「私たちは内製化を目指しています。」
ITソリューション塾・第27期の特別補講にお招きした自動車部品メーカー・デンソーのMaaS開発部長・成迫剛志氏からこんな話があった。ちなみにMaaSとは、Mobility as a Serviceの略称で、機械の製造販売だけではなく、自らソフトウエア開発者としてサービス事業を開発・展開してゆこうという取り組みだ。
「SIerはどのように関わってゆけばいいでしょうか。」
私がこんな質問をすると、苦笑いしながら「ないですね」という話しだった。
そこに同席いただいたホワイトモーションの社長・蔵本雄一氏にも同様の質問をぶつけてみた。ホワイトモーションは、やはり自動車部品メーカーであるカルソニックカンセイの子会社でコネクテッド時代のカーセキュリティに関わるシステムやサービスの開発を行っている。そんな彼も同様に「難しいでねぇ」という話しだった。
もちろん、彼らとて外部の企業との関係や協力無しには事業を展開することはできない。事実、デンソーはMaaS事業の展開にあたりオープン・ソース・ソフトウェアやクラウドサービスに実績のあるクリエーションラインやクラウドやエッジコンピューティングで高い技術力を持つオンザロードに出資し彼らの技術を活用しようとしている。
また、ホワイトモーションは、車載セキュリティの脅威分析やゲートウェイの開発などを手掛けるフランスのセキュリティ関連企業のQuarkslabと折半出資で設立した会社だ。
「言われた仕事をこなすための工数を提供してくれるSIerは必要ないが、自分たちのビジネスに必要な高い技術力を持つ企業とは連携してゆく。」
そんな話もされていた。ちなみに両氏は共にITベンダーの出身であり、SIerの事情にも精通している。そんな彼らの発言だからこそ、この言葉は重く受けとめるべきだろう。
時代はデジタル・トランスフォーメーションに向かいはじめている。デジタル・トランスフォーメーションとは、お客様の伝統的な仕事のやり方を、テクノロジーを駆使して根本的に変えてしまうことだ。これまで人手に頼っていたビジネス・プロセスをソフトウエアに置き換えることで、人間が働くことに伴う労働時間や安全管理、さらには業務手順などの制約を徹底して排除し、劇的な生産性や破壊的な競争力を手に入れようということだ。また急激なビジネス環境の変化にもたいおうできる即応力を手に入れることもできる。これまでの情報システムとの係わり方とは大きく異なっている。
これまでの情報システムは、人間が本業をこなし、その業務の効率化やコスト削減を支援することが目的だった。
「情報システムは所詮本業ではない。だから、少しでもコストを抑えたい」
これまでの情報システム部門のモチベーションはこんなところにあった。自分たちのコア・コンピタンスではないから、外注をうまく使ってコスト削減を図ろうというわけだ。しかし、デジタル・トランスフォーメーションに求める情報システムは本業そのものであり企業のコア・コンピタンスとなる。それを外注に任せるというのは、自社の競争力の源泉である製品開発を外注するようなもので、あり得ない話しだ。だから内製は必然だ。
だからといって、それを実現するための技術を全て自前でまかなえる訳ではない。そこで外部から優れた技術を取り入れたり、高い技術力を誇る企業と連携したりすることで、ビジネス価値の向上を図ろうとする。このようなスキームに、SIerはどう向きあうべきか、真摯に考えなくてはならない。
既存の工数提供型のビジネスがなくなることはない。しかし、コア・コンピタンスではない情報システムは、「少しでもコストを抑えたい」というモチベーションで発注される。例え需要があっても、利益を伸ばしてゆくことは難しいだろう。一方で、コア・コンピタンスとなる情報システムは、投資対効果で判断される。最初から大きな売上や利益の金額は期待できないとしても、相手の期待に応えることができれば、長期継続的に利益率の高い仕事につながる。その前提になるのが高い「技術力」だ。
また、デジタル・トランスフォーメーションは本業であって、激しく変化するビジネス環境への対応は不可避だ。仕様が確定できず、変更が頻繁に発生してもそれに対応できなくてはならない。自ずとアジャイル、DevOps、クラウドが前提となり、そのための能力も求められる。
さらに彼らのビジネスのデジタル化を支えるとなると、業務や経営に深く関与するための「共創」も不可避となる。しかし、共創とはコンサルティングやお客様の事業開発の技術支援ではない。お客様と一緒になって新しいビジネスやビジネスの仕組みを生みだすことであり、リスクもメリットもお客様と共有してこそ成り立つ取り組みだ。新しい営業やマーケティングの手法やコンセプトではない。
