トヨタがe-Palette Conceptを発表しMaaS(Mobility as a Service)をこれからのビジネスの柱に据えようとしています。コマツは、Smart Constructionを主力事業と位置付け、土木工事における作業の自動化と高度化を実現することに加え、前後工程も効率化して、工期の短縮に貢献できるパッケージ化したサービスを提供しようとしています。
両者に共通するのは、「モノを売り収益を得るビジネス。サービスはモノ売りビジネスを支援する手段」から、「サービスを提供し収益を得るビジネス。モノはサービスを実現なする手段」へと転換を図ろうとしていることです。
モノや人手などの「手段」を提供するビジネスから、「移動する」や「工事を行う」などの「結果」を直接提供するビジネスへと経営の根幹を変えてしまおうという取り組みであるとも言えるでしょう。
この背景にあるのが、デジタル・テクノロジーの進化です。現場をきめ細かくデータで捉えることを可能とするIoTや、そのデータから最適解を見つけ出し自律的に判断し実行できるAIは、ビジネスの常識を転換する大きな原動力になりました。
環境意識の高まりや人手不足、所有にこだわらない価値観の拡がりなど、ビジネスを支える社会環境の変化が、これからのデジタル・テクノロジー需要を拡大させています。
もはやITは、本業の生産性の改善やコスト削減を支援する手段ではありません。事業や経営のあり方を変革するためにITを前提に考えてゆこうとしています。表現を変えれば、ITが本業となり、全ての企業や組織はITサービス・プロバイダーへと変わろうとしているのです。
この大きなパラダイム・シフトがデジタル・トランスフォーメーションです。
>> SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
この大きな変化がもはや現実のものとなろうとしているのに、人材育成は未だ内向きであり、インサイド・アウト(自社事業延長線上に考える)でしかありません。例えば、ウォーター・フォール開発を前提としたプロジェクト管理やプログラミングの研修であり、運用管理の委託業務に答えるための運用管理手順のノウハウなどです。
もちろん、いまの収益を支えるためにはこのような知識やスキルは必須ですから、そんな研修が不要だと申し上げるつもりはありません。しかし、これからのお客様が求めるIoTやAI、クラウドやモバイルなどの技術スキル、デザイン思考やリーン・スタートアップ、DevOpsやアジャイルなどの実践ノウハウなどの習得は、ことごとく自助努力に委ねられています。ほんとうにそれでいいのでしょうか。
先日、あるSI事業者の人材育成の責任者と話をする機会がありました。かれは、エンジニアの人材育成プランを作り直すように社長から命じられていました。私は彼の試案なるものを拝見して、なんとも残念に思いました。
- 何も変わっていない
- 時間をかけすぎ
- 現実が理解できていない
結局は、ウォータフォール型の案件を受託するための前提となるPMBOKやITILなどの資格取得が前提であり、技術者の視野を広げスキルを向上させるような内容は皆無でした。
また、たったこれだけのことをやるのになぜ3年や5年もかけなければならないのか驚きました。この点を指摘すると「予算が限られているから」ということでした。しかし、書籍やオンライン研修はいくらでもあります。実践的なシステム環境の構築やトライアルならクラウドやOSSを使えばお金などかかりません。それよりもなによりもそんなスピード感では、研修が終わる前に必要なスキルが変わってしまいます。
そんなことをお伝えすると、まるで他人事のように「もう、そんな時代なんですねぇ」との言葉が返ってきました。
お客様のビジネスの常識が変わり、求められるテクノロジーもその重心を変えつつあります。その実感がないようです。
クラウドについては「うちでも取り組まなければいけないと思っていますが、お客様からはそんなご依頼がないので」といい、アジャイルは「SIで使えるかどうかは分かりませんし、まだ具体的なご要望もありませんので」という答えでした。スキルがないことを分かっているお客様が、彼らに相談しないだけのことだという現実が見えていないようでした。
人材育成というのは、自分たちのビジネスのいまを支えるスキルを身につけなければならないことは言うまでもありません。しかし同時に自分たちの未来を創る人材を育てるためにも必要なことです。
これからITは本業として、お客様の事業組織に組み込まれてゆきます。クラウドやアジャイル、DevOpsを前提に内製化をすすめてゆくでしょう。そんな時代の受け皿となれる人材を育ててゆくことも、人材育成に責任を持つ彼の役割のはずです。その自覚も見識もないままに任されたのは、彼にとって不幸なことだったのかもしれません。あるいは、経営者にそもそも先を見通す見識がなかったのかもしれません。
また、この会社は優秀な人材の流出が停まらないそうです。そのこともあって人材育成の見直しに取り組もうとしているというのですが、これでは逆効果です。
優秀な人材が流出するひとつの理由は、仕事にワクワク感がないことです。古いシステムの保守や運用管理、トラブル対応ばかりではモチベーションも下がります。新しいコトに取り組むチャンスは限りなく少なく、自分たちが作ったシステムがお客様の現場でどのように使われ成果をあげているかを知る機会もないままに、一方的に与えられた作業をこなすだけの仕事では、自分の成長や未来を期待することはできません。
現場で仕事をする人たちは、いま世の中が変わりつつあるのかを実感しています。一方で、経営者や管理者は、まだ大丈夫と安心し、あるいは、「変えるのは簡単なことではない」と施策を先送りしていては、現場の人たちが、このままで大丈夫だろうかと不安になるのは当然のことです。
