需要があって、それに応えられる知識やスキルがあるから給与をもらい生活ができている。何をいまさら、そんな当たり前のことをと思うかも知れないが、もし「いま」の需要がなくなったとき、あなたは次の新しい需要に応えられる知識やスキルを持っているだろうか。それがなければ、あなたの人生の選択肢は限られたものになってしまう。
いまの需要がなくなるかも知れない事例をすこしだけ紹介しよう。そのひとつがAWS Outpostsだ。これは、AWSのクラウド・サービスのインフラで使われているものと同じハードウェアとソフトウェアをラックマウント・システムに組んでオンプレミスで使えるようにしたものだ。このシステムには2つのオプションが用意されている。ひとつは「VMware Cloud on AWS」でVMware環境が利用できるもの。もうひとつは「AWS native」で、これはAWSのクラウド・インフラと同等の機能を利用できるものだ。しかも、共にマネージド・サービス、つまり、運用管理、保守や障害時の対応などのシステム管理をAWSに任せてしまうことができる。また直ぐに使える状態で提供されるというので、導入に関わる工数はあまりかからない。
特に大企業を中心にVMwareユーザーの多い我が国では、「VMware Cloud on AWS」は、導入や運用の工数で稼ぐSI事業者のビジネスに大きな影響を与える可能性がある。
AWSに限らず、ハードウェアとソフトウェアの統合システムによってハイブリッド・クラウドの仕組みを提供するサービスは、Microsoftの「Azure Stack」、GoogleがCiscoと協力して提供する「GKE on-prem」、オラクルの「Oracle Cloud at Customer」などがあり、これはもはやトレンドだ。
このようなトレンドに先行して、HCI(Hyper-Converged Infrastructure)が売れている。正しい使い方をすれば、大幅な導入と運用の工数を削減できる。
また、パブリック・クラウド・サービスは、それ自身がネットワークのアウトソーシング・サービスであり、そこでシステムを運用すれば、サーバーやデータセンターに関わるネットワークの構築や運用は不要になる。また、将来5Gが普及すると高速の閉域網が簡単に作れてしまうので、そのためのLANやWANの構築に関わる需要はなくなってしまうだろう。
このように見てゆくと、少なくともインフラの構築や運用については、「いまの需要」が、なくなってゆくことを覚悟しておいた方が良さそうだ。
ところで、アプリケーション開発はどうだろうか。「デジタル・トランスフォーメーション」あるいは、「攻めのIT」や「ビジネスのデジタル化」という言葉が社会正義のごとく語られ、事業部門や経営者がこれまで以上のIT活用を迫られている。何とかしなければいけない、でも何をすればいいか分からない。そんな状況に置かれている。しかし、そんな彼らの相談相手は必ずしも情報システム部門ではない。そんな情シスにしか顧客チャネルを持っていないとすれば、新しいシステムに関わる機会は自ずと制限されてしまうだろう。
このような新しいシステムについては、部門が直接、あるいは新たな部門(第2情シス)に任せようという動きをがはじまっている。第2情シスは、スピードとテクノロジーを重視する。これを実現する合理的な解決策は「内製化」ということになるだろう。
「内製化」に関わる開発者は他社と差別化できるビジネス・ロジックに徹底して集中したいと考えるだろう。しかし、インフラやプラットフォームがいまのままでは、付加価値を生み出さない作業で大きな負担を強いられる。例えば、ミドルウェアの設定、インフラの構築、セキュリティ・パッチの適用、キャパシティ・プランニング、モニタリング、システムの冗長化、アプリケーションの認証・認可、APIスロットリングなどの作業だ。だから、開発者は、そんなことを気にする必要のない、コンテナやサーバーレス/FaaS、あるいはPaaSを利用するようになるだろう。
このような作業こそが工数の稼げる仕事だったわけだが、これがなくなってしまう。また、それらシステムはマイクロサービスを志向し、KubernetesやIstioなどが、使われるようになるだろう。当然、スピードと柔軟性が必要なので、アジャイル開発とDevOpsは前提となる。
あなたは、こんな「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」を身につけているだろうか。
もちろん、旧来のテクノロジーや手法に頼る既存システムがただちになくなることはない。当面は、これらの保守や機能拡張が、工数需要を生みだしてくれる。だから、いまの知識やスキルが直ぐに使えなくなることはないだろう。しかし、このような仕事の単金が上昇することはない。むしろ、「少しでも安く」のプレッシャーが、いつものしかかるので、単金を上げにくい。仕方がないので、残業を増やすことで稼働率を上げるしかないが、それに見合う昇給は難しいだろう。
