「経営者が新規事業を失敗させてしまう7つの罠」というタイトルで、ソニックガーデン・社長の倉貫義人氏が、次のケースをあげている。
1.沢山の関係者を入れる
新規事業には人が少ないくらいがいい
2.進捗の管理をしっかりする
事業として価値を生みだしていなければ、進捗はゼロである
3.結果よりも制約を重視させる
あらゆるものを逸脱したとしても、結果を出せば良い
4.既存事業と数字で比較する
どんな事業も最小は小さく始まる
5.新規事業の狙いが他にある
企業の思惑を入れてうまくいくほど、新規事業は甘くない
6.ロジカルにリスクを排除する
仮説検証こそ、新規事業
7.事業毎にチームを組み替える
継続させたチームの中でいくつもの事業を取り組む方がいい
あなたの会社で、こんな新規事業開発プロジェクトが進行しているのであれば、失敗は約束されたようなものだ。
「3年後に10億円の新規事業を立ち上げて欲しい」
もし経営トップがこんなことを言っているとしたら、これもまたうまくいかない典型だ。
新規事業開発は、大変な取り組みだ。自分たちの経験やスキルの乏しい分野へ踏み込まなければならず、これまでの経験で培ったが勘が働かない。そういう仕事に「3年後に10億円」と言われても、できる見通しなど立つわけがない。経営トップの意気込みはわかるが、そんな意気込みだけを伝えられ、「後はおまえたちに任せるからよろしく!」と言われれば、さあどうしたものかと頭を抱えてしまうだろう。何と無責任な話しだ。
似たような話ではあるが、「共創でデジタル・トランスフォーメーション事業を立ち上げて欲しい」や「サービス・ビジネスでの売上を拡大して欲しい」の類も同類である。何をすればいいかが何も示されることなく、ゴールだけが決められ、後は自分たちでやってくれと現場に丸投げするのでは、現場は混乱し、前に進むことができなくなってしまう。また、業績評価基準も売上と利益のままでやってほしい事業内容に連動した配慮がなされていない。人事考課も直属の上司の裁量に依存し、何をすれば自分は評価されるのか、給与やボーナスが増えるのか分からない。これでは、現場のモチベーションは上がらない。
このような根拠曖昧な「3年後に10億円」の類が制約事項になり、例えいいアイデアが生まれても「これで3年後に10億円は無理だろう」と排除されてゆく。これでは、いいアイデアなど生まれるはずがない。
「いまの事業を置き換えてしまうつもりで、考えて欲しい」や「業界の常識を覆してくれ!」というような言葉であれば、夢もあるし失敗しても、次につながる何かが残る可能性はある。しかし、「3年後に10億円」は、あまりにも生々しくリアリティがありすぎるので、どうしても発想が縮こまってしまう。そもそも、「3年後に10億円」は、提供する側の価値であり、お客さまの価値ではない。これでは、モチベーションも限定されるだろう。
例え「3年後に10億円」であっても、それに見合う予算的、人材的な手当を約束してくれるのであれば、まだチャンスもあるだろうし、意欲もわく。しかし、現実には、その約束もなく、経営トップの意気込みだけで新規事業プロジェクトが立ち上る。実行責任者には「お前は優秀だから」と”ありがたい”お言葉が与えられるだけで、この取り組みについての業績評価基準は示されず、結局は自助努力を求められることも多い。実行責任者が「本業」との掛け持ちであれば、自分の業績評価に直結する本業を優先させることは当然のことだ。むしろ、新規事業の責任を上乗せされて、それが重荷になり本業に支障をきたすかも知れない。
自社の命運を任される大変な仕事であるからこそ、任される人には強い意志が必要だ。これは、「やらされ仕事」ではとてもできるものではなく、本人が自らの責任と引き替えにやりたいと望む仕事でなくてはならない。経営トップも任せるならば自らの責任も覚悟し、信頼し、スポンサードを約束して任す必要があるだろう。
「任せて、任さず」
松下幸之助が権限委譲について語った言葉と言われている。任せた以上は相手を信じマイクロマネジメントなどせずにやらせてみる。その失敗については自らも責任を負うことを明確に示し、その報告をマメに受け取って意見も述べる。新規事業に取り組むためには、このような権限委譲が必要だ。
新規事業プロジェクトを進めてゆく上でもうひとつ大切なことは、KPIの設定だ。根拠のない「3年で10億円」ではなく、まずは現実的な目標値を設定すること。特に新規事業は、それが数字になるかどうかさえ曖昧なところからはじめなくてはならないから、本当によろこんで使ってくれるお客様を獲得することからはじめなくてはならない。理論上あるいは想像上のお客様ではなく生身のお客様を見つけ、そんなお客様からの評価を確実に積み上げながら、早い段階で少しでもいいので売上や利益を出すことを目指すべきだろう。
機能が不十分であったとしても、特定のお客様であれば、十分に貢献できる。そのお客様に使ってみたいと思っていだける「最低限で最高」を実装して実績を作る。そうやって実績を積み上げながら、機能の充実と完成度の向上を図り、顧客の裾野を拡大してゆく。
そうやって、数字が積み上がりビジネスの加速度と巡航速度がつかめてくれば、「いつまでに10億円を達成する」というKPIを設定してもいいだろう。
また、経営者の言う「これはうまくいきそうじゃないか」という発言は当てにしない方がいい。こういう言葉を使うときは、過去に似たような成功事例を知っている場合であり、新規性がない場合がほとんどだ。
確かに、以前であれば、そんな二番煎じでもチャンスはあったが、いまでは次の2つの理由で難しくなっている。ひとつは、成功の賞味期限が短くなっていることだ。先行企業の成功に学び、改良を加えて商品やサービスを開発しても、既に旬が終わっていることが多い。もうひとつは、顧客のニーズが細分化していることだ。新しい事業を成功させるには、細分化した顧客のニーズに個別最適化した商品やサービスを提供することが欠かせない。ここで勝負の鍵を握るのは、顧客の行動データでありそこから得られたノウハウだ。この点については、先行企業が圧倒的に有利な状況にある。
既にどこかで聞きかじりした狭い知見で、「これはうまくいきそうじゃないか」という意見を述べているとしたら、これはうまくいかないと言っているにも等しい。
「これは凄い」や「こんな話しは聞いたことがない」などの面白さや驚きこそ、新規性にふさわしい。そんな過去の成功体験や自分の経験則を超えたところに投資する度量をもたなくてはならない。
もちろん、失敗も多い。だから、まずは短期にカタチにして、実際に試してみる。そしてうまくいきそうならさらに投資をすればいい。ダメならば、改善点を探すのもいいが、さっさとやめて、新しいことに取り組めばいい。そんな試行錯誤を高速で繰り返しながら、成功の一手を探しつつけることが大切だ。
冒頭の倉貫氏の「7つの罠」や「3年で10億円」の類は、失敗の原理原則だ。この原理原則に当てはまらないから成功するという保証はないが、この原理原則が当てはまれば、失敗は約束されている。
改めて、自分たちの取り組みを見直して見るべきだ。凄いことや面白いことをやっているだろうか、「3年で10億円」の類のくだらないKPIを設定していないだろうか、「7つの罠」に陥っていないだろうか?
