私は、大人の学びには3つの段階があると考えている。
まずは、「素人」の段階だ。仕事をどのようにこなせばいいか分からない段階であり、新入社員や3年未満の若手の多くはここに居る。
仕事の現場の8割はルーチンワークだ。企業の収益は、このルーチンワークで基本的なところは確保されている。まずは、これができるようになることだ。これができないと仕事にはならないので、まわりからもプレッシャーがかかる。自分もまずいと思うので、なんとか必死で知識やスキルを身につけようとする。そうやって2〜3年も過ごせば、一通りこなせるようになり、何とか「一人前」の称号を手にすることができる。
次の段階は、新しい仕事に対処できる「ベテラン」の段階だ。
ルーチンワークができるようになるまでは自分のやっていることを「意識」しなくてはならない。オペレーションのひとつひとつを「このやりかたで間違ってはいないだろうか?」と確かめながら、自分の判断や行動を修正し、うまくゆくやり方を見つけてゆく。その段階が終われば、「無意識」にルーチンワークはこなせるようになる。そうなってはじめて、新しい仕事に関わる意識の余裕が生まれる。日常のルーチンワークを常に意識しながらでは、とても冷静に新しいことに取り組めない。
もちろん、「素人」の段階であっても、新しいことへのチャレンジができない訳ではないが、基本的な仕事ができていなければ、それは趣味の世界であり、給与分の働きをしているとは言えない。相当頑張って意識して基本の仕事をこなした上で、新しいことをやるのであれば、それはそれで評価されるだろうが、これはなかなか容易なことではない。
一旦基本的な仕事の手順をこなせるようになると、その応用も無理なくこなせるようになる。そして、場数を増やしてゆくことで、幅広くいろいろな仕事をこなせるようになる。こういうところに「ベテラン」の本領が発揮される。
「意識する」とは、自分の「できない」や「未熟」を率直に受け入れ、学ぼうという態度を生みだす。できる人に訊ね、本を読み、情報を収集し、対処の方法を考え、行動に変えてゆく。そうやって、ひとは自分の能力を磨いてゆく。1つのことができるようになれば、もはや意識しなくてもよくなるから、つぎの新しいことを意識する余裕が生まれ、新たな学びの機会を増やしてゆく。そうやって、「ベテラン」は熟練の度を極めてゆく。
ただ、残念なことに、多くの人たちは基本とその応用の範囲で熟練することに留まっている。「素人」からルーチンワークをこなせる段階、つまり「一人前」の称号が与えられると、これで満足してしまい、基本やその応用の範囲を超えて、新たな学びを意識することをやめてしまう。それでも、給与分の働きができているので、とりあえずは問題にはならない。また、応用も意識することなくこなせるので、仕事の要領もいい。そうやって、ルーチンワークとその応用を確実にこなせるだけの「ベテラン」となり、そのまま歳を重ねてゆく人もいる。
やがてそういう人たちは、「役に立たないおじさん」や「働かないおじさん」になってゆく。給与が高い割には業績や成果があがらず、社会的な価値も低く、外に出ても通用しない人たちだ。そういう人たちは、ベテランの段階に甘んじてしまい、自ら「学び止め」をしてしまった人たちだ。世の中の変化に関心を持たず、自分のやってきた世界でのみ熟練の度を極めてきた人たちは、世の中の変化に対応しようとする取り組みに抵抗を示す。たとえ言葉では、「変わらなくてはいけない」と言っても、どう変わらなければならないかを学んでいないので、行動に起こせない。だから、「役に立たないおじさん」や「働かないおじさん」になってしまう。
そういう人は、従来からの仕事をしてもらうには重宝であり任せて安心な存在だが、新しいことや例外的なことに対処する能力は磨かれていない。だから、新しいことや大切なことを任せることができない。また、新たな学びを怠っているので、古いやり方で何とかこなそうとするので、時にお荷物になってしまう。
「ベテラン」は確実にルーチンワークをこなしているので、そこで働いた期間が長いほどに会社への貢献は大きいから、それはそれで評価されるべきだ。しかし、そのことが若い人たちがモノを申せない理由となり、変革を求められると抵抗勢力となってしまうことがある。これがやっかいだ。抵抗しなければ、自分のできることがなくなってしまう。自分の存在意義がなくなってしまうからだ。それが怖いし、辛いのだ。
こういう人たちに見られる特徴の1つが、職場と家庭の2つの場所しか持っていないことだ。この2つの場所を往復することで人生を過ごしている。外の世界を知らないままに、与えられた仕事を粛々とこなし、長時間労働で自分を見つめ直す余裕もない。職場と家庭以外の視点がなく価値観もない。自分を客観的に見ることができない。だから、不足も未熟も感じないままに、会社員人生を過ごす。そして、やがては「役に立たないおじさん」や「働かないおじさん」になってしまう。
定年を迎え、仕事がなくなれば、そういう人たちは社会における自分の居場所を失い「社会的引き籠もり」になってしまう。100年人生の時代を迎えようとしているいま、その期間はどんどんと長くなってゆく。なんと辛く、悲しいことなのか。
30代前半の自分はまさにそんな状態だった。外に何があるのか、どんなことになっているのか知らなかった。いろいろな価値観があり、ロールモデルがあり、知恵があることを知らなかった。それを知ったときの衝撃は「痛い」ものだった。そして自分の将来を「怖い」と感じた。そして、それが、いまの自分の学びの原動力ともなっている。
「ベテラン」の先にあるのが「プロ」の段階だ。
