2008年7月11日、iPhone 3Gの国内販売が始まった。発売当初は、「ちょっと変わった携帯電話が売り出されたぞ!」程度にしか受け取られなかった。なかには、「日本では売れないだろう」という”専門家”もいたほどだ。その理由は、絵文字が使えない、インターネット接続はすでにiモードがあって目新しいものではない、折りたためないなんて不便で使いにくいといったことだったように記憶している。
あれから10年、Androidを含むスマートフォンは日本国民の60%近くが保有するまでになった。電話やメール、チャットなどのコミュニケーション、情報検索や地図、ゲームや動画・音楽の視聴などに手放せない存在となっている。また、交通系カードやクレジット・カード、さらにはマイナンバーカードとしても使えるようになるという記事もつい先日ニュースになっていた。
10年前に、こんな未来を創造できただろうか。それと同じようにこれからの10年を予測することは難しい。それでも時代を先読みし、先手を打つことがビジネスを成功させる鍵となる。
思いつくままに、いくつかの可能性を示してみよう。
「クラウド・バイ・デフォルト」が常識となる
平成29年5月31日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進計画」では「クラウド・バイ・デフォルト原則の導入」という方針を打ち出された。これから情報システムを導入する際、パブリック・クラウドを原則として第一候補に考えましょうということだ。政府の調達基準もやがて「クラウド・バイ・デフォルト」になるだろう。既に銀行では情報系ばかりではなく勘定系までもがパブリック・クラウドへの移行を模索している。
センサーの捉えたデータに基づき直ちに対応しなければならない工場の工程制御や株式の高頻度取引(High frequency trading/HFT)などのような低遅延を求められる処理でない限り、「クラウド・バイ・デフォルト」の制約はなくなりつつある。
ビジネス環境の変化が加速するいま、システムを所有することはむしろリスクとなっている。運用管理やリース更改/サポート切れなどに伴う移行作業に膨大な時間と労力を費やすことは、経営資源の浪費でありスピードへの足かせでもある。かつてはそれしか方法がなかったわけだが、もはや時代は変わった。
財務会計や人事、経費精算、電子メールなど企業の独自性を求められないアプリケーションを自社開発する必然性もなければ余裕もない。むしろ、競争力の強化や差別化などの攻めのITにリソースを傾けたいと考える経営者にとって、「クラウド・バイ・デフォルト」は当然の帰結となる。
しかし、未だクラウドを自社で所有するインフラの代替としか捉えていないSI事業者も少なくない。マイクロサービスやコンテナ、サーバーレスを知らず、クラウドはサーバー仮想化の受け皿程度にしか理解していないとすれば、クラウドの価値を活かすことはできない。アジャイル開発やDevOpsは、そんなクラウド・ネイティブを受け皿として、はじめてその真価を発揮する。それが結びつけられないとすれば、周回遅れも甚だしい。
「クラウド・バイ・デフォルト」をビジネスの基本に据えるには、このような一連の繋がりを武器に、お客様の事業価値の向上に貢献できる技術力を持つことだ。これからは物販や工数に頼るビジネスは収益を確保することが難しくなるだろう。
ユーザー企業の内製化が常識となっている
本業は人間の役割であり、ITはその本業を支援するための手段に過ぎない。「ITはコアコンピタンスではない」。だから、ITは少しでもコストを削減することが求められる。外注はそのひとつの手段だ。情報システム部門は、そのプレッシャーを一身に背負い、その対応をITベンダーやSI事業者に求めてきた。
しかし、ITを武器に事業の差別化を図ろうとする取り組みがにわかに活況を呈しはじめている。ITを、本業を支援する手段としてだけではなく、本業として扱ってゆこうという取り組みだ。ユーザー企業はこれに対応する組織を情報システム部門とは別に設置し、内製化で対応しようとしている。クラウド、アジャイル開発、DevOpsを前提にコストではなく投資としてITへのリソースを拡大している。
そこに求められるのは、求められるがままに工数を調達する能力ではなく、テクノロジーでビジネスの課題を解決する技術力だ。ただ、これに応えられるITベンダーやSI事業者は限られている。だからこそ、そこに大きなビジネス・チャンスが横たわっている。
ネットワークは5Gとクラウド・データセンターに集約される
5Gのネットワーク・スライシングは企業の所有するIP-VPNや専用線、LANを駆逐する。WANは高速大容量で高度なセキュリティ対応や最適化を任せられるクラウド・データセンターのバックボーン・ネットワークに代替される。
その結果、ネットワークの構築やその運用管理業務はニーズを失ってしまう。むしろ、そのような新しいネットワークをビジネスや経営の成果に結びつけてゆけるための適切な提案と、それを実現できる技術力が求められるようになる。
AI(人工知能)という言葉が語られなくなる
