まずはこちらの動画をご覧頂きたい。
日産とDeNAが取り組んでいるライドシェア・サービス”Easy Ride”のコンセプト・ムービーだ。
無人の電気自動車が、アプリから呼び出されて空港に迎えに来る。言葉の違う2人の外国人が乗り込んで、それぞれの言葉で行き先を告げる。その車はそれを正しく聞き分けて、応対をしている。
免許を持っていない老夫婦だろうか。迎えに来た車は「おすすめの目的地」を提案し、2人をドライブに連れて行ってくれる。
次は子どもたちのお迎えだ。母親が手配したようだ。もちろん子どもたちに運転などできないが、安全確実に自宅に送り届けてくれるだろう。
帰宅途中のサラリーマンがお土産を買おうと「おすすめのケーキ屋さん」を自動車に尋ねる。紹介されたケーキ屋さんは狭い路地の中にあり、駐車スペースがない。買い物が終わる10分後に迎えに来るように指示すると、車はその場を立ち去ってしばらくしてから戻ってくる。自宅に到着すると、明日の迎えの時間を指定する。
自動運転車とライドシェア・サービスを組み合わせた「ありふれた日常」を見事に描いている。そして、まもなくこんな日常が当たり前になることを予感させてくれる。
この動画に描かれているのは、テクノロジーがもたらす利便性だけではない。少子高齢化を迎える時代の新たな移動手段の提案であり、自動車と地域社会との新しい関係だ。また、インターネットで様々なサービスを無償で利用できるのが広告収益モデルのおかげであるように、観光地やお店を紹介し連れて行ってくれる広告収益モデルの可能性も示唆している。お店を紹介しそこまで連れて行ってしまうという強制的で強力な広告効果は、インターネット広告の比ではなく、ライドシェア・サービスの無償化を実現してくれるかもしれない。もはや車など所有しなくても快適な移動が実現する。そんな未来を自動車メーカーが自ら模索していることを理解する必要がある。そしてITがその実現を加速する。
SI事業者やITベンダーはこのような物語の実現にどのように関わっていけるだろうか。その具体的な係わり方や役割をイメージできるだろうか。
先日、私が主催するITソリューション塾に、講師としてデンソーの成迫剛志を招いた。彼はMaaS(Mobility as a Service)開発部長として、「所有する自動車」から「サービスとしての移動」へと自分たちの事業を転換することに取り組んでいる。カルソニックカンセイの子会社で自動車のセキュリティ技術を開発するホワイトモーションの社長である蔵本雄一氏にも同席頂いた。彼らは共にSI事業者やITベンダーでの経験を経て事業会社へ転身し、次代のビジネス開発に取り組んでいる。
私は、彼らに次のような質問をした。
「皆さんは、SIerに何を期待しますか?」
すると彼らは口ごもってしまい困った顔をした。目の前に居る80人を超える受講者の大半はSIerの社員だ。
「難しいですね。特にお願いすることはありません。」
そして、次のような話しもされていた。
「言われた仕事をこなすための工数を提供してくれるSIerは必要ないが、自分たちのビジネスに必要な高い技術力を持つ企業とは連携してゆく。」
事実、彼らはそんなIT企業と資本提携している。
多くのSI事業者やITベンダーが「共創」を掲げ、これからはお客様とともに新たな事業の創出を実現してゆくと宣言する。しかし、冒頭に紹介したEasy Rideのような物語をお客様と共に描き実現するためのスキルや感性を磨くための取り組みに、どれほどの関心を持っているのだろうか。
メリットもリスクも共有しイーブン・パートナーとして取り組むことが「共創」の根底には必要だ。しかし、ビジネスの仕組みを考えるのはお客様主体ですすめ、それを技術的あるいは工数的に支援するのが自分たちの役割だと線引きしているとすれば「共創」などという大仰な看板は下ろすべきだろう。
これまでの情報システムは、人間が本業をこなし、その業務の効率化やコスト削減を支援することが目的だった。
「情報システムは所詮本業ではない。だから、少しでもコストを抑えたい」
自分たちのコア・コンピタンスではないから、外注をうまく使ってコスト削減を図ろうという思惑があった。しかし、冒頭の事例や話をしてくれた2人の企業にとって、情報システムは本業そのものであり企業のコア・コンピタンスとなる。それを外注に任せるというのは、自社の競争力の源泉である製品開発を外注するようなもので、あり得ない話しだ。だから内製は必然となる。
だからといって、それを実現するための技術を全て自前でまかなえる訳でもない。そこで外部から優れた技術を取り入れたり、高い技術力を誇る企業と連携したりする必要がある。
このようなスキームに与する技術力やスキルを自らの事業資産として育てる努力をしているだろうか。真摯に考え行動に移さなければ、利益の出ない安い仕事さえもなくなってしまうだろう。
「うちのお客様には、このような需要はありませんよ。」
「アジャイルやDevOpsなんて、そんな相談をいだいたことはありません。」
「ビジネスのデジタル化なんて騒いでいますけど、そんな企業はどれほどあるのでしょうか?」
