IoTやAIについて話をして欲しいというご依頼が後を絶たない。その背景にあるのは、「IoTで何かできないのか?」や「うちもAIでビジネスを立ち上げたい。」といった、社長のひと言がきっかけになっていることも多いようだ。
「IoTでビジネスを立ち上げろと言われています。うちで何ができるのか、どんなところに使えばいいのか、社内でも検討しているのですが、決め手に欠けて前に進みません。まずは、IoTとは何か、基本的なところを関係者に説明してもらえないでしょうか。」
そんなご依頼だ。
「着眼大局着手小局」ということばがある。孔子の弟子である荀子の言葉で、「全体の状況を俯瞰的に見ながら、目の前の小さなことを細心の注意を払って実践する」という意味だ。私なりに解釈を与えるとすれば、現在から半歩先の未来を見て物事を考えるのではなく、過去から現在、そして、遥かに遠い未来を見通して、その未来の先にある自分たちの「あるべき姿」を描く。これが、「大局」だ。そこに至る道筋のステップを刻み、まずは何からはじめるかを明らかにして、これを堅実に実行する。これが「小局」となる。
英語にも、Think Big,Start Small,Learn FastやThink Globally, Act Locallyといった言葉がある。想いの根っ子は共通している。
「大局」は想像でしかない。その通りになるという保証はない。だからこそ、歴史と未来のトレンドを振り返り、アップデートしながら「大局」を常にアップデートする。また、新しいコトへの取り組みであり「小局」の正解はないわけだから、試行錯誤を繰り返しながら、正解を自ら創りだしてゆかなければならない。
もはやおわかりと思うが、冒頭の議論には「大局」がない。自分たちの「あるべき姿」を描くことなく、目の前にあること、いまの自分たちにできることの範囲で、答えを出そうと考えている。
自分たちの目指すべきあるべき姿は何か、何を解決すればあるべき姿を実現できるのか、そのためには何からはじめればいいのかという議論がないままに、ただ「小局」をなすことだけが目的となっている。ゴールを定めることなく、さあ何をすればいいのかと右往左往するだけだ。「着眼小局着手混沌」である。
とにかく目の前にあることを解決しなければならないのが日常だ。例えば、明日の提案書を完成させなくてはと夜遅くまで仕事をしているし、この手配をいまやっておかないと納期が守れないと関係者との連絡や調整に奔走しなければならない。さらには、机の上の散らかり具合が気になり片付けはじめ、領収書や交通費を精算しなければならないことに突然気付いて書類を書き始めることだってある。そういう「小局」が折り重なっているのが日常であり、それはどうすることもできない。
そういう中でも「大局」に思いを馳せることを忘れてはいけない。そこに至る「小局」を切り出し、「大局」に至る道筋を自らが導いていかなければ、結局は何も実現しない。それは、企業であれ、個人であれ同じことだ。そのためには、テクノロジーやビジネスに関わる歴史から、来たるべき未来のビジョンを描く努力を怠らないことだろう。
例えば、ネットワーク・ビジネスの未来を考えれば、5Gとクラウド・サービスに取り込まれてしまう。超高速・低遅延の5Gが普及し、社内システムがオール・イン・クラウドの時代を迎えれば、これまで企業個別に必要としていたLANやWANの構築需要は消滅するだろう。当然それに附帯したセキュリティ対策や機器の導入、その構築や運用は5Gやクラウド・サービスに吸収される。いまでこそLPWAが盛んに話題に上るが、5Gの大量端末接続が実用に供すれば、そちらに置き換わってゆくだろう。そういう未来が5〜10年で現実になるとすれば、そこで収益を上げている企業は、自分たちの新しいあるべき姿を明らかにし、そこに至る筋道を描かなくてはならないはずだ。
いま流通業は需要の拡大と人手不足という現実に直面し、倉庫の自動化や運送手段の革新に向けて取り組みを進めている。ドローンでの配送や無人運転のトラックなどは夢物語ではなく、実用に向けた取り組みをしかるべき投資をおこない堅実にすすめている。その結果、需要が増大してもサービスの質は向上し、関わる人の需要は減少してゆくことになるだろう。もはや、そうしなければ生き残れないという危機感がある。
システムの開発やインフラの構築、その運用はどうなるだろうか。デジタル・トランスフォーメーションの流れの中で、IT需要は急伸するだろう。開発や構築に関わる需要は拡大する。そうなると、これまで同様のやり方ではこの需要を満たすことはできない。アジャイル開発、DevOps、クラウドは前提となり、超高速開発やAPIエコノミー、PaaSなどを駆使し、この需要に応えてゆくことになるだろう。工数需要がなくなることはないが、求められるスキルが違う。また、請負のような土木工事的なやり方は受け入れられなくなり、サブスクリプション(定額)やタイム・アンド・マテリアルへとシフトしてゆくだろう。このような未来の「大局」にむけての「小局」は描けているだろうか。
「工数需要は衰えていないし、その結果として稼働率は高い。だから、新しいことへの取り組みの優先度は低い。」
未来を見通すことができなければ「大局」は描けない。いまの「小局」に満足し、そこが立ちゆかなくなれば右往左往して、新しいことをはじめなくてはと考え、また需要が回復すれば「小局」に立ち返る。景気の変動に伴う需要の変化は自分にはどうすることもできない。それに身を任せるしかないとすれば、自分で自分の未来を描くことはできないことになる。「着眼小局着手小局」である。
未来がどうなるかが盛んに叫ばれていても、さあ自分たちはどうすればいいかと迷うのはストレスであり、落ち着かない。ならば、未来を自分なりの解釈で調整し、まだ大丈夫、世の中はそんなに急には変わらない、未来がどうなってもいまのスキルややり方が不要とされることはないと現実を変えてしまえばいい。それもまた、1つの解決策ではあるが、その間に世の中は進んでしまい手遅れになってしまったら、もう取り返しはつかない。
君子務本、本立而道生/君子は本を務む、本立ちて道生ず (論語・學而第一)
知恵あるものは、ものごとの本質を大切にする。そのようにすれば自ずと進むべき道、正しい道がわかってくる。その道に愚直に従う力量が求められるのは、今も昔も変わらない。しかし、テクノロジーの進化や社会環境がかつてない速さで変化しているいま、成功や成長の本質もまためまぐるしく変わる。自ずとそこに至る道も変わってしまう。この現実を自分に都合がいいように解釈しないことだ。
積み上げたスキルはあっというまに不良債権化し、旬の期間が短くなる。それがテクノロジーの進化だ。当然、社会のニーズは変わり、ビジネスにおける成長や成功の要件はあっというまに変わってしまう。そういういまだからこそ、「着眼大局着手小局」という言葉を反芻しなければならないのではないか。企業にとっても、個人にとってもだ。
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【新規】機械学習がやっていること 2/2 p.15
【新規】ルールを作るとはどういうことか p.16
【新規】機械学習でできる3つのこと p.17
【更新】AIと人間の役割 p.18
【新規】機械学習の仕組み/学習が不十分な状態 p.56
【新規】機械学習の仕組み/学習が十分な状態 p.57
【新規】ニューラル・ネットワークの仕組み p.65
【新規】どんな計算をしているのか p.66
【新規】A12 Bionic p.150
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【更新】仮想化の役割 2/2 p.62
【更新】Infrastructure as Code p.79
クラウド・コンピューティング編
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