「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したデジタル・トランスフォーメーションの概念です。彼は、デジタル・トランスフォーメーションに至る段階を3つのフェーズに分けて説明しています。
- 第1フェーズ:IT利用による業務プロセスの強化
- 第2フェーズ:ITによる業務の置き換え
- 第3フェーズ:業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態
第1フェーズ:IT利用による業務プロセスの強化
業務の効率や品質を高め、それを維持してゆくために、業務の仕組みや手順、すなわち業務プロセスの標準化が行われてきました。そしてマニュアルを作り、現場で働く従業員にそのとおり守らせることで、標準化された業務プロセスを徹底させ、業務の効率や品質を維持してきたのです。
しかし、人間がそこで働く以上、徹底した業務プロセスの遵守は難しく、ミスも犯します。そこで、標準化された業務プロセスを情報システムにして、現場で働く従業員にこれを使わせることで、業務の効率や品質を確実にしようというのです。言葉を換えれば、紙の伝票の受け渡しや伝言で成り立っていた仕事の流れを情報システムに置き換える段階です。
第2フェーズ:ITによる業務の置き換え
第1フェーズは、人間が働くことを前提に、標準化された業務プロセスを現場に徹底させるためにITを利用する段階でした。その業務プロセスを踏襲しつつも、ITに仕事を代替させ自動化するのがこの段階です。
これにより、人間が働くことに伴う労働時間や安全管理、人的ミスなどの制約を減らし、効率や品質をさらに高めることができます。
第3フェーズ:業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態
全てのビジネス・プロセスをデジタル化する段階です。IoTによる現場のデータ把握とそのデータをAIにより解析して最適解を得て、ビジネス・プロセス全体の劇的な効率化や最適化を実現しようという段階です。言うなれば、人間が働く現場とITが一体となって改善活動を繰り返しながら、ビジネスの価値基準、すなわち期間やコスト、品質などの常識を変革しようというわけです。
デジタル・テクノロジーを駆使して、経営のあり方やビジネス・プロセス、さらにはビジネス・モデルを変革する段階と読み替えることもできるでしょう。
この第3フェーズになることで、デジタル・トランスフォーメーションが達成されるとしています。
デジタル・トランスフォーメーションを支えるテクノロジー
調査会社IDCは、ITプラットフォームには、第1のプラットフォームから第3のプラットフォームがあるとしています。
- 第1のプラットフォーム:集中処理型のコンピューターシステム
- 第2のプラットフォーム:クライアント/サーバーシステム
- 第3のプラットフォーム:クラウド・ビッグデータ/アナリティクス・ソーシャル技術・モビリティーなど
現在は、第2プラットフォームから第3のプラットフォームへのシフトが進んでいる段階だとしています。
IDCはデジタルトランスフォーメーションを「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義し、これに投資することが、今後の企業の成長にとって重要であるとしています。
また、デジタル・トランスフォーメーションは、「第3のプラットフォーム」を導入するだけで実現できるものではないとも述べています。これらテクノロジーはあくまでも手段であり、従来の業務プロセスやビジネス・モデルの変革が実現しなければ、デジタル・トランスフォーメーションにはなりません。ストルターマン教授が提唱する第3フェーズに至って、はじめて実現するのです。
この変革を促進するものとして「イノベーション・アクセラレーター」の存在をあげています。具体的にはIoTや人工知能(AI)、ロボティクス、3Dプリンティング、次世代セキュリティーなどです。これらテクノロジーの発達とともに、これまでにはできなかったことができるようになり、「人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」社会へと発展するとしています。
デジタル・トランスフォーメーションへの対応
ストルターマンの言うデジタル・トランスフォーメーションの第3フェーズに最も近い段階にある代表的な企業がAmazonです。Amazonは、オンラインでのショッピングに留まらず、映画や音楽、書籍の配信などのオンライン・サービスに加え、Amazon GoやWhole Foods Marketなどのリアル店舗や独自の物流網を構築するなど、「業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態」を実現しています。また、PCやスマートフォンだけではなく音声応答に対応したAmazon Echoを提供してあらゆる顧客接点を掌握し、顧客ひとり一人のきめ細かなデータを収集することで、徹底した効率化と最適化を実現し、他者にはまねのできない圧倒的な競争力を実現しています。
