多くのSI事業者の業績は好調だ。社員の努力の賜だと経営者は感謝の言葉を惜しまない。株主に対してもいい顔ができる。社員もまたこの現実に満足し、働きがいを感じている。
ひねくれているかもしれないが、これはうたたかの夢かもしれない。
例えば、この業績好調は何がもたらした結果だろうか。世間の景気が良かったからではないのか。既存顧客の投資意欲が高まっているからであり、その恩恵を受けているからではないのか。それが証拠に、次代につながる新しい顧客や新しいビジネスが、どれだけいま業績に寄与しているかを冷静に見つめてみるべきだろう。
もし、既存顧客の投資意欲に支えられているとすれば、それは景気の浮き沈みに左右されることを覚悟しなければならない。いまが好景気でも必ず下降局面がある。それに抗うことができないとすれば、業績もまた下降する。
ここ数日の株価の急落、米中の貿易戦争が何を意味するかを語れるほどの見識は私にはないが、米国のトランプ景気の息切れ感は明らかだろう。米国経済が失速すれば、日本の株価、為替市場には影響が出てくるだろう。そうなれば自ずとITへの投資意欲も減退する。
また、社員の稼働率を考えてみるといい。稼働率は100%に近く、いまの好業績がそんな彼らの働きに依存しているとすれば、一層の売上を望むのであれば、社員を増やす必要がある。しかし、それは容易なことではない。
強気で社員を増やしても景気が後退すればそれは利益を圧迫するリスク要因を増やすことになる。そこを強気で乗り越えて増員しようとしても、容易には”優秀な人材”は集まらない。
また、人に依存した工数ビジネスで稼働率が高いというのは、将来への足かせになるかもしれない。なぜなら、新しい取り組みに人材をシフトできないからだ。現場から人を外せば、売上や利益の減少に直結する。特に優秀な人材は稼ぎ頭でもあるので益々難しい。そういう人材にこそ、新しい取り組みにシフトすべきなのだが、それができない。
このような状況は、もうひとつの大きな課題を投げかける。それは、「時代遅れ」になることだ。稼働率が高いために新しいことに取り組めない、新しいことに取り組まなければ、これから求められるテクノロジーやノウハウを取り込むことができなくなる。
「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉が、どれほど世間で騒がれようとも、そんなことに関わる機会さえない。アジャイル開発、DevOps、クラウドが注目され、マイクロサービスやコンテナ、サーバーレスが新しい常識になろうとも、既存のシステムの延長線上×情報システム部門の範疇でしか仕事を受けていないとすれば、例え仕事があったとしても、そのような時代の先端に関わることはないだろう。AIやIoTはこのようなテクノロジーを土台に実現しているが、いくら世間が騒いでも、この意味が理解できなければ仕事の相談はうけられないだろう。
そんなものはバズワードで、実需はないと言う人がいる。なぜなら、自分たちに相談されることがないからだと言う。
なんと残念なことだろう。それは、その人が、あるいはその会社が、期待されていないから相談されないだけのことだ。こういう自分たちの姿が、客観的に捉えられていないことが「時代遅れ」になっていることの査証かもしれない。
新しいことに果敢に取り組み、お客様から相談が絶えない企業は数多くある。そして、旧態依然としたSI事業者から、自分のいる会社の未来や自分の成長を不安に思い転職してくる優秀な人材が後を絶たないとの話しも聞く。この現実を考えれば、「相談されない」ということが、どれほど危機的な状況であるのかが理解できるだろう。
“DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~”が今話題になっている。
ここで言う「ITシステム」とは基幹系システムのことだ。この日本企業の基幹系システムが刷新されなければ、2025年までに多くの企業で破局が訪れ、デジタル・トランスフォーメーションどころではなくなると経産省が警鈴をならしている。
これで新しいIT需要が喚起され、仕事が増えると期待するのは拙速だ。これからの新しい需要は先に掲げたテクノロジーが土台にあり、新しい時代の方法論が前提となるだろう。その需要に応えられるだろうか。IT人材が不足するとは、絶対数の不足ばかりではなく、スキルのアンマッチも課題と言えるだろう。
いや、うちも既に取り組んでいるという企業もあるだろう。しかし、アジャイル開発を低コストで短期間にシステムを開発する手法であると理解し、お客様の要望に合わせることや品質を担保することが難しいと嘆いているとすれば、それはまっとうなアジャイル開発に取り組んでいるとは言いがたい。DevOpsは運用の自動化である、クラウドは調達手段を迅速化する手段であると言う程度にしか理解していないとすれば、あまりにも非常識だ。これでは、お客様が未来を託する次のシステムを相談できないだろう。
「難しいのは、新しい考えになじむことではなく、古い考えから抜け出すことだ。」
経済学者ケインズのこの言葉にあるように、これが難しい。自らの世界観を改めるよりも、現実を調整し自分たちに都合のいいように変えてしまうほうが楽だからだ。特に調子がいいときはなおのこと難しい。
時代の節目というのは、いつの時代も後からの解釈に過ぎない。いままさにその現実に立たされている当事者には、なかなか見えないし、見たくない。ケインズの言葉は、そんな人の世の常への戒めである。
現実に真摯に向き合うべきだろう。世の中は急速に変わってしまう。気がついたときに周回遅れ、いや場外に立たされていないためにできることは、言い尽くされている。後は、実行するかどうかだ。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 10月度版リリース====================
・新たに【総集編】2018年10月版 を掲載しました。
「最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略」研修に直近で使用しているプレゼンテーションをまとめたものです。アーカイブが膨大な量となり探しづらいとのご意見を頂き作成したものです。毎月最新の内容に更新します。
・アーカイブ資料につきましては、古い統計や解釈に基づく資料を削除し、減量致しました。
==========================================..
ビジネス戦略編
【更新】UberとTaxi p.10
【更新】もし、変わることができなければ p.16
人材開発編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】モノのサービス化 p.34
【更新】モノのサービス化 p.37
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【更新】AIと人間の役割分担 p.12
【更新】自動化から自律化への進化 p.24
【更新】知的望遠鏡 p.25
【更新】人に寄り添うIT p.26
【更新】人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係 p.64
【更新】なぜいま人工知能なのか p.65
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・開発と運用編
【新規】マイクロサービス ・アーキテクチャ p.62
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの6つのメリット p.63
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの3つの課題 p.64
【新規】FaaS(Function as a Service)の位置付け p.68
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】Infrastructure as Code p.78
【新規】Infrastructure as Codeとこれまでの手順 p.79
【更新】5Gの3つの特徴 p.235
クラウド・コンピューティング編
【更新】クラウドの定義/サービス・モデル (Service Model) p.41
【更新】5つの必須の特徴 p.55
【新規】クラウドのメリットを活かせる4つのパターン p.57
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更ありません