これまでもSI事業者は、数多くの新規事業を立ち上げてきたが、これからの新規事業を同じやり方でおこなうことは難しい。
これまでのSI事業者の新規事業は、基本的に需要が右肩上がりの時代に、ハードウェアとの組み合わせやパッケージ開発とその周りのインテグレーションというセットを中心に新規事業を生み出してきた。このやり方は従来からのSIビジネスのノウハウを前提としたもので、非常にシンプルでローリスク・ローリターンな取り組みだった。しかし、そのやり方では、現在の新しい市場のニーズに応えることは難しい。残念ながら、現在のSI事業者は新規事業をするのに必要な仕組みと能力が欠いていると言わざるを得えない。その要因は、次の3つに集約されるだろう。
企業文化の問題
SI事業者の新規事業への取り組みでよく見られるのは、能力ある人材をひとりアサインし、他には人材がアサインされない、あるいは能力があるとは言えない人材をアサインするケースだ。
ただでさえハードルが高い新規事業に、これでは成果をあげることなどできない。その背景には、SI事業者はそもそも、エンジニアを中心とした人材の稼働率を高め、それを維持することでビジネスを成り立たせているからだ。そのため、稼働率に貢献しない企画やマーケティングといった人材は、評価されずなかなか優秀な人材が配置されないし、そのような人材を持とうというモチベーションも生まれてこない。
また、それなりに事業計画が仕上がったとしても、ビジネスに投資するタイミングで、既存ビジネスから新規ビジネスにヒト・モノ・カネをシフトできず事業の柱にならないことがしばしばおこる。これは、SI事業が基本的には「原価+マージン」を前提とした堅実なビジネス・モデルであるためで、前例のない市場に先行投資を必要とする新規事業の現実を受け入れることに、大きな抵抗が働くからだ。
このような「堅実なビジネス」は、安定した収益をもたらす一方で、大きな利益は期待できない。そのため、失敗による原価の上昇を極端に嫌う傾向があり、「失敗を許さない企業文化」を生みだしている。
本来、新規事業はなかなか成功しないものであり、リスクを覚悟しなければならない。それを許容しないやり方では、とても成功は覚束ない。
スキルの問題
新規事業開発の手法がわかっている人がいないため、そもそもどうやって新規事業を作っていけばいいかわからないという問題もある。新規事業開発はおおよそ以下のような手順をとる。
- 市場調査しアイデアをまとめ事業プランを作る。
- プロトタイプでテストしてユーザーが受け入れてくれるか評価し、ローンチ方法を検討する。
- 事業を開始し、状況の変化に機敏に対応しながら、常に改善を怠らず成長させてゆく。
また、新規事業開発には、段階に応じて適切な目標やKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)を設定しモニタリンングしながらPDCAを回し、状況の変化に応じてピボット(戦略の変更)の検討も必要となる。
上記のような方法をとるとなると、そもそも市場調査の方法やマーケティングを知っておかなければならないし、事業プランをしっかり練るには、ファイナンスも知っておかなければならない。あとはプランニングして承認されたとしても市場に合わせてピボットする判断基準やKPIモニタリング基準などを揃える必要があるが、その方法を知っている人間がいるSI事業者は多くはない。
元々SIビジネスにこのようなスキルは必要とされなかった。それは、「お客様のご要望に応える」ことで、ビジネスが成り立っていたからだ。しかし、いま求められている新規事業は、「お客様のニーズを新たに生みだす」あるいは、「お客様の潜在的ニーズを引き出す」といった取り組みになる。また、長年の付き合いで仕事の勝手がわかっている情報システム部門から、これまであまり付き合いのなかったエンドユーザーに直接アプローチすることも視野に入れなければならない。そのために何をすれば良いのかを知らないままでは、新規事業を成功に導くことは難しい。
業績評価の問題
新規事業の業績評価に、既存事業の評価基準を当てはめようとするために、極めて高い目標値を与えてしまうことや投資対効果に厳密な裏付けを求めようとする。
新規事業は現状の改善や拡張ではないため既存のビジネスを基準に考えることはできない。また、新たな市場なので、その規模や動きを予測できない。それでも裏付けのある事業計画がなければ、承認しない意志決定のメカニズムがあるために、良いアイデアをもった事業プランでも評価されることはなく、実行に至らないままに潰されてしまう。経営者が、既存の評価基準とは相容れないことを承知の上で、テクノロジーやビジネスのトレンドを正しく理解し、リスクを覚悟で「良いアイデア」に投資する覚悟がなければ、可能性の芽を潰してしまう。
このような事態にどのように対処すれば良いのか。少なくとも、次の3つの点は抑えておく必要がある。
新規事業開発の経験やその意欲、知識のある人をアサインする