「プロ」の人たちは、例え「ベテラン」になっても、つねに自分の不足や未熟を見つけ出し、「意識」して学び続ける人たちだ。学び続けることで、世の中の常識や変化を知り、常に自分や会社の不足や未熟を意識しつづけようとしている。
こういう人たちは、会社や自分に対して批判的である。だからといって会社の悪口を公然と言ったり、評論家然として会社の悪口を言ったりはしない。悪口や評論家は、学び続けてこなかった歳を重ねた「役に立たないおじさん」や「働かないおじさん」に見られ傾向がある。文句を言うならば自分で何とかすればいいではないかと思うのだが、学んでいないので表面的な情報しかなく、考察も浅く、批判や評論家以上のことはできない。
「プロ」は、批判的に状況を捉え、見つけ出した課題を自分の与えられた職責の範囲で、あるいはそれを拡張して解決しようと試みる。そうやって、企業や組織の改革を推し進めてゆく。例え文句は言っても行動が伴っている。だからそういう文句は人の心を動かす力を持っている。
また、人のつながりが豊富な人が多い。それは社内に留まらず、社外に人的なネットワークを広く持っている。こういうつながりが、その人に広い視野を与え、自分を冷静に評価できる目線を与えるのだろう。それが、不足感や未熟感を常に生みだし学ぶことへのモチベーションとなる。
また、他人は自分とは違う常識や知恵を与えてくれる。時にして助けてくれる。それもまたその人の能力として評価される。
経営者はこういう人が必要なので、評価は上がり、出世もする。例え他の会社へ移っても、独立しても、基本的な「プロ」としての行動様式は変わらないので、成果をあげ続けることができる。
「ベテラン」すなわち一人前を自覚した人は「自分をもっと成長させたい」、「いまの自分の殻を破り新しいことに挑戦したい」、「自分の可能性を確かめたい」などの想いで転職しようとする人たちがいる。そのことは、悪いことではないし、その志は評価すべきだ。
しかし、「ベテラン」だから他でも通用するだろうと考えるのは甘い。「プロ」としての行動パターンを会得できていない人が職場を変えても、自動的に自分の思いを達成できるわけではない。
他の会社に入れば、まずは「素人」の段階からはじめなくてはならない。もちろん新入社員と違い基本的な仕事の常識はわきまえているので、「ベテラン」にステージアップするのにさほど時間はかからないだろう。しかし、そこでもし「仕事ができるようになった」と満足してしまい、新しいことを学ぶことや会社と家庭の往復以外の場を持つことを怠れば、そこでも所詮は「ベテラン」止まりであり、自分をさらに高いステージにあげることはできない。
ITの世界に身を置いていれば分かることだが、その変化は加速度的であり、ITの社会的価値は、これまでにも増して大きくなっている。過去のやり方があっという間に変わってしまう業界にあって、過去の大プロジェクトの実績や特定の言語や旧態依然の開発スキルや経験があるといった「過去」で評価されることもない。
- 激しい業界の変化のメカニズムを理解し将来に対して明確な展望を持っている。
- 時代の変化に合わせて自らのスキルを変え続けている。
- 社外に広い人的なネットワークを持っている。
すなわち「未来」への可能性を持っている人こそが評価される。
いまの自分の段階はどこか、「ベテラン」に満足して「学び止め」はしていないか。時代の変化は加速度を増している。過去の経験や実績が、いまどれだけ通用するのか。そんなことを問いかけてみてはどうだろう。
問いかけるとは、ただ考えることではない。考えたことを行動に移してみることだ。頭の中で考えているだけで、具体的なアウトプットがなければ、客観的に自分を「見える化」はできないから事実を冷静に評価できまい。
フランスの小説家・ポール・ブールジェ (Paul Bourget)は次のような言葉を書き残している。
「自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう」
日々の雑事に流され気がつけばそこにそんな自分がいる。それを自分の人生であると受け入れるしかなくなってしまう。それでいいのだろうか。学び、考え、行動する生き方をしなければ、いくら考えても考えたとおりの生き方などできないということだ。
100年人生の時代を迎え、テクノロジーの進化は過去の常識をどんどんと上書きしている。そんな時代に学び、考え、行動することの大切さは、これまでにも増して高まっている。AIの時代になっても、意志を持ってそんなことができるのは人間ならではのことだ。そういう人が求められ、それが「自分の考えたとおりの生き方」を自分で創ってゆくことになる。
5月17日(木)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第28期」の受付を開始致しました。つきましては、御社でのご参加をご検討頂ければ幸いです。
■デジタル・トランスフォーメーションを軸に講義を展開
デジタル・トランスフォーメーションをキーワードに、鍵を握るテクノロジーは何か、これからのビジネスがどのように代わるのか、それにどのように向きあえばいいのかを、分かりやすく丁寧に解説してゆくつもりです。また、100年人生の時代を迎え、この業界でどのように働き、自分の価値を高めてゆけばいいのかについても、考えてゆこうと思います。
■オンラインでも参加可能
第28期からは、参加登録された方はオンラインでも受講頂けるようになります。出張中、あるいは打ち合わせが長引いて間に合わないなどの場合でも大丈夫です。PCやスマホからライブ動画でご参加頂けます。