現場の人たちが、この状況に対処するには2つの選択肢があります。ひとつは「思考停止」になることです。上司やお客様の指示を待ち、リスクを回避し、他人任せで仕事をすることです。そうすれば、その会社で生き残ることができます。
そのような人たちに、もっと積極的に提案してほしいと経営者は期待を述べますが、新しいことを提案しても「リスクが高いのでうちではムリ」という判断が下されるのがわかっていますから、提案力など育つはずはありません。まさに悪循環です。
一方で、優秀な人材は、このままでは自分の未来がないと悟り、自らの成長の機会を求めて転職してゆきます。これが、この会社から「優秀な人材の流出が停まらない」理由ではないでしょうか。
人材育成のあり方を変えてゆかなければなりません。研修だけではなく、コミュニティや勉強会への積極的な参加を促すこともひとつかもしれません。外部の研修に参加させることもいいでしょう。そんなにお金のかかることではありません。
新人たちには時間をかけてJavaのプログラミングを覚えさせるのではなく、クラウドやGithubの使い方を教え、それを使ってPythonでAIやIoTに関するプログラミングをアジャイルで実践させる方がよほど現実的です。これまでのJavaの仕事は先輩たちに任せ、新人たちには次代を託すための教育を施すべきだと思っています。
一時的に工数需要が増えても、それは世の中の変化であって自分たちの努力の成果でも、自分たちでコントロールできるものではありません。つまり、自分で自分の未来を描けないと言うことです。
人材育成は直ちに成果の出るものではありません。だからこそ、人材育成に責任を持つ人は、世の中の需要の変化から自分たちのあるべき姿を明らかにし、取り組むべきテーマを決定できる見識が必要です。未来のどこかの「あるべき姿」から、いまの取り組みを考える。そんなアウト・サイドインで、人材育成のための施策も考えるといいでしょう。
求める求めざるに関わらず、デジタル・トランスフォーメーションは必ず訪れます。そのための備えを先送りする理由はありません。先送りは延命ではなく、自らの寿命を縮めることに気付いた方がいいかもしれません。
【募集開始】新入社員ための最新ITトレンド研修
IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。
しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。
そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。今年も7月17日(火)と8月20日(月)に開催することにしました。
参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。
社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。
- ITって凄い
- ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
- この業界に入って本当に良かった
この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。
よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
LiBRA 5月度版リリース====================
- SI事業者/ITベンダーのための「デジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリース
- 「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツ
- その他、コンテンツを追加
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【新規掲載】SI事業者/ITベンダーのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書
- 教科書 全109ページ
- PDF版
- プレゼンテーション 全38ページ ロイヤリティフリー
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「ITソリューション塾・第27期」の最新コンテンツを追加
メインテーマ
ITトレンドの読み解き方とクラウドの本質
ソフトウェア化するインフラと仮想化
クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
IoT(モノのインターネット)
AI(人工知能)
データベース
ストレージ
これからのアプリケーション開発と運用
これからのビジネス戦略【新規】
知っておきたいトレンド
ブロックチェーン
量子コンピュータ
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サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】伝統的なやり方とIoTの違い p.19
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】人間にしかできないコト・機械にもできること p.100
インフラ&プラットフォーム編
【新規】仮想化とは何か p.68
【新規】仮想化の役割 p.70
【新規】サイバー・セキュリティ対策とは何か p.125
【新規】脆弱性対策 p.127
クラウド・コンピューティング編
【新規】コンピューターの構成と種類 p.6
【新規】「クラウド・コンピューティング」という名前の由来 p.17
【新規】クラウドがもたらすビジネス価値 p.26