研修を長期的に受講させる、あるいは、新規事業開発のコンサルタントを雇うなど、知っている人を新規事業開発に関わらせることだ。何も知らないで新規事業を考えろというのは、「気合いでなんとかしろ」と言っているようなもので合理的ではない。結局は検討に手間がかかりタイミングを逸することになり、費用対効果が得ることができない。
トップが強い意志で新規事業チームを守る
新規事業や新規サービスをやると、様々な横やりや邪魔が、社内から出てくる。そのような攻撃から新規事業チームを守る必要がある。そのためには、彼らが説明責任を果たしている限りにおいては、トップ自らそのチームを弁護する姿勢が大切だ。
失敗から学び、それをプラスに評価してすぐにその経験を生かして次のチャレンジをする仕組みを構築する
結局良いアイデアでも、リスクばかりが目に入り、ゴーを出せない経営陣、そして失敗すると後がないという雰囲気を出す社内を変える必要がある。新規事業は失敗する確率が高いのは当然だ。そして失敗を経験するからこそ、そのノウハウがたまり次は失敗の確立が下がってゆく。チャレンジすることへの加点評価や、リスクでなくリターンに着目する評価方法を仕組みとして先に構築すべきだろう。
ただ、社長や役員が声高らかにチャレンジを推奨したり、失敗を評価したりしても、評価制度や組織・体制がそうなってない限りにおいては、社員はチャレンジしない。そういった仕組みを先に構築し、セーフティーネットを作らないと結局やったものが損をする形となってしまう。そういう取り組みが、結果として、新規事業を生みだす企業文化を育ててゆく。
ただ、既存事業を抱える企業が新たな事業を始めることは容易なことではない。これについて、「顧客開発モデル」や「イノベーション」についてスタンフォード大学などで教鞭を執るスティーブ・ブランク氏は、次の4つの取り組みが必要だと述べている。
- 既存事業部門の外部に新しい組織を作ること
- 10件のうち1件しか成功しないことを覚悟すること
- 新しい組織に対し、ヒト、モノ、カネを安定的に提供し続けること
- 新しい組織に「創業者」タイプの人間を集めること
覚悟のいる話だか、そういう覚悟なくして新しい事業が生まれないこともまた覚悟しなければならない。
SI事業は、仕事はあっても利益が出ない低付加価値事業になってゆくだろう。いやすでにそうなってしまっている企業も少なくない。もはや躊躇している余裕などない。この現実に対処するためには、既存のしがらみから脱却し、新規事業を生みだし、そちらへシフトしてゆくことが、唯一の選択肢と言えるだろう。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 9月度版リリース====================
RPAのプレゼンテーションを作りました。(ITソリューション塾の最後にむに掲載)
他にもいくつかのプレゼンテーション・パッケージを新規追加・更新致しました。
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プレゼンテーション・パッケージ
【新規】RPAについてのプレゼンテーション(25ページ)
【更新】新入社員のための最新ITトレンドとこれからのビジネス(187ページ)
【更新】ビジネスリーダーのためのデジタル戦略塾・最新のITトレンド(203ページ)
【更新】フィン・テックとブロックチェーン (40ページ) *テクノロジー・トピックスより分離
ビジネス戦略編
【更新】デジタル・トランスフォーメーションの実際 p.16
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.17
【更新】もし、変わることができなければ p.18
*人材開発・育成編をビジネス戦略編より分離し、新しくパッケージし直しました。
ITの歴史と最新のトレンド編
【新規】人類の進化と知識 p.12
【新規】自然科学発展の歴史 p.13
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】インターネットに接続されるデバイス数の推移 p.10
【新規】新規事業の選択肢とモノのサービス化 p.44
【新規】IoTのビジネス戦略 p.47
【更新】LPWAネットワークの位置付け p.72
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】AI導入/データの戦略的活用における3つの課題
開発と運用編
【更新】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.57
【新規】開発と運用の方向性 p.58
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。ただし、FinTechとブロックチェーについては、別資料としてまとめました。
ITインフラとプラットフォーム編
【更新】仮想化の役割 p.70
【新規】仮想化の役割/解説 p.71
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません