「売上も利益も伸びていますよ。」
SI事業者の経営者から、こんな話しを伺った。「工数ビジネスはこれから厳しくなる」と言う私の話への反論だった。
将来についても、さほど心配はしていないという。需要の変動は致し方ないことで、需要が減少すれば高齢者にやめてもらえばいい。これまでもそうだったが、人の数を調整して対処してきたので、これからも同じことをやれば大丈夫だろうということだった。
現実的で潔い割り切りだと感心した。これまでもそうやって乗り切ってきたという自信に裏打ちされた言葉には、説得力もある。自分は「あるべき論」に偏りすぎているのではないか、経営者にはこういう割り切りも必要なのかも知れないと少しばかり心を突き動かされるところもあった。
しかし、現実を冷静に整理すれば、彼のやり方が近い将来成り立たなくなることは容易に想像できる。例えば、いまの売上や利益の増大は、残業も含め稼働率が上がっていることが大きな要因となっているが、人が増えない以上、このやり方には自ずと限界がある。
いまさら申し上げることでもないが、生産年齢(15歳〜64歳)人口の減少に歯止めがかからないとすれば、人を増やすことができないわけで、人数が収益に連動する事業モデルは自ずと限界に達し、売上や利益の減少は避けられない。
また、稼働率が高いと言うことは、新しいことを学ぶ時間がないと言うことでもある。現場経験に依存した知識やスキルの習得では限界がある。それは、現場で任されている仕事は「昔のシステム」の保守や機能追加が大半であり、新しいことができる機会が限られているからだ。
「そんなことはない、クラウド(IaaS)もやっている、仮想化にも対処できるスキルもある」というが、それは、「昔のシステム」をクラウドに移行することがほとんどで、クラウド本来の価値を活かした「新しいこと」とは言いがたい。もはや時代の流れは、そこにはない。それよりも、もっと上位のレイヤ、すなわちPaaSやコンテナ、サーバーレスといったクラウド・ネイティブへとシフトしている。そんな現実さえも知らず、時代の流れに遅れてしまっているとすれば、収益性の高い仕事を得ることもできないだろうし、なによりも若い優秀な人材の流出に歯止めをかけることは難しい。かれらは、いまの当たり前を知っていて、自分たちのやっていることが時代遅れであることに気付いているからだ。
お客様が遅れているので、需要も遅れた技術が主流となるのは、仕方がないことだ。しかし、そういうお客様に新しいことをやらせることにモチベーションがなく、むしろ既存の技術に留まっておかないと対処できない不安から、仕掛けることなく言いなりになっているほうが楽である。いわばお客様の進歩の足をひっぱることで、仕事の需要を確保しようというわけだ。
若い人材も採用していると言うが、そういう人材をレガシーなプロジェクトに投入し、新しいことへの取り組みの機会を与えず、かれらの将来の芽を摘んでいるとすれば、やがてそのことに気付いた優秀な連中は転職してゆくのは避けられないだろう。若い人たちの定着率の悪い企業によくあるパターンだ。
また、お客様のITへの係わり方が大きく変わりはじめていることも、これまでのやり方を難しくしてゆくだろう。その変化とは、「情報システム部門の意志決定力の低下」と「内製化」への動きだ。
「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉がある。この言葉が正しく理解され、真の実現に取り組んでいる企業は少ない。しかし、「攻めのIT」や「ビジネスのデジタル化」という言葉が社会正義のごとく語られ、事業部門や経営者がこれまで以上のIT活用を迫られていることだけば確かだろう。何とかしなければいけない、でも何をすればいいか分からない。そんな状況に置かれている。
そんな彼らの相談相手は必ずしも情報システム部門ではない。それぞれに「できるITベンダー」に直接相談することも増えている。そこで話が決まると調達に関わる窓口として、情報システム部門が登場する。しかし、彼らにもプライドがあるし、これまでのやり方もあるので、理不尽な要求も突きつけてくる。そんなことが手間を増やしスピードを削いでしまう。だから、事業部門や経営者は、「既存のシステム」は情報システム部門に任せ、「未来のシステム」は部門が直接、あるいは新たな部門(第2情シス)を創りそこに任せようという動きをはじめている。
第2情シスは事業部門と直接関わり、スピードとテクノロジーを重視する。これを実現する合理的な解決策は内製化ということになるのは必然の帰結だ。
この変化にどう対応してゆくかだ。3つのやり方がありそうだ。
