ち向かう愚行に等しい。
例えば、クラウドについて言えば、政府システムの調達基準が「クラウド・バイ・デフォルト原則」となったことや、銀行がクラウドの積極的な利用を進めている事実を考えれば、いまさら「クラウド事業を検討する」などという時代遅れなことを言っている時ではない。その言い訳として、パブリック・クラウドの可用性やセキュリティへの不安をあげる人たちもいるが、米国のCIA(中央情報局)やDoD(国防総省)がパフリック・クラウドに移行しようとしているいま、かれら以上の水準を必要とする企業がどれほどあるのかという常識に気がついて欲しい。
もちろん、オンプレミスとクラウドはアーキテクチャーが異なるので、現状をそのままに移行することは現実的ではない。だからこそ、クラウドの常識やクラウド・ネイティブに精通した専門性が求められる訳で、それに応えられなければ、クラウド需要に応えることはできない。
事業目的やそれに連動する業績評価については、これまでの売上と利益だけの業績評価基準では、現場は何もできないと言うことだ。DXや共創は一定の初期投資を覚悟しなければできないだろう。クラウドを推進すれば、短期的に売上や利益は減少する。つまり、業績評価基準が売上と利益のままでは、現場は新しいことに取り組むほどに自分の評価を下げてしまうことになる。家族もいるので給与やボーナスは増やしたいし、昇進もしたい。しかし、新しいことに取り組むほどにそれができなくなってしまうとすれば、現場の自発性や積極性を期待することはできないだろう。また、そんなダブルスタンダードがメンタルを苦しめ、会社へのロイヤリティを失わせてしまうだろう。
既存の業務と新しい取り組みの業績評価基準を分かりやすく、明確にきめ細かく分けて設計すべきだ。また、中間マネージメントの評価についての恣意的な裁量をなくし、公平でオープンな評価基準にすることだ。そうすれば、危機感や哲学を語らなくても、あるいは叱咤激励などしなくても、現場は何をすれば自分の業績が評価されるのかが分かるので、自律的に学び知恵を出すようになり、自ずと事業目標が達成される。そんな仕組みを作らず精神論だけで現場を動かすのは、やめた方がいい。
【参考】危機感を煽るのではなく、業績評価基準を使って人を動かせ
意志決定のスピードを圧倒的に速くするとは、大幅な現場への権限委譲だ。そのためには、現場の状況、例えば進捗や働き方、売上や利益をリアルタイムで「見える化」することだ。例えば、Office365に備わっているMyAnalytics を使えば、仕事の時間をどのように費やしたかを集計でき、働き方のカイゼンや生産性の低い会議の時間のカットなどが直ぐにできるようになるだろう。
また、SlackやTeamsを使えば、生々しい現場でのやり取りがリアルタイムで把握できる。できないことの言い訳を、文学表現を駆使して時間をかけて清書する日報や週報は不要になる。時間の経った報告は、美しく脚色された「死亡報告書」であり、それに基づいて死んだ人間をどうすれば蘇らせることができるかの議論をしても、有効な対策など打てるはずはない。
また、DXや共創に取り組むと言うことは、ビジネス・スピードを上げることなのだから、お客様との議論に於いて、リアルタイムに判断し、対応できなければならない。稟議にかけて、決定に数日、いや数週間、いやいや経営会議が1ヶ月に一度なので、翌月になるになるというスピード感でDX事業や共創などできるわけがない。ましてや、現場の感覚やテクノロジーの常識をわきまえない上位層が、適切な判断が下せる道理はない。
確かに、かつてはビジネス環境の変化が緩やかであり、過去の経験に裏打ちされた判断が、時間を経ても劣化しない時代であれば、稟議もまた機能したかも知れないが、もはやそういう時代ではない。
そんな新しい現実に目を向けて、現場に権限を大幅に委譲し、自律分散的な組織として機能させることが不可避となる。
「常識は変わるものである」ということを否定する人はいないだろう。しかし、変化が加速していること、そして、あっという間に常識が変わってしまうことを受け入れられない人は少なくない。受け入れられない、理解できないなら退場して頂きたい。それは、まわりが迷惑するからだ。お客様が困るからだ。変革の妨げになるからだ。
それが嫌なら、現場の人たちに権限を委譲し、彼らの取り組みを支援し、その取り組みに立ち塞がるヒト、モノ、カネの障害を排除することを自らの役割と心得るべきだろう。
「ユーザー企業の経営者はITについて知識も理解もない。」
と言う前に、まずは自分たちをふり返ることから初めては如何だろうか。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【4月度・コンテンツを更新しました】==========
- 2月よりスタートしたITソリューション塾の新しいシーズン(第30期)の講義内容を公開しています。
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【改訂】これからの開発と運用
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【改訂】これからの開発と運用
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【新規】お客様との新しい関係 p.43
【新規】DXのシステム実装 p.50
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【新規】支配型リーダーと支援型リーダー p.185
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【新規】Kubernetes の全体構造 p.54
【新規】エンジニアの役割分担 p.61
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