どうせ、相談してもできないだろうから相談されないだけのことだと気付いていないとすれば、なんとも残念な話しだ。事実、ユーザー企業からの相談がひっきりなしで対応しきれないで困っているという企業も少なくない。
例えば、コンテナやkubernetes、マイクロサービスやサーバーレスと言われ、それが何かをイメージできないとすれば、相談されないのは仕方がないと思うべきだ。AIやIoTなどの流行の言葉に一喜一憂し、PythonやNode-REDでアプリケーションを開発できる人材を育てていないようではそんな仕事の話しもない。アジャイルやDevOpsは役に立つのだろうかなどと考える前に、やってみればいい。若い現場のエンジニアはあっという間にそのノウハウを身につけてしまうだろう。時代に疎いマネージメントが、そんな彼らの足を引っ張ってはいないだろうか。
技術力が事業資産であることは今も昔も変わらない。しかし、コモディティ化した技術力の総量を増やすことではもはや事業資産を積み上げることはできない。時代を牽引するテクノロジーに関わる技術力の提供スピードを新たな事業資産として築くことに注力すべきだろう。そんな技術力を武器にしてお客様のイノベーションに貢献する筋道を描く必要がある。
そもそもイノベーションとは、シュンペーターが言うように「新しい組合せ」を実現することを言う。決して新しい技術を発明することではない。従来の技術も新しい技術も分け隔てなく吟味し、これまでにはなかった新しい組合せを生みだして、新たな価値を提供することだ。
その膨大な組合せの選択肢の中から最適解を見つけ出す方法としてデザイン思考が注目されている。「共創」をかけ声や看板に終わらせないためには、こういうことも自らのスキルとして磨いてゆく必要があるだろう。
ITに求められる役割は支援から本業へと変わろうとしている。この変化への備えはできているだろうか。冒頭の動画に語られているような未来からいまの自分たちを逆引きしてみてはどうだろう。そのギャップに気付くことが事業戦略立案の起点となる。そして、そのギャップを埋めるためのシナリオを描きマイルストーンを設定することが事業戦略となる。
技術力を事業資産にし、お客様のイノベーションに貢献する。
そんな役割を果たすための、これからの物語を描けているだろうか。もし、描けていないとすれば、すこしばかり急いだ方がいい。求められる技術力は加速度を上げながら、進化し変化し続けているからだ。
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IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
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そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も7月17日(火)と8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
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この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 5月度版リリース====================
- SI事業者/ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリース
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【新規掲載】SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
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「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツを追加
メインテーマ
ITトレンドの読み解き方とクラウドの本質
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サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】伝統的なやり方とIoTの違い p.19
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】人間にしかできないコト・機械にもできること p.100
インフラ&プラットフォーム編
【新規】仮想化とは何か p.68
【新規】仮想化の役割 p.70
【新規】サイバー・セキュリティ対策とは何か p.125
【新規】脆弱性対策 p.127
クラウド・コンピューティング編
【新規】コンピューターの構成と種類 p.6
【新規】「クラウド・コンピューティング」という名前の由来 p.17
【新規】クラウドがもたらすビジネス価値 p.26