人間がやることをITで支援して効率や利便性を向上させるのではなく、ITを駆使して、これまで世間が常識としてきたビジネスのあり方や価値基準の変革を実現しているのです。
このようなデジタル・トランスフェォーメーションを企業が目指すことになれば、次のような変化が起こると考えられます。
あらゆる業務をデータとして把握する
業務のあらゆる現場、例えば営業の現場、製造の現場、設計や開発の現場、経理や会計の現場などのビジネス・プロセスで行われている紙の伝票でのやり取りや伝言などといったアナログな手段はなくなり、全てITによって処理されることになり、あらゆる業務はデータとして捉えられるようになります。
このような状態になるとデータに基づく的確な判断を迅速に行うことができます。
- 「過去」対応:原因究明、フォレンジック、説明責任
- 「現在」対応:見える化、ガバナンス、戦術的意志決定
- 「未来」対応:予測、最適化、戦略的意志決定
これにより、業務や働き方などの改善や改革の適正化が容易になると共に、セキュリティに関わる対応の無駄や無意味を無くし、脅威に対して適切かつ低コストで対応できるようになります。
開発すべきプログラムが爆発的に増大する
あらゆる業務をITで行うとなると、開発すべきプログラムは爆発的に増大します。この状況に対応する必要があります。
- 超高速開発と開発の自動化:増大する開発要求や変更のニーズに即応する
- クラウド・コンピューティング:運用やセキュリティなどのビジネスの価値に直接貢献しないノンコア業務の負担を軽減する
- アジャイル開発とDevOps:ビジネスの成果に直結し現場が必要とするサービスをジャストインタイムで提供する
これらを取り込むことで加速するビジネス・スピードやビジネス環境の変化に即応できる能力を持たなくてはなりません。
SI事業者が目指すべき方向
手段を提供するビジネスから成果に貢献するビジネスへ
ユーザーが情報システムに求めているのはハードウェアやプログラム・コードではありません。結果としてのサービスです。それを使って現場の課題を解決し、ビジネスの成果を手に入れることです。
しかし、これまでは、このサービスを手に入れるために、ハードウェアやプログラム・コードを用意する必要がありました。それを運用管理する手間も必要でした。そこに物販や工数といったSIビジネスの収益源が生まれていたのです。これが、「手段を提供するビジネス」です。
しかし、そのためのコストと時間は膨大です。そこで、この状況を解決するために、「超高速開発と開発の自動化」、「クラウド・コンピューティング」、「アジャイル開発とDevOps」といった方法が登場してきたのです。
そのため、手段を提供するビジネスたけでは収益を上げることが難しくなりつつあります。ITを駆使してお客様の「ビジネスの成果に貢献するビジネス」へと収益の重心をシフトさせなくてはなりません。
時代の流れは、確実にデジタル・トランスフォーメーションに向かうでしょう。ならば、それに備えが必要です。「SIビジネスの未来を創る3つのステップ」で述べたように、次の3つのステップを確実にこなし、自らのSIビジネスのデジタル・トランスフォーメーションを実現を目指すべきです。
- ステージ1:お客様の情報システムの徹底した効率化
- ステージ2:新しいSI手法の習熟
- ステージ3:共創と内製化
テクノロジーの進化は社会やビジネスのあり方を大きく変えつつあります。この変化のメカニズムを追求し、その変化を先取りしてこそ、自分たちのビジネスに未来が見えてくるのです。
SIビジネスは、いまデジタル・トランスフォーメーションの最前線に立たされています。この変化を味方にするか敵に回すかは、経営の意志と戦略次第です。
【募集開始】ビジネス・リーダーのためのデジタル戦略塾
- 8月2日(木) 第1回 最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略
- 8月29日(水) 第2回 ビジネスを戦略的に動かす実践データサイエンス
- 9月14日(金) 第3回 未来創造デザインによる新規事業の創出
- 10月3日(水) 第4回 デジタルサービスの機敏な提供ーVeriSM
対象者は次のような方です。
SI事業者やITベンダーではない事業会社のリーダーや管理職、部門長、経営者(ITやデジタル・テクノロジーについての前提知識は不要)
- 事業企画や経営企画にかかわっている
- 新規事業開発にかかわっている
- 情報システム部門で企画や戦略に関わっている
次のような課題をお持ちの皆さん
- 最新のIT知識や実践で活かすためのノウハウを手に入れたい。
- デジタル戦略の実践でリーダーシップを発揮したい。
- 事業計画にデジタル戦略を織り込みたい。
もはやデジタルを味方にしなければ生き残れない時代です。しかし、加速度を増すテクノロジーの進化についてゆくことは大変なことです。また、それを実践に活かすとなるさらに高いハードルが待ち受けています。
