先般、サーバーがサポート切れになるので、サーバーの入れ替えの提案を聞くので同席して欲しいと、情シス部長から依頼された。提案に来たのはその会社がインフラ業務を外注しているITベンダーだ。彼らは既存のシステム構成をそのままにサーバーを新しいモデルに入れ替える提案をした。私はその話しを聞いて、HCIをなぜ提案しないのかと問いかけた。するとその営業は「HCIって何ですか?」という。
呆れてものが言えない。そのお客様にとって、HCIがふさわしいかどうかは別にしても、HCIがなにかを知らないというのは、インフラに関わる仕事をしているプロとしての自覚に欠ける。当然、メリットもデメリットもあるはずだが、その選択肢を提示してこそ、お客様の信頼を得ることができる。それが自分の役割であるという自覚がないとすれば、ご退場いただいたほうが、お客様のためになる。
ガートナーから今年のハイプサイクルが発表された。
えっ、何のことですか?というような顔をされた。ITベンダーに入社して4年目の営業を対象にした研修でのことだった。IT業界に無縁の人であれば、驚くには当たらない。しかし、IT業界で数年の経験を積んだ人たちが、このようなことでいいはずがない。
armのプロセッサーを使っている人は、手を挙げて下さい。
こんな質問にも誰も手を挙げなかった。あれほど大騒ぎになったSoftBankによる買収劇についても知らないという。なぜ、Softbankが買収したのかを考えてみれば、テクノロジーやビジネスのトレンドが自ずと見えてくる。
先日、armはトレジャーデータを買収した。そして、新たなに発表したIoTプラットフォーム”Arm Pelion Platform ”にトレジャーデータのサービスが組み込まれるという。armというキーワードを1つとっても、これからテクノロジーとビジネスのトレンドの伏線が見えてくる。そういうことに興味がないとすれば、残念ながら、この業界で果たせる役割は限られてしまう。
「4年目だから仕方がない」と同情すべきではない。そのようなことに関心持たせ、学び続けることの大切さを伝えてこなかった先輩や上司こそが、この現実を重く受けとめ、自らの自覚のなさを反省すべきだろう。
コンテナやマイクロサービス、サーバーレスは言うに及ばず、IaaS、PaaS、SaaSの区別すらままならない。いまでも「クラウドはセキュリティが心配だから使えない」とか「セキュリティ対策はFirewallとアンチウイルスの導入だ」と思っている人たちもいる。
MUFGをはじめとする大手都市銀行ばかりではなく、地方銀行もパブリック・クラウドへの移行を模索している。その受け皿として、UnisysがMicrosoft Azure上に勘定系まで含めたシステムを構築し提供しようとしている。ソニー銀行はAWS上に勘定系も含めたシステムを構築している。2017年5月31日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進計画」では「クラウド・バイ・デフォルト原則の導入」という方針を打ち出された。これから情報システムを導入する際、クラウドを原則として第一候補に考えるということであり、政府調達基準もその方向に向かってゆくだろう。米国では、既に同様の取り組みが進められており、CIAがAWSを使用し、アメリカ国防総省が運用している全てのデータをクラウドに移行して一元管理する計画「JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)」がすすめられている。
このような現実を知ることなく「なんとなく」クラウドが心配だという人たちが、IT業界の中にも少なからずいる。このような情報は、なにも秘密の「情報筋」から手に入れた訳ではない。新聞や雑誌、Webで記事になっている。つまり、関心がないからだ。結果として情報を引っかけるフィルターとなるキーワードが記憶になく、背景となる知識が作られないので、ますます情報が入ってこないという悪循環を生みだしている。
また、クラウドやIoT、リモートワークなどの仕組みを考えれば、もはや企業は自社システムを自前のネットワークの内側に閉じ込めておくことができない。このような現実があるにもかかわらず、ネットワークを自社の内側と外側に区分し、その境界をFirewallで守ることでセキュリティ対策ができるという考え方では不十分であることは、容易に想像がつく。
このようなことが想像できないのは、「なぜ?」や「どうして?」といった疑問を持つことなく、日常を過ごしているからかもしれない。話しを聞いても、ニュースを見ても、なぜそうなったのか、どうしてこのような展開になったのかといったことに疑問を持つことなく、またそれを調べることもなく記憶から消えてしまう。それでは、自分の知恵として活かされることはない。