1970年代から1980年代にかけて、コンピュータは魔法の箱であり、コンピュータの可能性が大きく語られた時代でもある。一方で、コンピュータは労働を奪う悪者であるとも語られていた。しかし、もはや「コンピュータ」をそのように語ることはない。その存在はもはや前提であり、必要性や可能性を議論されることはない。「当然」は議論されることはなく空気のような存在となってしまった。インターネットやスマートフォンもまた同様の「当然」として受けとめられている。
AIはまだその段階にはない。新しい適用分野や可能性が広がる中、かつての魔法の箱であったコンピュータと同じように「大騒ぎ」の対象となっている。その一方で、AIはビジネスの様々なシーンに使われ、成果をあげつつある。あと、数年の内にはAIを特別な存在として議論されることはなくなっているだろう。これは技術の進歩が止まると言うことではなく、技術の進歩が加速し、その難しさを隠蔽し、ありふれた日常の存在として普及してゆくことを意味している。
AIを「うちには関係ない」や「特別な技術」と考えていると、時代はあっという間に飛び越えてゆく。
量子コンピュータが普及する
組み合わせ最適化問題の計算に於いては、既存のコンピュータの1億倍の計算スピードを実現している量子アニーリング方式の量子コンピュータが既に稼働を始めている。汎用的な計算問題を解くことができる量子ゲート方式が実用化されるにはまだしばらくの時間がかかるとは言え、10年や15年という時間軸の中で使われるようになるだろう。
量子コンピュータが必要とされる背景にはムーアの法則の限界がある。IoTやAIの普及・発展とともに計算量は指数関数的に拡大している。一方で、従来型のコンピュータの能力は頭打ちだ。このようなニーズに支えられて量子コンピュータへの莫大な投資が行われている。
ニーズがあり投資も行われているとすれば、そこをビジネスのチャンスに結びつけるのは当然のシナリオだ。既に無償/有償のサービスも始まり、高校生や大学生までもが、新しいアルゴリズムや適用分野を見つけようと取り組んでいる。
やがては常識になる量子コンピュータをいち早く使いこなし、そのノウハウを次のビジネスにつなげる取り組みは、もはや先の話しではない。
プログラミングの自動化が当たり前になる
プログラミングの全工程が自動化されるとは思わない。何を解決するのか、どのような結果を得たいのかの問いを発し、テーマを決めるのは引き続き人間の役割だ。ただ、テーマを決めて、求める結果を決めれば、コードの生成やテストは相当範囲に自動されることになるだろう。あるいは、PaaS上の様々な機能部品を連結させてアプリケーションを作ってくれるようになるだろう。
いまでもフレームワークや高速開発ツール、PaaSやサーバーレスは、開発の生産性を高めることに大いに貢献しているが、工数を削減し利益相反になるので使わないでおこうというSI事業者も未だいるのも現実だ。お客さまの価値向上のためにではなく、自分たちの仕事のボリュームを維持するためにと言うことだろうが、これではお客様に愛想を尽かされてしまう。
お客様が求めているビジネス・スピードへの対応をこのような手段を駆使し、アジャイル開発やDevOpsで高速に回してゆく。つまり、ひとつひとつのボリュームではなく、高速に回転させて数をこなして、全体としてボリュームを拡大してゆくことへとビジネスのニーズがシフトしてゆくことになるだろう。
この転換はかなり早いだろうと思っている。なぜなら、ITの予算の意思決定は相当範囲事業部門に移っているので、彼らの求めに対応できないSI事業者は、お客様から切り捨てられることになる。
難しいのは、新しい考えになじむことではなく、古い考えから抜け出すことだ。
経済学者、ジョン・メイナード・ケインズの言葉にあるように、これが一番難しい。
- まだ、なんとかなる。そんなに急には変わらない。
- そんなことは夢物語だ。もっと現実を見るべきだ。
- そんな考えには同意できない。根拠なんかない。
自らの世界観を改めるよりも、現実を調整し自分たちに都合のいいように変えてしまうほうが楽だからだ。
ITソリューション塾を10年続けている。それは調整前の現実を冷静に、そして真摯に向き合える人たちを増やしたいからだ。
「3年前に塾で伺ったことが、いま実感として理解できました。」
先日、そんな話を伺って、本当に嬉しくありがたかった。
10月から新しい期が始まる。今回は思い切って内容を変えてみようと思う。サイバー・フィジカル・システムとその先にあるデジタル・トランスフォーメーションが、テクノロジーの大きな流れを読み解く鍵になる。これを軸に、これからのテクノロジーとビジネスを読み解いてゆく。そこにどのように関わって行けばいいのかを、体系的に分かりやすく伝えてゆくつもりだ。
そんなこれからのビジネスで、既に第一線で活躍する人たちも講師に招き、その実践論も学ぼうと思う。理屈だけでは、最初の一歩を踏み出せないと思っているからだ。
ここに紹介したようなことが、10年後に実現しているかどうかは分からない。しかし、確実にこの方向に向かっていることは、確信を持って申し上げることができる。
先手をとるか、後手に回るかは、戦略であって優劣を云々できるものではない。ただ、新たなビジネスの地平を切り拓く仕事の楽しさは先手をとるほうが勝っているように思う。そして、そういう機会を与え続ける企業に優秀な人材が集まってくることもまた確かだ。