自分たちの「技術力」を土台に、アジャイル、DevOps、クラウドなどのノウハウを駆使して、お客様のビジネスの成果に直接貢献できてこそ「共創」は成立する。それができないのなら、そんな看板は引き下げるべきだろう。
ところで、「技術力」とは何か。それは、時代のトレンドに対応するための能力だ。AIやIoT、ブロックチェーンなどのテクノロジーに対応する能力や、アジャイル、DevOps、クラウドなどの開発や構築、運用に対応できる能力でもある。しかし、それ以上に重要なのは、それらをお客様のビジネスの成果に、どのように結びつければいいかを提案できること、すなわち、テクノロジーをビジネス価値に転換し、それを実現できる能力だ。
「工数提供型のビジネスなどやめてしまえ」などと暴言、暴論を吐くつもりはない。ただ、いまの仕事で稼げるうちに、「技術力」を育てる覚悟とそのための取り組みを急いで行うべきだ。
それが成果をあげ経営を支えるようになるには、5年〜10年はかかるだろう。しかし、iPhoneが登場した2007年からわずか10年ほどで、モバイルがテクノロジーを牽引し社会の常識を変えてしまったように、この時間は大きな変化を生みだすに十分な時間でもある。
トレンドを先取りして時代の開拓者となるのか、成り行きに身を任せるのか。その選択が求められている。仮に後者を選択するとしても、その成り行きを見極める目線や見識がなければ、生き残ることは難しい。ただ、避けるべきは、いままでのやり方を変えようとしないことだ。
世間に目を向けずただひたすらこれまで通りのやり方を貫くのは容易な選択肢ではある。しかし、急速なテクノロジーの進化とITへのお客様の期待の変化は避けがたい。かつて下駄屋が靴屋に駆逐されたように、なにもしなければ生き残る術はないだろう。もちろん他にはまねのできない伝統技で生き残っている下駄屋もある。それをSIerに置き換えれば、高度な技術力となるだろう。いずれにしろ、行き着くところは同じところだ。
お客様のデジタル・トランスフォーメーションを支える技術力と共創力を持っているだろか。
そんなことは分かっていると言う頭でっかちな企業は少なくないが、行動で成果をあげている企業は少ない。
「そうなるのに、あと何年ほどかかるでしょうか?」
講演などでこんな質問を受けることがあるが、それを聞いて何の意味があるのか。もはや時代は変わり始めている。変わってしまってからでは手遅れだ。何年かかろうが、行動を起こすタイミングを遅らせる理由にはならない。いまそんな時代にいることを自覚することが大切だ。
5月17日(木)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第28期」の受付を開始致しました。つきましては、御社でのご参加をご検討頂ければ幸いです。
■デジタル・トランスフォーメーションを軸に講義を展開
デジタル・トランスフォーメーションをキーワードに、鍵を握るテクノロジーは何か、これからのビジネスがどのように代わるのか、それにどのように向きあえばいいのかを、分かりやすく丁寧に解説してゆくつもりです。また、100年人生の時代を迎え、この業界でどのように働き、自分の価値を高めてゆけばいいのかについても、考えてゆこうと思います。
■オンラインでも参加可能
第28期からは、参加登録された方はオンラインでも受講頂けるようになります。出張中、あるいは打ち合わせが長引いて間に合わないなどの場合でも大丈夫です。PCやスマホからライブ動画でご参加頂けます。
■ビジネスの現場でそのまま使える教材をロイヤリティフリーにて提供
SI事業者/ITベンダーの皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
第27期に使用している講義資料(一部)については、こちらからご覧頂けます。第28期はさらに内容をブラッシュアップして、ご提供するつもりです。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思います。
日程 2018年5月17日(木)~7月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
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【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
「最新のITトレンドとこれからのビジネス」というタイトルの新入社員研修のためのプレゼンテーションを公開しました。よろしければご活用下さい。
内容は、以下の通りです。
- ITトレンドとサイバーフィジカルシステム
- サイバー・フィジカルシステムとデジタル・トランスフォーメーション
- ITインフラと仮想化