ひとつは、「短期離脱方式」だ。お客様は内製化をすすめるにも、最初から十分な技術力やスキルがあるわけではない。そこで、クラウド、アジャイル、DevOps、コンテナやサーバーレスといった技術やスキルを、お客様自身でできるように、短期集中的に技術力の高いフルスタックのエンジニアを投入し、実際のシステム開発を主導しながらスキル・トランスファーを行うやり方だ。必ずしも大人数を投入する必要はない。できる人間を少人数でいいから集中して投入し、短期に離脱して次の仕事に移ってもらう。このサイクルを高速で回して行く。
二つ目は、「専門特化方式」だ。AIやIoT、クラウド・ネイティブといった需要の伸びている専門領域の専門家集団として、スキルを集中させることで、存在感をアピールできる。
最後は、「サブスクリプション・サービス方式」だ。新しい技術は群雄割拠し、どれをどのように組み合わせればうまく使えるかとなると、これはなかなか簡単なことではない。これは、事業会社だけではなく、ITベンダーやSI事業者でも同じ悩みを抱えている。ならば、彼らが使いやすいようにサービスや技術を目利きし、フレームワークやプラットフォーム、ツールを整備して提供するというビジネスが成り立つだろう。このようなビジネスは、短期間で大きな売上になることは難しいが、長期継続的に収益を増やし続けることができるだろう。
このようなやり方であれば、少ない人数でも、単金を高くでき高収益を確保できるし、需要は確実に伸びてゆく。また新しいこと、あるいは専門の領域に集中できるので、エンジニアはやり甲斐を感じ、益々自らの意志でスキルを磨いてゆくだろう。当然、優秀な人材も集まってくるので、収益力の拡大にもつながる。
もちろん、どれか1つを選択しなければならない訳ではない。上記を組合せれば、その相乗効果により、自分たちの価値をさらに高めてゆけるかもしれない。
ただ、このようなやり方を実践するには、技術力を磨くしかない。そのための人と時間に投資できるかどうかだ。需要があるからと稼働率を優先するやり方では、このような事業転換を図ることは難しい。「いまに投資するのか、未来に投資するのか」を経営者は決めなくてはならない。「労働力を売るのか、技術力を売るのか」という言葉に置き換えることもできるだろう。
テクノロジーは進化する。この必然は今も昔もこれからも変わることはない。そんなテクノロジーのトレンドは、いつも決まった原則に従う。それは、人手の手間をいかに削減するかだ。「自動化」や「自律化」という言葉に置き換えてもいいだろう。
これまでは、「自動化」や「自律化」のスピード以上にシステムの需要が伸びていた。これからはこの関係が逆転するだろう。つまり、システムの需要はこれまでにも増して伸びてゆくが、それ以上のスピードで「自動化」や「自律化」のスピードが伸びてゆくということだ。クラウドやAIはまさにそんな動きを見せつけている。
できるだけ早く結果を出したい。これもまた人間の本源的欲求だ。だから、人々は「自動化」や「自律化」を追求してきた。それはこれからも変わらない。一方で、「どうあるべきか」や「何をするか」は、「自動化」や「自律化」の対象外だ。まさにこの問いに答えることが人間に残された役割となるだろう。
ここに紹介した、3つのやり方は、この問いかけへの答えといえるかも知れない。
時代は加速度を増して変化してゆく。すなわち、わずかな躊躇が大きな差となってしまうということだ。
【募集開始】ITソリューション塾・第30期/2019年2月開講
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次期・第30期で11年目を迎えるITソリューション塾が、2019年2月7日(木)より始まります。
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デジタル・トランスフォーメーションが叫ばれるいま、変革を進めようとするお客様は、変革への意志や問題意識はあっても、「どこに向かって変革し、どのようにイノベーションを起こせばいいのか」分かりません。そんなお客様に「課題は何ですか、何をすればいいでしょうか」と尋ねても答えようがありません。そんなお客様に私たちが果たすべき役割は、お客様の「あるべき姿」を提言し、お客様を未来に導いてゆくことです。
お客様との人間関係を作ること、手配や調達に長けていることだけでは、役割を果たせない時代になろうとしています。ITソリューション塾は、こんな時代を生き抜くために、お客様の「あるべき姿」を提言できるようになるために必要な知識とスキルを磨くプログラムです。
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