そんな課題を克服し、自分たちのデジタル戦略を前進させたいと考えている方に、テクノロジーについての最新の知識をわかりやすく伝え、実践のためのノウハウを学んで頂きます。
SI事業者やITベンダーの皆さんへ
お客様のITに関わる予算の7割は、情シス部門以外の部門が意志決定に関与しています。ここに営業力を直接的に行使できれば、営業目標の達成にも大いに貢献できます。「デジタル戦略塾」は、この取り組みを支援するものです。
いま、お客様の事業部門は、自らの事業の差別化を図り競争力を強化するためにITを積極的に活用していこうとしています。「攻めのIT」や「ビジネスのデジタル化」、あるいは、「デジタル・トランスフォーメーション」といった言葉が、注目されているのはそのような背景があるからです。一方で、彼らはITについての知識は乏しく、それを活かす方法を知りません。
ITを活用して事業の競争力を高めたいが、それを実践に活かす知識もノウハウもない
このギャップを埋めることに積極的に貢献できれば、事業部門との信頼関係を強固にすることができます。そうすればその先にビジネスのきっかけを見つけることができるようになるはずです。
情報システム部門の皆さんへ
情報システム部門の中には、このような事業部門の取り組みの蚊帳の外に置かれているところもあるようです。「攻めのIT」は事業部門の主導の下で行われ、自らの存在意義を問われています。
「デジタル戦略塾」を事業部門にご紹介いただくことは、「攻めのIT」への取り組みにおける自分たちの存在意義を、事業部門や経営者にアピールする有効な手立てとなります。また、ご自身も一緒にご参加いただき、「攻めのIT」への取り組みを二人三脚で取り組むための知識とノウハウを共有して頂くこともできます。
- AIやIoT、クラウドやアジャイル開発などの最新のテクノロジー
- ビジネスをデータで理解するためのデータサイエンス
- ビジネスにイノベーションをもたらすデザイン思考
- 新しいビジネスをいち早く実践の現場に展開するためのVeriSM
ご参加ならびにご紹介をいただければ幸いです。
【募集開始】新入社員ための最新ITトレンド研修
IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。
そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
- ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
- この業界に入って本当に良かった
この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 5月度版リリース====================
- SI事業者/ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリース
- 「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツ
- その他、コンテンツを追加
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【新規掲載】SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
- 教科書 全109ページ
- PDF版
- プレゼンテーション 全38ページ ロイヤリティフリー
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「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツを追加
メインテーマ
ITトレンドの読み解き方とクラウドの本質
ソフトウェア化するインフラと仮想化
クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
IoT(モノのインターネット)
AI(人工知能)
データベース
ストレージ
これからのアプリケーション開発と運用
これからのビジネス戦略【新規】
知っておきたいトレンド
ブロックチェーン
量子コンピュータ
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サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】伝統的なやり方とIoTの違い p.19
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】人間にしかできないコト・機械にもできること p.100
インフラ&プラットフォーム編
【新規】仮想化とは何か p.68
【新規】仮想化の役割 p.70
【新規】サイバー・セキュリティ対策とは何か p.125
【新規】脆弱性対策 p.127
クラウド・コンピューティング編
【新規】コンピューターの構成と種類 p.6
【新規】「クラウド・コンピューティング」という名前の由来 p.17
【新規】クラウドがもたらすビジネス価値 p.26