また、ものごとを単語の羅列や箇条書きで考えてしまうからかもしれない。単語の羅列や箇条書きは簡便だが、重大な弱点がある。それは、言葉の要素や概念のあいだに「論理」をつくったり、「物語」をつくったりすることができないことだ。「思いついたまま」の羅列であり、論理や物語、あるいは関係や構造を考えないまま、綴りと辞書的な解説を知り、分かった気になってしまう。当然そんな中途半場な「言葉は知っている」程度の知識では、人に筋の通った説明などできるはずがない。
使える知識を得るには羅列や箇条書きではなく文章にしてみることだ。自分の理解の度合い、つまり論理や物語を伴う理解の程度が「見える化」される。例えば、論理がないと、唐突な展開や文意が通らない。物語がないと、単調でつまらない。それは文章にして「見える化」することではじめて分かる。
このような日常の習慣ができていないと、必要な情報も知識も積み上がらない。当然、お客様に役立つ筋の通った説明もできない。
お客様のITリテラシーが低いから、ITの戦略的活用がすすまない。
そう言う人がいる。しかし、未だ日本がIT後進国に甘んじているのは、このような業界人のリテラシーの低さにあるのではないか。それを教え、彼らのリテラシーを高めることが、IT業界に関わる人たちの役割でもあるはずだ。
1980〜1990年代、私がIBMで働いていた頃、お客様にテクノロジーのトレンドを伝え、どう活用すればいいのかを啓蒙するのは担当する営業やSEの役割だった。当時は、インターネットもなく、売り物はメインフレームだけだ。しかも、コンピュータのトレンドを牽引していたのはIBMだったので、そうしなければならなかったという背景もある。しかし、お客様もよく勉強していたし、実務で積み上げたノウハウもあるので、一筋縄にはゆかない。時には喧嘩をしてまで、その価値を訴えたこともある。若気の至りではあるが、「この技術を使わないなんて、給与泥棒ですよ!」と言って、えらく怒られたこともある。
インターネットが普及し、情報を入手することでの格差は縮まったかに見える。しかし、現実には、情報システム部門は日々の業務に追われ、新たなテクノロジーに関心を持つ余裕がないようだ。しかも、実務はITベンダーに丸投げしているので、実践的なノウハウも乏しい。だからこそ、お客様に役立つ情報をセレクトし、わかりやすく整理して、お客様を次のステージに導くことが、IT業界にいる人たちの役割ではないのか。そうすれば、自ずと案件が生まれてくる。
お客様のITリテラシーの低さを嘆く前に、自らの自覚のなさを顧みるべきだ。
自分たちが商材として扱っていなくても、自分たちの商材の位置づけを客観的に捉え、公平な視点でお客様に説明できなくてはならない。その上で、自社の商材のメリットとデメリットを伝え、ではどうするかと議論する。それがお客様の事業や経営の未来に、どのような価値をもたらすかを、お客様と対話し、一緒になって答えを探してゆく。それが、お客様に対する真摯な向き合い方というものだろう。「共創」という言葉をよく目にするようになったが、それはこのようなお客様との係わり方を言うのだと思う。
テクノロジーの進化はめまぐるしく、加速度を増している。だからこそ、それをわかりやすく伝え、お客様のビジネス価値にどのように貢献できるかを伝えてゆくことは、IT企業で働く者たちの責務だ。その自覚こそが、自らの知識やスキルを高める原動力になる。
ハイプサイクルもarmもコンテナーもサーバーレスもHCIも知らない、説明できないなんて、あまりにも残念であり、仕事へのプライドがなさ過ぎる。
もちろん、全てを詳しく知っている必要はない。せめて、それらのキーワードがなぜいま注目され、いままでできなかった何をできるようにし、どのような顧客価値を産み出すのかといった知識は、常識として持つべきことだろう。また、お客様の知りたいキーワードに応えるのではなく、その周辺も含めて全体の関係やトレンドを伝え、お客様に考える材料を提供することも大切だ。
変化が早いので追いつけないというのは言い訳だ。変化のなかった時代など、これまでもなかったし、これからもないだろう。テクノロジーの変化を知り、それを理解し、お客様のビジネスの言葉に翻訳するトランスレーターが営業やSEの役割であることは、昔も今もこれからも変わることはない。その自覚こそが、自らを成長させ、お客様の価値を高めてゆく。
【若干名追加募集】ITソリューション塾・第29期 10月10日より開講