次期・ITソリューション塾・第31期(5月22日スタート)の受付が始まりました。第31期では、新しいテーマを追加し、より実践的な内容にしようと準備しています。
特別講師をお招きしました
通常の講義に加え、特別講師をお招きしています。
まず、福田譲氏(SAPジャパン社長)に講師をお願いし、「DX時代の次世代ERPとプラットフォーム」をテーマでお話頂きます。IoT、ブロックチェーン、AIなどのテクノロジーが実用の段階を迎えつつある中、ERPは業務の根幹を支える土台として、この変化に対応していかなければなりません。それは何か、どうすればいいのかをお話いだきます。
また、DXの実践では戸田孝一郎氏(戦略スタッフサービス代表)にお願いしています。「DXの実践とはビジネス・スピードを加速させること」と言われますが、具体的にはどうすればいいのでしょうか。そんなお話を頂きます。
セキュリティの基本とDX時代の戦略については河野省二氏(日本マイクロソフトCSO)に講師をお願いしました。もはやファイヤーウォールやウイルス対策ソフトで情報資産を守ることがセキュリティ対策ではありません。新しい常識への実践的な取り組みをご紹介頂きます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。具体的な日程や内容について、ご紹介しています。
オンラインでも受講できます
ITソリューション塾は、[オンライン]でも受講頂けます。遠方からのご参加、出張中、あるいは打ち合わせが長引いて間に合わないなどの場合でも大丈夫。PCやスマホから[ライブ]あるいは[アーカイブ]の動画でご参加頂けます。
日程 | 2019年5月22日(水)〜7月31日(水) |
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回数 | 全10回+特別補講 |
定員 | 80名 |
会場 | アシスト本社/東京・市ヶ谷 |
料金 | ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む |
詳細 | ITソリューション塾 第31期 スケジュール |
* 参加のご意向がありましたら、正式なお申し込みは後日でも構いませんので、まずはメールにて、ご一報頂ければ幸いです。参加枠を優先的に確保させて頂きます。早々には定員に達すると思われますので、まずは、ご連絡下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【4月度・コンテンツを更新しました】==========
- 2月よりスタートしたITソリューション塾の新しいシーズン(第30期)の講義内容を公開しています。
- 動画セミナーを新しい内容に更新しました。
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総集編
【改訂】総集編 2019年4月版・最新の資料を反映しました。
動画セミナー
【改訂】人工知能
【改訂】これからの開発と運用
【改訂】データベースとストレージの最新動向
ITソリューション塾・最新教材ライブラリー
【改訂】ブロックチェーン
【改訂】量子コンピュータ
【改訂】RPA
【改訂】データベースとストレージの最新動向
【改訂】これからの開発と運用
ビジネス戦略編
【改訂】「デジタルとフィジカル(2) p.4
【新規】DXを取り巻く2つの環境 p.23
【新規】お客様との新しい関係 p.43
【新規】DXのシステム実装 p.50
【新規】2025年の崖 p.71
【改訂】「共創」ビジネスの本質 p.127
【新規】リーダーシップの在り方を見直す時代 p.182
【新規】「社会的価値」とは何か p.183
【新規】支配型リーダーシップと支援型リーダーシップ p.184
【新規】支配型リーダーと支援型リーダー p.185
【改訂】100年人生を生きるには学びつつけるしかない p.187
【新規】Input/Outputプロセス p.213
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【改訂】コレ1枚でわかる人工知能とロボット p.28
【新規】一般的機械学習とディープラーニングとの違い p.69
【新規】機械学習における3つの学習方法 p.93
【新規】機械学習の活用プロセス p.108
クラウド・コンピューティング編
【新規】異なる文化の2つのクラウド戦略 p.102
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
開発と運用編
【新規】ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い その1 p.21
【新規】ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違い その2 p.22
【新規】Twelve Factorsとの関係 p.53
【新規】Kubernetes の全体構造 p.54
【新規】エンジニアの役割分担 p.61
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
ITインフラとプラットフォーム編
【新規】「境界防衛」から「ゼロトラスト」へ p.108
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません