日本の少子高齢化が進む中で、人数が収益に連動する既存SI事業は近い将来限界に達し、売上や利益が減少することが避けられない。そして、お客様のITへの係わり方が大きく変わりはじめていることも、これまでのやり方を難しくすると予測される。その変化とは、「内製化」への動きだ。
テクノロジーの進化は、お客様のビジネスのあり方にも変革を迫っている。「本業は人間、ITは人間がやる本業を支援する道具にすぎず、コアコンピタンスではない」という考え方から「本業はITなくして維持できない、ITは本業の競争優位を実現するために不可欠なコアコンピタンスである」という考え方へ、ITに対する期待が変化している。
従来の「本業ではないIT」はコストであり、削減することが正義であると考えられてきた。スキルや工数のアウトソーシングはその手段として用いられている。一方で「本業であるIT」は投資であり、投資対効果が見込まれれば拡大が期待できる。そんなITスキルや工数は戦略的な価値を産み出す源泉として、自社に取り込もうという動きが始まっている。内製化にはそんな背景がある。
お客様にはこの2つのITが併存している。「本業ではないIT」つまり既存の情報システムからの工数やスキル需要は維持される反面、コストである以上「少しでも安く」という圧力が継続するため、収益拡大が困難だ。一方で「本業であるIT」つまり「デジタル・トランスフォーメーション(DX)実現への取り組み」あるいは「攻めのIT」は、投資対効果が見込めれば、さらに需要が拡大する。SI事業者が成長を維持するためには、需要拡大が期待される後者に関わらなければならない。
しかし、後者は、新たなビジネス・プロセスや事業モデルを創り出すことであり、具体的に何をすべきか分からない。また、お客様が内製化へ向かっても、必要なスキルと工数を全て自社でまかなうことは困難だ。そのため、SI事業者は、「お客様と一緒になってあるべき姿と具体的な施策を創り出し、お客様の内製力の向上に貢献すること」が求められる。
「共創(または協創)」とはその期待に応えるための取り組みでもある。SI事業者は、既存SI事業への過度な依存から脱却し、お客様のDX実現を「共創」で貢献できる企業へと変革して、新たな収益基盤を築く必要に迫られている。
「SIができる企業」から「SIもできる企業」へ事業の幅を拡げ、案件獲得機会を拡大する
DXや攻めのITへの取り組みは、既存SI事業を収益の源泉として維持しながら、新たな収益機会を開拓することである。
既存SI事業は、当面は主要な収益の源泉として維持される。新しい領域がこれを直ちに置き換えるものではない。しかし、長期的視点に立てば、成長の伸び代は新しい事業領域にある。そのためDXや攻めのITなどに関わるための新規事業による新たな収益の機会を、既存SI事業に追加して行く必要がある。ではどのように新規事業に取り組めばいいのだろう。
新規事業実施の判断基準
「なに」をするかではなく「なぜ」するかが明確であること
新規事業は、受託開発や請負とは異なる事業の特性を持っている場合が多い。そのため投資判断や進捗の評価に当たっては、これまでのやり方や常識とは異なる基準を持つ必要がある。
既存事業の評価基準を当てはめてはいけない
新規事業の業績評価に、既存事業の評価基準を当てはめてはいけない。それは新規事業が現状の改善や拡張ではないからであり、新たな市場の開拓であるからだ。そのため、規模や市場の動きを予測できない。ここに既存事業同様に投資対効果への厳密な裏付けを求めてしまうと、例え良いアイデアであっても、「リスクがある」と判断され、実施されることなく検討の対象から外されてしまう。既存の評価基準とは相容れないことを承知の上で、リスクを覚悟で「良いアイデア」に投資する覚悟がなければ、可能性の芽を潰してしまうだろう。
根拠の曖昧な具体的数字を提示してはいけない
「3年後に10億円規模の事業を考えて欲しい」というような、根拠の曖昧な具体的数字を提示することも厳に慎む必要がある。このような基準を与えてしまうと、例え良いアイデアであっても「これでは10億円は無理ではないか」という自己規制が働き、発想に制約を与えてしまう。これでは、新規性のある事業プランは生まれない。具体的な数字を伴うKPIは、ある程度事業が動き始めてからでなければ、現実的ではない。まずは、ROIを求めず、試してみることを優先すべきだ。
「これはうまく行くのではないか」はうまくいかない
