- 既存システムが事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができない。
- 過剰なカスタマイズがなされていて、複雑化・ブラックボックス化している。
- 経営者がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている。
今年9月に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」には、こんな記載がある。これを読んでほっとしたSI事業者の経営者も少なくないだろう。
「しばらくはうちの仕事はなくならない。」
先日、あるSESを主体としている企業の経営者から次のようなご指摘を頂いた。
「あなたは、工数積算ビジネスはやがて厳しくなるとおっしゃっていましたが、いまは稼働率も高く、絶好調です。」
この会社ばかりではない。SI事業者はどこも高い稼働率を維持し、人手不足で困っている。まさに、私の指摘は間違っていたのだ。そして、その理由をこのレポートを読んで、なるほどと理解できた。
いまのやり方を変えたくない人たちが沢山いる。当然、いま使っているシステムも大きく変えるつもりはない。しかし、ビジネス環境がめまぐるしく変わる時代となって、何も手をつけないわけにゆかない。そこで、いま使っているシステムを改修したり、新しいシステムを付け足したりすることになる。また、外部との接続にも対応しなければならないので、そのためのシステムも新たに付け足さなければならない。このような需要に支えられ、工数需要が減らないというわけだ。
また、なんといっても景気がいい。先日もある建設会社の情報システム部門の方からこんな話を伺った。
「システムにお金をかけるならいまのうちだ。2020年になればひと山越えるので、システムになんかにお金を回せなくなるからと、経営者にいわれてしまいました。」
新しいシステムに移行するには、現場サイドの負担も大きい。しかし、現場は景気がいいので忙しいから、そんな取り組みに時間を割く余裕がない。かくして、新しいシステムにするのではなく、既存システムの改修や追加を豪勢におこなうのが、残された選択肢となる。
このような需要に応えるのに新しい技術やスキルは不要だ。難しいことは、それができるベンチャーに頼めばいいわけで、自分たちがやる必要はない。既存の技術やスキルのままで、当面は工数需要に困ることはない。
また、少しばかり新しいことに取り組んでいる企業にとって、PoCあるいは実証実験の需要はなかなか美味しい。お客様の経営者から「うちもIoTで何かできないのか?」と降ってきて、「何かありませんか?」と相談を請ける。それらしいことに取り組みはじめているSI事業者にしてみれば、ならばこれをやってみましょうと提案すればいい。相手には具体的な業務課題があるわけではない。いわば、「やってみる」ことが大切であって、思いつきの提案でも採用される。課題がないので成果も都合のいいように設定できる。つまり、ビジネスの成果を約束せずに、工数だけを提供すればいいので、こんなに美味しい話しはない。そんな仕事をつまみ食いすれば、「先端技術に取り組んでいる」と宣伝に使える。しかも、お金をもらって勉強もできるので、とてもありがたい話しだ。これを「PoC成金」という。
このような状況が続く限り、工数需要がなくなることはないだろう。私は、もう少し世の中が速いスピードでITを駆使して事業や経営の在り方を改革する取り組みが加速すると思っていた。また、ITを武器に新たな事業展開を模索する企業ももっと増えるだろうと思っていた。しかし、どうもその思惑が外れてしまったようだ。
「経団連の会長室にはじめてパソコンが設置された」
そんな記事が巷を賑わしているが、そういう人たちが、いまだ経営の主導権を握っていることを考えれば、仕方のないことかも知れない。
ただ、この状況も長くは続かないだろう。まさにビジネスはグローバルな競争の只中にあり、日本はことごとく劣勢に立たされているとの印象をうける。多くの企業は危機感を持っている。どこかで一気に動き出すだろうし、DXへ向かうのはもはや避けられない。
しかし、DXが何かについての理解はいまだ十分ではなく、「インターネットやAI、IoTを駆使した新しいビジネスを作る取り組み」であるといった程度の認識に留まっている人が多いのではないか。
DXとは、デジタル・テクノロジーを駆使して、経営や業務の現場にジャスト・イン・タイムでサービス(システムを構築することではない)を提供できるビジネス・プロセスや組織や体制を作ることだ。これにより、ビジネス環境の変化に柔軟・迅速に対応できるようにして、企業としての生き残りや競争力を確保しようというわけだ。
「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉を最初に使ったのは、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマンである。かれば、デジタル・トランスフォーメーションを「業務がITへITが業務へとシームレスに変換される状態」であると説明している。つまり、業務プロセスはITを前提に組み立てられ、両者が渾然一体となってビジネスの成果を達成される状態を意味している。
仕事をするのは人間で全ては人間が管理運営し、その仕事の効率化のためにITを使うという主従関係はない。人間でなければできないこととITでなければできない/ITを使った方がいいことの最適な組合せを実現し、両者が一体となって効果的・効率的にビジネスを遂行する仕組みを実現する。そして、この組合せをビジネス・ニーズの変化に合わせて、ダイナミックに変えてゆく。このようなことが可能となる状態を「デジタル・トランスフォーメーション」という。
これは、あらゆるビジネス・プロセスをソフトウエアに置き換えることでもあり、この取り組みをはじめれば、開発テーマは加速度的に増大する。また、開発したソフトウェアは、それ自体がビジネス・プロセスであり、その出来の善し悪しが企業の体力や競争力を左右する。