■ビジネスの現場でそのまま使える教材をロイヤリティフリーにて提供
SI事業者/ITベンダーの皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
第27期に使用している講義資料(一部)については、こちらからご覧頂けます。第28期はさらに内容をブラッシュアップして、ご提供するつもりです。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思います。
日程 2018年5月17日(木)~7月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
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【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
「最新のITトレンドとこれからのビジネス」というタイトルの新入社員研修のためのプレゼンテーションを公開しました。よろしければご活用下さい。
内容は、以下の通りです。
- ITトレンドとサイバーフィジカルシステム
- サイバー・フィジカルシステムとデジタル・トランスフォーメーション
- ITインフラと仮想化
- サイバー・セキュリティ
- IoT(モノのインターネット)
- AI(人工知能)
- 開発と運用
- デジタルトランスフォーメーションとこれからのビジネス
- これからのビジネスに求められる人材
SI事業者やITベンダーで毎年行われている新入社員研修では、ITの基礎的な知識は教えているところはあっても、最新のトレンドやいまのビジネスがどうなっているのかを教えているところはあまりありません。しかし、自分たちの未来を託す彼らに40年前から変わらないコンピュータの基礎だけを教え、いまを伝えないのは片手落ちではないでしょうか。ITは日々進化し、役割も拡がっています。IoTやAIの進化、クラウドの普及と共に伝統的なビジネスのやり方を大きく変えてしまうデジタル・トランスフォーメーションも進行中です。
ビジネスの現場に彼らが立たされたとき、そんなことも分からないでは、お客様も不安になるでしょうし、何よりも新入社員本人が不安になってしまいます。
そんなことがないように、IoTやAI、クラウドと云ったこれからの当たり前を、その価値や可能性と共に正しく伝えなくてはなりません。合わせてITの大切さと大きな可能性を語り、この仕事のやり甲斐を伝えることは大切だと思っています。また同時に、物販や人月ビジネスの限界、それに変わるビジネス価値は何か、そのためにどのようなことを考え、どのような能力を身につけてゆかなければならないのかを正直に伝え、彼らに託す言葉を伝える必要もあるでしょう。
デジタル・トランスフォーメーションの時代を迎え、ITビジネスの本質がいま大きく変わろうとしています。こちらについては、近々「SIerのためのデジタル・トランスフォーメーションの教科書」をリリースする予定ですが、そういうことと合わせて、ITに求められる新しい期待とそれに応えてゆくためには、何をしなければならないかを、新入社員の時にしっかりと伝え、彼らに自覚と夢を持たせなくてはなりません。
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LiBRA 4月度版リリース====================
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- これからのアプリケーション開発と運用
知っておきたいトレンド
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ビジネス戦略編
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.18
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションを主導するクロスオーバー人材 p.21
- 【新規】加速する時代のスピードに対応できる人材 p.22
- 【新規】常にテーマや問いを発し続けられる人材 p.23
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
- 【新規】Amazonのデータ収集戦略 p.30
- 【新規】IoT通信:LPWAと他の通信方式の比較 p.34
- 【新規】IoT デバイスとしての自動車 p.96
- サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
- 【新規】人間は何を作ってきたのか p.10
- 【新規】人工知能の限界 p.11
- 【新規】「東ロボくん」の実力と代替可能な職業 p.12
- 【改訂】コレ1枚でわかる人工知能 p.13
- 【新規】機械学習の課題 p.80
- 【新規】転移学習 p.81
- 【新規】学習データと結果の関係 p.97
- 【新規】自動運転レベル p.118
- 【新規】富士通 Mobility IoT 2018(動画・事例紹介) p.120
開発と運用編
- 【新規】これからの開発や運用に求められるもの p.5
- 【新規】ITについての認識の変化が「クラウド×内製化」を加速 p.6
インフラ&プラットフォーム編
- 【新規】HTAPとは何か? p.229
- 【新規】5Gと他の通信方式 p.231