「これはうまく行くのではないか」との考えで、承認を与えることにも慎重でなくてはならない。一般的に「うまくいく」との感触は、過去に類似の事例がある場合が多く、新規性や優位性がないことが多いからだ。「よく分からないが、これは凄い!」、「いろいろと課題はありそうだが、これは世の中を変えてしまうかも知れないぞ!」、「本当にできるかどうかは分からないが、確かにこれはいままでにはなかった!」という取り組みに対して、トライアルさせてみることだ。
新規事業の実施に当たっては、次の3つの点は踏まえた判断が必要だ。
「なぜ」を説明できるか
「なぜ」この事業を行う必要があるのか、つまりこの事業を行うことのお客様ならびに自社の意義や価値について、合理的に説明できるかどうかを見極める必要がある。「なぜ」は何としてでも達成しなければならないお客様と自分たちとの共通の目的だ。その結果として、如何なる「あるべき姿」を実現するかについて、両者が明確に合意できていれば、その過程に困難があっても事業を実現するためのモチベーションは維持されるからだ。ここがぶれなければ、「なにを」や「どのように」は検討や試行錯誤の過程で変更されてもかまわないし、むしろよりよい「なにを」や「どのように」が見つかれば、そちらに積極的に変更した方が、実現可能性が高まる。
実感に裏付けられているか
現場の課題やニーズが存在することを事実と実感によって説明できているかどうかを確認する。「実感」する事実としての課題やニーズがあれば、そこには必ず需要がある。また、そこに関わる個人を明示的に説明できることも判断基準とすべきだ。「誰かが言っていた」や「世間で話題になっている」など、課題やニースの当事者が特定できない企画は、実効性に乏しい。
起案者は楽しんでいるか
自発的な創意工夫なくして、新しい取り組みは生まれない。何としてでも実現するという覚悟がなければ、待ち受ける困難を乗り切ることはできない。そんな自発性や覚悟を確認する方法が、この取り組みに「わくわく感」を持って向きあっているかどうかを見極めることだ。これが実現できれば凄いことになる、世の中が変わる、お客様との関係が変わると、自分の言葉で熱く語れるかどうかが、これを見極める基準になるだろう。
新規事業開発に当たっての考慮事項
SI事業は、仕事はあっても利益が出ない低付加価値事業になりつつある。もはや躊躇している余裕などない。この現実に対処するためには、既存のしがらみから脱却し、新規事業を生みだし、そちらへシフトしてゆくことが、唯一の選択肢となる。そのためには、次のことを考慮しておく必要がある
新規事業開発の経験やその意欲、知識のある人をアサインする
研修を長期的に受講させる、あるいは、新規事業開発のコンサルタントを雇うなど、知っている人を新規事業開発に関わらせることだ。何も知らないで新規事業を考えろというのは、「気合いでなんとかしろ」と言っているようなもので合理的ではない。結局は検討に手間がかかりタイミングを逸することになり、費用対効果が得ることができない。
トップが強い意志で新規事業チームを守る
新規事業や新規サービスをやると、様々な横やりや邪魔が、社内から出てくる。そのような攻撃から新規事業チームを守る必要がある。そのためには、彼らが説明責任を果たしている限りにおいては、トップ自らそのチームを弁護する姿勢が大切だ。
失敗から学び、それをプラスに評価してすぐにその経験を生かして次のチャレンジをする仕組みを構築する
結局良いアイデアでも、リスクばかりが目に入り、ゴーを出せないでは成果を期待することはできない。また、失敗すると後がないという雰囲気を出す社内を変える必要がある。新規事業は失敗する確率が高いのは当然だ。そして失敗を経験するからこそ、そのノウハウがたまり次は失敗の確率が下がってゆく。チャレンジすることへの加点評価や、リスクでなくリターンに着目する評価方法を仕組みとして先に構築すべきだろう。
経営者や幹部が声高らかにチャレンジを推奨したり、失敗を評価したりしても、評価制度や組織・体制がそうなってない限りにおいては、社員はチャレンジしない。だから、こういった仕組みを先に構築し、セーフティーネットを作らないと結局やったものが損をする形となってしまう。そういう取り組みが、新規事業を生みだす企業文化を育ててゆく。
こんなことは簡単にできることではないとの印象を持つ人も多いだろう。しかし、大手SI企業の大規模なリストラに見られるように、事業変革の波は待ったなしに押し寄せている。その波に押し流されてしまってからでは、それこそ元に戻すことも、新しい事業に移行するにも簡単なことではない。
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