このような状況に対処するためには開発や運用に関わるスピードもまた加速させなければならない。当然、既存の業務の改善ではないので、業務とITが行ったり来たりして試行錯誤を繰り返しながら成功を模索しなければならない。そうなると、内製化を前提に、アジャイル開発・DevOps・クラウドを活用し、超高速開発のためのツールやPaaS/FaaS/サーバーレス、あるいはSaaSを駆使することになる。
また「システムを丁寧に作ることからサービスをいち早く提供すること」へと、情報システムへの期待が根本的に変わってしまえば、次のようなことになる。
- ビジネスの成果に貢献するものに絞り、余計なシステムは作らない。
- 現場のフィードバックを直ちにシステムに反映させる。
- QCDを守ることではなく、ビジネスの成果に貢献したかどうかで評価する。
工数を迅速に調達できることがSI事業者の価値ではなくなってしまう。このようなITへの期待の変化に対応するには、専門性や高い技術力が求められるようになる。それを単金いくらで提供するかは需要と供給のバランスで決まるだろうが、このような需要に応えられる高い技術力を持つエンジニアや魅力的なサービスは高収益になるだろう。
「いまは稼働率も高く、絶好調です。」
そう言い放った先の経営者に次のような質問をした。
「その稼働率は、既存お客様、既存のシステムの保守や拡張ではないのでしょうか。大手SI事業者の下請けとしての需要ではありませんか。自分たちが新しく開拓した顧客や自分たちが作った新しいサービスは、この高稼働率にどれだけ貢献しているのでしょうか。」
ビジネスは先手を打ってこそ、成長のチャンスが与えられる。いまの好調が「先手」の結果でないとすれば、それは健全かつ継続的成長を促すものではない。しかも、稼働率が高まった結果として、人手不足への対応が優先され、人材育成をおろそかにし、新規事業への取り組みを先送りしているとすれば、ますます「先手」をとることは難しくなる。
景気が退潮に向かいはじめると、稼働率は減少し人件費負担が重くのしかかり、経営を苦しい状況に追い込んでしまうだろう。その時に新しいことをはじめようとしても、成果を直ちに得られることはない。
しかし、落ち込んでもやがて復調するのが景気だとすれば、厳しい時期をなんとか耐えしのげばいいではないかという楽観論もあるかもしれない。しかし、そんな簡単なことにはならないだろう。クラウド化、自動化、内製化が、従来の需要を置き換えてしまい、景気が回復しても、同様に需要が戻ることはないだろう。
それよりも何よりも、新しいことができないことは、エンジニアにとってはなんとも残念なことだ。勉強熱心な人たちは、新しいことができるところに転職してゆくだろう。そうなれば、工数需要が回復しても、新しい需要に対応することはできなくなっている。
仕事のやり方を変えたくない人にとって、このDXリポートは、ある種の安心感を与えてくれるだろう。新しい取り組みを先送りする根拠を与えてくれている。私は、自分の間違えを認めざるを得ない。少なくとも、まだしばらくは大丈夫だと言うべきだろう。
ただ、その先についての主張を変えるつもりはない。そして、その先を生き抜くためには、企業も個人も先手を打つことが大切であるとの考えも同じだ。
変化のスピードは速まることはあっても遅くなることはない。そのこともまた、歴史が教えてくれる真実ではないだろうか。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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LiBRA 10月度版リリース====================
・新たに【総集編】2018年10月版 を掲載しました。
「最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略」研修に直近で使用しているプレゼンテーションをまとめたものです。アーカイブが膨大な量となり探しづらいとのご意見を頂き作成したものです。毎月最新の内容に更新します。
・アーカイブ資料につきましては、古い統計や解釈に基づく資料を削除し、減量致しました。
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ビジネス戦略編
【更新】UberとTaxi p.10
【更新】もし、変わることができなければ p.16
人材開発編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】モノのサービス化 p.34
【更新】モノのサービス化 p.37
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【更新】AIと人間の役割分担 p.12
【更新】自動化から自律化への進化 p.24
【更新】知的望遠鏡 p.25
【更新】人に寄り添うIT p.26
【更新】人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係 p.64
【更新】なぜいま人工知能なのか p.65
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・開発と運用編
【新規】マイクロサービス ・アーキテクチャ p.62
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの6つのメリット p.63
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの3つの課題 p.64
【新規】FaaS(Function as a Service)の位置付け p.68
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】Infrastructure as Code p.78
【新規】Infrastructure as Codeとこれまでの手順 p.79
【更新】5Gの3つの特徴 p.235
クラウド・コンピューティング編
【更新】クラウドの定義/サービス・モデル (Service Model) p.41
【更新】5つの必須の特徴 p.55
【新規】クラウドのメリットを活かせる4つのパターン p.57
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更ありません