【募集開始】ITソリューション塾・第29期 10月10日より開講
デジタル・トランスフォーメーションへの勢いが加速しています。クラウドはもはや前提となり、AIやIoTを事業の競争力の源泉にしようと取り組んでいる企業は少なくありません。ITを使うことは、もはや「手段」ではなく「目的」であり「本業」へと位置づけを変えようとしています。このような取り組みは内製となり、これまでの工数を提供するビジネスは需要を失い、技術力を提供するビジネスへの需要は拡大しつつあります。
この変化の道筋を見通し、先手を打つためにはどうすればいいのかを、学び考えるのが「ITソリューション塾」です。次期より講義内容を刷新致します。
最新のトレンドをわかりやすく体系的に整理することだけではありません。アジャイル開発やDevOps/デジタルトランスフォーメーション、新時代のサイバーセキュリティなどについては、それぞれの最前線で活躍する講師を招いて、その感性と実践ノウハウを学びます。
日程 :2018年10月10日(木)〜12月19日(水)
回数 :全11回
定員 :80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 :¥90,000- (税込み¥97,200)
参加登録された方はオンラインでも受講頂けます。出張中や自宅、あるいは打ち合わせが長引いて間に合わないなどの場合でも大丈夫。PCやスマホからライブ動画でご参加頂けます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
【残席わずか】新入社員ための最新ITトレンド研修
IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。
そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も7月17日(火)と8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
- ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
- この業界に入って本当に良かった
この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 7月度版リリース====================
ITソリューション塾・第28期の最新教材を掲載
メモリー・ストレージ関連のチャートを拡充
AI専用プロセッサーについてのチャートを追加
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ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.22
インフラとプラットフォーム編
【新規】メモリーとストレージの関係 p.216
【新規】速度と容量の違い p.217
【新規】ストレージ構成の変遷 p.217
【新規】新章追加・不揮発性メモリ p.238-242
メモリ階層
コンピュータの5大機能
記憶装置の進化
外部記憶装置が不要に!?
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTビジネスとはどういうことか p.43
【新規】IoTビジネス戦略 p.45
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】AIやロボットに置き換えられるものと残るもの p.111
【新規】皆さんへの質問 p.131
【新規】求められる人間力の形成 p.132
【新規】新章の追加・AI用プロセッサーの動向 p.133-146
急増するAI 専用プロセッサ
人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係
深層学習の計算処理に関する基礎知識
AI = 膨大な計算が必要、しかし計算は単純
学習と推論
GPUはなぜディープラーニングに使われるか
データセンター向けGPU
GoogleがAI 処理専用プロセッサ「TPU」を発表
TPUの進化
クライアント側でのAI処理
Apple A11 Bionic
ARMのAIアーキテクチャ
開発と運用編
【新規】VeriSM p.6
【新規】早期の仕様確定がムダを減らすという迷信 p.13
【新規】クラウド・バイ・デフォルト原則 p.17
クラウド・コンピューティング編
*変更はありません
サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
*変更はありません
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
【ITソリューション塾】最新教材ライブラリ
第28期の内容に更新しました。
・CPSとクラウド・コンピューティング
・ソフトウェア化するインフラと仮想化
・クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
・IoT(モノのインターネット)
・AI(人工知能)
・データベースとストレージ
・これからのアプリケーション開発と運用