新しいことへの取り組みの機会も与えられず、給与も期待ほどには上がらないとすれば、優秀な連中は転職してゆくだろう。定着率の悪い企業によくあるパターンだ。経営者はこの現実を真摯に受けとめる必要がある。もちろん、転職する当事者にしても、「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」がなければ、どこも雇ってはくれない。
では、とうすればいいのだろう。次の3つのステップがありそうだ。
学びたいと思うこと
最初のステップは、学びたいと思うことだ。学びたいと思わなければ、けっして学ぶことはできない。当たり前に聞こえるかも知れないが、これができない人がいる。その理由は次のようなことだろう。
外を見ようとしない・交わろうとしない
職場と自宅の往復だけで、同僚やお客様以外に会話する相手がいない。職場以外の世界に関心が薄いので、世の中の変化に鈍感になってしまう。その結果、内部の論理が幅をきかせるようになり、もっと大切なことに気がつかない。だから、大切なことを学びたいという意欲も生まれない。
自分の常識が正しいと思っている
世の中の常識を知らなければ、自分の常識がどれほど、世の中からずれているかに気づくことはないだろう。むしろ、自分の常識に従い、いつも通りにやったほうがリスクもなく、無難である。なによりも、分かっていることなので楽にできるから、自分はそれなりにスキルがあると勘違いしてしまう。いまの状況でいいと思ってしまうので、新しいことを学ぼうという意欲など生まれない。
”変に”プライドが高い
こういう人たちに共通する特徴は、”変に”プライドが高いことだ。自分はできるし、知っているし、他人にとやかく言われなくても仕事をこなしているというプライドである。しかし、それは、自分の知っている狭い世界での「自分はできる、知っている、仕事をこなしている」であって、それが世の中の常識からみたらどうかという謙虚さがない。また、新しいことには、「そんなものは新しいことではない。同じようなものは昔からあった」と受け入れようとせず、世の中は簡単には変わらないと、自分の考えを他人に押しつけようとする。このように古い知識をアップデートすることに関心がないので、新しいことを学ぼうとは思わない。
まずは、この「思考停止」から脱することだ。何を学ぶかは、人それぞれだが、「学びたいと思う」という第一歩を踏み出さなくては、「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」を身につけることはかなわない。
行動を起こすこと
次のステップは、行動を起こすことだ。例えば、朝の1時間を自分の勉強のために使う、いろいろな勉強会やセミナーにどんどん参加する、イベントやセミナーでは一番前の席に座る。なんでもいいが、いつもと違う行動をはじめることだ。何をするか、何を学ぶかを決心する前に、まずは動き始めるといいだろう。決心してから行動するは、なかなかうまくいかない。まずは動き出してみて、日常の習慣として、自分の当たり前にすることだ。そうすれば決心は、自ずと決まってくる。
アウトプットすること
最後のステップは、アウトプットすることだ。それは必ずしも他人に伝えることばかりではない。自分の考えをノートにまとめてみるのもいいだろう。とにかく、自分の頭の中から外に出してみることだ。本を読めば、あるいは講義や講演を聞いていれば理解できるという考え方は甘い。効果的な学び方は、文章や絵にする、人に説明するなどの行動がとても大切だ。そういう行動を通して、これまで蓄積した自分の知識と関連付け、自分の中の知識の構造を組み立て直すことが「理解」である。そうやって、意識して積極的にアウトプットするほど学びは深まってゆく。
特に、単語の羅列や箇条書きでメモをとることではなく、文章にするのは効果的だと思っている。確かに、単語の羅列や箇条書きは簡便だが、重大な弱点がある。それは、言葉の要素や概念のあいだに「論理」をつくったり、「物語」をつくったりすることができないことだ。
「思いついたまま」の羅列は、論理や物語、あるいは関係や構造を考えないまま、書き出しだけで安易な達成感を味わってしまい、分かった気になってしまう。当然そんな中途半場な知識では、仕事に役立たないし人に何かを説明するにも筋の通った説明ができなくなってしまう。それが習慣化すると、これはビジネス・パーソンとしては致命的だ。
羅列や箇条書きではなく文章にすると、自分の理解の度合い、つまり論理や物語を伴う理解の程度が「見える化」される。例えば、論理がないと、唐突な展開や文意が通らず、物語がないと、単調でつまらないものになってしまう。文章にして「見える化」しなければ、それに気付くことはできないからだ。