- サイバー・セキュリティ
- IoT(モノのインターネット)
- AI(人工知能)
- 開発と運用
- デジタルトランスフォーメーションとこれからのビジネス
- これからのビジネスに求められる人材
SI事業者やITベンダーで毎年行われている新入社員研修では、ITの基礎的な知識は教えているところはあっても、最新のトレンドやいまのビジネスがどうなっているのかを教えているところはあまりありません。しかし、自分たちの未来を託す彼らに40年前から変わらないコンピュータの基礎だけを教え、いまを伝えないのは片手落ちではないでしょうか。ITは日々進化し、役割も拡がっています。IoTやAIの進化、クラウドの普及と共に伝統的なビジネスのやり方を大きく変えてしまうデジタル・トランスフォーメーションも進行中です。
ビジネスの現場に彼らが立たされたとき、そんなことも分からないでは、お客様も不安になるでしょうし、何よりも新入社員本人が不安になってしまいます。
そんなことがないように、IoTやAI、クラウドと云ったこれからの当たり前を、その価値や可能性と共に正しく伝えなくてはなりません。合わせてITの大切さと大きな可能性を語り、この仕事のやり甲斐を伝えることは大切だと思っています。また同時に、物販や人月ビジネスの限界、それに変わるビジネス価値は何か、そのためにどのようなことを考え、どのような能力を身につけてゆかなければならないのかを正直に伝え、彼らに託す言葉を伝える必要もあるでしょう。
デジタル・トランスフォーメーションの時代を迎え、ITビジネスの本質がいま大きく変わろうとしています。こちらについては、近々「SIerのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリースする予定ですが、そういうことと合わせて、ITに求められる新しい期待とそれに応えてゆくためには、何をしなければならないかを、新入社員の時にしっかりと伝え、彼らに自覚と夢を持たせなくてはなりません。
そんな思いで作った教材です。
6月から7月にかけて、そんな新入社員のための「最新ITトレンド・1日研修」も開催しようと思っていますが、そのためのベースとなる教材です。
よろしければ、御社でもご活用下さい。
LiBRA 4月度版リリース====================
- 「ITソリューション塾」最新コンテンツを掲載しました!
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新たに掲載!「ITソリューション塾」最新コンテンツ
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- データベース
- ストレージ
- これからのアプリケーション開発と運用
知っておきたいトレンド
- ブロックチェーン
- 量子コンピュータ
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ビジネス戦略編
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.18
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションを主導するクロスオーバー人材 p.21
- 【新規】加速する時代のスピードに対応できる人材 p.22
- 【新規】常にテーマや問いを発し続けられる人材 p.23
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
- 【新規】Amazonのデータ収集戦略 p.30
- 【新規】IoT通信:LPWAと他の通信方式の比較 p.34
- 【新規】IoT デバイスとしての自動車 p.96
- サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
- 【新規】人間は何を作ってきたのか p.10
- 【新規】人工知能の限界 p.11
- 【新規】「東ロボくん」の実力と代替可能な職業 p.12
- 【改訂】コレ1枚でわかる人工知能 p.13
- 【新規】機械学習の課題 p.80
- 【新規】転移学習 p.81
- 【新規】学習データと結果の関係 p.97
- 【新規】自動運転レベル p.118
- 【新規】富士通 Mobility IoT 2018(動画・事例紹介) p.120
開発と運用編
- 【新規】これからの開発や運用に求められるもの p.5
- 【新規】ITについての認識の変化が「クラウド×内製化」を加速 p.6
インフラ&プラットフォーム編
- 【新規】HTAPとは何か? p.229
- 【新規】5Gと他の通信方式 p.231