デジタル・トランスフォーメーションへの勢いが加速しています。クラウドはもはや前提となり、AIやIoTを事業の競争力の源泉にしようと取り組んでいる企業は少なくありません。ITを使うことは、もはや「手段」ではなく「目的」であり「本業」へと位置づけを変えようとしています。このような取り組みは内製となり、これまでの工数を提供するビジネスは需要を失い、技術力を提供するビジネスへの需要は拡大しつつあります。
この変化の道筋を見通し、先手を打つためにはどうすればいいのかを、学び考えるのが「ITソリューション塾」です。次期より講義内容を刷新致します。
最新のトレンドをわかりやすく体系的に整理することだけではありません。アジャイル開発やDevOps/デジタルトランスフォーメーション、新時代のサイバーセキュリティなどについては、それぞれの最前線で活躍する講師を招いて、その感性と実践ノウハウを学びます。
日程 :2018年10月10日(木)〜12月19日(水)
回数 :全11回
定員 :80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 :¥90,000- (税込み¥97,200)
参加登録された方はオンラインでも受講頂けます。出張中や自宅、あるいは打ち合わせが長引いて間に合わないなどの場合でも大丈夫。PCやスマホからライブ動画でご参加頂けます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
【残席わずか】新入社員ための最新ITトレンド研修
IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。
そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も7月17日(火)と8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
- ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
- この業界に入って本当に良かった
この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 7月度版リリース====================
ITソリューション塾・第28期の最新教材を掲載
メモリー・ストレージ関連のチャートを拡充
AI専用プロセッサーについてのチャートを追加
=====================================
ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.22
インフラとプラットフォーム編
【新規】メモリーとストレージの関係 p.216
【新規】速度と容量の違い p.217
【新規】ストレージ構成の変遷 p.217
【新規】新章追加・不揮発性メモリ p.238-242
メモリ階層
コンピュータの5大機能
記憶装置の進化
外部記憶装置が不要に!?
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTビジネスとはどういうことか p.43
【新規】IoTビジネス戦略 p.45
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】AIやロボットに置き換えられるものと残るもの p.111
【新規】皆さんへの質問 p.131
【新規】求められる人間力の形成 p.132
【新規】新章の追加・AI用プロセッサーの動向 p.133-146
急増するAI 専用プロセッサ
人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係
深層学習の計算処理に関する基礎知識
AI = 膨大な計算が必要、しかし計算は単純
学習と推論
GPUはなぜディープラーニングに使われるか
データセンター向けGPU
GoogleがAI 処理専用プロセッサ「TPU」を発表
TPUの進化
クライアント側でのAI処理
Apple A11 Bionic
ARMのAIアーキテクチャ
開発と運用編
【新規】VeriSM p.6
【新規】早期の仕様確定がムダを減らすという迷信 p.13
【新規】クラウド・バイ・デフォルト原則 p.17
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
【ITソリューション塾】最新教材ライブラリ
第28期の内容に更新しました。
・CPSとクラウド・コンピューティング
・ソフトウェア化するインフラと仮想化
・クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
・IoT(モノのインターネット)
・AI(人工知能)
・データベースとストレージ
・これからのアプリケーション開発と運用