いまの需要がなくなることを実感した時には、もはや世の中はそうなっているということだ。そうなってからでは、自分にとって有利な選択肢は限られてしまうだろう。「早い」は自分の価値を高める有効な要件だ。
「学びたいと思うこと」、「行動を起こすこと」、「アウトプットすること」。言い古された教訓ではあるが、新しい年を迎えるにあたり、改めて考えてみては如何だろう。
【募集開始】ITソリューション塾・第30期/2019年2月開講
リアルタイム・録画によるオンライン受講も可能になりました!
次期・第30期で11年目を迎えるITソリューション塾が、2019年2月7日(木)より始まります。
リアルタイムでのオンライン受講や録画での受講も可能となります。地方からのご参加や出張先、会場に間に合わない、あるいは、どうしてもその日だけは参加できないといった方々も講義を受けて頂くことができるようになりました。
デジタル・トランスフォーメーションが叫ばれるいま、変革を進めようとするお客様は、変革への意志や問題意識はあっても、「どこに向かって変革し、どのようにイノベーションを起こせばいいのか」分かりません。そんなお客様に「課題は何ですか、何をすればいいでしょうか」と尋ねても答えようがありません。そんなお客様に私たちが果たすべき役割は、お客様の「あるべき姿」を提言し、お客様を未来に導いてゆくことです。
お客様との人間関係を作ること、手配や調達に長けていることだけでは、役割を果たせない時代になろうとしています。ITソリューション塾は、こんな時代を生き抜くために、お客様の「あるべき姿」を提言できるようになるために必要な知識とスキルを磨くプログラムです。
- 期間:2019年2月7日(木)開講・毎週1回18:30-20:30・全11回
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- 費用:9万円(+消費税)
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 2019/1月度版リリース====================
- VeriSMについてのプレゼンテーションを追加しました。
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- ITソリューション塾・講義資料を最新の第29期に置き換えました。
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動画セミナー*会員限定*
【新規】これからのビジネス戦略(これを含め全11講義を収録)
総集編
【改訂】総集編 2019年1月版・最新の資料を反映しました。
ビジネス戦略編
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.5
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションを加速するサイクル p.8
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの実現とは p.9
【新規】VeriSMとは何か p.24
【新規】VeriSMモデル p.25
【新規】ガバナンスとサービスマネージメント原則の関係 p.26
【新規】マネージメント・メッシュとは p.27
【新規】VeriSMのサービスサイクル p.28
【新規】これからの「ITビジネス成功の方程式」 p.61
【新規】アウトサイド戦略とインサイド戦略 p.105
【新規】失敗するPoCと成功するPoCの違い p.113
【新規】PoCを成功させるための3つのこと p.114
人材開発編
【新規】進化する営業 p.42
【改訂】「求められる人材」以下の内容を一部変更し全体をリニューアルしました。 p.11〜49
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】これからのビジネスの方向 p.41
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】機械と人間の役割分担 p.20
【改訂】産業発展の歴史から見る人工知能の位置付け p.53
【新規】ミッシング・ミドル(失われた中間領域)p.103
クラウド・コンピューティング編
【新規】クラウド移行の方向p.99
サービス&アプリケーション・開発と運用編
【新規】これからの「ITビジネス成功の方程式」 p.6
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】トレンドの構造 p.3
以下は、変更はありません
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